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#9「ヨンデとアオイ」

僕はジャージ姿で行くあてもなく歩いている。

クソ、クソ、クソ、クソ、クソ。

自分自身への苛立ちが止まらない。


「ヨンデ!」


と僕を呼ぶ声に振り返ると、走って追いかけてくるアオイくんの姿が見えた。

僕は思わず走って逃げてしまう。


「ヨンデ!待てよ」


アオイくんは勿論追いかけてくる。


「ついてこないでよ」


走って逃げるも、アオイくんはどこまでも追いかけてくる。


「俺が悪かったって!」

「だから、そういう所がウザいんだって言ってるんだよ!」


自分への苛立ちから、ついアオイくんにキツイ事を言ってしまった。


「ヨンデ…。なんでそんな事言うんだよ…」


振り返ると立ち止まって追いかけてこないアオイくんの姿が見える。


「あぁ!もう!」


自分とピュアすぎるアオイくんへの両方の苛立ちを抱え、アオイくんのいる方へと駆け寄っていく。


「何でアオイくんがそうなるの?」

「だって、ヨンデが俺の事ウザいって言うから…」

「いや、こういう時は普通売り言葉に買い言葉で、ずっとラリーが続くもんじゃん」

「…俺ウザい?」

「ホントにウザいなんて思ってないよ」

「ホント?」

「ホントだよ。これだけ長く一緒にいるんだから分かるでしょ、それぐらい」

「分かんないよ。俺、韓国語ネイティブじゃないし」

「いや、もう十分韓国人レベルじゃん。…でもごめん、アオイくん」

「いや、悪いのは俺だよ。ヨンデは悪くない」

「だから、そういうのがウザいんだってば。どう考えたって悪いのは僕だから」

「やっぱり俺ウザいんじゃん」

「うん。ウザいよ」


僕のその言葉にショックな表情を見せるアオイくん。

ホントにこの人は冗談も真正面から受け止めてしまう。


「ウザいけど、でも、ウザくない。だってそれがアオイくんじゃん」

「…どういうこと?」


本気で分からないといった顔をしている。

すると年配の女性がそんな僕らに声をかけてきた。


「ちょっとあんたたち。道端で喧嘩しないでよ。喧嘩するならよそでやんなさいよ」

「あっ、すいません」


僕らはシンクロしたように同時に謝る。


「全く、最近の若いもんは…」


不機嫌そうに去っていく年配女性。


「なんか今日怒られてばっかだな、俺たち」

「全部アオイくんのせいだよ」

「あー、やっぱり俺が悪いんじゃん」


ここでやっとアオイくんがふふっと笑ってくれた。

それをきっかけに2人して笑いが止まらなくなってしまった。


行き交う人々はそんな僕らの様子に若干引いているのが見てとれたが、そんな事気にならない程にアオイくんと仲直り出来たことが嬉しかった。



すっかり仲直りした僕らはカフェで談笑している。

僕はアイスアメリカーノを飲み、アオイくんはグレープフルーツエイドを飲んでいる。


「お前、アイスアメリカーノ好きだよな」

「うん。まぁ、好きって言うか美味しいじゃん」

「いやぁ、アイスアメリカーノだけはよく分からん。ただの薄いアイスコーヒーじゃん」

「そう?美味しいけどね」


日本人のアオイくんにはアイスアメリカーノの良さが分からないらしい。

そして僕がチュウチュウとストローでアイスアメリカーノを飲むのをアオイくんが何やら見つめている。


「ヨンデ」

「ん?」

「なんか悩んでるんだったら俺に相談してくれよ。あんまり一人で抱え込むなって」

「うん。でも別に悩んでるとかそんなんじゃないからさ」

「ならいいけど」

「うん」


夢の中の出来事を現実にも引き摺ってるなんて、そんな頭おかしい話言える筈がなかった。



辺りは日が暮れ始めており、僕らは薄暮の宿舎へと帰ってくる。

歩きながらアオイくんと話す。


「とにかく2人で謝るってことでいいよね?」

「まぁ、それしかないだろ」

「で、どういう感じで帰る?」

「どういう感じって?」


宿舎のエレベーターを待つ。


「ヘラヘラした感じで帰る訳にはいかないでしょ?なんていうか反省している感じ出した方がいいかなって」

「わざわざそこまでしなくてもいいだろ。そりゃ、イェジュンヒョン(兄さん)に楯突いたのは良くなかったけど、ヒョンだってあれは言い過ぎだ」


僕らはエレベーターに乗り込む。


「でも元々悪いのは僕だし。集中しきれてなかったのはホントだし」

「誰だってそんな日ぐらいあるだろ。毎日完璧でいるなんて無理だよ。俺たちはアイドルである前に一人の人間なんだからさ」


宿舎のある5階に着き、エレベーターを降りる。


「ヒョンだって集中してない時あるじゃん。たまに」

「確かに(笑)」


僕らは笑い合いながら、宿舎の扉前に到着する。

扉の暗証番号を押し、扉が開錠される。


ちょっと気まずい雰囲気を演出しながら、皆がいるであろうリビングへと入っていく。


するとそこには、イェジュン兄さん、ワン・リー兄さん、シウ兄さん、ノア兄さんのスタゲメンバーだけでは無く、何故か社長の姿もあった。

そのピリついた唯ならぬ雰囲気に、思わずたじろいだ。


「なんでわざわざ社長まで…」

「全部お前らのせいだよ!」


僕の言葉を遮りイェジュン兄さんが声を荒げると、そのまま自室に行ってしまった。


「ヒョン!ちょっと待ってよ」


イェジュン兄さんは、アオイくんの静止も聞かず部屋に入っていく。


「あんなに怒らなくてもいいのに…」


とアオイくんが言うと、シウ兄さんが、


「お前らこれ見てないのか?」


と言いながらスマホを差し出し、僕ら2人が路上で喧嘩している動画を見せてきた。


「え?何これ…」


僕とアオイくんは2人して言葉を失った。


「誰かが撮ってたみたいでTwitterで拡散されてた」


ノア兄さんが他人事のように言う。


「おまけにこれ」


次はワン・リー兄さんからスマホを渡され見ると、ニュースサイトのまとめ記事にされていた。


〈これ、スタゲ?〉〈売れてない上にメンバーで仲悪いとか最悪じゃん〉

〈こんなことやってるから売れないんだよ〉〈だれ?〉

〈アイドルなのに道端で喧嘩なんか自覚なさ過ぎ〉


など、様々な書き込みが目に飛び込んできて、僕は途端に自分達の置かれた状況を理解した。


「なんでこんな事に…」


冷や汗が止まらない。


「やっと状況把握したか」


これまで黙っていた社長が口を開いた。


「社長…」


社長は僕らを一瞥して淡々と話し出す。


「それ見たイェジュンが俺んとこに来て、お前達2人抜きでやらせてくれって言いにきたんだよ」

「え…」

「だからカムバック中止にした」

「……!!」


僕は絶句した。

今日の午前中までカムバックに向けてみんなで練習してたのに、数時間後にはカムバック中止になるなんて…。


自分がやらかした事とは言え、この事実を簡単に受け入れる事など到底出来なかった。

と同時に僕はとんでもない事をやってしまったと、やっと事の重大さを理解した。



【ヨンデの脱退まであと3年と8日】

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