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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
SS 『とある世界』での旅
28/59

身勝手の『対価』

「聖女様ぁー!」


「聖女様万歳!」


 そんな歓声の中、笑顔で『聖女』はかけられた声に手を振る。聖女の愛らしい笑顔に、民衆はさらに声を上げる。その様子を、クリスタルとルーグは遠目に見る。


「さて、今日は魔法を発動させる日だな。多少時間はかかったが、無事『魔払いの結界の力』を無くす・付与させることは出来そうだ。」


「力の付与対象者はもう決めたし、今日の夕方発動させよう。」


「だな。今やれば力が抜けて面倒事になりそうだしな。」


 クリスタルとルーグはその場を離れ、賑わっている屋台を見回る事にした。生温い風が吹く。


 __________


 『大結界祭』の翌日。アリアは目覚めると不思議な感覚に襲われた。


『メリナ』


 その名前がふと頭に過り、離れない。


「これは、『お告げ』……!? あぁ、『依頼』通りだわ……!」


 早速身支度を終わらせ、神殿内にいる神官達へ静かに告げる。


「本日『お告げ』がありました。『メリナ』という人物が、次の『聖女』です。連れて来て下さい。」


 神官たちはざわめく。神官長がアリアに駆け寄り、手を取る。


「本当ですか、聖女様!? こんなに早く代が変わってしまう例はなかったのに!?」


「ですが、確かに『お告げ』がありました。私は力が弱かったのでしょう。申し訳ございませんが、もう代替わりなのでしょう。」


 アリアの悲しそうな表情に、神官達も悲しむ。その後急いで『メリナ』という女性を神官達は探す。日に日に弱まる『聖女の力』に、アリアは罪悪感もあるが、それ以上に内心喜びを感じていた。

 そして数日後、『メリナ』が連れてこられた。


「お願い致します! 私を家に帰らせて下さい!」


 泣き叫ぶメリナ。そんな『次の聖女』に、アリアは頭を下げ話す。


「申し訳ございません。もう私には聖女の力がないのです。故にその力を持つ、貴方が『聖女』にならなければなりません。ここで皆のために祈り、結界を張り続けて下さい。お願い致します。」


「そんな……! こんな突然! あぁ……!!」


 崩れ落ちて号泣するメリナを前に、アリアはその場にいる皆へ宣言する。


「ここに新たな『聖女』の誕生を宣言します。皆、どうか新たな『聖女』の誕生を祝いましょう!」


 泣き崩れるメリナに、その場に居た者は皆祝いの言葉を贈る。


「新たな『聖女』様、万歳!」


「『聖女メリナ』様! おめでとうございます!」


「『聖女』様、どうか我々をお守りください!」


 メリナに、その言葉は届かない。

 

 __________


 アリアは今、故郷に向かう道を歩いている。懐かしい草の匂いに土の匂い。『聖女』の時には無かった香りだ。手荷物は、最低限の物と少しのお土産。『聖女』の使命を押し付けてしまったメリナには悪いが、家族と大好きな幼馴染に会える喜びには敵わない。


「みんな、元気かしら? ふふ、楽しみだわ!」


 村に着くと、予想に反してその雰囲気は沈んでいた。近くに居た知り合いのおじさんに、アリアは声をかける。


「おじさん! どうかしたの?」


「おぉ、アリアじゃないか! 『聖女』のお勤めご苦労様だったな。ちょっと、な……。」


「何があったの? 教えて!」


 アリアが問い詰めると、その声に周りが反応する。


「アリア!? 帰って来たのか。」


「こんな時に。」


「これは、どう説明すべきだ?」


 その言葉に戸惑うアリアに、10数年会っていない両親が駆け寄る。


「アリア! あぁ、久しぶりね……!」

「おかえり、アリア……!」

「お父さん! お母さん! 会いたかった……!!」


 老けた両親に抱き着くアリア。その優しいぬくもりも匂いも、昔のままだ。アリアは暫くの抱擁の後に、両親に質問する。


「ねぇ、どうしてこんなに雰囲気が暗いの?」


 その言葉に、両親が固まる。


「どうしたの? お父さん、お母さん。」


「実はだな……。」


 父が眉をひそめ、言いにくそうに口を開く。


「お前の幼馴染のアレンの婚約者が、『聖女』になったんだ。」


「…………え?」


「今日、本当はアレンと婚約者の『メリナ』という女性との結婚式だったの。気立ての良い子で、隣町から引っ越して此処に住む予定だったの。でも…………。」


「そんな…………。」


 アリアは固まる。『自身の身勝手』で、幼馴染の結婚式が無くなった。そんな事も露知らず、両親はアリアを慰める。


「決して、お前のせいじゃない。お前は『聖女』の役目を果たしていただけだ。お前がショックを受ける事ではない。ただ、アレンには今近づかない方がいいだろう。」


「そうよ、貴方はただ使命を全うしただけよ。こんな事知らなかったでしょうし。」


 両親の慰めが、アリアを苦しめる。そしてアリアは、荷物を投げて幼馴染の元へ走り出した。


「アリア! 待ちなさい!!」


「今アレンの元へ向かうな!! 戻ってこい!!」



 それでも、アリアは走る。大好きで、本当は結婚したかった幼馴染のアレンの元へ。『自分の身勝手で、婚約者を聖女にしてしまった』事を、謝りたかった。アリアはアレンの家へたどり着く。ドアをドンドンと強く叩く。


「アレン! あたしよ! アリアよ! お願い、お話したいの! ドアを開けて!」


 ドアが静かに開く。


「アレン!本当にごめんなさ___」


 腹部に激痛が走った。


「お前のせいで」


 久しぶりの会う、幼馴染の眼に光はない。


「お前が『お告げ』なんてしなければ、」


 その手には、赤に染まったナイフ。


「俺は、メリナと一緒に居られたんだ!!」


 倒れる自分に幼馴染は乗りかかり、ナイフを向ける。


「メリナの妊娠も分かっていたのに!!」


 ナイフが、振り下ろされる。


「何故、俺から妻も子供も奪いやがったんだ!!!」


 ナイフが、左胸に降ろされる。

 

 __________


「『元聖女が死亡。男性が一人投獄。』だってさ。いやぁ、物騒だねぇ。」


「俺達の『依頼』結果だろ。これで良かったのか?」


 王都から離れた街でそんな号外の看板を見て、クリスタルとルーグはぼやく。


「だってそれしか『対価』がなかっただろう? ま、死ぬとは思わなかったがな。」


「そこまでは想定してないけどさ。俺達は『依頼』をこなし、アリアは『対価』を支払った。それだけだが、これは後味が悪い。」


「ま、俺達が出来る事はしたさ。せいぜい捕まった男性と、新しい『聖女』の今後が上手くいけばいいな。」


 クリスタルとルーグはその場を後にする。


「まず腹ごなしだな。バー行こうぜ。」


「昼から飲むなよ、クリスタル。」


 二人は人ごみに紛れ、そのまま見えなくなった。

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