円卓の魔女会議
私はグレースお義母様に連れられて、もう二度と参加することは叶わないと思っていた円卓の魔女会議に出席した。
数ヶ月ぶりの会議には、フレデリカ様はもちろんのこと、ファビアン・ブレイザー侯爵とギデオン・エッジワース伯爵も参加されていた。
そして、ダルトン子爵家の席は、当たり前のように空席になっていた。
「ハリー・ダルトンにも招待状は送ったのよ。でも、まぁ、彼がいない方が話が進んでいいわ」
お義母様は誰も座っていないダルトン子爵家の席を一瞥すると、あっさりと言われた。声のトーンはいつになく冷たい感じがした。
私がお義母様の隣の席に座ると、早速、ブレイザー侯爵に話しかけられた。さらりと流れるような銀髪とアメジストのような紫色の瞳はイリアス魔術師団長と同じで、魔術師団長をぐっと大人にした感じの素敵なおじ様だ。
「エヴァ、魔物の討伐作戦で、うちの次男に会ったんだってな?」
「はい! イリアス・ブレイザー様ですね、ご挨拶させていただきました!」
「で、どうだった?」
「私は討伐作戦には飛び入り参加だったのですが、親切にご対応いただけましたよ」
「そうではなくてだな……!」
ブレイザー侯爵が慌てて何か言いかけていたその時──
「はいはい、その話はお終い! 今日の議題に入るよ!」
お義母様は、ブレイザー侯爵の話を遮るようにパンパンッと手を軽く叩かれた。
「グレースから話を聞いているかとは思うけど、今回、エヴァちゃんをこの場に呼んだのは、あなたの意志を聞こうと思ったからよ。今まではエヴァちゃんがダルトン子爵家当主の代わりに、円卓の魔女会議に出席してくれていたわ。でも、ダルトン家はそんなエヴァちゃんを追い出してしまった──」
フレデリカ様がいきなり斬り込んできた。
会議に参加した全員の視線が、私に集まる。
「エヴァはこれからどうしたいんだ? それによっては、ダルトン子爵家を今後『円卓の魔女』から外すかどうかが変わってくる」
エッジワース伯爵が、重々しく話された。
伯爵は、四角張った厳つい感じの顔立ちで、お声も低くて余計なことはあまり話されないから怖そうに見えるけれど、落ち着いていて優しい方だ。
円卓の魔女会議は、元々は初代国王陛下を支えた十三人の魔術師が始めたものだ。
各魔術分野の専門家が集まって情報交換をしたり話し合ったりして、時にその会議で話し合われたことを国王陛下に奏上しては、陰ながらドラゴニア王国を守ってきた。
お家が断絶したり、たとえ後継者がいたとしても魔術師として力量不足になれば、その家系は円卓の魔女の家柄からは外されてきた──そうやって少しずつこの会議に参加できる貴族家の数は減っていった。
今現在残っているのは、たったの五家。
建国当初より数々の魔術師団長を輩出してきたオルティス家、聖鳳教会と強い結びつきがあり癒しや浄化などに強いブレイザー家、魔道具についてはこの国で右に出る者はいないエッジワース家、魔術教育に強く歴代国王陛下の教育係も務めてきたハートネット家、そして占術のダルトン家だけだ。
──そう、ダルトン家は今までこの会議に参加していた私が抜けてしまって、さらには現当主のハリー・ダルトンも一切出席したことがないありさま──この円卓の魔女の家柄から外されてしまっても仕方がない状態だ。
もし万が一、私がダルトン子爵家に復帰してその家督を奪えば、円卓の魔女の家柄として存続できるとは思う。
でも、それ以外では現実的に厳しいのではないかしら?
「私は今、ドラゴニア王立特殊魔術研究所──黒の塔を目指しています」
私が話し始めると、みんな静かにじっと耳を傾けてくれた。
「……王宮魔術師団じゃないのか? 魔術師を目指すなら、まずはそっちを目指すものだろう?」
ブレイザー侯爵が、至極真っ当な疑問を口にされた。
「はい、確かにそうですよね。でも、王宮魔術師団には元婚約者のロッドフォード伯爵令息もいますし、義妹のミアもいます。そんな環境で心穏やかに仕事をしていくのは難しいかと思いまして……」
「まぁ、そうだろうな」
ブレイザー侯爵が相槌を打たれた。エッジワース伯爵も、無言で頷いてくださった。
「それに、私は魔術を使って戦うよりも、研究する方が性に合っている気がしたんです。自分の占いスキルについて深めたいというのもそうですが……その、魔術教育にも興味がありまして……」
「あらあら」
お義母様が目を丸くされた。とっても嬉しそうに、頬が緩んでいる。
「まあまあ。やっぱりエヴァちゃんには、ハートネット家の血が流れているのね」
フレデリカ様は少し残念そうだけど、「エヴァちゃんらしいわね」と言ってくださった。
「すみません、せっかく魔術を教えてくださっていてるのに……」
私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
この国で最高の魔術師が、わざわざ実践バリバリの戦闘魔術を教えてくださっているのだ。それなのに、その戦闘魔術を活かさない道を選んでしまい期待に添えられないことを、なんだかとても心苦しく思った。
「いいのよ、気にしなくて! 私が好きで教えてるんだし! それに、魔術師にだっていろいろな道があるわ。今私が教えていることはきっと今後の役に立つし、エヴァちゃんがエヴァちゃんなりの方法で魔術を活かしてくれれば、私も嬉しいわ」
フレデリカ様が慌てて否定してくださった。
「そう言っていただけると、ありがたいです」
私は少しだけ、胸のつかえが取れた気がした。
「だがもしエヴァが黒の塔に合格したら、魔術伯爵になるな。そうなると、エヴァには円卓の魔女会議の参加権自体は残しても問題ないのではないか?」
エッジワース伯爵が、冷静に意見を言われた。
「そうね。参加できる家系も随分少なくなったし、その方がありがたいわ」
お義母様が小さく相槌を打つ。
「魔術伯爵は一代限りだが、どこかのタイミングでエヴァが何か手柄を上げて陞爵されるかもしれないし、エヴァの子孫が陞爵されるかもしれない──そうすれば占術の家系は守られることになるな……エヴァとしてはどうなんだ? この会議に参加したいか?」
ブレイザー侯爵が、真っ直ぐに私を見つめて確認してきた。
「可能ならば、また以前と同じようにこの会議に参加していきたいです」
私はすぐさま自分の気持ちを伝えた。
ここでは、この国の魔術関係の各分野のトップが意見を交換し合う。ここで語られる魔術の情報は、他では決して聞くことのできないとても貴重なもの──魔術師としてこの国で生きていくなら、是非とも参加権はキープし続けたい。
「そうなると、ダルトン子爵家についてはどうするか……?」
「このまま何もハリー・ダルトンからアクションがなければ、参加権は剥奪してもいい気がするわ。エヴァもここに残ってくれるし、それこそ問題ないでしょう?」
ブレイザー侯爵の問いかけに、フレデリカ様があっけらかんと答えられた。
──その瞬間、全員が非常に納得したようにうんうんと頷き合った。
「なら、エヴァが黒の塔に合格し、正式に魔術伯爵となった暁には、ダルトン子爵家のこの会議への参加権を剥奪し、代わりにエヴァの参加を認めよう」
エッジワース伯爵がこれまでの意見をまとめると、誰ともなくパチパチと賛成の拍手を始めた。
「ありがとうございます」
私は心からのお礼を言った。緊張で張っていた肩の力が抜けて、ホッと胸のあたりに安堵が広がる。
もう二度とこの場に来れないことが、やっぱり心残りだったのだと思う。
特に、あの家から解放されて、やっと自分の道を歩めるようになったからこそ、これからは魔術師として身を立てていこうと決めたからこそ、円卓の魔女会議は今まで以上に貴重な情報収集の場になるはずだったから。
「まぁ、実質的には今までと何ら変わりないけどね」
フレデリカ様が、ふわりと苦笑いをされた。
「そうですね」
私も、もらい笑いをする。
私はまたこの会議に出られることが決まって、心から安心した。
──ただそうなるためには、私が黒の塔の魔術師になって、魔術伯爵にならないと!
新たに黒の塔を目指す理由も加わって、私は気持ちも新たに気合いを入れ直した。




