さよならバイバイ
「オークの『大討伐クエスト』だ。」
それを聞き、クリスタル出された紅茶を啜りながら問う。
「具体的なオークの情報と数を聞きたい。それと報酬金額も。」
「残念ながら、そこまでの情報はこのギルドまで入ってきていない。ただ、人手が大いに不足している事と、甚大な被害が出ている事だけは把握している。悪いがダハ―ナの街まで行ってギルドで聞いて欲しい。俺からの紹介状も書いて渡すから、是非受けて欲しい。」
ギルト長が頭を下げた。クリスタルとルーグは一瞬目を合わせる。クリスタルが紅茶のカップを置く。
「報酬と情報次第ではあるが、現時点では受けても良い。」
「本当か! 助かる!」
「旅支度を終えたらすぐダハ―ナの街へ向かいますので、早急にギルト長さんの紹介状を頂きたいです。宜しいでしょうか?」
「それは構わない。1時間ほど後にまたギルドへ来てほしい。出発は早めであれば今日でなくとも良い。」
「俺達はさほど疲れてもないし、ダハ―ナの街もどんな街なのか気になる。今日中の出発になるだろう。」
「分かった。では一時間にまた来てくれ。頼んだ。」
二人はギルドを後にして、食料と調味料を少々買ってからギルドへ戻る。ギルドではギルド長と受付が待っていた。
「これが紹介状と今回の報酬だ。向こうのギルド長に見せれば話が早いだろう。」
「サンキュー。助かる。」
「ありがとうございます。お世話になりました。」
「世話になったのはこっちだ。また機会があれば寄ってくれ。達者でな。」
「ありがとうございました。それでは。」
「じゃあなー。そっちも達者でな。」
二人はギルド長と受付に軽く手を振り、門番にギルドプレートを見せてサマラタウンを出た。二人は一度サマラタウンに振り返る。夜の帳が落ち始めており、あちこちで松明の明かりが見え始めている。
「サマラタウンとも、さよならバイバイだな。」
「まぁ、低級のクエストばかりだったしな。」
「俺はコイツと旅に出る……!」
「一応相棒の俺を『コイツ』呼ばわりするな!」
二人は前を向き、『身体強化』を使いダハ―ナの街へ向かう。道中の敵は狩って角や右耳を切り取り、換金用として集める。動物も狩りはするが食事する分だけ狩り、余った肉は保存食として加工して日持ちさせる。そうして3日程経つ頃には、サマラタウンの三倍程の街が見えて来た。
「あれがダハ―ナの街か? まあまあの規模だな。」
「ともかく入ってみようか。」
街に入れば目的のダハ―ナの街だと分かった。道行く人にギルドの場所を聞きながらギルドへ向かう。ギルドの中はサマラタウンのギルドより腕の立ちそうな冒険者が大勢いる。様々な視線を無視して二人は受付へ向かう。
「すみません。サマラタウンのギルド長の紹介でこちらへ来ました。紹介状もあります。」
「かしこまりました。拝見させて頂きます。」
受付は紹介状の中身を読み、二人にこう言った。
「腕の立つ冒険者様である旨の紹介でございました。是非『オーク大討伐クエスト』を紹介して欲しい旨も記載されておりました。クエストについての情報をお渡しいたしますので、是非ご検討を。」
受付は机の下から紙を取り出す。見れば『オーク大討伐クエスト』と書かれている。
「クエストに参加ご希望の際は、また受付においで下さい。」
「ありがとうございます。」
「サンキュー。」
二人はギルドの中の食堂で食事を取りつつ、貰った情報を見る。
「オンシー集落のオークが、集落を大きく離れて集団で暴れまわっている。旅人や街を襲っては食料を根こそぎ奪っていくらしい。抵抗すれば人も殺している、との事だ。」
「オンシー集落からの物流が一気に品薄になったと聞いたが、そもそもそこに住むオークが土地を離れた事が原因か。知能があればいいが、この世界に来て今まで倒した魔物は全部知能が無かった。今回も知能の無いオークだと推定して動くか。」
「そうだな。ちなみに報酬金は何故かギルドから出るんじゃなくて、『ブヤマキ領主』から支払うそうだ。金額は相場より高そうだ。」
「確か地図によれば、オンシー集落とブヤマキ領は隣接していたな。これは『知能の無いオークの集落なんて潰そうぜ』的な意図を感じるな。」
「あり得るな。だが確かに知能の無いオークが大きく移動して被害が出てるのは解決しないとな。クリスタル、この依頼どうする?」
クリスタルはステーキの最後の一口を口に入れると、席を立つ。
「依頼を受けるぞ。何かあるだろうし、そもそも被害をどうにかした方が良いだろう。」
ルーグはサンドイッチを一口で食べて、同じく席を立つ。
「了解。オンシー集落付近での被害が多いらしい。その辺りまで行こう。」




