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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
SS 『とある世界』での旅
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聖女のいる国

 石畳で少しだけ舗装された道を馬車が行く。馬車が向かう先は、この世界の国の王都である。その馬車の後ろの方にクリスタルは乗り、馬車の後ろの外を眺めている。肩ほどの長さの蒼髪が、緩くなびく。ルーグは馬車の外で護衛をして、馬車の持ち主と話をしている。


「いやぁ、お宅らが護衛してくれて助かるよ。この辺は魔物が出るからなぁ。」


 「いえ、こちらも馬車に乗せて頂き、ありがとうございます。護衛はその礼ですので、お気になさらず。本当は路銀があれば良かったのですが、生憎持ち合わせがまだないものでして、心苦しいです。」


 ルーグは申し訳なさそうに頭を下げる。そんなルーグの様子を見て、馬車の持ち主はこう答える。


「頭下げる必要はねぇよ。路銀も大事だが、それより自分の命が大事だからな。命守ってくれるのは路銀より価値があるものだ。お宅らは何度も魔物を片づけてくれるから、本当に助かるさ。」


 「そう言って頂けて何よりです。しっかり王都まで護衛しますので、それまでよろしくお願いいたします。」


 ルーグは馬車の持ち主と穏やかに話しつつ、周りを見渡す。辺りは青々とした草原に、遠くに鬱蒼とした森が見える。草と土の匂いが混じったそれらが鼻をくすぐる。その他にあるのは、今通っている簡素な石畳の道のみ。ルーグは馬車の持ち主に問う。


「自分達は名もない村の出身のため、この辺りの地理が分からないのですが、王都まではどのくらい時間がかかるのですか?」


 「うーん、俺がお宅らみたいな強い護衛を雇ったことがないからなぁ。普通の護衛なら、魔物退治に時間がかかって2・3日は時間を取られる。だがこのままだと半日もすれば行けると思うぞ。」


 「あと半日ですか。では、野営をしなくとも大丈夫そうですね。魔物の襲撃のリスクを減らせますので、良いと思います。」

「それまでは護衛を頼むぜ、旅人さんよ!」


「がはは!」と大きく口を開けて笑う持ち主に、ルーグも「頼りにして下さい。」と笑って返す。クリスタルはずっと馬車の後ろから、風景を眺めている。


「お嬢さんも、護衛なんだろ? しっかり仕事してくれよ?」


「後ろを警戒してるんだよ。後ろから「ドカッ」と襲われるのは嫌だろ?」


「がはは! 見た目に反して言うねぇ! 確かに困るな! なら、警戒頼んだぜ!」


 クリスタルの茶化しの入った発言に、持ち主も笑って返す。遠くに、石の城壁に囲まれた王都が見え始めていた。

 

 __________


「それじゃ約束通り、ここでお別れだ。達者でな!」


「ありがとうございました。そちらもお元気で。」


「じゃあな~。」


 時刻は夕方辺り。王都に到着して馬車の持ち主と別れ、クリスタルとルーグはまず通貨を得るために大通りを歩く。通りは果物や小物の露店が出ており、何処も賑わっている。民家の一階を改造したような店も散見される。その一角にある質屋を見つけ、入店する。


 店内は古びた木造だが、何処か温かみのある雰囲気だ。数多くの魔物や貴重な生物の素材が箱に入れられ、丁寧に並べられている。多くの旅人らしき者達が、素材の売買の話を店員としている。クリスタルはそのうちの一人の店員に話しかける。


「そこの店員、コレ売りたいんだが、幾らだ?」


 クリスタルが取り出したのは、小さな包み。中身は蒼みかがった小さな鱗が一枚。それには何かが書かれた、小さな紙もついている。店員はそれを一瞥すると、断りを入れる。


「変わったトカゲの鱗か? そんなの値打ち付けられねぇよ。一昨日来な。」


 それを聞いたクリスタルが「そうかそうか、」ともったいぶった様な言動をする。


「せっかく『フリーズドラゴン』から正式に譲り受けた、貴重な鱗なんだが、ここでは『トカゲの鱗』扱いで買い取ってくれないのかぁ……。しっかり一筆書いてもらった物なんだが、残念だなぁ・…………」


 『フリーズドラゴン』と聞き、店員が慌てる。ざわめく店内。


「『フリーズドラゴン』!!? 世界でも居るか居ないかの、あの希少種のドラゴンの鱗ですか!? 是非買い取らせて下さい!!」


 店員が『フリーズドラゴンの鱗』を取ろうとするも、その前にクリスタルが取り上げる。そして品物をもったいぶって見せながら、店を出ようとする。


「いやぁ、『万病に効く』薬にも『冷気を防ぐ』素材としても重宝されるのに、ここでは『トカゲの鱗』扱い。ここで『トカゲの鱗』として売るなんて、鱗を譲ってくれたフリーズドラゴンに申し訳ないなぁ? 見る目がある店で売る事にしよう。」


 いよいよ店を出ようとするクリスタルに、店員が叫ぶ。


「申し訳ございませんでした!! 店主を呼ぶので、是非にうちで買わせて頂けませんでしょうか!!?」


 クリスタルはニヤリと笑い、店員に向き直る。


「それ相当の値打ちでなければ売らないぞ? それでいいな?」


「はい!! こちらの個室へどうぞ!!!」



「フリーズドラゴンから鱗を譲られるなんて、あの女何者だ?」


「最上級のハンターでも見つけられないのに、どうやって見つけたんだろうな?」


 「あの女の人、美人だったなぁ……。」


 クリスタルは店員に恭しく個室へ通される。『フリーズドラゴンの鱗』という貴重すぎる品を持つ女性の旅人に、周りの旅人のざわめきは止まらない。ルーグはそんなクリスタルと旅人達を見て、「やれやれ」と肩を落とす。

 

 __________


「あのなぁ!? 軽率に鱗売るな、って毎回俺言ってるだろ! 何でまた売ったんだよ!!」


 時刻は夜。ルーグの説教が宿の部屋に響く。クリスタルは反省の色無しのようで、簡素な衣服を着てダブルベッドで横になっている。


「だって『俺の鱗』だし? たまたま抜けた鱗を売って何が悪いんだよ?」


「お前が何処の世界でも希少種である『フリーズドラゴン』だってバレたらどうするんだよ! またハンターに狙われるんだぞ? というか、城でもいつも狙われているだろ!」


「それを片づけるのが、護衛のお前の仕事だろ?」


「俺の仕事を増やすな!」


 どうにもこの子供っぽい性格のクリスタルに、今日もルーグの真摯な訴えは届かない。毎度ルーグに何かしら用事をつけたり仕事を増やすのが、『クリスタル』という人柄、もといドラゴン柄なのだが。


「そもそも俺はそこまで力の弱いドラゴンじゃないぞ? ちゃんと人間に『擬態』しているだろ? ほら、臍もちゃんと再現して___」

 

「わざわざ見せなくてもいい! さっさと腹をしまえ!」


 わざわざ服をめくり腹を見せるクリスタルを怒れば、クリスタルは「仕方ないなぁ」と腹をしまう。クリスタルが腹をしまったところで、ルーグは「ところで」と話を切り出す。


「夕飯食べた酒場で聞いたんだが、ここの王都は月に一度『聖女』と呼ばれる者によって結界を張っているらしいな。」


「『聖女』? また随分なお偉いさんか?」


「どうやらこの世界で一人だけいる、『魔払いの魔法に長けた女性』のことらしい。それに、近々その『聖女』が特に強力な結界を張る『大結界祭』があるそうだ。」


「もしかして、やたらと旅人や商人が居たのはそれが原因か? 露店もセールして賑わっていたし、何かはあると思ってはいたが。」


「そうだろうな。ちょっと見てみるか? 『大結界祭』。」


 クリスタルはニヤリと笑う。


「当たり前だろ? 『世界の文化を見るため』に、旅をするんだからな。その『聖女』とやらも拝んでみようぜ!」


「言うと思った。金はあるし、暫くは滞在できるだろう。王都を見ながら『大結界祭』を待とう。」


 今回旅する世界の旅の方針は決まった。クリスタルとルーグは、今夜も同じベッドに潜り込み、そのまま眠る事にした。

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