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もしもし、母さんだけど

作者: 歩芽川ゆい
掲載日:2024/11/06

 rrrrrr


「蒼鷺さん、ご家族の方から電話だよ」

「あ、すみません!」

「いくら私用スマホでもさあ、仕事中は電源落としとけって言っただろうが!」

「すみません、つい、うっかりして」



『もしもし、お母さんだけど』

「なに、どうしたの。オレ今、仕事中なんだけど。どうでもいい話なら後にしてくれないかな」

『ごめんねえ、仕事中に電話しちゃって。あのね、お父さんが入院しちゃって』

「ええ!? オヤジ、どうしたの!?」

『雨どいから水漏れしちゃってね、業者頼むって言ったのに、俺が直してやるーって』

「ああ……出来もしないのに」

『そうなのよ。止めたんだけど、逆にムキになっちゃって。ホームセンターで材料買ってきちゃってねえ。私もしょうがないから手伝ったんだけど、お父さん、はしごに乗って作業して、それは無事に終わったのよ。なんだけど、はしごから降りる時に足を踏み外しちゃって』

「それで怪我を? 骨折とか?」

『そうなの、右足をぽっきりとね。それで今、入院しているんだけど、それで実は、治療費とか入院費とか、入院するんであれこれ買い揃えたりしたら、お金、足りなくなっちゃって……』

「ああ……。父さんの退職金は? 結構出たんでしょ?」

『できれば手を付けたくないのよ。今もアルバイト的に働いてはいるけれど、これでお父さん、しばらくは働けないじゃない? 私もお父さんも歳だし、働いても雀の涙のお金にしかならないし。老後、あなたに苦労掛けたくないから、老人ホームに入るお金を残しておきたいのよ』

「……うん」

『ああもう、この子ってば! そこで『俺が面倒みる』位の事は言いなさいよ!』

「現実問題として、二人を介護するのには俺が職を辞めないといけないし、そうしたら母さんたちの年金以外の収入ないし、やってあげたいけれど無理だよ……」

『まあそうよね。それはわかっているけれど。あ、まぁそれでね、当面の生活費を少しで良いから援助してもらえないかと思って』

「ああ、そのくらいならもちろん良いよ。どれくらいあればいいの?」

『うーん、あんたはどのくらいなら大丈夫なの?』

「ええと……。10万くらいならすぐに用意できるかな」

『悪いわねえ、でもそれじゃあ入院費の一部にしかならないわねえ……』

「え、そうなの? じゃあ、もう少し……」

『無理しなくていいのよ。それだけでも助かるわ』

「うん、まあ、ちょっとかき集めて、出せるだけ持っていくよ。入院ってどこの病院?」

『〇△□病院よ。できるだけ早く来てもらえるかしら。入院費、待っていてもらっている状態なのよ』

「分かった、会社に訳を話して、少しだけ外出させてもらうよ。そこに持っていけばいい?」

『助かるわ。あ、でも今感染症予防で面会は家族一人だけに制限されているの。だからあなたが来てくれてもお父さんには会えないけれど、良いかしら』

「そういう状況なら仕方がないよ。それに俺も時間もあまりないし」

『ありがとう、悪いわねえ。じゃあ、病院に着いたら電話貰える?』

「分かった」

『ああそうだ、スマホの電話番号、この間変えたのよ。番号いうからメモしてくれる?』

「そうなの? いいよ、教えて」

『080-○○○○-□□□□、よ』

「分かった、病院付いたら連絡するから」

『ありがとう、待っているわね』


 ~~1時間後、〇△□病院ロビー~~


 rrrrr


「あ、母さん? 病院に着いたよ」

『ありがとう、でも今、お父さんの診察中でちょっと離れられないのよ』

「そうなの? 時間かかる? 会社に無理言って出てきたから、そんなにいられないんだけど」

『そうよね、ちょっと待って。…………おまたせ、あのね、看護士さんに行ってもらうから、その人に渡してもらえる?』

「ああうん、いいよ」

『ササゴイさんって男性が行くから、その人に渡して。ああ、万が一があるから、金額、聞いていいかしら』

「貯金と、会社から前借して、50万円、入ってる」

『あらあ、そんなに? ありがとう! 助かるわ!』

「入院費はこれで足りる?」

『充分よ、ありがとうねえ。じゃあ笹五井さんに渡してね、あ、お父さん、レントゲン室から出てきた、切るわね』

「分かった」


 ~~数分後~~


「蒼鷺さま~? 蒼鷺さま~?」

「あ、俺です」

「蒼鷺さまですね、わたくし、看護士の笹五井と申します。お母さまから品物を受け取ってきてほしいと言われまして」

「母から聞いています。ええと、これをお願いしたいんですが」

「こちらの紙袋ですね、確かに受け取りました。すぐにお母さまにお渡しいたしますね」

「はい、どうぞよろしくお願いいたします。あの、母とは会えませんか?」

「ちょうどお父様が診察中でして、しばらくは無理かと……」

「そうですか、わかりました。では今日は帰ります」

「はい、ではこちら、確かにお預かりしました」

「よろしくお願いします」


~~その夜~~~


『はい、蒼鷺でございます』

「ああ母さん、家にいたんだね」

『あら、隆? どうしたの?』

「どうしたのって。いくらスマホに電話しても出ないから、家電にかけたんじゃないか」

『スマホ……? ああ、リビングに置きっぱなしかも』

「全く。それで、オヤジ、どうだった」

『どうだったって、……何が?』

「何がって。オヤジ、診察うけたんだろ? その結果だよ」

『ええと……何を言っているの? お父さんなら、テレビ見て笑っているけれど?』

「は??」

『定年退職してから自由気ままに過ごしてて、ゴルフ行ったり図書館行ったりしているけれど? お父さんがどうかした?』

「いや、ちょっと待って、母さん、今日会社に電話してきたじゃないか、父さんが足を骨折して入院したって」

『してないわよぉ。大体今日はお父さんと映画観に行っていたし。それに会社になんて電話するわけないじゃない。あんたが散々、”絶対に仕事中は電話するな”って言ってたから』

「え、だって、今日電話してきて、オヤジの入院費が必要だからっていうから、俺、〇△□病院にお金届けたじゃないか!」

『〇△□病院? お金? 何のこと?』

「だから、母さんからの電話で! 笹五井って看護士にお金の入った紙袋渡したじゃないか!」

『ちょっといやあねえ、だから私は電話なんてしていないってば』

「いや、本当に、ちょっとさ! あ、オヤジいるのなら、電話に出して!」

『ええ? まあいいけど……ちょっと待ってなさい。 おとうさ~~ん、隆がなんか変な事いってるんだけど~。(変な事?)。うん、なんだかあなたが入院したとか、お金がどうとか。それで、お父さんと話をしたいって。(なんだ? うんとこしょっと) ───はい、隆か? どうしたんだ?』

「いやどうしたって……。オヤジ、入院してたんじゃないの!?」

『しとらんよ。ぴんぴんしとるわ。今年の健康診断も中性脂肪が高い以外は大丈夫と医者に太鼓判押されているくらいだぞ』

「じゃあ、え、じゃあ、昼間の電話は……」

『昼間の電話?』

「かくかくしかじかで、〇△□病院にお金届けたんだけど」

『……それ、”オレオレ詐欺”じゃないのか?』

「はあ!?」

『ああ、この場合は”お母さん詐欺”になるのか? お母さん、スマホなんて新しくしてないし、俺と映画見て昼飯も夕飯も一緒に食ってきたから、病院になんて行っていないぞ』

「そ、そんな……!」

『それで、いくら渡したんだ?』

「50万……」

『ご、50万!? お前、そんなに金持ってたのか?』

「貯金は10万しかないよ! 会社に言ったらそれならって、40万前払いの形で貸してくれたんだ!」

『会社も巻き込んでるのか!? すぐに警察に電話しろ!』

「出来ないよ!」

『何故だ! すぐに警察に連絡すれば、病院の防犯カメラで、その笹五井とやらが写っているかもしれないじゃないか! ああ、すぐに病院にも連絡しないと……。もしかして病院もグルなのか!?』

「そ、それはないと思うけれど……とにかく、警察はダメだよ!」

『なんでだ!』

「だって、そんなことしたら、会社に迷惑かけちゃう! 辞めさせられちゃうよ!」

『はあ!? 騙された方が辞めさせられるってどんな会社だ! ってもしかして、これ、オレオレ詐欺か? 会社の金使いこんだとか無くしたとかいう手段の。はあ、息子の声は間違えないと思ってたけどわからないものだな』

「俺だよ! 息子本人だよ! ってか金をとられたのは俺だし! なんで詐欺なんだよ!」

『それなら警察に電話しなさい。オレオレ詐欺なら警察一択だろ。そうしないと金を貸してくれた会社にも迷惑がかかるだろう? お前が話難いなら俺が警察に電話してやるが?』

「しなくていい!! と、とにかく! 自分で何とかするから!」

『できるわけがないだろうが!』

「ああもう、とにかく、少しだけ待って! 警察にも自分で連絡するから、オヤジからはしないで!」

『……まあ、当事者の方が説明しやすいだろうから、お前がするというのなら良いが。手に負えないと思ったらすぐに連絡しなさい』

「わ、わかった!!」



~~後日~~~


 TVのニュース


『先日、都内でオレオレ詐欺グループが2つ、摘発されました。まず詐欺にあった被害者は、母親から父親が怪我をしたという電話を受け、入院費を病院に届けましたが、その話が全て架空で、母親の代わりに受け取りに来た看護人を名乗る男に渡した金を持ち逃げされました。それを警察に相談し、オレオレ詐欺であった事が発覚しました。しかし捜査を進めるうちに、この被害者自身がオレオレ詐欺グループの一員である事が判明。そこから操作が入り、摘発されました。しかも被害者が父親の入院費として渡していた金は、所属していたグループの金を横領したものだという事も判明しています。更に、この被害者からだまし取った相手は更に違うグループで、グループから横領した金を指定された病院で看護士の笹五井と名乗った受け子の写真を被害者グループのメンバーに見せたところ、身元が判明。笹五井と名乗る男を逮捕するために向かった住所が、オレオレ詐欺の拠点で、こちらのグループのメンバーも逮捕されました』


~~SNSの反応~~


「は? え? どういう事?」

「情報量多すぎwww」

「今北産業」

「詐欺グループAの被害者、Bグループからの詐欺に引っかかる。被害者、自分の所属するグループAの金を無断で持ち出し、Bの受け子に渡す。被害者が警察に相談したことでグループAが摘発、Bの受け子をAのメンバーが知っていたことでBグループも摘発」

「アホすぎwwwww」

「2つのグループを壊滅とかww 被害者凄いじゃんwww」

「被害者、蒼鷺隆っていうらしい」

「特定班、速っwwwww」

「サギがカモられたwwww」

「タカシじゃなくて、タカモ、じゃね?wwww」

「苗字もサギだし、適職なんじゃwwww」

「まあでも、人を騙して金を巻き上げるようなヤツも、自分の家族が大変な時には金を払うんだな」

「家族思いの良い面もあったわけだ」

「だけどその金も、人から巻き上げた金だけどな!」

「しかもグループから横領wwww 度胸あるwww」



電話は怖いですね。


新しいタイプのざまぁかもしれません。


 面白かったらイイネをぽちっとな

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― 新着の感想 ―
面白かったです!まさかのラストでしたね! やっぱり悪い事はするもんじゃないという事でしょうか。
展開の早さにハラハラしながら読んでいき、ラストが衝撃的でした。まさか詐偽グループが別の詐偽グループに騙されるなんて……新しいタイプの事件簿にやられました!
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