トランプの世界
「こりゃあ、目が痛くなりそうだ。」
二人は街を見渡しながら、目を細める。街には様々な『トランプの柄』デザインの建物・服装・装飾がなされている。街行く人にはどれも『トランプの柄』の服がプリントされている。それがまた目を痛くさせる要因になる。
「目に優しくないな。にしても、」
クリスタルが自身の服を見る。この国に入国する時着させられたものだ。
「俺、なんでここに来てもコレ着なきゃいけないんだよ。」
クリスタルは自分の国で普段着ているドレス姿になっている。なお衣装は『トランプの柄』である。
「俺も普段の恰好にさせられたな。違う点は、衣服の端に『スペードのエース』が描かれている事か?」
「俺は『ジョーカー』だな。デザインは悪くないが、素材が好みじゃない。」
「言うと思った。お前の普段着、お前好みの素材で厳選してるからな。」
そう話をしながら歩いていると、レストランを見つける。ここのレストランも『トランプの柄』をモチーフにしている。ドアを開けベルが鳴る。すると店員がやって来る。店員は『ダイヤの4』モチーフの服を着ている。
「いらっしゃいませ! 『ジョーカー様』と『エース様』が揃ってのご来店とは!」
「『ジョーカー様』って何だ、『ジョーカー様』って。」
「『エース』も気になるな。」
二人がそう言うと、店員は目をパチクリさせる。
「『ジョーカー様』は『ジョーカー様』、『エース様』は『エース様』ですよ?」
「もしかして、この格好の事か?」
ルーグが服の端の『スペードのエース』を見せる。
「そうです! そのマークは間違いなく『エース様』です! 女性の方は『ジョーカー様』で間違いありませんね。」
「すまんが、俺達この国に来ていきなりこの格好にさせられたんだ。説明を頼んでいいか?」
クリスタルの頼みに、店員は嬉々として頷く。
「そうでしたか! では席にご案内した後、私が説明をさせて頂きます。こちらへどうぞ!」
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「この国では『トランプの柄』が『その人の身分』を表しております。」
『ダイヤの4』の店員は二人が注文した品を出しながら説明をする。
「その人の身分……、って事は俺達の本来の身分が自動でバレるのか。」
「そうですね。ただ、今まで旅人で『ジョーカー様』が現れた事が無いので、『ジョーカー様』の本来の身分が高位である事しか私達には分かりかねます。」
「なるほどな。ちなみに王族が来た場合、やっぱりキングどかクイーンになるのか?」
「仰る通りです。例外で大国の名君が『エース様』であったことは何度かあるそうです。ですので、『スペードのエース様』は本来相当の大国の主要人物か、はたまた王族か、といったところが私たちの推測です。当たっていますでしょうか?」
ルーグは注文したダイヤ型のホットサンドを食べながら答える。
「そうだな、主要人物ではあるな。残念ながら王族ではない。」
そう答えると店員は不思議そうな顔をする。
「そうなりますと、『ジョーカー様』のご身分が気になるところですね。差し支えなければ、お聞きしても良いでしょうか?」
クリスタルはハートの旗が刺さったステーキを食べる。旨い肉汁が溢れ、口の中で肉が蕩けるようだ。
「肉が旨いから多少は答えてもいいか。『スペードのエース』が護衛になるくらいの身分だ。とある王国を治めている。」
「『エース様』が護衛に!? そこまでの身分でございましたか! これは失礼いたしました。」
「何!? 『エース様』が護衛だと!?」
「見ろ! 『ジョーカー様』もいらっしゃるぞ!」
「こんな所で『ジョーカー様』と『エース様』がお見えになるなんて!」
店員が慌てて頭を下げる。その声に周りも反応し、注目しざわつき始める。周りの目線を一斉に浴びた二人は少々驚く。
「え……、ここまでされるものなのか?」
「なんか旅してる意味が無い感じがする。てか店員、顔上げても良いぞ。」
一先ずクリスタルは店員に顔を上げさせる。
「ありがとうございます、『ジョーカー様』。お優しいですね!」
「別にそんなんじゃない。で、説明の続きを頼んでいいか?」
「喜んで!」
そう『ダイヤの4』の店員が嬉々として言うと、店員の後ろから男性店員がやって来た。男性店員の恰好は『ハート』をモチーフにしている。
「おい、『ダイヤの4』の癖に『ジョーカー様』と『エース様』にご説明もおこがましいぞ。この場は『ハートの10』である私に譲りなさい。」
「え……、でも……。」
「何だ? 身分が分かってないのか? 『ダイヤの4』の癖に生意気だぞ。」
そう言って『ハートの10』は『ダイヤの4』を押しのけてクリスタルとルーグの前に出る。
「身分が低いものが出しゃばり、大変失礼いたしました。変わって私が説明いたします!」
その態度にクリスタルもルーグも気分が悪い。眉間に皺を寄せたクリスタルが『ハートの10』に向かって文句を言う。
「俺はそこの『ダイヤの4』に説明を求めたんだ。お前じゃない。」
「ですが、この者の数字は『4』ですしマークも『ダイヤ』です。私より弱く、身分相応の対応ではないかと!」
「うるせぇな。身分がどうだの言うなら、『ジョーカー』である俺の命令は聞くべきじゃないのか?」
クリスタルの言葉に、『ハートの10』は後退る。続けてクリスタルが言う。
「命令だ。お前は『引っ込んでろ』。」
「な、何を! ぐ、ぐぁ、ああああぁぁ……!」
クリスタルが『引っ込んでろ』と言った途端、『ハートの10』が苦し気に胸を押さえる。倒れたかと思うと、『ハートの10』は体が何かに吸い込まれる様にその場から消え、ポトリ何かを落として消えた。唖然とする場とルーグ。クリスタルは落ちたものを拾う。それは『ハートの10』が書かれた『トランプのカード』だった。