邪神の領域『エリトラ』
「「「お帰りなさいませ、我らが破壊神様。」」」
レフトが馬車から降りれば、待っていた奉仕種族達が一斉に頭を下げる。続いてクリスタルがルーグのエスコートで降りてくる。
「「「ようこそ、レイレード国王様、ルーグ閣下様。」」」
「ああ、暫く厄介になる。」
「歓迎ありがとうございます。暫くの間、宜しくお願い致します。」
最後にライトが馬車から降りる。
「「ようこそ、創造神様。」」
「ありがとうございます。」
先ほどより、歓迎の声は少ない。それが奉仕種族達からの、ライトへの不遇である。それに気づかないレフトではない。
「アンタ達! ライトにもちゃんと礼を尽くシなサい! 折角ここまで来てくレたのに! 消し去ってやルわよ!?」
その殺気の混じった声に、奉仕種族達は体をびくつかせる。そして頭をしっかり下げて、挨拶をする。
「「「申し訳ございませんでした! ようこそ創造神様!」」」
「あ、うん、あリがとうね。」
遠慮がちにライトは礼を言って、二人と二柱で神殿内に入る。その時後方の馬車に入っている『蠅の神』が出てくる。以前と違い、落ち着きを取り戻している。
「破壊神様、何故私を助けたのですか? 捨て置いて下さっても良かったものを……。」
『蠅の神』に向き直り、レフトは腕を組んで堂々と言う。
「『邪神』になったかラって、アタシはアナタを見捨てないわ! アタシは『邪神の最高神』よ! 一柱増えたかラって、どうってことないわよ!」
それに面食らう『蠅の神』を『レフトの奉仕種族』が囲む。温かな飲み物を持って来たようだ。レフトは自身の『奉仕種族』に命令を出す。
「ソの『蠅の神』に新シい神殿を与えルよう手配をなサい。時間がかかるようなら、アタシの神殿で来賓とシて泊めてあげなサい。いいわね?」
「承知致しました。我が主。」
それを聞き、レフトはにっこり微笑む。そして二人とライトを追いかけた。
______
神殿に入って暫く歩いてから、レフトがライトに謝る。
「ごめんなサい、ライト。まだアタシのとこロもあまリ態度が改善シなくて……。」
「いいよ、レフトのせいじゃないもの。僕の所も君に冷遇してしまったし……。」
「こればかりはお前達だけで解決は出来んだろう。少しずつでも周りの認識を改善していかないと、これらは改善しないだろう。」
「ソうね。アタシももっと頑張ってみルわ!」
「俺達も出来るだけ手伝うから、お前らも無理せずにな。」
「フフッ、ありがと皆!」
神殿内部は全て黒の大理石で出来ており、金の装飾がガス灯の明かりに照らされている。『破壊神の神殿』と言う割には、荘厳で煌びやかな雰囲気である。敷かれているカーペットも、ふかふかとしていて土足で歩くには勿体ないほどである。その神殿の最奥にある、レフトの部屋の手前の特別待遇部屋にクリスタルとルーグは案内される。
「いつも通リ、二人はここで寝泊まリシてね。ライトはこの部屋の向かいの部屋でいいかシラ?」
その言葉に不満げな声をあげる者がいた。レフトの彼氏のライトである。
「僕、レフトと寝泊まりしたいなぁ……。ダメかな?」
ライトはレフトの腰に手を回して捕まえると、彼女の顔に自分の顔を寄せて、優しく問う。それにレフトは耳まで赤くする。若干涙目にもなっている。
「な……ッ! ス、好きにシたラァ!? アタシ知ラない!!」
ライトの腕を振りほどき、レフトは自室へと走っていく。そんなレフトを眺めて、ライトはニヤニヤと笑う。
「も~! 素直じゃないんだからぁ~! そこが可愛いんだけれどもね!」
ライトはルンルンとレフトの後を追いかけ、彼女の部屋に入る。残された二人は、下らない茶番を見た後の様な表情のまま、一先ず部屋で荷ほどきを始めた。
__________
夕食の時間になり、二人と二柱は大食堂で揃って食事を始める。出てくる料理はどれも肉や魚ばかりであり、少しだけ果物があるだけの食卓である。
「肉が食えるな。だが……。」
「僕の事は気にしなくてもいいよ。果物だけ食べさせてね。」
「ライト、肉類は食べられないからな。俺の分の果物も食べてもいいからな?」
「ごめんなサい。シェフには『ライトはお肉が食べラレないから、気を付けて』と言っておいたのだけレども……。」
申し訳なさそうに頭を下げるレフト。それに対して「いいよいいよ!」と明るく声をかけるライト。
「僕が来るのが急すぎたんだ。仕方ないよ。それに果物はあるから、レフトは気にしないで。」
「でも……。」
「ま、主催者としては気にせざるを得ないよな。来賓に苦手なモノばかり出しちまうってのは。」
「まあまあ、僕の所でレフトがあんな目に合ってるから、僕としてはこういう事されるのは気にしてないよ。僕はレフトに対してのあの冷遇は嫌だったけれども……。」
皆色んな意見を述べつつ、食べられるモノを食べていく。ライトは皆から果物を貰って食べ、残る三人は肉や魚を堪能する。幸い赤ワインはあったため、それらは四人で仲良く飲む事にした。
「ライトの所のワインとは違って、酸味が強くアルコール度数も高いな。」
「お肉に合う様な味にシてルシ、ソもソもワインが高級品なのよ。ブドウがなかなか育たないかラ。」
「そういう事情か。ライトの所と仲良くできれば取引しやすいんだがな……。」
「そう簡単に上手くいかないだろうけれども、多少なりとも取引したいよね!」
四人の晩餐は、もうしばらく続く。




