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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
SS 『とある世界』での旅
30/59

『食事』の無い世界

 狙いを定めて、銃を撃つ。その鉄弾は、正確に大きな獣の頭を打ち抜く。


「今日の昼飯取れたな!」


「旅してると肉ばっかり食べちまうよなぁ。」


 クリスタルとルーグは、森で狩りをしていた。銃を仕舞ったクリスタルは、早速短剣で獣を捌く。生態観察を兼ねて解剖し、ついでにその肉を食すことにしている。ルーグはクリスタルから少し離れ、焚き木を拾い始める。


「今日は結構な量の肉を食えそうだな。これは焚火大きめじゃないと焼くのに時間がかかるな。」


「ついでに香草もとらないとな。香草があれば臭みが消えるから。」


 二人はそれぞれ手分けをして食事の準備をする。ルーグは焚き木と幾つかの香草を取り、焚火を作る。フライパン代わりに平たい石を焚火の前に置く。そして魔法で火を放てば、あっという間に焚き木に火は移り燃えていく。


「クリスタル、焚火は準備出来たぞ。後はその肉を香草に包んで焼くぞ。」


「はいよ。肉はもう解体しているから焼いてくれ。俺は生態調査してるから。」


「了解。ただし文句は言うなよ?」


 肉を香草で包み、焚火の前にある石に乗せてじっくり焼いていく。辺りは次第に焼ける肉と香草の香りが漂い、食欲をそそる。それに耐え切れなかったのか、クリスタルがルーグに問う。


「腹減ってきた~。肉まだ?」


「ちゃんと焼かないとダメだ。未知の寄生虫とか病原菌いたらどうすんだよ。ある程度の対策はしないと。」


「へーい。」


 肉を焼く間、クリスタルは獣の皮を処理して干す。いずれ加工して何処かの国で売るためである。ルーグは旅でほつれてきた服を、裁縫道具で縫い合わせている。そうして作業をしていれば、肉が中まで焼けたようだ。


「うん、もう大丈夫そうだな。食べるか。」


「ようやくか! 頂きまーす。」


「頂きます。」


 二人は作業を中断し、香草を皿代わりにして肉を喰らう。肉も程よく脂がのり、香草が臭みを消してくれている。レストランで出されていても遜色はない味わいだ。


「お、旨いじゃん! 香草の香りもあるから余計に旨い。」


「なら良かった。さっきの香草、種あれば持って帰りたい。この世界の何処かの国で売ってないかな?」


「香草なら専門店じゃないと売ってないかもな。食料店の売り物だろうし。」


「それもそうだな。でも一度園芸ショップ覗いてもいいか?」


「飯が旨くなるなら許す!」


 食事となれば二人は妙に気が合う。話も食も弾み、談笑しつつ肉を平らげていく。その時『ガサッ』という音が聞こえる。振り返れば、其処には驚愕の表情の中年男性が。わなわな震えながら、二人を指さす。


「な、何をしているんだ!? 君たち、なんて事を……!?」


「あ、もしかしてここの森の管理者さん? すまない、許可なく焚火を使ってしまった。」


「そうじゃない! 獣の死体を、何で口にしているんだ!?」


「『何で』って、そりゃ腹減ってるから食ってんだよ。」


 それに対して男性は「はぁ?」と言う。


「お前達、『カプセル』はどうしたんだ?」


「『カプセル』?」


「…………もしかして、お前達、『カプセル』がない所から来たのか?」


「そうだな。そもそも『食う事に驚かれる』事に驚くような世界から来たな。」


「そうか、それでそんな事をしていたんだな。この世界について教えてやろうか。そんなモノ置いて俺の小屋に来な。『カプセル』もやるから。」


「どうする? クリスタル。」


「『カプセル』について聞こう。何故メシ食ってるだけでここまで驚かれるのか、是非聞こうか。」


 クリスタルとルーグは食事を終わらせ、中年男性について行くことにした。


 __________


「そうか、お前達がやっていたのは『栄養摂取のための行為』だったのか。」


「『食事』を回りくどく言うとそうなるな。そっちにとっての『カプセルを飲む』事と同じ目的の行動だ。」


「いきなり死体を口に入れる光景見たから、俺は腰が抜けるかと思ったぞ。とりあえず『カプセル』飲みな。」


「ありがとうございます。一錠頂きます。」


 クリスタルとルーグが『カプセル』を飲む。ただ、腹は膨れない。少しばかり腹が膨れるかと期待していたクリスタルは不満げな様子だ。


「てっきり腹が膨れるものだと思ったが、そうではないんだな。」


「『腹が膨れる』? 死体を口にすると、腹が爆発でもするのか?」


「そうではなくて、『空腹感が無くなる』という意味です。爆発はしませんよ。」


「…………『空腹感』? また異世界の言葉か。」


 ルーグの言葉に男性は不思議そうに首を傾げる。またよく分からない単語が出てきたようだ。クリスタルが解説する。


「胃に食べ物が無いか少ない状態の時の感覚だ。『空腹』は俺達にとっては死活問題になり得るものだ。放っておけば栄養不足で死んじまうからな。」


「そうか、面倒な感覚なんだな。」


「ですが、『食事』をする事で『旨さ』を感じる事ができます。それも楽しみなんです。」


「『旨さ』……?」


 味覚の説明をしようにも、なかなか例えが浮かばない。


「説明しにくいな。『旨さ』は食べなきゃちゃんと分からないだろうな。肉は初めて食べるのには抵抗あるだろうから、野菜でも食べてみればいいんじゃないか?」


「『野菜』? その辺の草とどう違うんだ?」


「『旨み・栄養がある植物の葉や茎』です。中には根っこを食べられる植物もありますね。ちょっと『食事』を体感してみますか?」


 ルーグの提案に、男性は悩む。そして、答える。


「…………ちょっと気になるな。『食べる』事を教えて貰ってもいいか?」

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