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Crystal Asiro【クリスタルアシロ】  作者: wiz
第1章 レイレード国王と側近
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クリスタルの悪癖

「エルフ区域を一画を占領していたオーガ総勢347名、全員捕縛したとの報告がありました。騎士及び魔導士には負傷者はおりません。」


「分かった。全員牢屋に入れて手当しろ。回復した者から個人情報と動機を聞きだせ。処罰する。」


「御意。」


 報告を受け、クリスタルは一息つく。無事制圧が完了したようだ。派遣した騎士や魔導士も、怪我が無いとの事だったため安心した。エルフの畑の一件も、おそらくルーグが証拠を押さえているだろう。残るは今回の一件の報告書が上がって来るのを待ち適切な処罰を自分が下し、占領されていた廃鉱山の完全封鎖くらいだろう。待機していた騎士に命令をする。


「一仕事来る前に休むとする。ルーグと小隊が戻ってきたら、各自休むよう伝えてくれ。」


「御意。ごゆっくりお休みくださいませ。」


 ______


 「『元店長』の動機は『種族贔屓の禁止に納得しなかったため』。その他の奴らの動機は『賃金稼ぎ』『元店主と同じ』が主だった。」

 

 執務室でルーグがクリスタルに報告書を読み上げる。クリスタルは同じ報告書を見ながらそれを聞く。


「それで、主犯は何故魔術具を使ってまでハーブ園の種を盗んでエルフの畑にわざわざ蒔いたんだ?」


「『腕を斬った俺達への嫌がらせ』が主だが、『贔屓されやすいエルフへの嫉妬心もあった』らしい。」


「まぁ、他国ではその傾向にある。だがこの国では人間と同じ扱いなんだが。結局は主犯の偏見じゃないか。」


「それで事件起こされたら溜まったモンじゃないぞ。俺達の国は国民の数も種族数も他国より多いってのに。」


 クリスタルがだらりと力を抜いて背もたれに寄りかかる。目頭を押さえていることから、若干頭痛でもしているのだろう。


「頭が痛くなるくらい、この手の事件は多いからな。早急に手を打たないと。どう動く?」


「ハーブ園含む城内の警備強化、種族贔屓・差別の厳罰化あたりか? 後者の問題については学校や会社といった組織へ『種族に関する教育の徹底』もしないとダメだろうな。そのあたりの政策は、お前が担当しろ。」


「……それ、この問題以前お前が担当する話じゃなかったか?」


「……あ。」

 

「クリスタル、お前疲れてるんじゃないか? ハーブティー持って来るか?」


「暫く仕事詰めだったしな。持ってきてくれ。俺はまだ仕事あるから、目を通しておく。」


「……あんまり根詰めんなよ?」


 ルーグはそう声を掛けて、執務室を出る。クリスタルはルーグに手を振り返すと、再び机にある書類の山を片づける為ペンをとった。

 

 ______


 「飽きた。」


 執務室で処罰に関する書類を捌いていると、クリスタルが突然言い出した。ルーグはいつも通り、チェック済みの書類をクリスタルに渡す。既に部下たちは帰らせており、二人だけで書類仕事をしている。


「いいから仕事しろ。またお前の『悪癖』か?」


「悪癖言うな。飽きたモンは飽きた!」


 クリスタルが机に顎を乗っけてぼやく。もう既に仕事をする気が無いらしい。それでもルーグはドサリと書類を追加する。


「いいから、さっさと仕事しろよ。俺達は仕事しないと、やりたい事も出来ないんだぞ?」


「わかってる。だが暇だ。こんな『俺かお前の案が採択されただけの書類をサインする仕事』の何が面白いんだ!」


 クリスタルが手足をバタつかせて駄々をこねる。部下が見れば驚くような光景だが、ルーグには日常茶飯事である。ため息交じりにルーグは叱る。


「国王の仕事なんて、そんなものだろう。いいからサインしろ。」


「嫌だ!! 飽きたモンは飽きた!!」


 クリスタルは意を決したように席を立ち、ルーグに宣言する。


「決めた! ルーグ、旅に出るぞ!!」


「またかよ!!!」


 いつものクリスタルの『旅に出たい』悪癖に、ルーグは頭を抱える。ストレスが溜まり過ぎると、『視察』と評して彼女は旅に出たがるのだ。上司であり主人であるクリスタルに、ルーグは敵わない。断っても無理やり連れていかれる上に、彼女の護衛をしなければならない。


「…………せめて、今ある書類は片づけてくれ。今日の夜出発でいいから。」


「やったぜ。それならいいぞ!」


 クリスタルは椅子に座り直し、早速書類の山にサインを始める。ルーグは哀愁を漂わせながら、『クリスタルと旅に行く』旨を部形に伝えるため執務室を出た。


 __________


 夕食を食べ入浴を終え、二人は寝室にいる。

 服装も視察用の目立たない衣服に着替えており、マントも羽織っている。そしてクリスタルは右側のベルトに剣を、ルーグは背中側のベルトに短剣の双剣を差す。最低限の着替えに道具を持った荷物を二人は背負う。


「さっき部下からめちゃくちゃ止められたぞ。『お願いだから一週間で帰って来てくれ』って。」


「無理! お前が何とかするんだな! 少なくとも1年は帰らんぞ!!」


「言うと思った。だが帰って来た時の仕事量を想像した俺の胃の心配をしてくれ。」


 ルーグは今から痛む胃を押さえて言う。どうせ止めても無駄なのを知ってはいるが、ため息は出るものである。そんなルーグをよそに、クリスタルは何もない空間に人差し指で『切れ込み』を入れる。


 『切れ込み』の先からは、爽やかな日差しが入る。『切れ込みの先』は、日中のようだ。


「さて、何処の世界に繋がってる事やら。楽しみだな!」


「お前はな。」


「なんだ? お前は楽しみじゃないのか? まぁ、それでも連れて行くがな!」


「知ってた。」


 二人は『切れ込みの先』に入り込む。そして人知れず、『切れ込み』は消えた。


 

 こうして、クリスタルの悪癖による『二人旅』が始まるのであった。

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