銀鉱山の襲撃
エルフの区域を出立し二人が視察へ向かった場所は、『ドワーフ』と言われる種族の住む区域だ。ドワーフ達は鉱石・宝石の採掘・加工を得意とし、それを生業にしている者が多い。建物も石材の物ばかりで重たい印象を受ける。しかし、金属の装飾やランプ代わりの宝石が散りばめられており、どこか鮮やかな印象も受ける街並みである。
そして街の中央には『転送装置』である大結晶が安置されている。今回は『商業が上手く行われているか』『不正が無いか』の視察である。
「いらっしゃい！うちのイヤリングのデザインは逸品だよ！」
「プラチナのイヤーカフの新作が出来ましたよ！是非見て行って！」
「ピアスの発注依頼が、今なら5パーセント割引だ！！」
そんな客引きの威勢の良い声が聞こえる。大通りにある店でも細い通りの個人店でも、かなりの数の他種族が来ている。賑わいが激しく、人とぶつからないように道を通るのがやっとである。
クリスタルがある店の鉱石の素材を見つつ、ルーグに話しかける。
「鉱石・宝石共に質の低下はない。商売も上手く行っているようだし、ここは問題無さそうだ。」
「差別や贔屓のないセールばかりで、ここは不正見当たらないな。」
ルーグも一緒になって宝石を見ている。すると店主が話しかける。
「国王様に閣下、いらっしゃいませ。うちの素材に興味がおありでしょうか？」
銀鉱石を見ていたクリスタルは、店主に顔を向ける。
「俺はこれでも剣やら盾やら作るんだ。だから鉱石の素材を見ちまってな。」
「そういえば国王様の剣や閣下の双剣は、国王様が直々に作られておりましたな。私は店を運営していますので鍛冶は専門ではないですが、素人目でも国王様の作品は素晴らしいと思います。」
店主の言葉に、クリスタルも悪い気はしない。照れ隠しからか、頭を掻きつつ答える。
「俺が見つけた中で、一番硬い鉱石で作っているからな。代わりに加工時間に相当かかるから、俺でもなかなか使わない素材だな。代わりに使うのがプラチナなんだ。ここには質の良い銀鉱石ばかりだから、見ていて剣が作りたくなる。」
「それは嬉しい限りです！ うちは素材店ですから、質を褒められるのは何より嬉しいのです。ですが、最近困ったことがございまして……。」
「『困ったこと？』」
店主の言葉にクリスタルが反応する。
「件の銀鉱石なのですが、工夫がオーガのならず者に襲われているらしいのです。そのせいか、店に取り扱える銀鉱石の量がガタ落ちでして……。」
「何でそれ早く言わないんだよ！ 国で対策本部立てないといけないだろ！」
クリスタルが思わず大きな声を出す。それを恐れた店主が四つん這いになりクリスタルへ頭を下げる。
「あくまで『らしい』程度の話ですので、確証がないのです！ ですから国に正式に対応依頼するのをドワーフ一同悩んでいたのでございます！ 申し訳ございません！！」
「あー……。お前らには怒ってる訳じゃないから、謝らなくていい。こっちこそ攻めるみたいな言い方して悪かったな。」
その様子を見てクリスタルも一度冷静になったらしく、頭をガシガシと掻いて謝る。
「大事になる前に対応したいから、今度からはもっと早く、気軽に国に言ってくれ。今回みたいに俺に直接言うのでもいいから。」
「ははっ！ ありがとうございます陛下！」
クリスタルは品物を見ていたルーグに声を掛け、店を出る。二人の雰囲気は穏やかでなかった。
「さて、ルーグ。聞いていただろうが早急に『ならず者の始末』を任せる。騎士と魔導士を動かして解決しろ。」
「仰せのままに。今日明日にでも。」
ルーグがクリスタルに一礼する。
この翌日から銀鉱山は、ぴたりとならず者が来なくなった。
