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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
第3章 国際首脳会議
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緊急会議

 旅を始めて通算3年になる頃、クリスタルはルーグから「いい加減に城に戻れ」と小言を言われるようになり、帰る事にした。『空間移動の門』を出し、ルーグに振り返る。


「いつもみたいに、お前の『時間操作』で出来るだけ旅に出た直近で帰るようにしてくれ。」


「分かってるって。2・3日後にするかな。帰ったら俺から部下たちに報告するから、お前は風呂にでも入れ。」


「そうするわ。さすがに疲れたしな。」


 そう言いつつ二人は『門』をくぐる。その先は約3年前旅立つ時に見た光景だ。シックながらも高級な家具に、大きくてふかふかのベッド。二人掛けのソファが2つに銀のティーテーブル。いつもの自分達の自室だ。まだ日は高く、日光が眩しい。クリスタルは荷物を床に置くなり、ソファに腰かける。ふわふわのクッションが体を包む。


「あー……、俺もうここから動きたくねぇ……。」


「頼むから風呂には入ってくれ。俺は旅から帰って来た事伝えに行くから。」


「へーい……。」


 ルーグは荷物を置いてそのままドアを開ける。すぐそこには近衛騎士が二人立っている。騎士達はルーグを見るなり駆け寄って敬礼する。

 

「おかえりなさいませ、閣下。陛下もご帰還されておりますでしょうか?」


「ただいま。今ソファで寝転がってるな。急ぎの案件はないか?」


「取り急ぎご報告がございます。」


「何かあるのか?」


 近衛騎士の顔が曇る。そしてその重い口を開く。


「我がレイレード王国と冷戦状態にある世界『ベクトレイア』が冷戦境界線付近で不審な動きを見せている、と報告がございました。」


 その言葉にルーグは目を見開く。


「ここ数百年動かなかったのに……!? わかった。急いでクリスタルに伝える。お前達、また進捗があったら報告を頼む。」


「承知致しました。」


 敬礼をし直す近衛騎士を背に、ルーグは再び自室へ入る。そしてソファでうとうととしているクリスタルを叩き起こす。


「クリスタル、ベクトレイアが動きを見せたそうだ。急ぎ対策を!」


 それを聞きクリスタルも起きる。目をこすって眠気を飛ばしてルーグに命じる。


「ルーグ、情報が確かか偵察を送れ。俺は戦争に関して主要国と国際会議を開く準備をする。戦争は起こしたくない。急げ。」


「御意!」


 ルーグは旅装束のまま自分が率いる『影』の部隊の本部に向かう。


「緊急収集だ! 非番の者は集まれ!」


 すると誰もいないはずの場所から100人程の人が出てくる。『人』と言っても、魔族やエルフといった亜人も多くいる。ルーグの前に出て来た魔族の部下が跪く。それに続き皆も一斉に跪いて命令を待つ。


「非番の者は全員此処に。閣下、ご命令を。」


「クリスタルからの命令だ。ベクトレイアが不審な動きを見せているとの情報があった。その確固たる情報を持ってこい! 急げ!」


「「「御意!」」」


 その言葉と共にその場に居た部下全員が一斉に居なくなる。それを見届けた後、ルーグは自室に戻りシャワーを浴びて普段の仕事着に着替える。クリスタルは一足先にシャワーと着替えを済ませているらしく、着替えが放り出されている。メイドを呼んで洗濯物を任せた後、ルーグは執務室に向かう。そこではクリスタルと行政官達が慌ただしく動いている。ルーグは行政官達へ挨拶を簡単に済ませ、クリスタルの下へ向かう。


「『影』で動かせる人員は全員情報収集に当たってもらった。隊を組んで動くだろうから、各部隊から情報が入り次第報告する。」


「分かった。こっちはベクトレイアに関する資料を集めてるのと、各国首脳に今回の事を伝える文面の作成に当たっている。表向きは『国際交流』として発表する。対策資料はお前からの情報待ちもあるが、戦争になった場合の戦略も立てている。」


「今情報収集以外に急ぎはあるか?」


「国際首脳会議での資料だな。議題は『ベクトレイアの不審な動向について』、資料にはこちらの意見やこれからの方針をまとめる。お前の意見も取りえたいから、意見を頼む。」


「御意。ベクトレイアの世界の構造や今ある情報の資料は?」


「テーブルの上にある。それ以外は集めて貰っている。」


「あとは各国に連絡だな。それは今行政官達がやってくれているんだっけ?」


「そうだな。文面だけ考えて貰って、俺達でチェック後サイン。その後の日程調整の連絡は担当の者に任せる。」


 ルーグは自分のテーブルの上の資料に目を通す。表向きのベクトレイアの動向や行政状況、経済、軍事関連の情報がまとめられている。目を通しつつ、クリスタルと打ち合わせてベクトレイアとの和平交渉及び戦争の戦略を練る。クリスタルは戦略を練りながら各国に要請するものを最低限にすべく自国で負担できるものを洗い出す。


「動かせる騎士は……、これくらいか。なら他の国には、この一割の後衛か物品を支給してもらおう。」


「クリスタル、情報が入った。資料にまとめてあるから目を通してくれ。」


「了解。」


 各国首脳会議の日取りが決まり、代表達を迎える準備も進む。来る日も来る日も資料作成とチェックに追われる。その上で新しい情報が来て戦略と資料の訂正が行われる。日が暮れても、クリスタルとルーグの手が止まることは無かった。

 

 ______


「お、終わった……。」


「さすがに疲れた……。」


 各国首脳会議の歓迎晩餐会の前日の夜中、二人の手がようやく止まった。資料が完成し、迎賓を迎える準備が整ったのだ。


「1か月働きづめは堪えるな……。しかも明日は前夜祭と来た。生者でも生きたまま『死者の国』に入れるように魔術かける魔術具の準備もあるし、休めない……。」


「明日のお前のドレス、まだ作ってない……。」


「ルーグ、お前毎回俺のドレス手作りするからな……。今回は諦めろ。」


「そうする……。前のドレスのリメイクにするか……。」


 二人はへろへろになりながら立ち上がり自室に入る。シャワーを浴びる気力も無くベッドに体を横たえる。そこにノックの音が飛び込む。


「……誰だ? 入れ。」


「失礼します。メイド長でございます。」


 入って来たのはメイド長だ。彼女はカートに何やら料理を持って来たようだ。


「陛下に閣下、お食事も取られず業務をなされていたとお聞きいたしまして、軽食をご用意させて頂きました。どうぞお召し上がり下さい。」


 メイド長が蓋を開けば、そこにはサンドイッチと温かなコンソメスープがある。匂いに釣られて二人とも起き上がる。


「ありがとう。今日飯食えてなかったからな。」


「助かる。あと明日は昼に起こしてくれ。さすがに俺もクリスタルも疲れてるから。」


「畏まりました。どうぞごゆっくりお休みくださいませ。失礼いたしました。」


 メイド長が部屋から出てから、二人は今日初めての食事を取る。スープの温かさが身に染み、サンドイッチが忘れていた空腹感を満たしていく。


「流石はメイド長。俺達の事見ていてくれて有難いな。」


「ここでスープ出てくるあたり、分かってるよなぁ。」


 二人はあっという間に軽食を平らげる。多少目に力が戻っている。


「さて、さすがにシャワーだけでも浴びようか。クリスタルが先に入れ。俺はドレスのリメイク考えるから。」


「了解。俺が上がったらお前もさっさと浴びて休めよ。」


 そう言うとクリスタルは風呂場に、ルーグは衣装部屋に向かって行った。

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