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呪いの魔女の札占い  作者: 拝詩ルルー


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魔物討伐作戦1

 今日は、王国騎士団の魔物討伐作戦の日──私は、元魔術師団長フレデリカ様の助手として参加する予定だ。


 今日の討伐作戦にはフィン兄さんも参加されるみたいで、私の元婚約者のアラン様も別分隊で参加すると教えてもらった。


 アラン様とは、あんなこと(婚約解消)があったから、できれば顔を合わせたくはない。


 だから、私は目立たないようにフード付きのローブを羽織って、顔を隠して参加することにした。



 早朝、オルティス侯爵家からの迎えの馬車が、ハートネット伯爵家の車寄せにやって来た。

 その馬車に乗り込むと、フレデリカ様から笑顔で挨拶された。


「おはよう、エヴァちゃん。今日はいい天気ね。絶好の狩り日和だわ!」


 今日のフレデリカ様は、見事な金髪を三つ編みにして、魔石付きのリボンで留められていた。

 動きやすい狩猟装備に、魔術師の丈の短いケープを羽織っていて、とても凛々しくてかっこいい。


「おはようございます、フレデリカ様! 天気が良くて本当に良かったですよね!」


 私も元気よく挨拶を返した。


「あら? そのローブは認識阻害は付いてるの?」

「いえ、普通のローブですよ。とりあえず顔が隠せればいいかと思いまして……」

「それならこれを貸してあげるわ。セルゲイからせし……借りてきたのよ」


 フレデリカ様、今一瞬「せしめる」っておっしゃろうとしてなかったかしら?

 私はそのことについては聞かなかった振りをすることにした。それよりも気になったのは……


「そ、そのローブはセルゲイのものなんですか?」

「そうよ~。あの子、結構手先が器用で魔術付与が上手いのよ。自分の身の回りの魔道具は自作してることが多いわ。このローブは認識阻害が付いてるから、目立ちにくくなるわよ」


 どうやらセルゲイは魔術付与や魔道具作りが得意みたい。

 フレデリカ様によると、ドラゴニア王国一の魔道具師エッジワース伯爵にも一目置かれるほどの腕前で、「娘婿にどうだ?」と誘われたこともあるみたい……


 このとことを聞いた瞬間、なんだか私の胸の辺りに一気にモヤモヤが広がった。


──そういえば、この前セルゲイを占って『恋人』のカードが出ていたけれど、それとも関係があるのかしら?

『恋人』は人間関係や決断がテーマのカードだけど、やっぱり「理想のパートナーとの出会い」や婚約や結婚などの恋愛関係には強いカードだ。実は、セルゲイとエッジワース伯爵のお嬢様とのご縁のことを示してたのかしら???


 私は、なんとも言えない気持ちで、フレデリカ様が見せてくださったローブをまじまじと見つめた。魔術師団の制服にどこか雰囲気が似た紺色のローブだ。


 王国騎士はもちろん、王宮魔術師団所属の魔術師も、王宮から支給された制服を着ている。そんな揃いの制服を着ている人が多い中、ぽつんと私服姿の私がいたらどうしても目立ってしまう。

 でも、このローブなら悪目立ちはしないかも。


 ちなみに、魔術師団の制服は暗い紫色だ。そこまで色が違うわけでもないし、暗い所で見れば、ほぼ同じ色に見えるはず。


 それと、もう一つ私が気がかりなのは──


「でも、魔術付与がある装備って、とても高価ですよね……?」


 少し聞きづらいことだけど、思い切って尋ねてみた。

 元の素材のローブだけとっても、オルティス侯爵家のものだから、絶対に高いはず!


 さらに、魔術付与がしてある品は、魔術師の加工賃が含まれる分、どうしても高価になってしまう。

 付与した魔術師の腕前や付与された魔術の効果によっては、家が買えてしまうのではないかってほど高額になってしまうものもある。


 元々、自転車操業な子爵家を回していた私からしたら、高額品は恐怖の対象だ。頭の中で勝手にぐるぐるとお金の計算が始まってしまう。


 そんな高価なものを借りて、もし汚しでもしてしまったら大変!


「構わないわよ~! このローブだって、あの子の背が伸びすぎて着れなくなったものを再利用してるんだから! 練習台で魔術付与したものだし、気にしなくていいのよ!」

「えぇ……」


 フレデリカ様はからりと笑い飛ばされた。


 でも確かに、今私が着ているローブよりも、こっちのローブの方がアラン様にバレる心配がぐっと減るかも……

 魔物討伐は危険な仕事だし、変なことに気を回したくないしなぁ……


 背に腹はかえられないか……


「それならお言葉に甘えて、お借りします!」

「もちろん!」


 私が腹を括って決断すると、フレデリカ様は気前よく頷いてくださった。


 お借りしたローブは、元々男性用とあって、着てみると少し大きめサイズだった。でも、動くのにそこまで邪魔にならないサイズ感だ。


 私は、「このローブを絶対に汚さない! それから、後で絶対綺麗にしてから返そう!」と、固く決心したのだった。



***



 王都郊外の集合場所に到着すると、すでにたくさんの魔術師や王国騎士が集まっていた。


 魔術師の集団の中から、フレデリカ様の元に、一人の魔術師が駆け寄って来た。

 他の魔術師よりも少し明るい紫紺色の制服をまとっている、見た目二十代くらいの男性だ。


「ご無沙汰しております、フレデリカ団長」

「私はもう団長じゃないよ、イリアス。今はあなたが団長でしょう?」


 フレデリカ様は腰に手を当て、溜め息混じりに嗜められた。


 声をかけてきたイリアス魔術師団長は、綺麗なプラチナブロンドを魔術師らしく長く伸ばし、一つにまとめていた。冷やかな美貌をされているけど、アメジストのような深い紫色の瞳は、先生に叱られた子供のように少ししょんぼりしている。


「そちらの方は?」


 イリアス魔術師団長が、私の方を振り向いて尋ねてきた。


「私の助手だよ。エヴァ・ハートネットだ」


 フレデリカ様に紹介され、私は静かにスカートの代わりにローブの裾を摘んでカーテシーをした。確か、イリアス魔術師団長は、ブレイザー侯爵の息子さんだったはず。


「まさかフレデリカ様が助手を取るとは……それにハートネット家の……?」

「最近、グレースが姪を引き取ったんだよ」


 イリアス魔術師団長が不思議そうに首を捻ると、フレデリカ様が説明してくださった。


「ああ、そのようなことがあったのですね。私はイリアス・ブレイザー。現在、王宮魔術師団の長を務めさせてもらってます」


「エヴァ・ハートネットです。こちらこそ、本日はどうぞよろしくお願いします」


 私は淑女らしく微笑んで返した。


「先生の助手ということは、君も魔物討伐を?」


「この子は、最近魔術の勉強を再開したばかりなんだ。でも、四大属性に適性があって、魔力量も多い。器用で飲み込みも早い。今回の討伐作戦で、実際に魔術師がどう戦っているかを見せた方が学びになると思ってね」


 イリアス魔術師団長に訊かれ、なぜかフレデリカ様が少し自慢げにニヤリと笑って、代わりに説明してくださった。


「ほぉ、それは将来に期待が持てますね」


 イリアス魔術師団長は、私を興味深そうに上から下まで眺めると、小さく相槌を打った。


 私は少し頬を引き攣らせながらも、愛想笑いを続けた。




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