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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
第3章 国際首脳会議
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大帝国との再交渉

 会議から2日後、アゼミア大帝国から再交渉の話が来た。執務室で肘をついて話を聞くクリスタルに、帝王の使いが頭を下げる。


「我が帝王からの正式な申請にございます。どうか、ご検討をお願い申し上げます。」


「ふむ……」


 クリスタルの様子を見て、控えていたルーグが代わりに話しをする。


「前回の取引から、何がどう変わったのかをお教え下さい。」


「はい。医薬品の輸出の増量の検討申請です。取引価格も具体的にお教え下されば幸いでございます。」


「なるほど。余程医薬品の不足が深刻化している訳だな。」


 クリスタルは席を立ち、使いに話す。


「ならアゼミア帝王に伝えろ。『準備出来次第会議室に来るように』と。」


 使いは頭を下げ礼をする。


「我々との再交渉の申請の受理、誠にありがとうございます。すぐにお伝えいたします。」


 使いが部屋を退出するのを見届け、ルーグは召使いに会議室の用意をするよう命じる。その間クリスタルは医薬品の価格調整を考える。以前の交渉の後に考えていた価格では、きっとアゼミア帝王は渋るだろう。


「ルーグ、俺と資料の見直しをしろ。お前なら、何処を調整出来そうだと思う?」


「ちょっと資料見せてくれ。」


 命令をし終えたルーグはクリスタルから資料を受け取り、文章を眺める。程なくしてルーグはクリスタルに資料を見せながら意見を述べる。


「アゼミア大帝国の一番の狙いは『安価な医薬品の大量確保』だろう。その背景は『流行り病の対処』。今医薬品を増産したところで、その間にも相手方の国民に被害が出てた後で収束してしまう可能性がある。収束したら、医薬品が余って赤字になる。」


「そうなんだよ。だから戦争で使う分以上の医薬品の増産は避けたい。」


 二人は暫く資料とにらめっこをする。そしてルーグが顎に手を当つつ、提案する。


「流行り病の原因追及からしないか? それが詳細に分かるのなら、求められている薬品ではない薬品で対処できるかもしれない。そうなれば大規模な増産体制にしなくともいいし、相手に大量の医薬品を輸出できる。」


 「まずは『流行り病の原因追及』。詳細が分かれば良し。分からないなら現地調査してもいいだろうし、何かの案を提示できるだろう。恩が売れる。」


 クリスタルとルーグは執務室を出る。部屋の前にいる兵士の敬礼に挨拶を返し、自室エリアに入る。


「さすがにちゃんとした服に着替えるか。ヘアセットも頼む。」


「メイクはどうする? 薄化粧だけでもした方が良いだろう。」


「めんどい。そこまでしなくてもいいだろ。」


「俺がやってやるから、少しはメイクしておけよ。」


「へーい。」


 ルーグはクリスタルのドレスの着替えを少し手伝う。今回も自身の趣味で作り上げたドレスである。サラリとした薄い水色の生地に、藍色の絹が腰辺りから纏うようにデザインしている。着替えの後、クリスタルの髪に甘い香りのヘアオイルをつけ、馴染ませて優しく梳かす。柔らかな髪をサイドでまとめ、銀製の飾りを付ける。最後に目元に薄っすらと青のアイシャドウを入れれば準備は終わりだ。


「出来たぞ。何か不満とかあるか?」


「いや、特にない。相変わらず手際の良い事で。」


「そりゃどうも。さて、交渉の場に向かいますよ、国王様。」


「へいへい。仕事はしないとな。」


 __________


 アゼミア帝王との再交渉の場。そこでクリスタルはルーグと打ち合わせした質問をしていた。


「では、原因は正確には分からないが、消毒液を普及した所改善が見られた訳だな?」

 

「仰る通りです。そのために、我が国は医薬品が欲しいのです。」


「消毒で何とかなるなら、そもそも消毒液やら殺菌の設備を整えたらいいだろ。」


「流行り病が広がり始めてから、我が国でも政策を行い衛生管理に努めております。ですが皆『消毒』『衛生』にあまり意識が無いために、感染者が増え続けているのです。まず医薬品を増やし、救える命を救いたいのですが……。」


 アゼミア帝王は「どうぞお力添えを」とクリスタルに頼む。それを聞き、クリスタルは果実の香りのするハーブティーを啜り、答える。


「そういう事情ならば医薬品は予定通りの数だけにしよう。こちらも安易に医薬品の大量生産をしたくない。代わりに国民の衛生管理に対する意識を高くさせる案を出そう。それでどうだ?」


「ご提案があるのですか? 是非お聞かせ願います。」


 ティーカップを置き、脚を組んで案を話す。


「国民の衛生に対しての意識の低さには理由がつきものなのはわかるだろう。『面倒だし今までの生活で良かったから』だ。『今のままでは病気になる』という知識を定着させる事が第一条件だ。これは長い時間がかかるが、輸入品の医薬品を頼ってばかりよりずっと良い方法だ。手間でも改善しようという意識が生まれる。」


「それはそうなのございますが、それでは今病気になっている民への政策のご提案はございますか?」


「まず病院などの治療機関に衛生面の徹底をさせろ。手間については機械・魔法設備で出来る範囲で簡略化すればいい。一番よくある案だと『自動で消毒液が出る』とかだが、これならそちらでも簡単にできるだろ?」


「そうですね。それらを病院に設置するだけでも違うのでしょうか?」


「医療関係者の意識が変わるだろ。そいつらが日常で衛生面を徹底する事まで意識が行けば、後は簡単に広まる。」


 今一つピンと来ていない帝王に「まずはやってみろ」とクリスタルは後押しする。それに対して暫く悩んだのち、アゼミア帝王はこう提案を持ちかけた。


「では、その自動で消毒液が出てくる設備だけ頂けないでしょうか? 代わりに医薬品の我が国への輸出量を増やして下さい。」


「わかった。こちらも出来る範囲で増産をさせよう。では契約書を作ろう。」


「ありがとうございます。」



 今回の交渉は円滑に進んでいった。出来上がった契約書をお互い手にして、退出する。帝王と別れる際、帝王が「そうそう」と話し出す。


「レイレード国王様、今日はいつもより穏やかな雰囲気ですな。気分が良い事でもございましたかな?」


 思わぬ事を言われ、クリスタルは目を開く。


「何だろうな? 特に何かあった訳ではないが、強いて言えば先日ルーグと長話したくらいか? 後昨日ライトとレフトと4人でバーベキューしたな。」


 それを聞き、帝王は目を細めてほほ笑む。


「国際交渉続きの中、息抜きされて何よりでございます。どうぞ心身をお労り下さい。」


 そう言って帝王は一礼をし、控えの者達を連れて離れていく。その笑みの意味を、クリスタルだけは理解できていないようであった。

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