貴女のハーブは何処から?
「これ、俺の温室にあるハーブの品種の改良前のハーブだ。」
「お前のハーブの親戚かよ!」
ルーグが「何でそんな品種がここに?」とぼやく。
「この品種、この畑にあるハーブの親戚的な種類なんだ。このハーブはハーブティー向けではないが、パスタなんかの小麦粉製品に練り込むと旨いし、繁殖力が高いから量産が楽な品種だ。だが俺はあくまでお茶にしたかったから、温室にあるハーブは繁殖率を下げて味を改良したものを育てている訳だがな。この品種なら良い案がある。」
エルフの族長にクリスタルが向き直って言う。
「族長、ここをもとのハーブではなく、生えて来た方のハーブ畑にして欲しい。それをパスタ生産元やパン屋に売れば、新しい販路が出来るだろう。」
突然のクリスタルの提案に、族長は悩む。
「それでは今年のハーブの出荷率に目をつぶって頂く必要がございますし、何より出荷しているエルフ達が飢えてしまいます。それはどのように対策をされるのですか?」
「まず生産者に、新しいハーブの生産を国として生産者に願い出る。それを受けた者に、生活と生産のための協力金を出そう。受けなかった者には協力金は出ないが、生活や生産に支障が出るような程困窮する者には支援金を出す。これなら生活は大丈夫だろう。」
クリスタルとエルフの族長の会話を聞き、ルーグがクリスタルに話しかける。
「クリスタル、新しい販路を開くなら今年の生産量は下方修正しよう。ただ、もとのハーブの消費量は変わらないから、新しく開拓する必要が出てくるぞ。そこはどうするつもりだ?」
クリスタルはルーグの言葉に悩みつつも答える。
「今の案だと、国としても協力して新しい生産者を増やすか、今の生産者に畑を増やしてもらうかだな。お前はどう出る?」
「それもいいが、そもそも今ある畑でも収穫量を上げないか? 要は成長促進剤を使ってもらうか、繁殖率の高い品種を半年で開発をするかがいいと思う。」
「なるほど。族長としては、ハーブを生産してくれているエルフ達はどの案を飲みそうだ?」
族長は少し言いよどむが、背筋を伸ばして答える。
「まず今年の政策に関しては有難いお話ですので、仰っていた案を採択下さるようお願い申し上げます。生産に関しては、自然に交配させた品種改良が宜しいかと。農薬を使いたがらない生産者は多いですし、土地も森を崩さねばありません。品種改良ならば農薬を使わず土地も広げなくて良いので、皆手を付けやすいと思います。開発のお手数をおかけしてしまいますが……。」
そう言ってエルフの族長は頭を下げて「どうか、お願い申し上げます。」と言う。
「わかった。では先に生活に関する政策を行う。品種改良には時間がかかるから、国からも発表を出すが族長からも『ハーブの品種が変わる』旨をあらかじめ皆に伝えてくれ。」
「俺達もエルフ達に負担をかけたくない。だが、多少負担をかけてしまうのは、どうか分かって欲しい。」
エルフの族長は少し背筋を伸ばして改まる。
「とんでもございません。私達エルフも微力ながら新しいハーブと、品種改良されるハーブの生産に力を入れて参ります。どうかよろしくお願い申し上げます。」
クリスタルとルーグは族長に「今回の視察が終わってから、正式に政策を発表する。待っていてくれ。」と伝え、畑を後にした。
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「しかし、何であのハーブがエルフの畑に……?」
帰る道中、クリスタルは頭をひねる。ルーグが声を掛ける。
「何か変な事、思い当たるとか?」
「ああ、例のハーブだが……。」
「ハーブがどうかしたか?」
「あのハーブ、俺のハーブ園にしか種を植えた覚えがないんだ。繁殖力もそこまでではないし、エルフの畑と俺のハーブ園は距離がある。」
「という事は、誰かが意図的に畑に植えた……?」
クリスタルがルーグに顔だけ向ける。その目つきは険しい。
「ルーグ、あの種の出所を調べろ。犯人を捕まえろ。」
「御意。早急に調べて報告する。」
二人はその後、無言のまま城へ戻っていった。