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翔 monologue

 初めて葵ちゃんと旅行したのは去年の六月。僕と葵ちゃん、金光さんと祖母の四人で金光さんの運転する車で箱根に行った。僕のこれまでの旅行の記憶と言えば母の住んでいた甲府に毎年祖母と電車で日帰り、あとは忍さんと三人で近場の温泉に何度か行ったもの程度である。

 去年の箱根旅行は僕にとって生まれてこのかた一番楽しい旅行だったのは間違いない。この羈旅きりょのきっかけは金光さんが仕事絡みでどうしても祖母と日帰りで箱根の温泉旅館に行かねばならなかった事であった。当時祖母と金光さんはただの知り合いー祖母は違うかもしれないーであり、二人で日帰り旅行は気まずいと言うので葵ちゃんが一計を図り実現したものだった。

 そもそも僕と金光さんとの出会いも普通で無かった気がする。去年の四月、駅の近くで急に心肺停止になった初老の男性を助けた時にAEDを直ぐに見つけ出して来てくれたのが金光さんだったのだ。

 金光さんが葵ちゃんの実父と判明した時は本当にビックリした。助けたい、絶対助ける、と思った時に僕を助けてくれた人だったから。それより何より…… 幼い頃祖母に散々聞かされた祖母の初恋の相手、この町の伝説のキングだったのだから。

 箱根への道中金光さんは僕に箱根に関する色々なことを教えてくれた。地形や歴史、特産品など流石旅行代理店の役員だな、と感服したものだった。

 そして何と言う偶然なのだろうか、僕が数週間前に駅前で助けた初老の男性を今度は金光さんと祖母が救ったんだ!

 その男性は泉さんといい、温泉に関する世界的なスペシャリストであった。心臓の調子が悪いのに無理に温泉に入り、症状を悪化させたのだった。幸い二人の救命処置は非常に適切であり、一命を取り留めた。その後泉さんの助言が金光さんの旅行代理店の仕事に大きな影響を与えているらしい。

 葵ちゃんとはその間、二人きりで小涌谷にある岡田美術館へ行った。前々から一度訪ねてみたいと思っていた場所だったが、葵ちゃんは美術に対し全然興味が無いらしく、それでも僕に合わせてくれているのが申し訳なかった。唯一二人で関心を持ったのが春画のコーナーだったのは祖母や金光さんには内緒なのだけど。

 僕は一つ一つの作品をその由来や背景をじっくり確かめながら観て行くのだけれど、葵ちゃんはフラフラーと歩いていてピンと来た作品を何時迄も眺めている、そんな感じの鑑賞の仕方だったからあまり一緒に観ることはなかった。

 でも一緒に裏山に登ったり足湯に浸かったのは楽しかったな。


 なんて去年の旅行の事をボーッと思い出していたら外からクラクションを鳴らす音が聞こえてくる。手配したタクシーが到着したみたいだ。祖母に伝えようと部屋に行くと一生懸命化粧している。普段滅多にしない化粧の意味につい微笑んでしまう。

 何とか祖母を家から引きずり出しタクシーに乗せて東京駅へ向かう。時間が足りなかったのか、タクシーの中で口紅を塗っている。何度も何度も塗っては拭い、塗っては拭い。首を傾げながら満足いく出来とはならないようだ。お婆ちゃん十分綺麗になったよ、と呟くも


「っセーな。ガキが口出しすんじゃねーよ」


 半分照れながら祖母が口を尖らせる。祖母は金光さんの前でも持ち前の粗暴でつっけんどんな態度を変えないことに誇りを感じているらしい。けど、全然違うよお婆ちゃん。あの人の前だとしょっちゅうキョどるし、すぐに顔を赤くするし。あの人と再会してから目が優しくなって口調もほんの少し良くなってきているのに気付いていないのは本人だけなのだ。

 タクシーが東京駅に着くと同時に葵ちゃんからラインが届く。彼らももうすぐ東京駅に着くと言う。一見ガサツな祖母は不思議と時間に遅れることがない。と言うより、時間に厳しい。約束した時間に一分でも遅れると罵詈雑言を吐く。状況によっては鉄拳制裁が待っている。たとえ相手が金光さんであろうと。


「お待たせーー翔くーん ごめんねー待ったー?」


 大丈夫だよ。二分前だからね。今朝も変わらぬ元気な葵ちゃんだ。


     *     *     *     *     *     *


 僕と彼女の出会いは一昨年の秋である。学校の宿題を近所のスタバで片付けてから大きく背伸びをしマキアートを一口啜った時、空いていた筈の隣にいつの間にか座っていた女子が、


「わかんないーー」


 と言ってテーブルに突っ伏した。一目見てビックリした。何となく祖母に雰囲気が似ている…… 目力の強そうな大きい瞳。意志の強そうな眉毛。言霊力が半端なさそうな口元。誰にも媚びることのなさそうなツンとした鼻筋。男子校にいる僕は女子に慣れておらずいつもなら目を逸らすんだけど、あの時は葵ちゃんから目を離せなくなっていた。

 彼女と目が合っても僕は目を逸らせなかった、彼女は不思議そうに僕を見つめ、僕の制服を一瞥した。その目はみるみるうちに驚愕の色を湛え始め、


「え? もしかして開聖中? まさかねー?」

「そうだけど…」


 驚愕が歓喜の色に変わり、


「うっそ、スッゲー! 超頭いーじゃん! じゃあさ、ちょっとこの問題教えてくれないかなー」


 と言い、サッと数学のプリントを僕に差し出した。普段の僕だったら慣れない女子とのコミュニケーションに混乱をきたしフリーズしていただろう、だがそのあまりにさりげない言動に普通にプリントを受け取ってしまったのだった。


 へー、公立の中学はこんな感じなんだー 丁度去年の春過ぎにやったところなので簡単に彼女に教える事が出来た。彼女は一年生なんだな、もうちょっと上に見えたけどー


「すごい… 超わかりやすいんすけどー さすがだねー 今三年生?」

「いや、二年だけど」

「えーー、一緒じゃんー 超タメじゃん!」


 うそ… この問題、二年生の問題だったんだ… 軽く衝撃を受けていると彼女はあまり興味なさそうに、


「この辺に住んでるの?」


 と呟いた。僕は頷き、


「うん。駅近くの居酒屋の上なんだ」

「ほーん。お父さん、居酒屋系?」


 初めて聞く単語に戸惑いながら、


「…… いや、祖母が切り盛りしてるんだ」

「そか…」


 急に黙り込んでしまった。何か変な事を言ってしまったのだろうか? 額に汗が滲み出した。


「き、君はこの近くなの?」

「え… ああ、うん。一昨年この街に引っ越してきたんだ。元々父の実家でさ。そこにね」

「そ、そうなんだ…」


 それからしばらく沈黙。僕は徐々に高まっていく緊張感に悶え始める。


「ねえ、名前は?」


 不機嫌な表情で吐き捨てるように彼女が言う。僕は声を震わせながら、


「島田翔。君の名は?」


 不意に彼女の表情が崩れ、まるでアイドルのような可愛い笑顔が弾ける。


「ブハッ 何それ映画? 狙ったっしょ? ウケるー」


 思考が停止する。は? 映画? 何?


「ヤダー、凍らないでよおー って、翔くん映画とか観ないのー?」

「あ、あんまり…」

「ねー?」

「な、なに?」


 小悪魔のような表情で、


「あんま、慣れてなくね?」

「え?」

「女子と喋んのー」


 背中に汗の滝が流れ落ちるのを感じる。


「う、うん」

「そっかー 開聖って男子校だもんねー」

「うん」


 急に済まなそうな顔付きで


「なんか… ゴメンね」

 次々に変わる表情の豊かさに圧倒されながら、


「え?」

「バカなチャラい女子に構ってる暇ないよね… 迷惑だよね… ウチ行くから… プリント教えてくれてありがとねー」


 立ち上がろうとする彼女に、思わず


「そ、そんな事ないよ! 僕こそゴメン、ホント慣れてなくて、何を話せばいいかわからなくて…」


 自分に驚いた。今僕、彼女を引き留めた?

 目と目が合う。互いに不思議そうに見つめ合う。ほぼ同時に吹き出す。何故か妖艶な笑みを浮かべながら、


「甘いもの、好き?」

「まあ…」


 彼女から目が離せなくなっている! 


「ケーキ食べ行こ! プリントのお礼するから。さ。行こ行こー」


 あっという間にテーブルの上を片付ける彼女に、


「いいけど… ところで、君の名は?」

「金光葵。キャハー ウケるー」


 彼女の意味不明の爆笑に呆然とする僕であった。


     *     *     *     *     *     *


 駅地下でお弁当を買う。そして改札を抜けてホームに到着する。僕らの車両は普通席。二列に指定されているので僕と葵ちゃんが座る。すると金光さんが、


「すまん、今日回る所を翔と相談したいんだけど、ちょっとこっちの席きてくれないか?」


 葵ちゃんはキレながら、


「ちょっとー パパ!」

「少しだけだから… 光子と駅弁食ってろ」

「うわ…アンタ、いやらしい… 朝っぱらから…」

「へ? 何がいらしいのお祖母様?」


 金光さんは何故か顔を真っ赤にしながら、


「コラ光子! 人の娘に変な事吹き込むなっ!」

「ねえねえお祖母様〜 何で『駅弁』っていやらしいの? どんなプレイなの?」

「それはな、昔は駅弁てえのはこうやって売り子がー あいたっ」


 金光さんがお婆ちゃんと頭をポカリと殴る。思わず吹き出してしまう。もし他の人が同じことをすればこの場は血に染まり警官だけでなく機動隊が出動するであろう。流石伝説のキングである。

 それにしても卑猥な意味での『駅弁』って何なのだろう?


「早速だけど。いいか、京都駅はココな。部下が計画したプランだと一日目の今日は京都の東側、そう清水寺から南禅寺、慈照寺に至るこのラインが推奨されてるんだ。どう思う?」


 金光さんがタブレットの地図を指差しながら僕に意見を求めてくる。


「慈照寺って銀閣ですよね?」

「そう。流石!」

「成る程、京都駅に到着後すぐホテルへ向かい荷物を預ける。その後清水寺方面へ向かい北上していく。一日で回れますか? 僕観たいところ目白押しなのですが…」


 大きな溜め息を吐きながら、


「そーなんだよ… 余りに色々見所があり過ぎて… 桜が開花しちまったのも相当マズイ…」


 桜、か。ああ、桜と言えば……


「桜ですか… 『桜の樹の下には屍体が埋まっている』のは本当なんでしょうか?」


 金光さんはニヤリと笑いながら、


「ふふふ。『八百卯』は十年前に閉店したそうだよ」


 ふふふ。この会話は中々他人と交わせない内容だな。


「あの『丸善』も閉店したとか…」

「資料によると… 京都BALってとこの地下に再出店したみたいだよ。行ってみたい?」

「あは! 是非! 何処かでレモン買わなくちゃ」

「お前意外にも物騒なヤツだな……」


 僕は吹き出しながら、この人との邂逅に心から感謝してしまう。


「いいですねー 京都。楽しみだなー」

「葵と一緒だしな?」


 探るような表情で問いかけられるも、


「…… でも、彼女とは回りたいところがかなり違うようで…」

「そうなの?」

「はい。僕はどちらかというと今みたいに過去の偉人達の足跡を辿ってみたいんですけれど、彼女はもっと即物的なー 恋愛成就の神社とかパワースポットとか美食処とかー まあ、それはそれで楽しそうですけれど…」


 金光さんは困ったような顔をする。


「お婆ちゃんも葵ちゃんと似たような感じですよ。あ、でも何処で『花魁のコスプレする』って張り切ってますけど」

「何それ? ああ、そう言えば去年日光行った時コスプレして遊んだなぁ 『御用改である!』とか言いながら」


 思い出し笑いをする金光さんに、


「何それ、メチャクチャ楽しそうじゃないですか!」

「そうそう。あの時も花魁になりたがってたなあ… アイツあの時くノ一の格好して大暴れして… ゲッ」

「な、なんですか?」

「嫌な事思い出した… アイツあん時興奮して俺を本気で殴りやがって… 気が付いたら俺バスの中だった…」


 お婆ちゃん……


「…… えっと、あ、金光さんは京都で何処を回りたいですか?」

「そうだな、京ならではって感じの所に行きたいな、例えば伏見稲荷とかー」

「ははは。皆それぞれですね」


 金光さんと話すのは本当に楽しい。本当に頭の良い人だし知識も凄い。打てば響く、という言葉がピッタリな人だ。こんな人とずっといれたら色々な事に興味が持てそうだ。

 しまったー 余りに話に夢中になって、葵ちゃんとお婆ちゃんの事すっかり放置したまま…


「だからよ、んだよその陰陽児ってのはよ?」

「ちがう! 陰陽師! 昔の占い師みたいな人なの!」

「んで、その陰陽師とやらの? 阿部の生命?」

「安倍晴明! を祀った神社がすっごいパワースポットなんだって!」

「ほーーーー。いーじゃんいーじゃん! 行こーぜ。パワーガッツリゲットするかー」

「前からメッチャ行きたかったんだー きっと若返るよお祖母様」

「バーカ。これ以上若返っていいオンナになったらオメエのオヤジ、腎虚で逝っちまうぞ」

「は… またエッチな話なんでしょ… なーにサカってんだか…」

「ハア? サカってんのはテメーだろが。ヒヒヒー今夜逆夜這いかますんだろ?コラ」

「エロババア…」

「んだとコラ!」

「てかー あんま聞きたくないんだけどおー そんなに良かったの?」

「へ? 何がだよ」

「パパとのエッチ♡」

「お、おま、な、なに言ってん… はあ?」

「したんでしょー クリスマスにっ キャハ」

「ちょ、おま… てか… その…」


 …… そう、意外に二人は気が合うんだ。話の内容は置いといて…


     *     *     *     *     *     *


「甲府の、お父さんはいつ出所予定なんだ?」


 僕の遺伝子上の父は十五年ほど前―僕の生まれる前に知人を殺害し、現在甲府刑務所に服役している。一度も会ったことはないが母から彼の人となりはよく聞かされてきた。


「はい、恐らく三年以内には、との事だそうです」

「そうか。そうすれば晴れて親子三人で幸せな、だな」

「どうなんでしょう。母は黄色いハンカチ持ってませんが」


 祖母と母が大好きなんだよなあの映画。


「ハハ… でも出所したら直ぐに籍入れるんだろう?」

「具体的には何も聞いてませんよ。でも確かに母は十五年間男っ気無しで彼を待っているそうです、祖母曰く」

「光子の血を引いた女性ならそうだろうな。そうするだろうな」

「でも… いいんですか本当に… 僕で…?」

「へ? 何が?」

「お嬢さん… 葵ちゃんと付き合い続けて… 殺人犯の息子の僕と…」


 前から最も気になっていた事。金光さんにもっとも聞きたかった事。そして今まで決して口にすることができなかった事。何故だろう、今すんなり聞けた。

 暫くの沈黙のあと。金光さんは車窓から流れ行く景色を眺めながら、


「いいも悪いも… 別にキミが罪を犯した訳じゃないし。まあ、去年までの俺だったらキミのことを知ろうともせずに『絶対許さん!』とか言ってたろうな」

「それって…」


 視線をゆっくりと僕に移し、軽く微笑みながら、


「そう。キミの出自がどうであろうと、キミ自身がどんな人間なのか、それだけさ。キミは葵にはー 勿体無い」

「いや… そんな…」

「寧ろ、こちらこそ葵の事をよろしくお願いします、だ。割と真剣に」

「いやいやいやー」


 額に汗が滲む。ついでに両目に涙が少し滲んでくる。


「葵が日々矢入れたのは間違いなくキミのお陰だ。キミでなければアイツはこの冬にあれ程伸びなかったろう。心から感謝しているよ」

「あ、ありがとうございます…」


 恥ずかしくなって車窓から景色を眺めるフリをする。目をしばたたせ鼻を啜る。

 金光さんや葵ちゃんのお祖母さんはそう言ってくれるが、実際頑張ったのは葵ちゃんだ。僕が何をした訳でもない。

 それよりも僕は葵ちゃんに感謝したい。だって金光さんに会わせてくれたのは君なのだから… お婆ちゃんに聞かされ僕の憧れだった、『伝説のキング』に会わせてくれたのだから…


「金光さんとお婆ちゃんは今後どうされるんですか?」


 この人も葵ちゃんに似て実に表情が豊かだ。ギョッとして赤面して、そして遠くを眺める表情で、


「そうだな、キミのお母さんが東京に戻って来て、キミのお父さんー滝沢さんが出所して、葵とキミが大学生になって、社会に出て、それから、かな」

「随分とノンビリですね?」

「だって! 医学は日々進歩してるんだぜ。俺らの寿命は恐らく百歳以上になるだろ?」

「まあー そうなるかもですね」

「だとしたら、俺らはやっと人生折り返した所だ。残りあと五十年はあるぜ」

「はは… そうですね」

「光子とはー これからさ。これからゆっくりとのんびりと、かな」

「ふふふ。流石、お父さん!」


 時折つい彼を「お父さん」と呼んでしまう。ほんと無意識のうちに……


「あ! だーかーらー、俺はお父さんじゃないって! 俺と真琴さんは夫婦じゃねえって!」

「いいじゃないですか、今日明日ぐらい。なにせ僕は父親と旅行どころか、喋ったことも、顔も知らないんですよ?」


 と思い切って開き直ってみる。金光さんは目を白黒させ、


「…お、おお。ま、俺も息子いないしー まあ、そーゆーのも面白そうかも、な」

「そうですよお父さん。楽しみましょうよ、父と子で、京都を!」

「ハッハッハ! そう言えば会社から頼まれた仕事もそんな感じだったかもな」


 後ろのシートの二人を顧みると。二人仲良く転寝していた。まるで実の母娘の様に。


 二人がけのシートが反転出来るのを知ったのはトイレから帰ってきた葵ちゃんだ。なんだ最初からこうすれば良かったとお婆ちゃんが文句を言うとすかさず、


「大人のくせにこんなことも知らない方が信じられないし」


 とバッサリ斬り返されている。

 名古屋を過ぎ、あと少しで京都という所で問題が発生する。僕と金光さんは貰った資料通りに京都の東側を今日回りたいのだが……


「やだっ 神明神社、今日行きたいっ」

「ざけんな! あたしゃ真っ先に八木さんち行きてえ!」


 安倍晴明の神明神社も新選組で有名な八木邸も京都駅の西〜北西に位置する。


「あと明日は天気悪いんでしょ? だから今日中に渡月橋渡りたいっ」

「あたしゃ嵐山で抹茶パフェ食いてえ!」


 完全に京都の北西部である。金光さんは困り顔で、


「そう。だから天気の良い今日、清水寺から街を眺めようよ。それから哲学の道を銀閣に向けて北上して…」

「僕は知恩院に行かなきゃ。春休みの宿題のレポートの題材にしようとー」


 お婆ちゃんは逆上し、


「んだよ翔、寺なんて江戸にだっていくらでもあんだろが! わざわざ京都まで来て何で寺行かなきゃいけねえんだよ!」


 葵ちゃんも乗っかって、


「清水寺なんて大混雑だって。行っても人混みで景色楽しめないって!」


 負けずに金光さんが、


「神社なんて雨でも行けるだろう。それに雨の渡月橋なんて水墨画の景色みたいでいいじゃないか!」


 僕も乗っかりながら、


「そうだよ! お婆ちゃんはコスプレしたいだけでしょ? 雨でも屋内でできるじゃん。パフェ? 雨なら尚更店内でゆっくり食べれるじゃん!」


 完全に、意見は真っ二つに割れてしまった。理性派対感性派の交わる術のなき平行線だ。


「ちょっと〜 翔君、なんかパパの味方してね? 哲学の道? 哲学すんの? おっさん臭―」

「いやいやいやー 哲学の道は外せないよー 思索に耽りながら春の京都を楽しもうよ!」

「どーせオマエらの哲学ってのは『スコラ』だろーが。このエロジジイがー」

「ば、バカヤロウ! それ雑誌だろが! こいつら知らねーし。スコラ哲学ってのはな、中世ヨーロッパの……」

「ハイハイー もーいーでーす。パパと翔君、どーぞ二人でエロ哲学してきてくださーい」

「そうだそうだ! 冗談じゃねーよ。せっかく京都来てよ、寺だの哲学だの頭おかしいんじゃねーのオマイら。おいアオジル、アタシらで着尽くして食い尽くしてパワーゲットすんぞ!」

「キャっ 超楽しみー メチャ若返りそー」


 思わず吹いてしまう。これでは本当に仲の良い母娘だ。付箋の沢山付いたガイドブックで飲食店をあれこれ探している祖母とスマホの食べログで星を数える葵ちゃんを金光さんも眩しそうに眺めている。うん。これでいいんだ。今回は僕と金光さん、お婆ちゃんと葵ちゃん。それぞれで京都を楽しもう!


     *     *     *     *     *     *


 京都駅に着くと二人は早速消えてしまった、本当に。荷物を僕と金光さんに持たせ、


「夕飯は六時だっけか。場所アオジルのラインに送っとけよー じゃあなー 行くぞアオジル!」


 と二人は風のように去っていった。何でも駅ナカのパン屋で朝八時から売り出すメロンパンの行列に並ぶらしい… 京都まで来てメロンパン…? 一体何やってんだか…


「ホント女って信じらんねえわ。なんでわざわざメロンパン……」


 金光さんも唖然としている、でも考え直すとフツーの女子って結構こんな感じなのかも? 部下さんの村上女史みたいな方の方が少数派なのでは? そう問うと、


「きっとそうなんだろうな、いやでもさ、何でわざわざメロンパン……」


 妙にメロンパンに拘る金光さん、何か嫌な思い出でも?

 そんな僕と金光さんはブツブツ文句を言い合いながら駅から歩いて五分ほどの立派なホテルに到着する。こんな豪華なホテルは初めてだと呆然と佇んでいると、


「そうか、そうだよな、普通このクラスの宿は中高生や大学生じゃ選べないよな、でも親と一緒ならハイクラスな宿泊を〜」


 などとブツブツ真剣に呟いている。ああきっとお仕事モードなんだ、自ら納得しハイソサエティを堪能することにした。

 クロークで荷物を預けタクシーを呼んでもらう。洗練されたスタッフの言動に感銘を受けてしまう。地元の門前仲町ではちょっと味わえない気分に高揚してくる。同時に強烈な場違い感に不安が生じてくる。ふと隣の金光さんを眺める、こんな華やかな場でも全く物怖じせずに堂々と振る舞っている。成る程、こう振舞えばいいのか。一人納得する、そして子は父親から学ばねばならない事が如何に多いかを実感し、そして彼を見上げ頬を緩ませた。

 間も無く手配してくれたタクシーが到着し、予定通りまずは清水寺へと出発する。道は意外に空いており、これなら路線バスの方がコスパが良かったな、などと一人振り返りをしている内にタクシーは清水寺に到着する。

 清水の舞台からの景色もそれは素晴らしいものだったが、それよりも僕は寺から三年坂にかけての町の風景に絶句する。狭い。細い。細かい。しかし、美しい。正に日本の伝統の縮図を見た感がある。


「俺も見たことはないけどさ、江戸時代の日本はみなこんな感じだったんだろうな。東京だってアメリカと戦争さえしてなけりゃ、今だにこんな感じだったかもしれないぜ」

「あと大火と震災が無ければ」

「まあな。この町に比べ江戸は結界が甘かったのかもなー」


 江戸、結界? あれ、それって……


「それって… 天海の江戸の街造りの話ですか?」

「お! 知ってたか、流石。じゃあ陰陽五行説の『四神相応』って知ってるか?」

「知りません」


 何故か金光さんはホッとしたようなドヤ顔で、


「そうだろうそうだろう、いいか四神とは東西南北を司る神様の事で、青龍、白虎、朱雀、玄武って言うんだ。そして町の東側に川が流れ、西に道、南に湖や海、北に高い山がある土地は栄える、って説さ。京都は東に鴨川、西に山陰道、南に巨椋池、北に船岡山で守られているんだってよ」


 彼の知識に圧倒されながら、必死に頭をフル回転させる。


「すると天海は、東に隅田川、西に東海道、南に東京湾、北に… あれ?」

「一応、『富士山』らしいぜ。相当ずれてるよな、だから江戸は……」


 ゴクリと唾を飲み込んで、


「四神相応からは微妙に外れていた…… 即ち京都ほど四神に守られてはいなかった。だから大火もあったし震災にも、更に空襲― ああ……」


 なんて事だ…… もし家康が江戸でなくもっと四神相応な土地に幕府を開いていたならば、この京都のような首都が今の日本に存在していたかも知れない! 天海の苦悩が浮かばれる。


 この地には玄武が居りませぬ。殿、どうか今一度他の地を

 それは成らぬ。其方の知の限りを尽くしなんとか致せ


「―い、おーい、翔。女坂から行くかー?」


 あ… いつの間にか知恩院に着いていた!

 うわ…… 何て立派な門だろうか!


「これが三門か… 流石国宝だ… デカ!」

 

 僕も金光さんも口をポカンと開けて見上げている。確か資料に、三つの解脱の境地を表す門なので『三門』である、と書いてあった気がする、後でしっかりと調べなくては。スマホで写真を何枚か撮る。この金光さんの部下さんが作ってくれた資料を参考にし、今撮った写真をパソコンに落としてレポートをワードで作れば春休みの宿題は一つ終了だ。

 それにしても… 門から先の境内への坂道のキツそうなこと…… それでも敢えて、いや是非にこの急な坂道を登ってみたい。ただ…


「お父さん… 左脚大丈夫ですか? 男坂はちょっと厳しいかな?」


 金光さんは諦め顔で、


「父さんって… ま、ゆっくり行けばなんとかー よし。折角来たんだ。行くぞ、男の道を!」


 金光さんは去年の夏不慮の交通事故で左脚を複雑骨折した。手術、リハビリを経て今はほぼ普通に歩いているが完治までにはあと3〜4ヶ月かかるそうだ。


「わかりました。ではどうぞ」

「おっ こりゃ楽だわ。サンキュー」


 僕は彼の左側に立ち、右肩を差し出した。彼は左手を僕の肩に乗せ、ゆっくりと歴史感漂う階段を一歩一歩登っていく。肩に食い込む彼の左手が何とも温かい。中学時代はバスケ部で都大会ベスト8まで行ったスポーツマンだ。運動音痴の僕とは身体の鍛え方が違う。

 その内僕の方が息があがってくる。汗が額を伝い目に入る。しかし何故だかそれが心地好い。肩の重み。歴史の重み。僕の両足の重み。それらが渾然と混じり合い気分が不思議と高揚してくるのを感じる。

 坂を登りきり伽藍が目前に広がる。圧倒される。僕の中の小さな蟠りや悩みが男坂を転げ落ちていく。こんなに清々しい気持ちになったのはいつ以来だろう。


「なんか… 凄いですね」

「ああ… なんか凄い」


 息を弾ませながら僕らは呟き合う。右の肩に伝わる温もりに泣けてくる。


 知恩院のすぐ近くの豆腐料理店で昼食をとる。なんでも予約がひと月先まで一杯で中々入ることの出来ない店なんだって。金光さんの部下さんがとってくれたこのお店の料理はお世辞にも僕ら世代には『?』な感じだ。量も少ないし、味付けもあっさりし過ぎだし。

 それでも金光さんは一箸毎におーとかうんとか言いながら真剣に食べている。


「正直、お前には物足りないだろう?」

「はははー ちょっと…」

「俺も昔はそうだったよ。食事なんて腹一杯になりさえすればいい、なんてな」

「そうですね。今は違うんですか?」


 湯葉豆腐を旨そうに一口食べ、頷きながら、


「うん。例えばさ、この豆腐料理。なんで京料理と言えば豆腐なのか知っているか?」

「資料に書いてありましたよねー えっと、豆腐の味を左右する『水』がキレイで豊富だったから。あと寺院が多かったので精進料理として大いに発達した、とか?」

「その通り。今お前が言ったこと、これが一般的な知識。これをもう一歩進めてみるぞ」

「はい。なんか面白そうー」


 まるで口頭試験を受けている気分になってくる。アドレナリンがジワッと滲み出てくる。


「ふふ。日本には他にも水の綺麗なところは山ほどある。なのに何故この京都の水が『豆腐といえば京都』、と言わしめているのだろう?」

「うーーん… 何か特殊な水質とかなんでしょうか?」

「正にそういう事らしい。この京都盆地には三つの川が流れ込んできている、その川は?」

「桂川、賀茂川、高野川、ですね」

「その通り。この川たちが運んできた砂と小石が堆積してこの土地が出来上がった。この土壌を濾して水は浄化され、」


 僕は何度も頷きつつ、


「京都の水は美味しくなる」

「それでな、この京の水の水質は『軟水』なんだってさ」


 軟水。金属イオンの含有量が少ない水。化学の授業で習ったばかりである。


「このミネラル分をあまり含まない軟水で豆腐を作ると?」

「ああ! 成る程! アルカリ性が強いので大豆のたんぱく質は凝固しない、即ち柔らかく滑らかな豆腐が出来上がる! うわ…… そう考えて食べるとこの豆腐の食感―東京ではあり得ないです…」


 金光さんは満足そうに微笑みながら、


「あと、この軟水は『出汁』を引くには最も適しているんだってさ」

「この出汁― 薄味なんだけど、複雑な色んな味が…… うわ、食通になった気分です」

「な。こんな風に、その土地の料理をその土地の風土、歴史的観点から捉えると単に腹を満たすのが勿体無くなってきてさ、最近」


 今まで食事をそんな観点で捉えた事は一度もなかった。正に舌から鱗だ。真新しい世界が僕の前に広がったのを感じる。


     *     *     *     *     *     *


 昼食を終え僕たちは東大路通を北上する。この通りの東側には京都国立近代美術館、京セラ美術館、京都産業ミュージアムなどの文化施設が集中している。さらに北上するとー


「ああ、この辺が京大か。東大に比べたらちっけえなぁ」


 そうだろうか? 僕から見たら、なんと広大な敷地かと! 

 京都大学。言わずと知れた西日本の知の集結する学舎。歴史と自然の中に悠然と佇む知の砦を呆然と眺めていると、


「そう言えばノーベル賞の多さは東大を遥に凌駕してるもんな。俺の高校時代の仲間も東大受けずにわざわざここに入った奴いたわ」

「そうなんですね、僕の学校からも毎年十数名程行くんですよ」

「ふうん。東大を目指さずにここを目指すって、なんかカッコいいよな」


 金光さんがチビッコがヒーローを眺めるような目付きで微笑む。


「カッコいい、ですか?」

「ああ、カッコいい。東大入れるのに京大に行く。自分がしっかりある奴じゃないと出来ない芸当だと思うぞ」


 兎角僕の級友たちは特段何も考えずに東大を目指している。僕もそんな有象無象の一人だ。実テ(実力テスト)の成績は自慢じゃないが学年で二十位前後、このままならば東大合格は間違いないであろう。そんな僕が己の信念を構築しこの大学を選んだならば?


「ははは、マジで尊敬しちまうよ俺」


 尊敬、するだと?


 あの伝説の下町キングの金光軍司が、尊敬するだと?

 僕は思わずゴクリと唾を飲み込み、京大を見上げてしまう。


 百万遍交差点を右折し慈照寺に向けて東行する。右手に緑豊かな吉田山を仰ぎつつ進むとやがて銀閣寺橋の袂に出る。ここを右折すると待望の哲学の道である。予想と違い整備された綺麗な遊歩道で周囲にはお洒落なカフェやショップがひしめいている。

 疏水沿いに咲き始めた桜が美しく、大勢の観光客で賑わっている中、禅林寺方面へ南下しつつ僕は金光さんと語り合うー


「今までの僕は単に知識を詰め込んでいただけなんですね。部下さんからの資料、これを全部頭に叩き込んで京都を知ったつもりでいました…」

「俺も学生の頃まではそうだったわ。社会に出てー俺の場合は銀行に入って、大学時代に詰め込んだ金融の知識がまるで仕事に通用しなかったんだ」


 左手に法然寺へと登る坂を見上げながら細い道を黙々と歩んでいく。


「机上の論理、って言うだろ? 正にアレだったんだ。為替相場で円安になると貿易はどうなる?」

「輸出に有利になります」

「それが『机上の学問』。では、そうなると『居酒屋 しまだ』の収支にどんな影響が実際に現れるか?」

「え… えーと、逆に輸入品が高くなるから、外国の食材の仕入れが不利になりー あ、でも国産品使えばいい訳か。ならばメニューを再考し常に原価に応じた価格を設定していけばーでもそうするとメニュー毎日更新しなきゃいけないし… そんな事お婆ちゃんや忍さんにできる訳ないか、なら新たにバイト雇って… そうすると費用が嵩むかー うわーーーー面白い」


 左側の小高い丘は冷泉天皇の陵だという。


「今の思索のループに入ることまで学校では教えてくれなかったんだ。だから銀行に入ってからそれの連続、毎日。ここが単に知識を詰め込んでテストでいい点取って満足する学生と俺たち社会人の大きな差」

「そうか。僕らは単に知識を詰め込むだけで、それを如何に使うかを知らない……」


 金光さんは胸ポケットからスマホを取り出し


「その知識も今は簡単にコレらで調べる事が出来る」

「だからこれからは知識の量ではなくその質、更にその知識の使い方―それが大事なんですね!」


 金光さんは何故か呆れ顔で、


「…… お前は本当に、一を知れば何とやら、ってヤツだな。島田家の血筋だわ」

「本当ですか? 僕なんか母や叔父に比べたら… それに『深川のキング』に比べたらー」

「は? 俺は基本脳筋だからな!」

「そんな事ないですよ。本当に物事を良く見ている。僕も貴方みたいになりたい」


 ニガリ切った、でもどこか嬉しげな顔で、


「やめとけーーー、葵泣かすぞ」

「あーーー、そっちは辞めときます、お婆ちゃんや母似の一途系なので」

「おま… ガキのくせに生意気なー」

「あ! 舞妓さんだ! 初めて見た!」

「えどこどこー おおお、コレは中々… 胸もそこそこ。ほう。『あの、すいません。東京から来たのですが、一緒に写真撮って…』」


 呆気にとられる舞妓さんを全く気にかけずに、あっという間に二人で自撮り写真をゲットしている…


「お婆ちゃんに連絡しなきゃー」

「おいっ!」


 京都スコラ哲学の道。


 それからも金光さんと色々な事を語り合いながら歩を進めていた。途中、歩くのがしんどそうになったので小洒落た喫茶店に入り甘味を堪能する。それにしても東山山麓のこの辺りは自然に満ちている神秘的な界隈である。僕はすっかりこの雰囲気が気に入り、いつの日か葵ちゃんと二人でゆっくりと歩きたくなってくる。

 それにしても、金光さん。今日一日で今まで知らなかった、気づかなかった彼の人間性を多く知ることができた。そして今までに増してこの人への尊敬の念が深まったのは言うまでも無い。

 言葉遣いこそ下町育ちっぽくやや雑でぶっきらぼうな感じは否めない、だが一語一語に込められた人としての深さが計り知れない。知識の豊富さもさることながら、選び抜いて発する一語がどれ程僕の心に深く刺さったことであろう。


『東大入れるのに京大に行く。自分がしっかりある奴じゃないと出来ない芸当だと思うぞ』


 今日一番深く心に染み入った言葉だ。人はえてして流れに身を任せがちだ、特に僕。もしこの人に会うことがなければ、僕は人に仲間に周囲に流され、何の思いもなく最高学府に入りつまらない人生を送っていたに違いない。己を持て、己を育め、そして己の信ずる道をひたすらに突き進め。彼は僕にそう言ってくれたのだ。

 ふと首筋に冷気を感じる、気がつくと辺りはすっかり暗くなり、行き交う人も少なくなっている。そんな時の移ろいを全く関せず熱心に東山に眠る偉大な先人達について語る彼を見上げてみる。

 この人と話していると僕の中の眠っていた部分がどんどん目を覚ましていく気がする。かつて覚えて二度と使わなくなった知識が呼び起こされ血が通い始め新たな生きた知識と生まれ変わる。こんなことの繰り返しをしているうちに気がつくと哲学の道の南端である禅林寺付近に着いていた。


「思い出しました。中学受験の社会科で『銀閣寺じゃない、慈照寺だ』と教わった事」

「ははは。でもさっきタクシーの中でー」

「そうそう、『慈照寺も行くんです』って言ったら運転手さん、『は? 何処ですか?』だって」

「教科書や公文書ではそうでも、実際に市井の人たちはそんな知識スルーしてんのな。面白い発見だったな」

「ですよね。真実と現実、この間に右往左往する僕達って憐れだけれどそれを楽しんじゃえばこの世の中かなり面白いですよね!」


 流されるな僕! 自分の価値観を創り出し磨き上げるのだ僕! そしてがむしゃらに突っ走るんだ僕!


「おいおい、そこまで悟るかー 流石『悟り世代』」

「イヤイヤ、『バブル世代』の皆さんには敵いません」

「それバカにしたろ今― 光子に言いつけて… あれ今何時?」


 辺りはすっかりと日暮れており、南禅寺を照らす照明が神々しさを醸し出している……


「五時五十分です…」

「まずい…」

「しかも… 葵ちゃんからライン20件… やばい…」

「俺も… やばい…」


 流されるな、僕……


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