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呪いの魔女の札占い  作者: 拝詩ルルー


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魔物討伐作戦3(アラン・ロッドフォード視点)

 俺はアラン・ロッドフォード。ロッドフォード伯爵家の三男だ。

 ロッドフォード家は、ドラゴニア王国建国当初から続く由緒正しき魔術師家系であるオルティス侯爵家の傍系だ。もちろん、ロッドフォード家も優秀な魔術師を今まで何人も輩出してきた。


 魔術師は一般人に比べて魔力量が多く、総じて寿命が長い。結果として、魔術師家系の貴族は、当主の在任期間が異様に長くなる傾向がある──つまり、次代に当主交代するまでに長い期間がかかる。


 父のロッドフォード伯爵は、たまたまタイミングよく早くから当主になり、若いうちに俺たち兄弟が生まれた。ということは、一番上の兄が家督を継ぐにはあと軽く百年はかかりそうで、まず俺が家督を継ぐことはないだろうと考えられた。


 そんな時、ダルトン子爵家からロッドフォード伯爵家に見合いの打診があった。

 お相手はダルトン子爵家嫡男の長女で、当時の子爵家当主ジェイコブ・ダルトンの孫に当たる子だった。彼女は、直接ジェイコブ・ダルトン子爵から、次の次の当主に指名されていた。


 ダルトン子爵家も爵位は高くないが、古くからある魔術師家系だ。

 見合い相手の女の子は魔術適性が広く、魔力量も多くて将来が期待できるという。それでいて婚姻が決まれば、将来の子爵家当主の伴侶という立場になれるのだ──伯爵家の三男の俺にとっては、またとない縁談話だった。


 父のロッドフォード伯爵はすぐにこの縁談に快諾し、見合い相手の女の子──エヴァと年の近い俺が婚約者になった。


 初めて会ったエヴァは、見た目に派手さは無いが顔立ちは綺麗に整っていて、性格の方も特に良くも悪くもないといった印象だった。当初の俺は、生まれて初めてできた婚約者に、特に文句は無かった。


 俺たちは折に触れて手紙を送り合い、茶会に招待したり、逆に招待されたりと、ごくごく普通の婚約者同士として交流を深めていった。


 当時のエヴァはまだ可愛げがあった。俺がダルトン子爵家を訪れれば、彼女は貴族らしい綺麗な身なりで、明るく微笑んで迎え入れてくれた。


──それが大きく変わったのは、現当主のハリー・ダルトン子爵が後妻を迎え、血のつながった娘だというミアもダルトン子爵家に迎え入れてからだった。


 エヴァの数ヶ月後に生まれたというミアの存在に、ハリー・ダルトン子爵に思うところはいろいろとあったが、将来的には義理の父にもなる相手だ。俺はこの件については、沈黙することにした。……まぁ、貴族に愛人関係はつきものだからな。


 その頃から、エヴァは会う度にくたびれて険しい表情をするようになっていった。

 身なりもどんどんみすぼらしくなっていき、表情や雰囲気もどんどん辛気臭くなっていった。語気が強くなったのも、口答えするようになったのも、ちょうどこの頃からだった。


 そして遂には俺がダルトン子爵家を訪れても、義妹のミアに代理で対応させるようになっていった。


 会う度にかなり忙しそうにしていたが、婚約者のためにわずかな時間を取ることもできないのか?

 それとも、俺に嫌われたくてわざとそうしているのか??


 どちらにしろ、先に婚約者の俺を蔑ろにしたのはエヴァの方だ。

 いつの間にか、俺の中で今まで築いてきたエヴァへの信頼も情も消え失せていた。


 一方で、義妹のミアはとても可憐で愛らしい女性だ。多少顔立ちは幼いが、誰もが認める美少女だ。もちろん、スタイルも素晴らしい。

 毛先まで綺麗に整えられた胡桃色の髪はふんわりと柔らかそうで、零れ落ちそうなほど大きな瞳は可愛らしいピンク色だ。そんな瞳にうるうると見上げられると、思わず守りたくなってしまうし、何でも言うことを聞きたくなってしまう──つまりは、女性としての魅力が段違いなのだ。

 

 俺がダルトン子爵家を訪れると、ミアは花も恥じらうような愛らしい笑顔で迎え入れてくれた。そして、俺の話にはいつも楽しそうに相槌を打ってくれた──彼女に惹かれてしまうのに、さほど時間はかからなかった。


 俺は何度も婚約者がミアではなく、エヴァであることに絶望した。


 父にも何度かさりげなく「どうせ婚約するならミアの方がいい」と伝えたことはあった。

 だがその度に、エヴァの方が魔術師として才能があり、ダルトン子爵家の次期当主は彼女だからと説得された。


 父が頷いてくれさえすれば、婚約者の変更はできるのに。

 ミアだって、婚約者の変更をハリー・ダルトン子爵に掛け合ってくれていると言っていたのに。

──障害が立ち塞がれば立ち塞がるほど、俺のミアへの想いは燃え上がっていった。


 同時に、エヴァを疎ましく感じるようになっていった。



 そんなある日、ロッドフォード伯爵家に、ダルトン子爵家から婚約者変更の申し出があった。


 父ははじめは難色を示していたが、ミアが王宮魔術師団に合格したこと、そして、ダルトン子爵家の家督を継ぐのはエヴァではなくミアに変更になったと告げられ、渋々了承してくれた。


 俺とミアは、晴れて婚約者同士になったのだ。

 最愛の人を手に入れ、邪魔なエヴァもダルトン家から追い出し、俺の人生は順風満帆に進んでいると感じていた。



***



 俺が所属する王宮魔術師団は、定期的に王国騎士団と組んで、王都近郊の魔物狩りをしている。


 魔物と戦うのは命懸けで、さらに最近はドラゴニア王国の北部から強い魔物が南下して来ているため、非常に危険な業務になっていた。


 俺がいた分隊も、初めは慎重に森の中を進んでいた。

 だが運悪く、北部から南下して来たアイスサーベルに出くわしてしまった。


 アイスサーベルは身軽で動きがかなり素早く、攻撃を当てるのさえ難しい魔物だ。それでいてそこそこ耐久性が高い──非常に厄介な魔物だ。


 俺たちのチームには王国騎士もそこそこ人数はいたし、俺たち魔術師も攻撃魔術を当てるのが下手だったわけじゃない。

 だがアイスサーベルは、俺たちをその身軽な動きで翻弄し、一人、また一人とその爪の餌食にしていった。


 このままでは隊が全滅してしまうと、誰かが救難信号を空へと放った。



 しばらくすると、応援が到着してアイスサーベルと戦闘を始めた音が聞こえてきた。


「大丈夫ですか? 回復ポーション、ありますよ」

「ああ、ありがとう……」


 隣で倒れている奴に、誰かが話しかけているのが聞こえてきた。

 どうやら、回復役も一緒に応援に駆けつけてくれたらしい。


「おい、早くしろ! こっちは怪我を……エヴァ……?」

「えっ? アラン様?」


 俺が怪我を押して身を起こすと、そこには驚いた顔をしたエヴァがいた。


 約一ヶ月ぶりに見たエヴァは、やけに肌艶が良く小綺麗になっていた。薄くぼやけたような金色の瞳も、この時ばかりは力強く感じられた。


「なぜお前がこんな所に……?」


 エヴァは王宮魔術師団には入団していなかったはずだし、ここには魔物討伐作戦に参加した者しかいないはずだ。なぜこんな所にいるんだ?


「……」


 エヴァは目をまん丸にして、何も言えないでいた。

 ポーション瓶を握り締めて震えていた。


「エヴァ! 避けて!」


 俺たちが見合って動けないでいると、急に大声が聞こえてきた。

 声がした方へ振り向くと、アイスサーベルが牙を剥いてこっちに迫って来ていた。


「ぎゃああぁっ!!!」


 今度こそ殺される!!!


 そう感じた俺は、恐怖と火事場の馬鹿力で、尻を地面に擦りながらだったが、とにかくアイスサーベルと距離を取ろうと後退った。


 俺なんかより、そっちの女の方が美味いぞ!!

 そっちの方から襲え!!!


「ファイアボール! ウィンドカッター!」


 だが、俺の目の前でエヴァは、キッと鋭い視線でアイスサーベルと向き合うと、鮮やかに二種類の魔術を連発した。


 先に放ったファイアボールの炎の塊にウィンドカッターの風が追いつき、さらに炎の威力と速度を上げて、ちょうど飛びかかろうと空中にいたアイスサーベルに命中した。

 途中で攻撃スピードが上がったからか、それとも空中で身動き取りづらかったせいか、さすがのアイスサーベルも避けられなかったようだった。


 アイスサーベルは結局、応援で駆けつけてくれた王国騎士たちに討ち取られていた。


 怪我人を大勢出した俺たちのチームは、すぐにベースキャンプに戻ることになった。



「今まで弟子をほとんど取らなかったフレデリカ元団長が、あんなに目を掛けてるだなんて。よほど才能があるのだろうな」


「ああ、見事なもんだったぞ。戦場で震えていたから初めはこりゃヤバいなと思ったが、急にアイスサーベルに向き直ると、ファイアボールとウィンドカッターを放ったんだ。度胸があるぜ」


「私も見てましたが、上級魔術師の先輩みたいに魔術の扱いが上手でした。それも全く違う属性を二連続で撃てるなんて、なかなかいないですよ!」


「二属性使えるのか?」

「いや、四大とまだ他にも使えるそうだぞ」

「そりゃあ、将来有望だな!」


 俺はベースキャンプで治療を受けつつ、周りの騎士や魔術師たちの噂話に耳を傾けていた。


 エヴァは確かに魔術師として優秀だとは聞いていた。だが、ここ数年は魔術を使っているところなんて見たことは無かったから、すっかり錆びついているものだと思い込んでいた。


 放った魔術の威力も、安定性も、俺より上だった。

 何より魔力を練る速度がかなり早かった。

 それに、俺はあんな風に別の属性の魔術を連発できない……


 アイスサーベルにやられた肩の怪我が、やけにズキズキと痛む。


──だが、それだけじゃない。俺が捨てたはずの女が、なぜ俺の居場所(王宮魔術師団)で評価されてるんだ。実家からも追い出されたボロ雑巾のような女が、なぜ俺の居場所を侵食してこようとしてるんだ。


 エヴァが視界に入るだけで、何も知らない周りの奴らの噂話が耳に入るだけで、腹のあたりがムカムカしてきた。



 ふと目を向けると、エヴァはイリアス魔術師団長とフレデリカ元魔術師団長に囲まれていた。


「さすがフレデリカ団長のお弟子さんだ。初めての戦場で成果を上げられるとは。これなら順調に上級魔術師にもなれるでしょう」


 イリアス魔術師団長もエヴァを認めていることに、俺は大きなショックを受けた。

 しかも、俺よりも上の上級魔術師に、だと……?


「あら? エヴァは魔術師団にはやらないよ」


 フレデリカ元魔術師団長も、茶化すように軽口を叩いている。


「そう! うちの義妹は優秀なんですよ!」


 なぜかそこにフィン・ハートネット上級魔術師が絡んでいった。自慢そうに胸を張っている。


「もう、フィン兄さんったら……」


 エヴァもどこか満更でもなさそうに、恥ずかしそうに頬を染めて、フィン・ハートネットのローブを摘む。


…………まさか、エヴァはハートネット伯爵家の養子になったのか!?

 だが、ありえないことではない、エヴァの母親の生家はハートネット家だ。ダルトン家を放り出された彼女を引き取っていてもおかしくはない……


 ハートネット伯爵家も、ドラゴニア王国の建国当初からある古い家系だ。魔術教育が有名で、代々優秀な魔術教師を輩出している。王族の魔術教育係は、たいていハートネット家出身だ。


 貴族家としての歴史、そして王族の教育係になれるほど積み上げられてきた信頼──ロッドフォード伯爵家とは爵位は同じだが、あちらの方が家格的には上に見られている。


 一瞬、ミアの方を選んでしまったのは失敗だったかという考えが頭を掠めた。


 いや、だが、ハートネット家を継ぐのは、嫡男のフィン・ハートネットだ。彼自身も王宮魔術師団の上級魔術師だし、優秀な直系の嫡男を退けてまでも、エヴァがハートネット家を継ぐことにはならないはずだ。


 何よりも、ダルトン子爵家を継ぐのはミアで間違いないはずだ。

 それに、ミアにはエヴァには無い愛嬌と可愛さがある。


──俺は決して、選択肢を間違えてはいないはずだ。




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