不老不死の集団「オールメイト」
「『入団希望者』がいる?」
「らしいぞ。『困っている人を助けたいから、オールメイトになりたい』って。」
様々な品種の植物を植えている城の庭園。花が咲き乱れ、蜜を求めてやって来た虫達が飛んでいる。そんな庭園で二人がアフタヌーンティーを楽しんでいると、ルーグが冒頭の話題を出した。『オールメイトに、入団希望者がいる』と。
「どうせ『不老不死になれる』って話に釣られた奴だろソレ。簡単にあんな魔法使うかよ。」
クリスタルが背もたれに寄りかかり、腕をだらりと下に垂らす。ルーグはハーブティーのおかわりを注ぎつつ、クリスタルの言葉に続く。今日のハーブティーはレモンの香りがする。
「絶対使い物にならないパターンだよな。過剰に自信だけあるヤツ。」
二人とも『入団希望者』に対して本気で考えていない。それには理由がある。
不老不死の集団『オールメイト』。
クリスタルを筆頭にした、全知全能の不老不死集団。
対価を渡せば『何でも』やる、何処にも属さない集団。
一般的にはその程度の情報しか使わっていないが、細かな規則があるのだ。
「俺達でも『全ての生き物を助けられない』し、『勧善懲悪ではない』。世界が長く生きる為に、必ず誰かが犠牲になる。その入団希望者はその意味が分かってないんだろ。」
「『助けられる者』の中には、必ず『助ける事の出来ない者』がいる。そこまで目を向けられたら、後は『依頼者の願いを叶えられるか』実力を見てやるんだがな……。」
クリスタルとルーグがため息をつく。正直ぼやいた点だけでも分かってくれる実力者がいれば、入団させたい。人手が足りないのだ。だが安易に人手も増やせない。彼らが『オールメイト』の入団希望者を本気にしない理由は様々ある。
不老不死の者以外の死を見届けなければならない。
それによる苦しみを味わい続けなければならない。
オールメイトの活動基準は『世界の存続』。
その次に『依頼をしてくる者の願いを極力叶える』事。
そして『世界の存続』『依頼者の願いを叶える事』において、『必ずしも勧善懲悪ではない』事。
これらが耐えられる者でなければ、入団は出来ない。
「それに、『不老不死の魔法』にも、欠点がある。」
そう言うのは、不老不死の魔法を開発し集団を作り上げたクリスタル。
「死ぬことはないが、手順を踏まれれば『存在がなかった事になる』。それは避けないとまずい。」
「世界のためにした良い事、誰かを助けた事、全部『その人がいなかった場合の世界』になるかなら。記憶からも抹消される。」
「そのパラレルワールドが正史になるからな。そんな事態は俺も避けたい。避けるべきだ。」
『不老不死の魔法』の最大の欠点をわかっていない者が入団希望者に多く、困っているのも現状である。『手順を踏んで死んではいけない』。うっかりでは済まされない事態を招く可能性がある者には任せられない。
「ともあれ面接だけはさせてやろう。まずは実技だな。」
「そうだな。近いうちに日時を設定する。実技はどっちが担当する?」
「お前がやれ、ルーグ。俺は気分じゃない。」
「はぁ……、分かったよ。」
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「実技試験前にお聞きしますが、オールメイトになりたい動機は何でしょうか?」
「はい! 不老不死になって、より多くの困っている人を助けたいからです!」
「……そうですか。」
決まり切った文句を言った入団希望者に、ルーグは半ば呆れかえる。
「勝利条件は、俺に傷をつけること。」
「それだけでしょうか?」
「それだけです。たったそれだけで実力が分かるので。」
戸惑う希望者に向けて、ルーグが短剣を一振り構える。慌てて希望者も剣を構える。
「では、試験開始。」
「は、は! ……ぃ……ぁ?」
合図と同時、入団希望者の喉が輪切りになった。ひゅうひゅうと空気の漏れる音が聞こえた後、入団希望者だったモノは動かなくなる。ルーグが静かに短剣をハンカチで拭い、仕舞う。
「この程度受け止めきれないと、オールメイトにはなれないな。悪いが、転生でもしてくれ。」
希望者だったモノに向けて独り言のように失格を言い渡したルーグは、闇へ消えて行った。