耳飾りの風習
銀鉱山にならずモノ達がパタリと来なくなって久しい頃、クリスタルとルーグは以前銀鉱山の件を相談してくれた店へ、視察のため立ち寄っていた。以前より銀鉱石が多く置かれ、心なしか店も繁盛しているようだ。
やってきたクリスタルとルーグを見て、店主と居合わせたドワーフの長が深々と礼をする。
「陛下に閣下、銀鉱山の件ではお世話になりました。店の大事な収入源である銀鉱石を護って頂き感謝してもしきれません。」
「2人とも顔を上げろ。そもそももとよりこの問題は国の仕事だ。当たり前のことをしただけだ。」
「ほほ、陛下はお人が良いですな。お礼とは言えないかもしれませぬが、せめてこのドワーフ区域原産の原材料の一部だけでも割引させて頂きます。騎士と魔導士の方々の武具の新調にでもいかがですかな?」
「長も商売上手だな。是非新調したいし、クリスタルと考えさせてくれ。」
「心よりお待ちしておりますぞ。ほほっ!」
そうこう話をしていると、どんどん店内に新たに客が来る。
「今日はやたらと繁盛しているな? 何かあるのか?」
「本日は『ピアスセール』をしているのです。そのためピアスをお買い求めて下さる方が多く来られるのでしょうね。」
店主の言葉に、ドワーフの長が「そういえば」と話し始める。
「最初この国に来た頃は驚きましたな。私達の故郷では『耳飾りが対人関係性を表す』という文化がございませんもので、耳飾りがここまで重要なものだと思いもしませんでした。」
「まぁ、他でも多くは無い文化だからな。とくにピアスとか。」
「ところで、国王様と閣下も対のデザインのピアスをされておりますな。何か強い関係がおありで?」
クリスタルは自身のとがった左耳についている、蒼い宝石のピアスを触る。
「まぁな。だが、それを誰かに言うつもりはないから、内緒だ。」
「『ピアスの関係』はあえて話す物でもないですからね。あくまでも私自身の興味でございます。耳飾りはデザインで『どの様な関係か』予想は出来ますが、お二人が少なくとも婚約者ではない事は皆存じていますよ。」
店主の茶化しに、クリスタルは「だったら国から発表するっての」と笑って返す。そして相談を続けているルーグに声をかける。
「さて、そろそろお暇するか。視察が残っているからな。ルーグ、行くぞ。」
「御意。それじゃあ長に店主さん。また来ます。」
店主と長からの「ありがとうございました。」の声を背に、二人は店を出た。
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視察は続く。
あちこちで相変わらず客引きの声が聞こえる。客も夕方にも関わらず大勢おり、皆イヤリングやイヤーカフといった物をよく見ている。イヤーカフを身に着けている人を横目に、クリスタルが呟く。
「最近イヤーカフも主流になってきたな。何処の文化にあった物だったか。」
「確か『耳が大きい種族』の装飾品だったはずだぞ。そこでは確か『性別』『家族』を表すものだったか。」
「うちではイヤリングの代わりとされてるがな。『友人』『恋人』『グループ』の関係が主流だから、『家族』も意味するのは面白かった。」
「確かに! それに俺達のピアス見て驚いてたよな。『体に穴を開けるなんて!』って。」
ルーグが少し笑ってそう言った。クリスタルもニヤつくような笑い方をして、ルーグの言葉に続く。
「それだけ重要な関係だ、って事なんだがな。『婚姻関係』『戦友』『親友』。そういった重たい関係じゃないとピアスは開けないから。」
「ま、俺達はちょっと違うけどな。それに、魔術がかかっている物だしな。」
そう言い、何気なくルーグは自身のとがった右耳についている、赤い宝石のついたピアスを触る。
二人のピアスは少し特殊である。二人は『主従』『相棒』という関係でピアスを開けている。そして、お互いに『誓い』を立てて、『誓いを守らなければ体が動かない』という制約を付けている。それだけ、互いに背中を預ける二人の関係は重たいものであり、誓いを立ててもいい程二人の信頼関係は強い。
「さて、視察はこの辺にしておこう。ルーグ、戻るぞ。」
「了解、クリスタル。」
『主従』であり『相棒』でもある、不思議な仲の二人は城へ戻る事にした。