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30分間の恋人  作者: アオイ
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悲しき恋物語

プロローグ 恋のスタート


「なぁなぁ流伽。一つ聞いてもいい?」

「あん?」

「なんで山の中に大学なんて建てたんだ?」

息を荒げ、呼吸がままならない俺、光守智輝は、目の前の果てしなき上り坂に対し愚痴をもらした。

「しるか。うるせえ。黙って歩け。」

先ほどから容赦なく、暴言をぶつけてくる真壁流伽がぶっきらぼうな返事をした。

「ここに大学建てたやつ絶対俺よりバカだろ。」

「それだけは同感だわ。」

ぜぇ…ぜぇ…と息を切らしながら、顔も名前も知らない創設者に二人は文句つける。




 安芸山大学。ここが二人の通う大学だ。県内での知名度は高く、10人に1人の確率で、出身大学は安芸山大学だ。魅力は豊富な学部、膨大な数のサークル。そして、なんといっても素晴らしき就職実績。それらを売りに、知名度、人気を獲得してきた。ただ、唯一の欠点として、キャンパスが山の中にある。ただひたすら長い長い坂を登り、登り切った先に安芸山大学の入り口を象徴する物々しい門がある。




 「や、やっと着いた。」

約十分かけて、果てしなかった上り坂を登り終えた。

「あのさ、流伽はしんどくないの。結構な登りだよ。大学生を殺しに来てるよこの坂。」

自分と反応が違う流伽に尋ねる。

「あのな、この大学に通い始めてもうそろそろ一ヶ月経つぞ。高校卒業以降運動をしてないと言っても、もう慣れるだろ。」

呆れた様に流伽が言う。

「いいか。俺をお前のような完璧男と一緒にしないでほしいね。俺は超絶普通人間と誇りをもって生きているのだからな。」

胸を張り誇らしげに言う。

「…ったく。そんなことに誇りなんか持ってんじゃねぇよ。」

「それほどでも」

「褒めてねぇよ。」

一通り茶番を終え、立派に建てられた門をくぐる。

「ってか。今何時だ。」

時間を尋ねた流伽。

「ちょい待って。今見るわ。」

智輝がズボンのポケットからスマホを取り出そうとした時、「ドンっ」と後ろから走ってきた男子学生とぶつかった。「うわっ」と声をあげ倒れた。

「おい。門の前で止まってんじゃねえよ。」

チンピラ男子学生が智輝に悪態をつきながらキャンパスへと向かっていった。

「ヘイヘイ。すんませんでした。」

「おい。大丈夫か?」

流伽が手をさし出して起き上がらせてくれようとした。

「ああ。全然平気。飛び膝蹴りされなかっただけ運がいいほうだよ。」

そう言い、流伽の手を借り起き上がる智輝。

「チンピラが飛び膝蹴りをしてくるってどんなイカレた思考回路してんだお前。」

「いやいや。チンピラは飛び膝蹴りしてくるだろ。」

さっき倒れたせいかもしくは、元から頭がイカレているせいかバカなこと言いだした智輝。

「いや、しないわ。全国のチンピラに謝れお前。」

チンピラに対しておかしな認識をしている智輝。流伽は、友として真剣に病院を探すべきかを考え始めた。

「お前されたことでもあるのか。」

「あるよ。」

「あるんかい。」

実体験なら仕方ないと割り切る流伽。

「ちなみにそのチンピラうちの兄ね。…それより俺のスマホ知らね?ぶつかった時にどっか行ったんだけど。」

「お前の兄貴かよ。…てか兄をチンピラ呼ばわりしてやるなよ。」

思いもよらない正体が明かされたが、一連の出来事によって智輝はスマホを落としてしまった。

「仕方ないだろ。あいつはマジもんのチンピラなんだから。あれ?マジで俺のスマホどこ行った?」

流伽と二人で周りをキョロキョロと探す。

「あの。これだよね。きみが探している落とし物は。」

声をかけられ声の主のほうを向くと、そこにいたのは二人の女子学生。おそらく声をかけてくれたほうは、大きい切れ長の目を持っている美少女だ。キリッとした顔立ちが特徴のキツネ顔だ。髪型は黒髪ショートと万人受けするタイプ。そして、服装は黒のトップスとグリーンパンツによるパンツスタイルでシンプルな恰好ではあるけれど、とてもオシャレに見える。髪型や服装、それに言葉遣いから『かわいい』や『綺麗』よりも『カッコいい』という言葉が一番しっくりとくる。


「あっ。そ、それです。」

「そう。はい、どうぞ。」

カッコいい女性が落として探していたスマホを拾ってくれ、さし出してくれた。

「ありがとうございます。」

「たまたま目の前にあったからね。運がよかった、見つかってよかったよ。」

「紗綾ちゃん。授業始まるよー。」

後ろで名前を呼んでいる女子学生は、魅力的なたれ目を持ち、愛らしい顔立ちの美少女だ。髪型は、ほんの少し明るめの茶髪セミロングだ。服装は、白のTシャツと黄色のスカートととても清楚な雰囲気が醸し出されている。こちらは、目の前の女性に比べ、『かわいい』という言葉がしっくりくるという印象だ。どうやら目の前にいるスマホを拾ってくれた女性は『サヤ』というらしい。

「オーケー。今行く。じゃあ。」

そう言い軽くお辞儀をすると紗綾は後ろの女子学生と合流し、建物のほうへ向かい、歩き始めた。


時間としては数十秒と一瞬だが、歩いている紗綾の背中に智輝は目を奪われていた。

目を逸らすことは、簡単なのに何故だか智輝にはできない。まるで彼女を中心とした引力が働き、その力によって視線を奪われ続けているような、そんな感覚が働いている。

『トクンッ』

自分の胸から目を奪われる答えを提示された。

――たかが一回話しただけだぞ。それもほんの一瞬。

答えが出たのに何故だか認めたくない。

『トクンッ』

早く認めろよと言わんばかりに胸が鳴る。


ラブコメ漫画などで主人公がヒロインに対して一目惚れする感覚が分からなかった。いつも変な主人公だなと思っていた。何なら一目惚れなんて恥ずかしい。そんな気持ちを抱いていた。なのに、今自分に起きていることは、ラブコメ漫画の主人公そのものだ。


――マジかよ。恥ずかし。


「…い。おい。智輝。おーい。」

「…悪い、どうかしたか。」

流伽の呼びかけにより自分の世界から抜け出すことができた。

「大丈夫か?」

「ああ。」

「そうか。」

「…なぁ流伽。」

「どうした。」

「……俺さぁ。」

「うん?」

もったいぶる智輝に流伽は少し怒りを感じながら聞き返した。

「……俺、一目惚れしたみたいだ。」

「へぇー。そうか。」

智輝の告白に流伽は茶化したりせず、声を荒げることもせずに、目の前で告げられた告白を受け入れる。あるいは、智輝に対して全然興味がないのか。


――もし興味がなかったらさすが泣くかもな。だって仮にも友達だぜ俺ら。


「ショートカットの子?」

「えっ。」

「なんだ。違うのか。」

「いや。…正解だけど。お前……怖ぁ。」

あまりにも察しが良くて智輝は流伽に対し、恐怖を覚えた。


――たった一瞬でよくこんなにもわかるな。もしかしてこいつ俺のこと好


「安心しろ。お前のことは、落書きをされまくった教科書と同じ価値だと思っている。」

「待って待って。怖いし、嬉しいし、バカにされてるし、理解できんし、で感情が渋滞しとるわ。一旦整理させて。」

「いやだよ。あとなんで嬉しいの?」

「えーっと。俺の考えてることが分かるなんて俺のことをちゃんと理解してるやんって。」

「キモイ。」

「うるせえ。」


「まぁ頑張れよ。」

少し間をおいて、流伽が智輝を応援した。

「なんかお前が素直に応援するって裏がありそうで怖い。」

「お前、…俺をなんだと思っていやがる。」

「冷血人間。」

「即答すんな。」

「事実だから仕方ない。でもありがとよ。俺頑張ってみるからさあ。」

「そうか。」

そう言った流伽は何故だか少しうれしそうに口角が上がった。

「何してんだ。早くしないと授業間に合わないぞ。」

そう言うと流伽は校舎へ向けて歩き出した。

「おう。」

返事をし、小走りで流伽に追いつき一緒に校舎へと向かう。




そうこれは、どこにでもいるただの大学生 光守智輝の恋物語だ。

俺の心に住み着いた君と出会い、そして………。

ただそれだけの物語。





第一章攻略開始




 人は自分が持ち合わせていないものに対して、ひどく憧れ、嫉妬してしまう生き物だ。

そう、例えるなら、運動ができない人は、運動ができる人に対し、憧れを感じ嫉妬もする、勉強が苦手な人は、勉強が得意な人に対し、憧れと嫉妬を感じる。だからこそ、俺―光守智輝は、今、ひどくモテる人に対し、憧れを感じ、羨ましいとひどく嫉妬している。




「いいよなぁ~。イケメンって。憧れるわ~。『イケメン』その単語だけで周りの人から注目浴びて、めっちゃ目立てるよなー。羨ましいわ。」

『イケメン』という言葉の凄さ、いや、ただ嫉妬した発言を智輝は、空き教室の静かな空間の中、目の前でひたすらレポートを進める黒髪センター分けのイケメン真壁流伽に対し、ぶつける。

「別に憧れるのもいいし、嫉妬するのも勝手にしてくれたらいいが、手は動かせ。今日中に終わらせないと単位もらえないぞ。」

「うっ。……分かってるよ。」

目を逸らし続けていた単位を落とすかもしれないという現実に嫌でも向き合う二人。

「そうよ。早く手を動かしてよ。じゃないと私も帰れないじゃん。」

「分かっているって。」


そう俺たちを急かし、流伽の隣に座り、手伝ってくれている子は同学年の本多帆乃だ。

彼女は、茶髪のセミロングで大人っぽい雰囲気を醸し出している。今日は、髪を結びポニーテールと普段の雰囲気とは対照的で子供っぽい無邪気さ伝わる。

帆乃は、少し男っぽいしゃべり方で、人当たりが良く、だれとでも仲良くなれるそんな噓みたいな能力の持ち主だ。そんな性格もあってか男友達も女友達も多く、かなり交友関係が広い。

そんな彼女と俺たちの出会いは、大学初日のことだ。周りで話す相手がいなかった俺たちに、話しかけてくれ、仲良くなり、それから、3人でいる機会が増えた。そして、今終わりそうにないレポートを泣く泣く手伝ってもらっている。

「なーんで私に頼るかね。他にもいるでしょ。友達。」

「「いない。」」

奇跡的に智輝と流伽の声がハモる。

「えっ。……うそでしょ。」

あまりにも驚いた帆乃は、言葉を疑う。

「ほんと。帆乃しかいない。なぁ。流伽。」

目の前で黙々と作業を進める流伽に同意を求める。

「ああ。帆乃ちゃんしかいない。」

流伽は、頷く。

「はぁーーー。……もう分かった。とりあえずこの話はここで終わろう。」

帆乃は、長い溜息をつき、話を終わらすことを選択した。

「それより、智輝君が終わってないのは予想していたけど、流伽君も終わっていないのは意外だね。」

「おい。なんで俺が終わってないのは予想つくんだよ。おかしいだろ。もしかしたら、ごくわずかな可能性として終わっているという希望があったかも知れないだろ。」

「はいはい。戯言はさておき、なんで流伽君は終わってないの?」

適当に智輝をあしらう帆乃。

「おーい。適当にあしらうなよ。あと戯言って言わないで。悲しくなるから。」

帆乃にツッコむ智輝。

「最近、バイトが忙しくてな。レポートをやる暇がないんだ。」

「なるほどね。」

「あれ?もしかして俺無視されている。」

「流伽君はバイトなにしてるんだっけ?」

「今は、居酒屋とコンビニ。」

「あれ。掛け持ちだっけ?」

「最近コンビニを始めたから。一人暮らしだからもう少し金が欲しいんだ。」

「なーるほど。それは大変だね。頑張って。」

「おう。ありがとう。帆乃ちゃん。」

「やっぱり俺無視されてるよね。無視しないで。お願いだから。」

「智輝君うるさい。早く手動かして。早く終わらせて、智輝君のおごりでプリン買って帰るよ。」

無視をされ続けてかまってほしそうだった智輝に帆乃が罰としておごりを確定させた。

「理不尽だ。」

これがレポートを終わらすことができず、無視され続けた男の末路だった。




一通りやり取りが終わり、レポートを終わらせるために集中して、黙々と取り組んだ結果、約一時間で終わらすことができた。




3人は大学を出て、わざわざ手伝ってくれた帆乃のために、近くのコンビニへと寄った。



帆乃は宣言していた通り、3個入りのプリンを、流伽はコーヒー。そして、智輝はおにぎりを買いコンビニ前で少し休憩することにした。もちろんすべて智輝のおごりだ。

「あのさ。帆乃におごるのはさすがにわかるよ。レポート手伝ってもらったし。けどさ、お前は違わない。」

コーヒーを片手で持ち、スマホをいじる流伽に不満をぶつけた。

「…気にすんなって。」

そう言うと流伽はコーヒーを一口飲んだ。

「……絶対お前が言うセリフじゃないだろ。」

「仕方ないだろ。今ちょうど金がないんだ。だからおごってくれてとても感謝している。」

「そうだそうだ。そんな小さなこと気にすんな。」

プリンを食べている帆乃が言う。ちなみに今は、2個目のプリンを食べ終わり、3個目へと王手をかけている。


――糖分摂取お化けめ。


「…はぁー。気にしてはないけどさ。次は流伽のおごりな。」

「給料が入ってからな。」

次は流伽のおごりが決まったことで話が解決し、智輝は買ってきたおにぎりを食べ始めた。ちなみに具はツナマヨだ。おにぎりの具に関しては、流伽は梅一択で帆乃はちょっと贅沢なイクラ派だ。出会った当初は、おにぎりの具についてそれぞれがプレゼンし、いくつもの議論を重ねた。

結果として、インターネットのサイトにより、王道の鮭が優勝した。この日ばかりは、3人とも鮭のおにぎりを買い、1位の凄さを身をもって体感した。そんなくだらないが、懐かし日常を思い出しながら、おにぎりを食べ続けた。




おにぎりを食べ終え、そのゴミを捨てに行ってきた智輝が、未だにコーヒーを飲んでいる流伽と3個のプリンを食べ終え、満足な顔をした帆乃がいる場所に戻ってきた。

「そういや、帆乃って友達多いよな。」

突然、智輝がスマホに目を向けている帆乃に聞いた。

「どうしたの急に。」

突拍子もない質問に何か意図がるのではないかと疑う帆乃。

「別に深い意味はないよ。ただ気になっただけだから。それでどう?。」

怪しがる帆乃。

「そうだね~。確かに多いほうだと思うよ。だって私みんなのアイドルだから。」

ドヤ顔で言い放つ帆乃。

「「……。」」

智輝は「なに言ってんだお前」と言いたげの顔で、流伽に関しては、真顔でスルーを決める。

「なにも無視しなくてもいいじゃん。」

今までとは違うボケに全く対応できなかった智輝と流伽。

「…それより、君たち二人が少なすぎるだけ。二人が私以外の友達と一緒にいるところ見たことないんですけど。」

「「……。」」

同時に顔を背ける智輝と流伽。

「大丈夫?ちゃんと友達いる?なんなら私の友達紹介しようか。」

質問に答えるだけでいいのに、わざわざ智輝と流伽の残念なところを指摘してきた帆乃。あまりの正論で受け答えもできない。

それで終わりのではなく、哀れんだ目で俺たちに友達までも紹介してきた。

「し、失礼しちゃうな。お、俺だって友達の一人や二人ぐらいいるもんね。たまたま帆乃がタイミング悪いだけだよ。だよなー流伽。あと、そんな哀れんだ目でこっち見ないで、なんかすごく嫌だから。なんかすごく下に見られてる気がするから。」

智輝は動揺しているのを悟られないよう口早に言葉を綴り、流伽にバトンパスする。

「まったくだ。いいか、帆乃ちゃん。智輝に友達がいないことは周知の事実だから納得してかまわないし、赤の他人に言いふらしても全く問題はない。けど、俺に友達がいない。そんなくだらない戯言を信じることはやめてくれ、名誉毀損で訴えてしまうぞ。」

普段しゃべらない男が長文で言い訳を始めた。

「おい、ちょっと待て。なんで俺に友達がいないことが事実なんだよ。しかも、周知ってなんだよ。周知って。まさか、みんなにとって共通認識なの。それになんで自分にはちゃんと友達がいるよってアピールしてんだよ。お前だって友達いねえだろうが。お前は、完璧男ですぐに何でもできちゃう凄い奴だけど、腹黒野郎だ。もう、真っ黒すぎてこっちが引いちゃうレベルにな。そんな完璧腹黒男に友達ができるわけないだろ。俺より作るの難しいわ。バーカ。それに流伽お得意の俺の評価を下げて、自分の評価を上げようとする手段。俺に通じるわけないだろ。いいか、お前ら2人の前での俺の評価はもうどうしようもないほど下がり切っている。今さら気にせん。あと、お前動揺しすぎて、いつもより饒舌に話しているぞ。自分から友達がいないことが事実だって言ってるも同然だぞ。」

智輝の評価を下げ、流伽は、自分自身の評価を上げたことに対し、智輝は見逃さず、ちゃんとかみついてき、怒涛の口撃を繰り出した。

そして、『どうだ。俺の勝ちだ。』と言わんばかりのドヤ顔でニヤリと笑った。

「よし。俺のターンだな。」

たった一言でこれから立場が逆転することが瞬時に理解できた。

「確かに、俺は友達が少ないぞ。そこは認める。けど俺はあえて作ってないだけだ。俺があまりにも完璧だからみんな俺とは距離置いて席に座っていくんだ。だが、友達が一人もいないわけではない。お前と違って一人もいないわけではない。バイト先の同期や先輩。そして英語のクラスで一緒の小坂君。履修した科目でもいつも誰かと一緒に授業を受ける。それに比べお前はどうだ。英語のクラスでは友達ができなかったと俺と帆乃ちゃんに相談してきたな。」

「確かに。そうだそうだー。」

思いがけない援軍帆乃によって着実にライフが削られていく。

そして、流伽の口から出た『小坂君』この名は何回も聞いたことがある。噂では、運動神経が抜群とか、成績がトップクラスとか、美少年とか、まるで漫画のキャラクターのような人物だと英語の授業でいつも近くにいるキノコ頭の梶谷君とメガネの田辺君が恨み言を言っていた気がする。さらにその近くにいた1軍女子たちは「うちらの学年って小坂、真壁の2強だよね~。」と流伽への評価が異常に高いことに違和感を抱いていた。そんな盗み聞きしている中、俺は、イヤホンをつけ机にうつ伏せとなり、だれとも目を合わせず、話しかけられないようにしている。


――べ、別に誰か話にきてなんて思っていないから。寂しいって思っていないから。


「さらに、おまえ、俺と一緒に昼飯食べないときどうしてる?」

「……ひ、一人で食べるか、そもそも食べません。」

「だよな。よって俺には少ないが友達はいる。そして、智輝には友達が?」

性格の悪い流伽は、わざわざ自分の口から決して言いたくないことを言わせようとしてくる。

「……い、いません。」

「正解だ。」

認めたくない事実を自分の口で言わされるというダイレクトアタックをくらい、圧倒的な敗北感を味わう。

「なに。この醜い戦い。」

一部始終を見ていた帆乃による率直な感想だった。




日が暮れ始めたのでコンビニを離れ、電車で帰る帆乃のため近くの駅まで行くことになった。ちなみに智輝と流伽の家は大学から近く通学方法は、二人とも自転車だ。

「そういえば、私が友達多いとなんなの?」

流伽による無慈悲な口撃により、メンタルをボコボコにされ、自転車を押して歩いている智輝に帆乃は聞いた。

「ああ。そうそう。あまりにもメンタルがボコボコにされすぎて本題を聞くことを忘れとったわ。」

先ほどの出来事のせいで自分が聞くべき本題を忘れていた智輝。

「それでなに?この友達が多い帆乃様に友達が少ない智輝君は何が聞きたいのかな~。」

先ほどの出来事をとことん煽る帆乃。


――なぜだろう。俺から質問をしたけどこの世で一番答えがもらいたくないのは


「おい。帆乃ちゃんそれは違うだろ。」

隣で自転車を押している流伽が智輝をフォローしようとしてくれている。

「智輝は友達が少ないんじゃなくていないんだって。」

「あっ。そっか。ごめん。友達がいない智輝君。」


――俺はこいつらのことが大嫌いだ。




 「ごめんごめん。からかいすぎたね。」

帆乃がケラケラと笑いながら、謝ってきた。一方、流伽は謝りもせず、自転車を押して、歩いている。『いつかこいつのことを腹から笑ってやる』そんな小さな目標を立てた智輝。

「それで本題はなに?」

「もう、からかわない?」

あまりにもからかわれすぎて疑心暗鬼になってしまった智輝。

「だいじょーぶだって。ねぇ流伽君。」

「もち。」

自転車を押している流伽が頷く。


――お前だけは信用できねぇよ


「帆乃はさ。『さや』っていう女の子知ってる?髪型は、黒髪のショートでイメージ的に『かわいい』や『綺麗』よりかは、『カッコいい』って感じかな。」

一目惚れしたあの子の特徴を伝える智輝。顔が広い帆乃ならもしかしたら友達。最悪でも知り合いかもしれないというわずかな希望にかける。

「あー。紗綾ちゃんね。知っとるよ~」。

流石みんなのアイドル帆乃から望んでいた答えが返ってきた。

「ほ、ほんとか。」

「ほんとほんと。確かね苗字が七森だったかな。忘れたけど、たぶんそうだと思うよ。」

彼女のことを知っているだけでも収穫だったのに、それに加えまさかフルネームまで知ることができるとは。

「連絡先は知ってる?」

「ごめん。連絡先はわかんないや。たまに会ったら話すぐらいだから。」

「なるほどね。」

さすがに欲をかきすぎたようだ。

「それで澪ちゃんがどうしたのかな~?」

明らかに答えが分かっているのにあえて智輝の口から言わせようとしてくる帆乃。そんな彼女の顔はニヤニヤとしており、口角が上がっている。

「お前性格悪いな。」

「それほどでも~。」

「褒めてねぇよ。」

はぁーーー。ため息をつく智輝。

「気になっているんだよ。その紗綾って子を。」

――なぜだろう、自分の好きな人を友達に打ち明けるのは、なぜこんなにも恥ずかしく、照れるのだろうか。今、絶対に変な顔になっているだろうな。

あまりの恥ずかしさにより、にやけながらもまっすぐ見てくる帆乃の視線から逃げた。

「おい嘘つくなよ。なにが気になっているだ。おまえ俺に一目惚れしたって言ってきただろ。」

空気を読むことが得意であろう流伽があえて空気を読まず告げ口をしてくる。

――こいつ。今日ほんとにめんどくさいな。いつもより三倍話してくるし。

「いいねー。智輝君楽しそうだね、なんかちゃんと大学生してるね。」

そう言うと帆乃は智樹に、向けて親指を立てグーポーズをしてきた。

「うるせえ。」

照れているのだろういつもより智輝の声は小さく、目線も下を向いている。おそらく照れて顔が赤くなっていることが二人にばれないようにしているのだろう。

「うーん。」

智輝の横で帆乃が右手を顎にくっつけ、首を少し傾げ、分かりやすく悩んでいる人のポーズをとる。

「よし。決めた、私、智輝君を手伝うよ。」

「はぁ?」

「俺も。」

帆乃が突拍子もないことを言い、続けて流伽も乗り気となった。

「ちょっと待て。確かにドラマや漫画だったらこんな展開はあるよ。けどさ、お前ら人の不幸話大好きなカスどもだろ。」

「「おい。」」

二人からいっせいにツッコまれるが事実なのだから仕方ない。二人といることが多い智輝が身をもって体感したことだ。


例えば、それは、三人でいることが増え始めた時、智輝が雨の日に転び捻挫をした際、ゲラゲラと笑い続け、散々バカにされ、挙句の果てにラーメンまで奢らされたという悲劇があった。それに限らず、大学のマドンナとイケメンの誰もが羨むようなカップルが大喧嘩し、別れた。そんな話が二人の耳に届いた際は、今まで生きてきた中で一番楽しそうに笑っていた。その瞬間は、さすがの智輝でも引いてしまった。



「それで本音は?」

「「面白そうだから。」」

屈託のない目で智輝を見つめ、史上最低な回答が返ってきた。

「このカスどもめ。」

友人とは思えない二人についつい捨て台詞を吐き出した。

「あのさ。どうせだったらなんか名前つけようよ。この三人の会に。」

智輝の恋に協力するこの三人のグループに名前を付けようと帆乃が言い出した。

「別にいいけどよ、……なんか案あるのか?」

智輝が帆乃に尋ねる。

「ちょっと待って。今考える。」

帆乃が「うーん」と首を傾げ、案を考えている。

帆乃の横にいる流伽も上を見上げ思考しているようだ。

「そもそも俺らよく三人でいるけど特にグループとか作ってなかったな。」

それもそのはず、この三人は基本会うことで用件を全て終わらせる。

個別に連絡を取ることなどそもそもする必要がないのだ。

「よし。決めた。」

帆乃になにか案が思いついたようだ。

「『友達がいない光守智輝がリア充になるように協力する会』だ。」

「おい。長いし、盛大にボケてくるなや。」

いろいろとツッコミどころが多い名前だ。

「この三人の面白グループ名を決めろ」というお題に対してipponを狙いに行ったそんな回答だ。

ただそれだけではなく、しっかり智輝をバカにしていくスタイルはお手のもとだ。

「なぁ、これいいだろ。」と自信満々に視線を向けてくるところまでがウザい。


「なぁ。帆乃ちゃん。」

隣で空を見上げ思考していた流伽が真面目な顔で帆乃の名前を呼ぶ。


ー-そうだ。言ってやれよ。ふざけるなって。


心の中で中学からの繋がりで親友(?)であるはずの流伽が味方となりフォローしてくれると信じていた。

「どうせなら後半を「友達のいる二人が協力する会」にしない」

まさかのこちら側もボケてきた。

「おい。お前を少しでも信じた俺の気持ちを返せよ。」

心の中で思っていたことが気づけば、口からあふれた。

「おおー。いいね!。さすが流伽君。けど少し長いね。」

「確かにそうかもな。呼びやすい言い方を考えよう。」

二人が盛大にボケて、必死にツッコんだ智輝。

なのにスルーされるとは思わず、開いた口が閉じなくなってしまった。

「そうだ。今一個思いついた‼」

「ああ、俺も。」

「いっせいに言お。」

「せーのっ!」

「「ボッチ智輝が頑張る会」」

人生生きていく中で決して言うことのないフレーズがなぜハモルのだろう。


「ツ、ツ、ツッコみきれるかぁーーー。」

ボケの応酬の中で必死にひねり出したツッコミだった。



智輝が帰宅した際、メッセージアプリから通知が来ていた。

どうやらグループの招待のようだ。

アプリを開き、グループ名を確認する。



「友達がいない光守智輝がリア充になれるように友達がいる真壁流伽と本多帆乃が協力する会」通称(ボッチ智輝が頑張る会)



智輝はスマホを投げつけた。


第三章    第一歩目の作り方

 



智輝の恋が成就するように、智輝の数少ない友達で中学時代からの多分親友(?)真壁流伽。大学で初めてできた友達の本多帆乃。そして、当の本人、光守智輝の3人で構成された、『友達がいない光守智輝がリア充になれるように友達のいる真壁流伽と本多帆乃が協力する会』通称『ボッチ智輝が頑張る会』とネーミングセンスのかけらもなく、大喜利によって名前を決めた会が結成されて、約1か月が経とうとしている。


結成されてからの進捗は、まだスタートラインにも立てていない状態だった。

それもそのはず、第一回の会議によりある方針が決まったからだ。

その方針とは、『智輝が紗綾と友達になる。欲を言えば、連絡先を交換する』だ。

この方針により、第一回の会議が終えたが、あまりにも紗綾と関われるような機会があらわれない。



「はぁー。」

自分でも意識せず、ため息がこぼれ落ちた。このため息がこの長く険しい大学までの道のりに対するため息か、はたまた、一目惚れをしたのにも関わらず、約一か月、何一つ進展していない自分に呆れ、こぼれ落ちたものか智輝には分からなかった。

長く険しい道を歩き終え、石を積み上げできた門を潜り抜けると目の前には、見覚えのある流伽と帆乃の背中が見えた。

「おはよー。二人一緒なんて珍しいな。」

「おう。たまたまな。」

淡々と返す流伽。

流伽が元気になるのは、中学のころから続けているサッカーをしている時と智輝をバカにしている時だけだ。

「そんで、なんでお前ら止まってんの。早く行こうぜ。確か1限みんな一緒だろ。でっかい教室だから後ろの席すぐ埋まっちまうよ。」

一向に歩こうとしない二人に向け、歩こうと提案する。

「お前。あれ。」

流伽が10メートル先を指さす。確かにあそこには人だまりができている。目を凝らし、よく見てみると、2人の女性に対し、3,4人の男性が迫っており、その周りにたくさんの人が集まって、人だまりができているようだ。迫っている1人の男性は声を荒げ、2人の女性を威圧している。


――怖そうー。かかわりたくねぇ。


うっかり本音が漏れそうになる。

「おい。違う道から行こうぜ。」

足を止めている2人の理由を知ったことで遠回りすることを勧める。

「智輝君気づかないの?」

帆乃が今日はじめて口を開いた。

「なにが?」

焦らす帆乃のほうを向く。

「あれ、紗綾ちゃんだよ。」

「えっ?」

急いで、人だまりのほうを振り向き、女性の顔を確認する。少し距離があるため、確証は持てないが、黒髪のショートカットですらりとしたまるで、モデルかのような手足、そして、時々聞こえる、少し男勝りなしゃべり方。間違えなく紗綾だ。


「ドンっ」背負っていたリュックをその場に捨て、何も考えずに、紗綾のところへ向かい走り出した智輝。

後ろからは流伽と帆乃が自分の名前を呼んでいるのが、本能のまま動き出した体を止めることはできない。

人だまりができている中、人と人との間をするりするりと抜けていき、この騒動の中心へと向かう。



「だから今日の夜少し遊ぼうよ。…カラオケ。カラオケ行こうよ~。」

「何回も言ったが、私たちは、今日の夜お互いに用事がある。誘われたという事実はうれしいが、今日は無理だ。また、予定がない日にでも誘ってくれ。」

「ねぇ。いいじゃん。」

紗綾をナンパしている男が紗綾の左腕をつかむ。

「ちょっと。ほんとに。」

紗綾が反論しようとした瞬間。

「ちょーーーっと。まーーー。あっ。」

紗綾とナンパをしていた男の前で盛大に智輝がこけた



――や、ヤバい。何も考えず飛び出してしまった。どーしよう。ノープランすぎる。一旦落ち着け。俺は誰だ。そう、天才光守智輝(自称)。こんな場面は、ドラマだったら確か、『おい、俺の女になにか用か。』これだ。これしかない。これを少しイケメン風に言えば、相手も『こ、こいつやるな』って勝手に思ってくれるはずだ。


その時、智輝の目に入った光景は、ナンパしている男が紗綾の左腕をつかみ、無理やりでも連れて行こうとしているシーンだった。その瞬間今まで思考していた全てのことを忘れ、ただ、一生懸命紗綾のもとへ走り出していた。



「ちょーーーっと。まーーー。あっ。」

声を荒げ、必死に止めようとした瞬間、足がもつれ、「ぐちゃ」と音を立て、盛大に顔からこけた。



怖い男子学生からナンパにあっている可哀そうな女子学生という光景から、一瞬でそのナンパをかっこよく止めようと出しゃばってきた男子学生が顔から盛大にこける。

話を聞くだけでは、意味を理解するなど到底難しいが、実際この現場では、なんとも言葉で表すことのできないカオスな空間が出来上がってしまった。

ナンパをしていた男子学生もナンパをされていた女子学生もあまりにもカオスすぎる場面なので、ナンパをしていた、されていた事実を忘れ、つい転んだ智輝の心配をする。

二人が近づくと、むくりと起き上がり、紗綾の前に立ち、ナンパしていた男に言い放つ。

「ちょっと。待った。」

「うん。お前がな。」


智輝の顔からは、鼻血が垂れ、顔はひどく赤く、目には涙がたまっている。この涙が顔を思いっきり打った時にできたものか、もしくはこのたくさんの人がいる中かっこつけて現れたにも関わらず、盛大にこけたことに対する恥ずかしさからなのか。

ここだけは詮索をしてはいけないようだ。

「だ、大丈夫か?」

男子学生が智輝を心配する。

「何のことだ?」

「いや、お前盛大にこけ」

「こけてない。何かの見間違いではないのか。」

男子学生の言葉を遮ってでもこけたことを見間違いにしたいらしい。

「だって、その鼻血。」

「鼻血なんか出てない。」

「いや、出てるよ。なんで嘘つくの。」

すっかりナンパからコントになってしまった。



「はぁーー。なんか白けちゃったよ。今日は帰るよ。ごめんね二人とも。」

そう言うと、男子学生どもはもうすぐ1限が始まるにもかかわらず、帰ってしまった。



カオスな空間から解放された学生たちは、各々教室に向かい始めた。そんな中、鼻血を出してしまった智輝は人が少ない場所に行き、紗綾ともう一人の女子学生遠山梨香に軽い治療をしてもらっていた。

「智輝君。やっと見つけた。大丈夫?」

そこに現れたのは、心配そうな顔で智輝を見つめる帆乃とさっきまで笑っていたのだろうか腹を抱え、少し息が苦しそうな流伽が合流した。

「大丈夫。」

その一言で「ほっ」と安心した表情を見せる帆乃。

「智輝。最高に面白かった。」

「うるせぇ。」

流伽はグットポーズを智輝に向ける。


やはり腹を抱えるほど笑っていたようだ。こいつには中学時代からの大切な友達を思う気持ちが欠落しているようだと改めて智輝は認識する。

「紗綾ちゃんと梨香ちゃんも大丈夫?」

さすが帆乃だ。どっかの誰かとは違い、友達を思う気持ちを忘れていないようだ。

当たり前なことなのになぜだかすごくまぶしい光景だ。

「うん。私は、大丈夫。梨香は大丈夫か?」

そう言うと、紗綾は梨香の方を向き、

「うん。私も大丈夫。最初は怖かったけど、彼が来てからは怖いよりも面白くなって、心配が後からきて怖かったことを忘れていたから。」

梨香は、智輝の方へ手を向け、智輝のおかげで大丈夫だったことを強調する。

――なんか俺のせいでいろいろな感情を持たせてしまってすんません。


「そう。無事ならよかった。それより、君は大丈夫なの?」

紗綾がこちらに顔を向けてきた。

急に顔を向けられ、硬直してしまう。

近くでこんなに顔を見るのはいつぶりだろうか。多分だが初めて出会った時以来な気がする。

たまに遠くから見かけると、髪が短く、「きれい」で「カッコいい」の印象が強かったが、改めてこんなに近くで見るといつもの印象の180度も変わる。一番に目につくのは大きな瞳だ。たれ目という初めて会った時の印象は変わらないが、まさかここまで女性らしさを感じるとは思わなかった。今、智輝を見つめている瞳は、決して口だけで心配しているのではなく、本当に心配してくれていることが伝わる。

見れば見るほどその瞳の虜になってしまう。そんな感覚だ。


「君、君?大丈夫か?」

「あ、ああ。俺?俺は全然大丈夫。ちょっと考え事していて。」

彼女の瞳の虜になってしまったようだ。紗綾の声に全然気づかなかった。適当に言い訳をした。

「そうか。ならほんとーーに。よかった。」

――ここまで自分のことを心配してくれる人はいるのだろうか。

そんな風に考え始めるととてもうれしくなった智輝。


すると、紗綾と梨香がいっせいに俺の方を向き、頭を下げた。

「…えっ?ちょっと何してるの。」

「「助けてくれてありがとうございます。」」



このお礼を聞けただけで痛い思いも恥ずかしかった思いもすべて報われたそんな気がした。



「どーいたしまして。」

あまりにもうれしくて智輝は、無邪気に笑った。

「おい。帆乃ちゃん見てみろよ。あいつただこけただけなのにあんな無邪気に笑っているぞ。お前は、笑う方じゃなくて笑われる方だって言ってやりなよ。」

「確かに。あの満面の笑みはさすがに気持ち悪すぎるね。ただこけて場を荒らしただけなのに、どの面下げてあんなにうれしそうに笑えるんだろう。」

せっかくの良い場面をあえて空気を読まない二人によってぶち壊された。

――お前らほんといい性格してるよな。



「それで何かお礼がしたいのだけど。」

5人で各々の教室へ向かう道中、紗綾が言い出した。

「えーっと。気にしないでいいんだけど。」

智輝は紗綾からの提案を断る。

それもそうだ、自分が勝手に動いて勝手にこけて、ケガをしたのだから。治療までしてもらったのに、お礼までもらってしまったら、自分が恥ずかしくなってしまう。

「そうだよ。気にしないでいいよ。こいつがしたことはただ場を荒らしただけだから。」

智輝が考えていたことを流伽は全て言葉にし、告げた。


――ってか。それはぜんぶおれのセリフだろうが。


「そうだよ。紗綾ちゃんも梨香ちゃんも気にしないでいいよ。流伽君が言った通り、あの場で智輝君がしたことなんてただ余計に場を混乱させたことだから。むしろ、智輝君こそが謝るべきだと私は思うな。」

すかさず、帆乃の援護口撃が来る。

「同感。早く謝れよな。智輝。」


――お前ら、口裏合わせているだろ。あと、俺ら一応友達だろうが。なんで俺の敵になるわけ。お前ら、俺のこと友達とも思ってないわけ。


だが、ぐうの音も出ない程二人の意見は正論だった。

「この二人に全部言われたけど、まあそういうことだから気にしないでね。」

「で、でも。」

なかなか引き下がらない紗綾。

どうしたもんかと困り、帆乃に視線を向けると、帆乃はお決まりの考えているポーズをとり、「あっ。」とひらめいた声をもらした。

「ならさ~。紗綾ちゃんと梨香ちゃん。智輝君の友達になってくれない?」

「……はぁ?」

帆乃から予想外の提案に智輝はつい戸惑いの声を出した。

「ちょーっと。待ってどういうことかな。帆乃?」

「智輝君さ、友達がいないんだよね。」

「おーーい。無視しないで帆乃さん。無視だけはやめて。それか今すぐ、その口を閉じて。」

智輝を無視し、話を続ける帆乃。そして、その光景を見ていた流伽は何かを察し、智輝の体を捕まえ、暴れないよう行動を制限した。

「おい、何しやがる流伽。今すぐ、俺はこの女の暴挙を止めなければならない。……あとこれ以上を二人に聞かれたくない。」

拘束してくる流伽に対し、流伽にしか聞こえないような声でやめろと忠告する。

「まあまあ、ここは帆乃ちゃんに任せてみようぜ。同性同士だからこそ分かることだってあるさ。」

流伽が智輝の耳にそう囁く。


――確かに一理あるな。


流伽にしては妙に説得力のある内容だった。

「それに、帆乃ちゃんならなんか面白そうなことしてくれそうだし。」


――撤回。こいつの本音はどうやらこっちのようだ。

拘束から抜けようと暴れ、抵抗するが、さすが運動部といったところだろう。全然拘束が外れない。


「それで、どうかな?二人とも?」

どうすれば流伽の拘束から抜け出せるかを考えていると帆乃が紗綾と梨香に提案をし終わっていた。


――な―に。勝手に提案し終わってんの。バカなの。帆乃はバカなの。これで「そ、それ

だけは、ちょっと。」って言われた時の俺の気持ちを少しは考えろよ。あまりショックで「もう友達なんかいらない。てか人と関わりたくない。」という未来まで鮮明に見えたわ。それから俺は一人で生きていき、一人で勝手に死んでいくんだ。


何故だが、否定することのできない未来を思っていると。

「…えーっと。そんなことでいいの。」

思いもよらない答えが紗綾の口から飛び出した。

「ふぁっ?」

思いもよらない答えにより、智輝の口からこの場にそぐわない単語が口から漏れた。

「「ふぁっ?」」

あまりにも変な擬音だったので、流伽と帆乃が反応し、智輝の方を向く。


――こ、こっち見んな。分かっているよ。変な言葉だなって。


二人からの視線が恥ずかしく、顔を背け、少し耳が赤くなる智輝。

「全然いいよね。梨香。」

「う、うん。私のこんな性格のせいで知り合いが少ないし、友達ができることはうれしいよ。」

紗綾の後ろにいた梨香も案外乗り気なことに少し驚きを感じる。

「だって。よかったね。智輝君。」

まるでしてやったりと言わんばかりのいたずらっ子の顔を帆乃が向けてくる。


――今回だけは、さすがに帆乃に感謝せざるを得ない。


「ありがとな。」

帆乃に近づき、帆乃にしか聞こえない声でそうつぶやいた。

「貸し1ね。」

そう言うと、帆乃は智樹の後ろに下がっていった。

そして、目の前の二人に方を向き、自己紹介をする。

「えーっと。俺は、安芸山大学1年光守智輝です。みんなからは智輝って呼ばれるのでそう呼んでくれると嬉しいな。友達がいな、いや、少ないので友達になってくれませんか。」

なんだかぎこちない自己紹介になってしまった。後ろからは「なんだ、その自己紹介なめてんのか。」そんな圧を強く感じる。

「ふふっ。智輝君は面白いね。私も安芸山大学1年の名前は、七森紗綾。うーん。そうだな~。私のことは紗綾と呼び捨て呼んでほしいかな。あと、私も友達があまりいなくて、いつも隣にいる梨香と一緒にいる。友達少ない同士仲良くよろしく頼むよ。」


面白い女性だ。


――紗綾と少し話して率直に思ったことだ。先ほど男子学生に絡まれた時には、凛としており、カッコいい印象ではあったが、実際に話してみると、発する言葉一つ一つから、女性らしさを感じる。そんな彼女は友達のために、困難に立ち向かえる。そんな強さを持った女性だ。そんな強く、凛々しく、かわいい彼女にますます惚れてしまう。

「わ、私も1年生の遠山梨香です。私は、人見知りが激しくて、友達が紗綾ちゃんしかいないの。つまらない人間で面白くもないけど友達になってくれたら、すごくうれしいです。あと、私のことも下の名前で呼んでくれたらうれしいです。」



――なかなか個性が強い女の子だ。自分のことを面白くないと言っている時点ですでに少し面白いということに彼女自身は気づいてなさそうだ。容姿や品が優れているので、帆乃のようにとは言わないが、もう少し自分に自信を持っていいと思う。


「よろしくな!紗綾に梨香。」


こうして今まで遠くでしか見ることができなかった二人と「友達」という新たな関係を作ることができた。


ようやくだが、第一歩目を踏めた気がした。



たとえ、この先どんなことが起きようともこの日の気持ちを忘れることはないだろう

第4章    反省、そして…




ナンパされていた紗綾と梨香を助けた?いや、助けられた?そんなよく分からないイベントがあり、無事に二人から名前と顔を覚えてもらった俺、光守智輝はものすごく浮かれていた。どのくらい浮かれているかというと、いつもフワフワしているそんな感覚だ。今なら、流伽や帆乃にいくらでも奢ってあげれるそんな感覚だ。ラーメンを流伽におごった際、流伽から「なんかお前口角上がりすぎだし、幸せオーラも出ててなんか気持ち悪い」

といつもなら冗談っぽく言うのに、真顔で言われる始末だ。さすがにこの一言はかなり傷ついた。



「あのさ、智輝。お前なんか勘違いしてね。」

いつものメンバーである流伽と帆乃と一緒に大学下のコンビニでいつものように買い食いをしていると、流伽が不意にそんなことを言い出した。

「勘違いって?」

流伽の言っている意味が分からず、ツナマヨおにぎりを咥えながら尋ねる。

「はぁー。お前名前覚えてもらっただけでゴールしたと思ってんのか。」

「そ、そんなこと思ってねぇよ。」

図星と突かれ、少し動揺する智輝。

「お前あれから、進展あったのか?」

「あ、会ったら少し話すぐらい。」

自分の恋路を友達に話すのはどうしてこんなに恥ずかしいのだろうか。


「他は?」

「と、特にないです。」

智輝自身の口にすることでいかにも自分が何もできていないことを実感する。

それよりも今日は、なぜか流伽の圧がすごい。

いつもだったら「お前バカだな。」とか「だからお前には友達ができないんだよ。」とゲラゲラと笑っているイメージなのに。今日は、真剣に相談に乗ってくれている感じがすごい。

「あのな~。「ごはん行こっ。」とか「遊びに行こっ。」って誘えよ。中学生じゃあるまいし。」

「誰が中学生だ。」

いつものノリが戻り少し安心する智輝。

「そもそもさぁ、智輝君連絡先交換したの?」

今までプリンを2個とひたすら糖分を摂取していた帆乃が口を開く。

「……っ。」

糖分摂取お化けの発言により、黙ってしまった智輝。

「はぁーー。」

流伽がここ一番のため息をつく。

「だからお前は」

「「友達がいないんだよ。」」

残酷な事実をわざわざ二人ハモらせて告げてきた。

「……。」


ライフポイントをボコボコされた気分になった。



「よし、次の智輝君の目標は、連絡先の交換だね。」

コンビニを後にし、駅に向かう道中に帆乃が元気よく次の目標を提案した。

「「無理だろ。」」

意気消沈した智輝と冷静に現実を見ている流伽の声がハモる。

「ど、どうしたの智輝君。急に元気なくして。智輝君の良いところはいつも元気でバカっぽいところだよ。」

「フォローになってないよ。帆乃。」

帆乃の中では精一杯フォローしたつもりなのかもしれないが返って智輝を傷つけてしまった。

「まあそうか。こいつにある程度を期待した俺がバカだったかもな。」

突然独り言のようにつぶやく流伽。

そして智輝の肩に手を置き、力強く言う。

「智輝。お前はバカだ。」

「引っ叩かれたいのか。」

純粋な悪口によりつい本音が漏れた。

「お前はバカなんだから、何も考えず、連絡先聞いてみろよ。あれだ、当たって砕けろだ。お前にはその資格がある。」

「貶すのか、アドバイスしてるのか、バカにしてんのかどれだよ。」

おそらくすべてあてはまっているんだろうなと察した智輝。

「……けど、ありがとな、その、なんていうか気にかけてくれて。」

中学の時から親友に今さらお礼を言うのはなんだか恥ずかしいがこれだけは伝えなくてはと智輝は思った。

「なに言ってんだ。全部俺のために決まってんだろ。俺はお前が一生懸命やって空回っている姿が好きなの。今のお前はなんか幸せそうでフワフワしているのがすごいむかついただけだ。」

まさかの私利私欲のために自分のことを心配していたという衝撃的な事実に言葉ができない智輝。

「それ、激しく同意。最近の智輝君フワフワしててなんかむかついたんだよね。」

やはりこの女も智輝のことを裏切ってきた。


自分のことを心配してくれ、自分のことを励ましてくれたのと勘違いした自分がとても恥ずかしくなる。


――やっぱ。俺、お前らのこと嫌いだよ。


そうどこまでも広がり、暮れていく孤独な空を眺め、二人には見られないよう溢れそうな思いを必死に隠す。


「あれ?もしかして、智輝君泣く直前。えーっと。私、流伽君と話して、智輝君のこと忘れておくから。このティッシュ使って思う存分泣いてね。」


帆乃に気づかれ、ティッシュを渡される智輝。

帆乃は、駆け足で智輝の少し前へと出た。


「なんだ。お前泣きそうなのか。…どうせ、お前のことだ。自分のことを心配してくれて、励ましてくれていたと思ったら、俺たちが自分のことしか考えておらず、勝手に勘違いした自分に恥ずかしくて泣きそうなんだろ。安心しろ。今日お前が泣いたことはちゃんと忘れといてあげるから。気にせず、泣けよな。まぁ、お前にとっては絶対に忘れられない黒歴史が一つできたけどな。」

まるで、智輝の心を覗いたのだろうか。百発百中で当ててきた。それに加え、ちゃんと智輝のことを煽ってきた。もはや、煽りのプロの領域だ。

そう智輝の心を読み切った流伽は、前方を歩いている帆乃の隣に立ち、二人で談笑し始めた。


――フッ。今日分ようやく分かったよ。俺は、お前らのことが嫌いなんかじゃない。大っ嫌いだって。


そうあのどこまでも広がり、暮れていく孤独な空に思いを馳せ、帆乃からティッシュを静かに受け取った智輝。


何故だか涙はなかなか止まらなかった。




第五章     親友であるために




「昨晩の記憶はほぼない。」


いきなり中学から腐れ縁の親友(?)に真顔で言われたら、どう返すのが正解なのだろう。

普通、親友であれば、

「大丈夫??」

と心配するのだろうか。


いや、なんとなくだが、これではない気がする。


もしくは、

「えーーっと。とりあえず、病院でも行くか?頭の診察してもらって、生まれつきのそのバカを直してもらおうぜ。」

と辛辣なセリフを投げ捨てるのだろうか。

確かに俺、真壁流伽と光守智輝の関係性からしたら、心配するよりも違和感はない。

だが、なんだか引っかかる。

そもそも一晩で自分の勘違いで恥ずかしく泣いた黒歴史を忘れることは可能なのだろうか。

いくら、智輝がどうしようもないバカだとしても、そんな都合よく黒歴史を忘れることはできるのだろうか。

むしろ、そんな能力があるなら少し分けてもらいたいぐらいだ。


「お前さ、昨晩のことどこまで覚えてんの?」

一応確認のため、昨日の出来事の話題を振る。


「えーっと。確か、流伽と帆乃が真剣に俺の相談に乗ってくれたことかな。」

「そ、それだけ?」

「え、それしかなかったじゃん。他になんかあったっけ?」

あまりにも都合がよすぎる答えが返ってきた。


――やはりこいつはどうしようもないほどの大バカ野郎だ。


そう改めて認識をし、流伽が智輝に対し、送った答えは、

「……いや。なにもなかった。」

興味を持たないことだった。

これ以上、触れてはいけない。

中学のころからこいつのことを知る俺の感覚がそう伝えてくる。


――これ以上触れてしまったら、なんか怖いし、絶対後悔する。


「それで、今日もコンビニ行くか?」

適当に智輝に話題を振り、昨晩のことを思い出させないよう作戦を流伽は執った。

「もちろん行く。」

どうしようもないほどの大バカ野郎な智輝は、流伽にグーポーズをする。


――よっし。これで勝った。


と大バカ野郎智輝には見られないように流伽は、隠れてガッツポーズをとる。

すると、

「おっはよーー。智輝君、流伽君。」

後ろから元気印の帆乃ちゃんが来た。

「おはよう。」

「おはよう帆乃。」

そう挨拶を交わすと、帆乃が智輝の顔を覗き込み、

「あれ、目腫れてないね。昨日、帰る途中一人で泣いてたのに。」

まさかの爆弾発言をくらわせた。

おーい。と流伽がツッコもうとすると、

「帆乃はバカだな。もしかして俺よりバカなんじゃね。俺が一人で泣くわけないだろ。」

と帆乃を小バカにいながら笑っている智輝。


――バカはお前だ。


そう心の中でツッコむと。

「智輝君より、私がバカなわけないじゃん。もし、私が智輝君よりバカだったら私は、この人生ここで終止符を打つよ~。」

智輝にバカ呼ばわりされたのが気に入らなかったのだろういつもよりも強く智輝に当たる。

「おい。誰が、今世紀最大のバカだ。」


――まぎれもない事実だが、誰もそんなこと言ってない。


「……えっ。もしかして本当に何も覚えてないの。」

智輝の様子から帆乃ちゃんがついに察してくれた。

「覚えてないって何を?」

「私たちのこと勝手に勘違いして、一人泣いた黒歴史。」

俺がごまかそうとした事実を帆乃はまさかの会って数分で隠さず伝えた。



(帆乃ちゃん。なんで包み隠さず全部言うのかね。)

帆乃の横に行き、こっそりと話しかける。

(ご、ごめん。流伽君がいろいろ考えてたこと全部無駄にして。だ、だって。まさかそこまでどうしようもないほどのバカだと思わなくて。)


――そこに関しては激しく同意する。


流伽が隠していた事実を伝えられた智輝は、なにか考えことをし、ブツブツ独り言をつぶやいてる。


(ねぇ、ねぇ。なんか怖いんですけど、だ、大丈夫なのあれ。)

智輝からあれ呼ばわりとなった可哀そうな今世紀最大のバカ。

けど俺は、知っている智輝があんな行動をとる理由を。

(大丈夫。今あれは、8MBしかない脳の容量の中で、必死に思い出そうとしているんだ。)

(えーっと。こんなことを言うのなんか気が引けるから嫌だけど、智輝君って。よく今まで生きてこられたね。)

かなり辛辣なこと言う帆乃だが、事実なので流伽は、激しく頷く。

(俺は、この大学の卒論のテーマをどうしようもないほどのバカな親友の取扱説明書にしようかと一時期迷っていた。)

(流伽君って。智輝君に対して、異常なほどに辛辣だね。)

帆乃ちゃんが少し引き気味で俺に言ってくる。


――仕方ないことだ。すべてが事実なのだから。


流伽と帆乃の少し前方を歩く、智輝が「うーーん。」と言い、もう少しで思い出せそうな雰囲気を出す。


――それにしてもこいつまだ思い出せねぇのか。一回本当に病院で診てもらった方がこいつのためになると思うのだが。それか、こいつの脳みその構造がどんなんか写真撮ってもらった方がいいだろ。


「も、もう少しで思い出せそう。」

そんなことをつぶやく智輝。


――おっ。頑張れ。


何故か必死に成長しようとする息子を見ている気がしてつい応援してしまう流伽。

「あっ。紗綾ちゃんと梨香ちゃん。」

そんな時、もはやわざとしているのかと疑いたくなるタイミングで、帆乃が6メートルぐらい先を歩いている。紗綾と梨香を見つけた。

「紗綾と梨香?」

帆乃の発言が脳の容量があまりにも少ない智輝の邪魔をしてしまった。

「あっーーー。思い出した。」

意味の分からないところでよく意味が分からない発言をかます智輝。

「い、一応聞くけど。なにを思い出したんだ?」

恐る恐る尋ねる流伽。

「俺はーーーーぁ。紗綾と梨香の連絡先を聞かなければならなーーーい。」

「「……はぁ?」」

高らかに謎の宣言をする智輝。

あまりにも理解することができない流伽と帆乃。

そもそも今まで智輝の謎発言を理解したことはないが。

「……一旦整理しよう。まず、何があったらその結論に至るんだ?」

場を整理しなければやってられないと感じた流伽。

落ち着いて整理しようとするが、

「ん?だって昨日お前らが言ってただろ。俺の次の目標は、連絡先の交換だって。」


――確かにそんなことを言った気がする。言った気はするけど、確かそれ、かなり序盤で

言ったはず。ま、マジかこいつ。あんなに頑張って思い出したのに、結局これだけかよ。



「そしてーーーぇ。連絡先を交換したら、遊びに誘うんだーーーぁ。」

勝手に自己完結した大バカ野郎は紗綾と梨香のところへと走りだした。


「……。」

呆気をとられ、言葉にもすることができない流伽。


やはり、今世紀最大のバカを理解するのは、どれだけ天才が集まろうと、どれだけこのバカのことを知るやつがいたとしても無理だと分かった瞬間だ。


「あーあ。行っちゃったね。」

紗綾と梨香を目掛け走っていく智輝背中を見ながら、帆乃が言う。

「ああ。そうだな。……俺たちも行くか。」

謎の緊張感がほどけたのだろう流伽が重い腰を上げるように3人のところへと向かう。

「あのさ。」

「どうした?」

帆乃が流伽に何か聞きたいようだ。

「今からさ、私が言うことで、もしかしたら流伽君は怒るかもしれないけど、一ついいかな?」

「内容による。」

何故か流伽の確認をとる帆乃。

「たまにさぁ。智輝君と二人で帰るときがあるんだ。」


――俺がバイトですぐ帰るときか。


「そのときね。智輝君が「流伽の野郎が、あの腹黒流伽が」ってよく言っていることがあるんだけどさ。」

「今世紀最大のバカが俺を腹黒呼ばわりしてくんな。」

智輝に腹黒扱いされるのはとてもむかつく。

「それでね、正直引いたんだよね。智輝君のこと。なんかあまりにも流伽君のこと好きすぎて。」

「引いて当然だろ。気持ち悪すぎる。」

自分が思うまま帆乃に告げる。

すると、帆乃はクスクス笑った。

「けどさ、智輝君が友情とは別の感情で智輝君を信頼しているように、流伽君もそれと似たような感情で智輝君のことを信頼してるよね。」

「……。」

言葉にできないとはまさにこのことなのだろう。

「な、なにを言っているのかな?」

帆乃の発言にかなり動揺している流伽。

「うーんとね。なんでもできる万能マンで必要最低限以外は他者と関わらないようにしている流伽君が智輝君に対しては心を許す?やっぱりうまく言葉にできないけど、智輝君が流伽君に対して特別な感情があるように流伽君も智輝君に対して特別な感情があるよね。」

「ソンナワケナイダロ。」

片言になってしまった流伽。

「そうかな~?でもなんとなくだけど正解な気がする。今日まで二人と一緒にいた私が言うんだもの。」

女性だから恐ろしいのか、それとも今まで一緒にいた帆乃だからこそ恐ろしいのか。よく分からないが、とりあえず、帆乃はすごいと認識した。


「あんまこうゆう自分語り好きではないけど、まぁ独り言と思って聞いてて。」


この場にいるのが帆乃だけだからなのか、普段秘密主義の流伽が少し自分の本音を語る。

「中2の時にさ、俺ちょっとしたいじめに遭ったことがあって。理由としては、スポーツ、勉強なんでもできて、それだけではなく顔までイケメンという完璧男俺に嫉妬していじめたんだと。」

「なに自慢?」

「黙って聞いといてくれよ。」

茶々を入れてくる帆乃。

「それで正直他人のこと信じれなくなった。だって人間は嫉妬する生き物じゃん。俺が俺であろうとすればするほど周りの奴らの嫉妬心のせいで生きるのが苦しくなる。あの時は、ほんとに苦しかった。毎日周りの奴のヘイトを集めないように注意してた。」

帆乃の方を向くと真剣な顔をして話を聞いてくれている。

「けど、中3の時はじめて智輝と一緒のクラスになったんだ。そしたらあいつさ初対面の俺に向かって「おまえさ。なんでもできる完璧男だろ。すげえなー。」って目を輝かして言ってきたんだ。今までずっと褒められてこなかったからその一言で救われた。俺は俺でいていいんだ。我慢しなくていいんだってね。」

「へーー。そうなんだ。」

「さっき帆乃ちゃんが俺は智輝に心を許してるって言ったけど、ちょっと違う。俺はあいつに夢を見ているんだと思う。智輝ほどどうしようもないバカを俺は知らないし、智輝ほど誰でも信じることのできるやつを俺は知らないし、智輝ほど真っ直ぐな奴を俺は知らない。俺が決して歩くことのできない道をあいつは歩いている。そんなあいつがすごくカッコよくて、すごく憧れて、少しだけ嫉妬する。そんな俺が持っていないものを持っている智輝がどんな道を歩むのか。その道の先まで俺はあいつの横に居たいと思う。」

何度も言葉に詰まりながらも自分の内にある気持ちをただ一生懸命友達である帆乃に伝えた。不器用に言葉を繋ぎながら。

「なんか悪いな。うまく言葉にできなくて拙い文章になってしまったわ。」

「うんうん。全然大丈夫。気持ちは伝わったから。ありがとう伝えてくれて。」

流伽が紡いだ言葉を帆乃は深くかみしめ、感謝を告げる。感傷に浸りながらも精一杯の笑顔で。

「少しだけ、流伽君のことが分かった気がするよ。……そして、ちょっとうらやましな。」

最後の言葉は、流伽に聞こえるかどうか怪しい声量だった。

「悪い、最後なんて言った?」

やはり、流伽には聞こえなかったらしい。

「ううん。なんでもないよ。それにしても、智輝君は幸せ者だね。こんなにも自分のことを思ってくれてる親友がいるなんて…。」

からかったのだろうニヤニヤしながら流伽に言う帆乃。

「や、やめてくれ。」

照れたのだろう顔を背ける流伽。

その姿を見た帆乃は少しうれしそうに笑う。

「帆乃ちゃんこの話は」

「大丈夫。絶対誰にも言わないよ。他の誰かにこの話を聞かせるなんてもったいないよ。」

流伽が言いたいことを察した帆乃は流伽の言葉を遮り、約束をする。

「ほ、ほんと?」

「ほんとだって。信じてよ。」

誰かに話すのではないかと疑いの目を向けてくる流伽。

その疑惑の視線がうれしいのかまたも笑ってしまう帆乃。


「いた。おーーい。流伽、帆乃。聞いてくれよ。」

そんな空気の中空気を一切読まない今世紀最大のバカが帰ってきた。

「ほら、うるさいのが帰ってきたよ。」

智輝に注意を向けさす帆乃。

「ったく、しょうがないな。」

そう言う流伽の顔には少し笑みがこぼれていた。


 幕間    私が居たい場所




「じゃあ、行ってくるね。」

「あんま、遅くならないようにね。」

「ほいほい。」

リビングでテレビを見ているであろう母に向け、私の夜始まりを告げる。

私、本多帆乃の夜のルーティンとして、約1時間散歩をするがある。

歩くことは子供のころから好きだ。

高校生のころも毎日夕飯前に歩いていたが、大学生になってからは、夜に歩くことの楽しさを知ってしまった。

夜の良さはいくつもあるが、何といっても静か。これに限る。

静かな夜を一人歩くと、まるで、この世には私一人しかいないのではないか。そんな錯覚さえしてしまう。

7月の夜だから暑いかもと思い、上着を着ず出たことを少し後悔する。

私の家は、山の中にある。山を下りれば、ちゃんと町がある。けど、私の家は山の中だ。よく、友達に「帆乃の家ってどこ?」と聞かれるが、「山の中。」と答えた後の友達の「そ、そうなんだ。大変だね。」と帆乃の家には絶対行かないと線をひかれたり、実際家まで来た友達は、「帆乃の家なんでこんな山の中に建てたの。遊びに行くのめんどくさいよ~」と冗談のつもりなのかもしれないがデリカシーのないことを笑いながら、言ってきた友人もいた。

いつも「私だって好きでこんな山中に住んでるわけじゃないもん。」と決して言葉にはしないが思っていた。

だが、そんな中、智輝と流伽が私を家まで送ってくれた際、「帆乃、すごいな。こんな山の中だったら、なんか宝物とかありそうじゃん。テンション上がるーー。」「いいね。なんか、庶民どもを見下す貴族の気分を味わっている感じだな。」と相変わらずよく分からないことを言った智輝とひねくれ腹黒王子が垣間見えた発言をかました流伽を思い出し、クスリッと笑う。

「ほんと、あの二人と友達になれてよかったな。」

少し肌寒い7月夜の風が帆乃の独り言を静かな虚空へと響いていく。

心から思ったことがつい口から出てしまった。

そんな自分が恥ずかしくなり、パタパタと顔の前で手を動かす。だが、事実なのだから仕方ない。

私は、あの二人に比べたら友達は多いほうだ。高校時代は、いろんな子といた。クラスの中心でいわゆる1軍の子たちと一緒にいることをあれば、おとなしめ子たちと一緒にいることもあった。だからこそ、友達は割と多かった。大学でも、新しい友達はたくさんできた。高校生のころと同じような子と仲良くなった。簡単に言うと、私の交友関係は、広く、浅く。この一言に尽きるだろう。それが友達との関係で一番いいと私は思っていた。だからこそ、智輝と流伽の二人と出会い、一緒にいる時間が増え、二人の関係性が羨ましいなと思うことが増えてきた。二人の関係を後ろから見たいのではなく、二人の間に入り、横から見たい。そう強く思うようになった。

だからこそ、今日の出来事はとてもうれしかった。


あの秘密主義者で有名な流伽君の本音を聞くことができたから。

流伽君が自分のことを語るときは、正直に言うと、かなり葛藤した。まだ、二人の『親友』にもなれていない自分に聞く資格はあるのか。けど、聞けたら、私は二人の『親友』になれるのではないか。そんな相反する気持ちで流伽君の本音を聞いた。

流伽君の本音を聞いた今だからこそ言える、

聞けて良かったと。そして、


遠いな。


そう思った。

流伽君がどれだけ智輝君のことを信頼していることが分かった。智輝君の懐のでかさに少し感動すら覚えてしまった。

そんな二人の関係を私は嫉妬するほど羨ましいと思ってしまった。互いが、互いを。信頼しきっていることがよく分かった。

そんな理想な関係を『親友』という言葉で表すのだろうと思った。

だからこそ痛感した。私には、まだまだ遠いなと。

二人の横に立てると思い込んでいたけど、まだ背中すら見えてなかった。

「フ―――っ。」

ため息が漏れる。今、自分が立っている場所を重く認識した。つい、泣きそうになってしまう。


――ダメだ。ダメだ。


そう自分に言い聞かせ、指で無理やり口角を上げる。


――私は、二人の隣に立つんだ。


そう決意し、前を向く。

ふと、時間が気になり、スマホに目を落とす。もうそろそろ一時間が経とうとしている。

「よっし。帰ろっかな。」


明日、また彼らと笑うために。

明日、ほんの少しでも彼らの背中に近づくため。


 第六章    類は友を呼ぶ




「よっし。じゃんけんな。俺が勝ったら、智輝の奢り。帆乃ちゃんが勝っても智輝の奢り、智輝が勝ったら、智輝の奢りな。」

「おい。待て待て。どう足掻こうと俺の奢りが決定してるぞ。」

あまりにも理不尽な提案をぶっこんできた流伽にツッコむ智輝。

「…ったくしょうがない。じゃあじゃんけん負けたやつの奢りな。」

やれやれといった感じで当たり前の提案をする智輝。

「おい。それが、普通だからな。さっきの提案、やり方がヤクザそのものだぞ。」

「しょうがないね。金が少ない智輝君のため仕方なくじゃんけんしてあげるよ。」

「…なんで俺が毎度悪態ついた客みたいに悪者扱いされるんだよ。。」

納得がいかない智輝だが、じゃんけんに参加する。

「「「せーの。最初はグー。」」」



「ありがとうございます。またのご来店を。」

アルバイトの店員が決まりきった言葉を言う。

結果今日の奢りは、流伽だった。

「くっそー。負けたわ。」

「流伽君奢りありがとございやす。」

「食え、食え。」

別におかしくない状況だが、智輝は少し不満そうな顔をする。

「な、なんかおかしいな。」

「あ?なに言ってんだお前。それよりこれツナマヨ。ほい。」

明らかにおかしな発言をした智輝をうまくいなし、ツナマヨおにぎりを投げる。

「あ、ありがと。じゃなくて、今さ、絶対俺が奢る流れだったじゃん。俺が奢って「おまえらふざけんなよ」とか言って、和気藹々と話す流れだったじゃん。なに流伽普通に負けてるの。」

相変わらず、よく分からない発言をかます智輝。

どうやら今日も智輝節は絶好調らしい。

「なに意味わからないこと言ってんだ。早く食えよ。じゃないと俺が食うぞ。」

謎発言の智輝におにぎり食われたくないなら早く食べろと脅迫する。

「ハッ。ダメに決まってんだろ。バカかお前は。」

「バカはお前だ。それとなんだ。お前奢りたかったなら最初から言えよな。俺だって好きで奢ったわけじゃないんだからな。」

そうまるで、奢りたかったことが前提で話を進める智輝。

「いや、それはない。」

「ぶん投げるぞ。」

真顔で否定した智輝にイラっとした流伽は実力行使しようとする。

危険を察した智輝はおいしそうにあんまんを食べようとしている帆乃の後ろに隠れ、抵抗しようとする。ちなみに帆乃はあんまんを3個買ってもらい、すでに2個は胃袋の中だ。

「や、やめるんだ。い、いったん落ち着こう。その手に持っているコーヒーでも飲んで。なぁ。」

流伽を必死に説得しようとする智輝。

「あー。美味しかった!…それより、そんな茶番より本題に入ろうよ。」

3個のあんまんをものの数分で食らった帆乃が言う。


――ってか。早すぎない。


智輝と流伽が顔を見合わせ、おそらく同じことを思ったのだろうと察する。

「ん?なんか文句ある?」

ぷくっと頬を膨らませ、「文句があるなら言ってみろや、オラっ。」とでも言いたげな顔を二人に向ける。

「「いえ、なんでもありません。」」

逆らってはダメだ。ツッコんではダメだ。

本能で感じた二人は大人しくなった。


俺たちはどうやら帆乃だけには逆らえないらしい。


そうしみじみと感じる智輝だった。



「それで、あの後どうなったの?」

あの後というのはおそらく智輝が紗綾と梨香に連絡先を聞きに行った出来事のことだろう。


「なんと。驚くことにわたくし光守智輝は連絡先を手に入れることができました。」

「えっ。ほんとに?。」

「マジかよ。」

二人は驚きの視線を智輝に向ける。

それもそのはず、この二人は一切事情を知らなかったのだから。

本来であれば、あの後すぐに、流伽と帆乃の元へと戻り報告をするはずが、授業の始まりを告げるチャイムという邪魔が入り、報告ができなかった。その後も放課後になかなかタイミングが合わず、連絡先を聞いてから四日後にようやく3人で集まることができた。

少しは二人を驚かしてやろうかと思っていたがどうやら成功のようだ。

だが、二人はこそこそとカバンから何かを探してる。

「えーっと。なにしてんの。」

奇妙な光景につい尋ねる智輝。

「俺ら、ある賭けしてたんだよ。智輝が連絡先を交換するのに1週間かかるかどうかって。」

「……それで、二人はどっちに賭けたの?」

「俺は、交換できるに100円。帆乃ちゃんは……」

「できないに5000円。」

そう言う帆乃はかなり落ち込んでいる。当たり前だ5000円が急に消えたと考えたらさすがに恐ろしい。だが、問題はそこではない。

「いや、あのさ。賭けてたことでも十分驚いたけどさ。えーっと。何その金額。」

バカの代表格である智輝が気付いた。

「まず、流伽はさ、あまりにも低すぎない。100円って。おにぎりがギリギリ一個買えない額だぞ。俺たち中学の時から一緒なのに、お前、どれだけ俺のこと信用してないの。ひどくない。」

いつもの数倍の勢いと声量の智輝。

さすがの流伽も悪いと思ったのか顔を背ける。

「けど、問題はお前だよ。帆乃。」

まるで、探偵が犯人を言い当てる。そんな雰囲気を醸し出す智輝。

名を呼ばれ、「びっくっ」と反応した帆乃。もはや、犯人にしか見えてこない。

「え、なんのことかな?私バカだからわからない。」

「今度から、今世紀最大のバカが認める大バカ女と呼ぶぞ。」

「ごめんなさい。私が悪いです。」

誰もが認めるバカからのバカ認定だけは嫌だったのだろう。光速で、自分の非を認める帆乃。



しかし、今3人の間で行われてる光景は何故だか、新鮮だ。

普段であるなら、流伽と帆乃が智輝を口撃するのがいつものお約束。

だが、今回は智輝が流伽と帆乃を口撃といったバカが下剋上に成功している。そんな光景だ。



「それで、言い分は?」

取り調べのように帆乃の言い訳を聞こうとする智輝。

「ヘタレでチキンで友達が皆無な大バカ野郎智輝君が連絡先交換なんてできるわけないと思っていました。」

「お、お前。少しは言い訳するか演技でもして俺を同情させるとかしろよ。…あと、帆乃は、俺のことをそうゆう風に思っていたんだな。」

言い訳もせず、包み隠さず告白する帆乃。ついつい、普段智輝をどう思っているかも漏れてしまったが、気にしない。

そんな帆乃にどんな反応をすればいいか困る智輝。

「私、刑事ドラマとかで取調室でなかなか自白しない犯人嫌いなの。だからこんな自白するような場面が来たら包み隠さず、全部言うって決めてるので。」

「どんな場面を想定してるんだよ。」

発想が智輝と一緒な発言をした帆乃。

「…けど、まぁいいよ。なんか今回初めてお前らより上に立てた気がして、気分がいい。」

勝ち誇る智輝。

「まぁ、最初で最後だけどな。」

「人生で一回しかできない経験ができてよかったね、智輝君。」

だが、さすがの二人。一瞬で嫌味のマウントをとってきた。

「俺、お前らだけにはこれから先勝てない気がする。」


――9回表まで勝っていたはずなのに9回裏にサヨナラ満塁ホームランを打たれた気分だよ。



「それで、どんな風に交換したんだ?」

流伽が疑問に思っていたことを智輝に聞く。

「えーっと。確か。「連絡先交換しよ。」って言った。」

「ストレートだな。」

「普通は、もうちょい変化球使って聞くけどね。」

二人も野球で例える。


――さっきの俺といい、野球で例えるの流行ってんのかな。


さっき自分が心の中で思ったことと比較する。

3人でいることが増えたからだろうと納得する智輝。

「そうだよな。…やっぱバカの特権か。」

「確かに。」

「いや、バカ関係ないし。」

バカの特権とよく分からないことを言う流伽とそれに納得した帆乃を否定する智輝。


――こいつらイキイキしすぎだろ。


「それで、向こうはなんて?」

「二人とも「いいよ~」って言ってくれた。」

証拠だと言わんばかりにスマホを見せつける。

「本当だ。」

今まで信じてなかったのか、いや、信じたくなかったのだろう帆乃が驚きの声を上げる。

「優しいなあの二人は。わざわざ智輝と友達になってあげるなんて。」

「ほんとに。あの二人の優しさがよく分かったよ。」

「お前ら、「友達になれなれ」って散々言って、なったらこれか。挙句の果て、「連絡先交換しろやバカ。」と怒られ、交換したら「あの二人は優しいね。」ってなんじゃお前ら。」

不満があふれる智輝。

「そもそも、交換できた俺を褒めろやぁーーー。」

どうやらこっちが本音らしい。

「はいはい。智輝君はすごいね。」

「よくやったと思うぞ。」

「適当にあしらうなぁーーー。」

今日もキレがいい智輝のツッコミだった。



「それで、以上か?」

「いや、もう一個だけある。」

「早く言え。」

いい加減飽きたのか早くしろと言う流伽。

「なんと遊びに行くことも決まりました。」

今日までずっと隠していたビックサプライズをする智輝。

二人の様子を伺うと、

流伽は、言葉にすることができず、驚きの目を智輝に向けている。

そして、帆乃は、口をパクパクさせ、「ねぇほんとに。ほんとに。」キョロキョロし、確認をとってくる。

「ほんとです。」

胸を張り誇る。

「……これは、さすがに驚いたな。まさかだな。」

ようやく言葉にできた流伽。本当に驚いていることがよく分かる。ここまで驚いた流伽を智輝は初めて見る。

「す、すごいじゃん。どうしたの智輝君。今までの智輝君は、ヘタレでチキンで友達皆無の大バカ野郎だったのに。どうしたの。」

「…お前ほんとに俺ことそう思ってんの。さすがに冗談だよな。…あと、そのフレーズ、言うのが割と楽しくなってきてるだろ。結構気に入ってんだろ。」

あまりにも「ヘタレでチキンで友達皆無の大バカ野郎」というフレーズを多用してくるので、気に入っている疑惑が与えられた帆乃。

「言うの楽しいし、気に入っているよ。それより、本当にどうしたの?何かあった?」

楽しく気に入っていることを早口で伝え、理由を聞こうとしてくる帆乃。

――気に言ってんのかよ。

理由をしつこく聞いてくる帆乃への答えを考える。

「別に何もないんだけどな。ただ、ちょっとがんばろって思っただよ。」


――この二人に言うのがなんだか照れ恥ずかしい。


ちらりと二人の方を向くと、またも口をパクパクさせる帆乃と少しニヤリと笑う流伽の表情が見えた。

「いい傾向だな。今までではありえないことを自分からしたんだから。」

そう珍しく智輝を褒める流伽。

「おう。」

「それで、どこに行くんだ?…ボーリング?それともカラオケ?」

「いや~、それが、まだ決まってないのと……」

何故だか続きを言わない智輝。

「決まってないのと…なんだ?」

「なんか遊びに誘うことに精一杯でその後のこと何一つ考えてなくて…」

「考えてなくて…ってそれがどうしたの?」

「……気づいたら5人で遊ぼうってことになってしまいました。」

言った瞬間勢いよく頭を下げた。

やはり智輝はバカだった。後先のことを考えず、行動した結果だ。


――言ったよ。言ってしまったよ。どうせ二人からは、「どうしようもないほどのバカだな。」とか。「バカって死んだら治るのかな?」とか。言われるに決まってる。


そう言われることを覚悟し、二人の方へゆっくりと顔を上げる。

「そうか。いいんじゃね。」

「私もそれでありだと思う。」

意外なことにも二人の反応はよかった。

「あれ?怒らないのか?「勝手に巻き込むな」とか。「今後お前の奢りが確定した」とか言わないの。」

自分の予想との違いに相変わらず、よく分からないことを言う智輝。

「言わねぇよ。むしろなんだ。俺らがそんなこと言うと思ったのか。」

「もちろん。」

「即答すんなバカ。」

「智輝君、私たちのことそんな風に思ってたなんてひどい。」

「帆乃だけには一番言われたくないセリフだな。」

この女はさっき生み出した「ヘタレでチキンで友達皆無の大バカ野郎」というフレーズを忘れたのであろうか。

「てへぺろ。」

「可愛く言っても無駄。」


――よくここで懐かしい言葉持ってきたな。


「まぁ、てへぺろはひとまず置いといて、智輝君と紗綾ちゃん、梨香ちゃんの3人で遊びに行ってたら、面白そうな光景は見れるのは分かりきったことだけど、さすがに、紗綾梨香の二人に悪いよ。」

ふざけていると思ったら、急にまともなことを言い出す帆乃。切り替えが早いのが帆乃の特徴だ。

「まぁ、帆乃ちゃんの言うとおりだな。正直俺もその3人での光景を見たいよりも心配が勝つ。比率で言うなら、3割見たくて、7割心配。」

完璧腹黒男がまともに俺の心配をするわけがない。

すぐさま、

「本当は?」

「8割見たい、2割心配。」

「おい。正反対じゃないか。」



――やはりこいつらはダメだ。バカの俺でもわかる。


「一応心配してるからまだいいほうだろ。」

「なんでお前が開き直ってんだよ。」


――なぜ、どいつもこいつもこんなに強気でいられるんだ。


「それで、二人とも大丈夫だよな。」

なんだかこの二人相手に下から行く自分がバカらしくなった智輝は強気で生きくこと決めた。

類は友を呼ぶ。

とはまさにこのことだ。

「「いいよ~」」

快く了承してくれた二人。


――そもそも今までの出来事考えたらこいつらに拒否権なんかあるわけないわ。



こうして俺は頼もしい(?)仲間を得ることができた。

家に帰ってから、不意に「類は友を呼ぶらしい」とボッチ智輝が頑張る会にメッセージを送ってみたが、「お前みたいな今世紀最大のバカと一緒にするな」と二人からいっせいに送られてきた。







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