表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの魔女の札占い  作者: 拝詩ルルー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/44

セルゲイの研究1

 今日はセルゲイ様の研究を手伝う日だ。

 彼の研究に協力する代わりに、私は呪い返しを習う約束になってる。


 私はてっきり、王宮にある特殊魔術研究所──通称「黒の塔」の方に行くのかと思っていた。

 でも、セルゲイ様から来るように指定されたのは、オルティス侯爵家だった。


 オルティス侯爵家に着くと、屋敷の離れの方に案内された。


 離れは煉瓦積みの頑丈そうな建物で、一歩足を踏み入れると、魔術薬や薬草などの香りが入り混じった独特な香りがした。


「ああ、来たか」


 離れの奥から出て来たのは、セルゲイ様だった。


 今日のセルゲイ様は、軍服風の真っ黒な服を着ていて、今までで一番凛々しく見えた。

 男装の麗人と呼ばれるフレデリカ様に似て背が高いからだろうか、非常によく似合っていた。


「セルゲイ様、本日はよろしくお願いします」

「セルゲイでいい。母から聞いたが、同い年だそうだな。共に研究するんだ、『様』は付けなくていい」


 私が愛想良く挨拶すると、彼から思いがけないことを言われた。

 私が驚いていると、大きな手で手招きされた。


「こっちに来てくれ。ここから黒の塔に向かう」

「あれ? 黒の塔は王宮にあるんじゃ……?」


 セルゲイがどんどん先に行ってしまうから、私は不思議に思いながらもとにかく彼の後について行った。


 奥の部屋には、研究室があった。

 中庭に続いている扉の近くには、かまどと大きな魔術鍋がいくつも置かれていて、窓辺には乾燥させた薬草や素材が吊るされていた。

 壁際にはいくつも本棚が並べられていて、おびただしい数の本やスクロールが突っ込まれている。


「……すごい……」


 ハートネット家にも研究室はあるけれど、ここまで大きくはなかった。

 私が感心して研究室に目を奪われていると、


「こっちだ」


 セルゲイに急かされるように声をかけられた。


「っ!?」


 彼の後を追ってさらに奥の小部屋に向かうと、私は息を飲んだ。


 そこには、床に大きな魔術陣が描かれていた。

 魔力は流していないからか、陣は光ってはいなかった。


「これは、黒の塔の俺の研究室に繋がってる転移陣だ。大きな荷物を運び込みたい時に使っている」

「えっ、いいの!? そんなことして!?」


 そんな、勝手に王宮に出入りできちゃって大丈夫なの!?


「? 他の魔術師もそうしているから、構わないだろう。こっちだ」


 セルゲイに手を引かれ、私は魔術陣の真ん中に立った。

 彼も私のすぐ隣に立つ。


「行くぞ」

「はい」


 セルゲイが魔術陣に魔力を流し込むと、足元の陣が眩く光って目も開けられないほどになった。

 眩しすぎてぎゅっと目を瞑っていると、次の瞬間には周りの空気がガラリと変わっていた。


 暖かかった空気は冷んやりとした空気に変わっていて、魔術薬や薬草の香りが入り混じった独特な研究室の香りも、少し埃っぽい図書館のような本がたくさんありそうな匂いに変わっていた。


「着いたぞ」


 セルゲイに言われて、おそるおそる目を開いた。


 さっきの研究室よりもひと回り小さな部屋だ。

 壁際にある棚には、本や魔術薬や魔術インクの瓶が几帳面に並べられている。

 部屋の真ん中にある大きな作業机の上には、インク壺と羽ペン、そして描きかけのスクロールがいくつも置いてあった。


 私とセルゲイが立っている所の足元には、オルティス家の離れにあった魔術陣と同じようなものが描かれていた。


「セルゲイ、来たか。その子が前に言ってた子か?」


 私の目の前に、ヒュンッと精霊が飛んできた。


 私の周りを興味深そうにふわふわと飛んで回っている精霊を手で指し示すと、セルゲイが口を開いた。


「紹介する。呪いの精霊のシュウだ」

「呪いの精霊!?」


 私は精霊の正体にびっくりして声をあげた。

 時々、街中でも精霊を見かけることはあるけれど、呪いの精霊を見たのは初めてだった。


 シュウは、真夜中みたいに真っ黒な玉型の精霊だ。手のひらに乗るくらいのサイズで、くりくりと丸い瞳をパチパチさせていて、ちょっぴり可愛い。でも、シュウはどこか不穏な感じがする──呪いの精霊だって教えられたこともあるけれど、なんだか嫌な感じがする黒い(もや)が出ているからかも。


「ちなみに、俺の呪い魔術の先生だ」


 セルゲイがさらに想定外のことを言った。


 呪いの精霊を、呪い魔術の先生に!?

 確かに、呪い魔術を教えてもらうには最適でしょうけど、そんなの聞いたことないわ!


「そ、そうなのね……エヴァ・ハートネットです。よろしくお願いします」


 ともかく、私は気を取り直して自己紹介をした。


「よろしく。お嬢さんも呪い魔術が使えそうだな。代償を払ってくれるなら、呪い魔術を教えられるぞ」

「それは大丈夫です……」


 シュウの申し出に、私は苦笑いで返した。


 魔術を教えてもらうのに「代償」を払うのはちょっと……

 それとも、これが呪いの精霊にとっては普通の感覚なのかしら?


「それで、研究は私は何を手伝ったらいいの?」


 ひとしきり挨拶が終わった後、私はセルゲイに確認した。


「そうだな。まずは俺の研究について話そう」


 セルゲイはそう言うと、壁際にある棚の方に向かった。

 棚から厳重に封がされている箱を持ってくると、作業机の上に置く。


 私は、その箱を見た瞬間、背筋がぞくりと冷えるような嫌な感じがした。


 セルゲイが慣れた手つきで箱の封印魔術を解いた。

 箱の蓋を開けると、中に入っていたのは真っ黒な本だった──それも、強烈な瘴気のような黒い靄を放っている。


「これはわが家に伝わる呪いの品だ。シュウはこの本の瘴気から生まれたんだ」


 セルゲイはこの本に慣れているのか、顔色も変えず普通に説明してくれた。


「正確には、この本にまとわりつく嫉妬心や怨嗟から生まれたんだ。まぁ、俺の実家で、俺の親みたいなもんだ」


 シュウは嬉しそうにぴょこんと空中で跳ねると、真っ黒な本の周りをくるくると飛んで回った。


「……そ、そうなのね。それにしても、セルゲイは大丈夫なの?」


 私はできるだけその本から離れるように、身を引いた。

 真っ黒な本を見てるだけでも、こめかみのあたりがズキズキしてきて、ちょっとしんどいわ……


「もう慣れた。この本は『黒の本』と言って、ここに書かれた内容は予言となって将来成就する、と言われている」


 セルゲイは白い手袋をはめると、黒の本を箱から取り出して、ぺらりぺらりとページをめくり始めた。


 驚いたことに、どのページをめくっても紙は黒ずんでいて、時々、血文字のような赤茶色の文字が書かれている。

 文字自体も、昔に使われていた文字や外国語ばかりだった。


「クハッ。とんでもない言い伝えだよな。そんな便利な本じゃないんだけどな」


 シュウが吹き出して笑うように、ぷるぷると震えた。ふるいにかけられた粉砂糖のように、もわもわと黒い靄もいっぱい出てくる。


「正確には、『愛する者の命を代償に、ここに書かれた者の破滅と絶望を成就する』呪いの本らしい」


 セルゲイが眉一つ動かさずに、淡々と説明した。


「元は、この本の製作者の嫉妬心を満たすためのものだったんだ。『羨ましい』『なぜあんな奴が』『()き下ろしたい』『不幸になればいいのに』そんな想いで作られたんだ」


 シュウも、黒の本のページの角にふわりと舞い降りて、教えてくれた。


「時に誤った使われ方をされて、侵略を企てていた隣国を退けるために、領民のほとんどの命を代償に失ったこともあるらしい」


 セルゲイは、パタンと黒の本を閉じた。

 ページを閉じた衝撃で、風に吹かれるようにシュウがふわりと宙に舞う。


「…………セルゲイは、なんで黒の本を研究しようと思ったの?」


 どう考えても、人が扱うには物騒すぎる呪いの品だ。あの瘴気だけを見ても、研究するだけでも何かしら影響がありそうだし、リスクが高そうに見える。


「この本には呪い魔術が使われている。だから、予言を成就させるために、それ相応の代償を要求される」


 セルゲイの言葉に、私は相槌を打った。


 呪い魔術の基本は、相手にダメージを与えるために、同じ分量のダメージを自分が請け負うことだ。

 つまり、呪い魔術で「予言を成就させる」という結果を得るためには、それ相応の代償を用意しなければいけなくなる。


「もし、呪い魔術以外の他の魔術やスキルで同じことが再現できたらどうだろうか、と考えたんだ。代償は無く、結果だけを受け取れる……だがそのためには、まずどんなメカニズムでこの現象が起きているのか解明しなければならない」


 セルゲイがスラスラと答えた。

 印象的な青い瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。


「……それで、私の占いスキルに目をつけたのね?」


「そうだ。メカニズムを解明できたとして、次にどんな魔術を使えば再現できるのかが問題になってくる。占いは『将来のことを扱う』という点は同じだからな。何かしら共通点があるだろうと踏んだんだ」


「そうなのね……」


 私は少し考え込んだ。


 セルゲイの考えることは分からないでもない。

 人間は、全ての魔術属性を扱える訳じゃない。だから、別の魔術属性でも同じようなことができないかと、考えてしまうのは仕方ないことだと思う。

 それに、リスクを負ってでも知りたい、解明したいということは、セルゲイは本当に根っからの研究者なのかもしれない。


「研究で君に黒の本を触れさせることは無いが、どうしても協力したくない、というのであれば今からでも断ってくれて構わない。その代わり、呪い返しを教えることはできない」


「やるわ。私が黒の本に直接触れるわけではないのでしょう?」


 セルゲイに訊かれて、私はすぐに答えた。


 ここまできて止めるわけないでしょう?

 それに特殊魔術研究所に入りたいなら、呪い返しは絶対にできた方がいいわ。


「分かった。それでは、始めようか」


 セルゲイはしっかりと頷いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ