クリスタルの特技
「受付さん、薬草を採取したついでにゴブリン討伐もした。集計を頼みたい。」
サマラタウンのギルドに戻った二人は、大量の薬草とゴブリンの右耳を受付の前に置く。受付はクエスト受注していなかったゴブリンの右耳に驚く。
「ここまで多いゴブリン討伐をされるとは……。少々金額を上げさせていただきます。」
「たまたま野営中に仕留めてな。それより色を付けるなら、ランクを上げて欲しい。これだけの数を討伐できる腕前を示したんだから、妥当じゃないか?」
「ふむ。ギルド長に伺ってみます。少々お待ちください。」
受付はゴブリンの右耳を持って奥の部屋へ入っていった。程なくして小袋とギルドプレートを持って出てくる。
「ギルド長判断で貴方方をFランクに昇格させて頂きます。また、今回討伐数が58体と多かったため、金額を少々上げさせて頂きました。ご確認を。」
クリスタルが袋の中身の銅貨と銀貨を見て、「上々だな」と呟く。
「ありがとうございました。どうぞ体を休めて下さい。」
「こちらこそお気遣いなどありがとう。」
「ルーグ、次のクエストこれどうよ?」
「早速持ってくんな!」
クリスタルが持って来たクエストの紙には『ホシミ山山賊討伐』と書かれている。それを見た受付は眉を顰める。
「そのクエストでございますか……。厳しいと思います。」
「何かあるのか?」
ルーグが受付に質問する。すると受付が眉を下げながら説明をする。
「実はホシミ山は高低差が激しい上に、山賊のアジトが何処にあるのかすら見当がついていないのです。」
「人数や頭領については何か情報はあるか?」
「人数は100人程ですし、山賊頭領はかなり高い金額の賞金首です。アジトを見つけても苦戦は強いられるでしょう。」
「そうか。それなら受けよう。」
「大丈夫ですか!? まだFランクですのに……。」
驚く受付に、クリスタルがクエストの紙を見ながら話す。
「でもコレ解決しないと、オンシーの集落からの物流が完全に止まるんだろう? ただでさえ少ない物流が、山賊のせいで完全に止まっていると書いてるぞ? 誰かがやらにゃいかんだろう?」
クリスタルが荷物とクエストの紙を持ってギルドを出る。ルーグも後に続く。
「そこまでおっしゃるなら……。ご自身の命を優先してくださいね。ご武運を。」
受付は二人に頭を下げる。その背後の部屋のドアから、高齢の男性が顔をのぞかせていた。
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サマラタウンを出立し、二人はホシミ山に向かう。普通の人間では1週間程はかかる旅路を、二人は1日足らずで踏破した。『身体強化』の魔法をかければ、さほど遠くはない距離だったからだ。山を見渡してみれば、話の通り激しい高低差があり、平らな土地が少ない。緑が少なく乾燥している地帯である。
「洞窟でも探そう。『アレ』を使ってアジトを探して潜入した方が早い。」
「了解。周りは俺が警戒しておこう。」
「頼んだ。」
クリスタルが左手を前に出すと、クリスタルの体の周りに『ディスプレイの様な物』が空中に浮かんだ状態で複数現れる。『ディスプレイ』には、様々な映像が映っている。機械文明だらけの街並み。コンクリートすらないような道を走る馬車。火の光が明るく照らす、長閑な田園風景。戦場の跡地の様な、荒廃した土地。
「久しぶりに『空間操作』の能力使ったな。さて、お目当ての世界はあるかな? 無いと困るんだが。」
幾多の中からクリスタルは『今この瞬間の自分達』を映したディスプレイを見つけ、目の前に持っていく。
「ここが今俺達がいる世界だな。じゃあアジト探しでもするか。」
クリスタルはディスプレイをタップしたまま動かす。すると、ディスプレイの画像が動き出した。ホシミ山周辺から、山頂、地下までディスプレイの画面は動き回る。そして、目的のモノを発見する。
「ルーグ、あったぞ。山頂近辺の井戸がアジトの入口だ。」
「お疲れさん。」
「1,入口から二人で突入する。2,入口と頭領専用の秘密の出口とで手分けして挟み撃ち。3、『アレ』を使って不法侵入する。」
「ここでも選択肢かよ!」
「ここに3つの選択肢があるじゃろ?」
「二番煎じはもういい! クリスタルの『アレ』使って挟み撃ちするぞ!」
「まさかの複合選択。ま、面白そうだからいいか!」
クリスタルはディスプレイの山を左手でスワイプすると、全てのディスプレイが空中で音も無く消え去っていった。そして腰に差してあった剣で、空中に『切れ込み』を入れる。その先は真っ暗闇だ。
「お前が『空間転移の門』でアジト入口に侵入して攻撃を仕掛けろ。俺は頭領の退路を防ぐ。それと頭領は賞金首だ。生かして捕まえろ。それ以外の山賊の生死は問わない。いいな?」
「了解。行ってくる。」
そう言って、ルーグは『空間転移の門』に入っていく。その手には、何の武器も持っていない。ルーグが『門』に入っていったのを見届けた後、クリスタルも秘密の出口に向かった。