ホシミ山の荒くれ者
酒や女や賭け事で賑やかなホシミ山地下では、騒ぎが起こっていた。『ズン……ドゴォ……』と言う音が入口で響き渡っていた。今までアジトに潜入したものは誰も居ない。皆戦闘態勢をとる。
「こんな大きな音を響かせるとか、落石でも起きたのか?」
「見張りからは『山の麓に男女二名の組が来ている』と情報はあるが、動きは無いとの事だ。魔物でも入って来たか?」
「にしては、こんな轟音普通はしねぇよ……。」
「何だってんだ?」
暫くすれば、入り口から姿を現したのはルーグだ。素手ではあるが、その手には返り血らしき物が着いている。
「お前達がホシミ山の山賊か。」
「だったら何だぁ!? 殺されにきたのか? 一人のこのこと!」
「坊ちゃん、身ぐるみ全部置いてさっさと出て行きな。それなら命だけは助けてやる。」
「俺は『坊ちゃん』という歳でもないんでな。断る。」
「そうかぁ、だったら死ねぇ!!」
20名程が一斉にルーグへ襲い掛かる。ルーグは『魔力強化』の術をかけた上で山賊の拳や蹴りをかわし、胸や鎖骨に拳を振り下ろす。殴られた全員から断末魔が上がる。
「悪いが俺は人を殺しても何も思わないタチなんだ。」
そう言うと、ワイヤーを取り出して振り回す。ワイヤーは生き残った山賊を一纏めにして、そのまま体を貫通した。そうして出来上がったのは、人の刺身の盛り合わせだ。
「生かして捕えないといけないのは、あくまで頭領だけだからな。じゃあな。」
ルーグが指を1回鳴らせば、ワイヤーは跡形も無く消え去った。そのままその足でさらに奥へ向かう。
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その頃アジトの最奥では、頭領が部下のからの報告を聞いていた。
「侵入者は1人、今はアジト内中腹まで来てますぜ!」
「この俺達をここまで追い詰めるとはなぁ……。やるじゃねぇか。」
頭領は武器を持ってその場にいる部下達へ命じた。
「お前らは出来るだけ侵入者を足止めしろ! 俺様はここで一騎打ちの準備をする!」
「お、お頭……! 流石ですぜ!」
「俺達も出来る限りのことをしますぜ! 頼みましたお頭!」
部下達が一斉に最奥の部屋から出ていく。足音がしなくなってから、頭領は急いで背後の荷物をどける。そこには緊急用の隠し通路があった。辺りにある金貨や宝石と手当たり次第に抱え込み、頭領は隠し通路に逃げ込んだ。
「命あっての物種だ……。俺様だけでも生き残れば、お宝は独り占めできるしな……!」
そう言って通路を進む。もうすぐ出口という所で頭領は足元の石に引っ掛かり、下にある僅かな側溝へ金貨の袋を落としてしまった。
「俺様の金貨が!」
側溝を覗けば、其処には蒼眼蒼髪の女性が顔を覗かせていた。
「ハーイ、頭領ぅ?」
「ひぃ! お、女が何でこんな所に……!」
尻もちをついた頭領へ、女もといクリスタルがにやにやしながら声を掛ける。
「落としたのはこの風船かな?」
「何でこんな所に風船があるんだ! そんなの要らん!」
「ふ~ん、つれないねぇ……。じゃあ落としたのはこれ?」
クリスタルは先ほど頭領が落とした金貨の袋を見せ付ける。
「俺の金貨!」
「返してほしい?」
「当たり前だ!」
「じゃあほら、手を出して……。」
「お、おう……。」
恐る恐る頭領は側溝に手を差し出す。クリスタルがその手を突然掴む。
「ただしお前の身柄を頂くがな!」
クリスタルが側溝に無理矢理頭領を引きずり込むと、そのまま膝蹴りを頭領の鳩尾に入れる。うめき声をあげる頭領が動けなくなっている間、三角締めをし気絶させた。
「『空間移動』でこんな場所に行けるとは。我ながら便利な能力だ。」
気絶した頭領を引きずりながらクリスタルが側溝から這い出てくる。そこには返り血まみれのルーグがいた。
「隠し通路に居るにしても、何でこんな狭い所に居るんだよ。」
「この間見た映画の再現をしたくてな?」
「せんでいい! 山賊は殲滅したぞ。それと賞金首は捕まえたか?」
「ああ。とっとと縛り上げてギルドへ戻るぞ。」
ルーグが頭領をロープで縛り上げ、片手で担いで運ぶ。二人は『身体強化の魔法』でホシミ山を飛んで駆け降りる。そのままサマラタウンのギルドへ向かう。
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「えぇ!? あの山賊をもう倒したのですか!? それも2日経ってないですし、賞金首も連れて帰って来るなんて……。」
「な? 大丈夫だっただろ?」
「短期間でここまでのクエストをこなすとは……。ギルト長に報告させて頂きます。」
受付は何名かのお抱え冒険者に声を掛け、未だ気絶している頭領を連れて奥の部屋に向かう。程なくして受付だけ出てきて、二人に声を掛ける。
「クリスタルさん、ルーグさん。ギルド長がお呼びです。奥の部屋へどうぞ。」
「ギルド長が? まぁ、いいか。いくぞルーグ。」
「了解。」
二人が案内された部屋に入ると、高齢の男性が応接室の椅子に座っていた。高齢ではあるものの、未だ現役なのがその強固な肉体で察する事ができた。
「お二人さん、椅子に座ってくれ。」
「はいよ。」
「ありがとうございます。ところで先ほどの賞金首は?」
「ああ、この部屋から通じる牢屋に入れて来た。安心して欲しい。」
「それならいいんだ。で、話がありそうだが、何だ?」
クリスタルは足を組んで男性に向き合う。
「まずは自己紹介からだな。俺はキオード。ここのギルド長をやっている。今回難易度の高いクエストを短期間でこなし、賞金首まで捕まえてくれたこと、ギルドを代表して礼を言わせてくれ。ありがとう。」
「それはいい。そこまで難しくなかったしな。」
「自分達に出来ることをしたまでです。」
「ありがとうさん。話って言うのは、今までと今回の事を考慮した結果、ギルドランクをCまで上げさせて欲しい。クエスト報酬と賞金首に掛けられた金はギルドから支払わせてもらう。」
「後者は当然として、いきなり飛び級とはな。何か急ぎの用があるんじゃないのか?」
クリスタルがじっとギルド長を見れば、ギルド長は苦笑いをする。
「クリスタルさん、やっぱり只者ではないな。実はここから離れたダハ―ナの街で、Cランク以上限定のクエストが発生した。そこに加勢して欲しいんだ。」
「内容は何でしょうか?」
ルーグが問えば、ギルド長が体を前のめりにさせて、険しい表情を浮かべてこう言った。
「オークの『大討伐クエスト』だ。」




