神の領域を去って
『誕生祭』の数日後、二人と二柱は資料を読み漁っていた。冷戦状態の世界『ベクトレイア』と万が一戦争になった場合、どの神に協力を仰ぐかの確認だ。
「『治癒の神』『人の神』には確実に協力を頼みたい。彼らには後方でいいから負傷者の治療に当たってもらいたい。」
「治療を行う可能性があるなら『蠅の神』に頼んで蛆を借りて腐った肉を食べて貰うのもアリかな。肉が腐ると治療が面倒になる。」
「あと純粋に戦力とシて『戦の神』から多数の神と奉仕種族の派遣をお願いシておくわ。」
「『鍛冶の神』にも武具調達をお願いしておくよ。」
一通り話し合い、それぞれ神に協力をお願いする旨の公的な文章を作成し、ライトの奉仕種族に輸送をお願いした。一息ついたところで紅茶を飲む。集中し疲れている体に染みわたる香りと味だ。
「紅茶旨い……。」
「ちょっとレフト、紅茶こぼすなよ。書類に染みたらどうするんだ。」
「あ、ごめん。もうこぼシちゃったわ。」
「あーあ……。年季の入った書物みたいな色になっちゃってる……。」
四人が談笑しながら紅茶を啜っていると、ライトの奉仕種族がやって来る。
「レイレード国王様、側近様。間もなくお時間でございます。」
「帰りの時間が……。知らせてくれてありがとう。」
そう言いクリスタルとルーグが立ち上がる。
「世話になったな。そろそろ帰らないと、『ベクトレイア』が何をするか分からないからな。状況が分かり次第二人に伝えるから、何時でも動けるように待機をしてくれ。」
「俺も部下から報告があると思うしな。和平会議の時には動けるように頼むよ。」
二人の言葉を聞きライトとレフトも立ち上がる。
「君達ばかりに任せてごめんね。次は和平会議の時に会おう!」
「暴れラレルのはいいけど、犠牲を出スのはアタシの信条じゃないわ。報告、頼んだわよ!」
二人と二柱は互いに握手を交わす。そしてルーグが荷物を持ち、クリスタルが『空間移動の門』を開く。
「じゃあ、次は和平会議でな!」
そうして二人の姿は『門』に消えて行った。
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「国王陛下、閣下。お帰りなさいませ。」
部屋に戻るなリ、『影』の副隊長が待っていた。ルーグは荷物を降ろしながら「報告は?」と聞く。すると静かに副隊長が告げた。
「『ベクトレイア』の主要国『ベクトル』にて、戦争の準備がみられています。このままでは戦争を仕掛けられるかと。」
「思ったより好戦的らしいな、『ベクトル』の人間は。」
ルーグが苦い顔で呟く。クリスタルが副団長に命令を出す。
「今すぐ各団の団長を会議室に集合させろ。『影』は収集した情報を資料にまとめてくれ。」
「御意。既に一部の情報を資料化しております。近衛騎士にお渡ししておりますので、ご確認を。それでは。」
『影』がいなくなった後、二人は普段の衣服を着て身支度をする。そして部屋を出て近衛騎士から資料を受け取る。近衛騎士達の表情は不安げだ。
「国王陛下、本当に戦争は起きてしまうのでしょうか……。」
「陛下、私は幾多の戦場を駆けて行きましたが、その惨状は言葉に表せないものでした。どうか、戦争を回避して頂きたく……!」
近衛騎士達の言葉を受け、クリスタルが頷く。
「相手が戦う気になっている以上、回避できるかは分からん。だが、交渉する余地はある。皆、俺に任せてくれ。」
その言葉を聞き近衛騎士達はクリスタルに敬礼をする。戦争が起きないよう、願いを込め。
二人は近衛騎士達と離れ、会議室へ向かう。その道中、二人で会話をする。
「クリスタル。貰った資料と情報的にどう思う? 戦争は回避できそうか?」
「難しいだろうな。もともとベクトルは俺達の技術と奴隷として扱える人材を狙っていた。諦めはしないだろう。」
「なら猶更対策を練らないとな。和平会議で決着を付けられたらいいが……。」
「『付けられたらいい』じゃない、『決着を付ける』んだよ。俺達が。」
二人は会議室へ入る。そこには既に各団の団長が揃っている。
「お帰りなさいませ、陛下、閣下。」
「ご命令にて参上致しました。」
「偵察は引き続きお任せ下さい。」
「ご命令、何時でも拝命致します。」
その言葉を聞きつつ、席に着く。クリスタルが宣言する。
「では、『ベクトレイア』との戦争についての会議を始める!」




