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講談調】没落公爵令嬢の花占いは最強です//令嬢は政治的婚約で学園生活を謳歌し婚約破棄で幸せを手に入れる

作者: TO BE

 いらっしゃいませ。

毎度おなじみ異世界話いせかいばなしでございます。

奇妙奇天烈キミヨウキテレツ摩訶不思議まかふしぎこのさい 清濁併せのみ少しのお時間、お付き合い下さいますれば望外の喜びでございまする。


 トアル王国王都の外れに、遠くから見れば森の様だが、近くに寄れば木々の間に門柱をみつける事ができ、やっとここが森では無く屋敷だと判る、そんな森に侵食されたようなグリーン公爵邸がございます。


 わずか三代でこれだけの人工林を作り上げただけあって、このグリーン公爵家、植物学に天才的な才能を持ち、他にも優秀な薬師、天文学者を輩出している稀有な家系なのでございます。が、政治 経済 処世術にはどうにも疎く、昨今では左前ひだりまえの落ち目の公爵家と噂されるようになっていたのでありました。


今、そんな公爵家の朽ちかけたような門の間を抜け 屋敷へ向かう馬車が一台。その中では二人の男がなにやら話しております。


「これが人工林だとはとても思えないな」

「なんでも三代、ご当主が植物に入れ込んだらこうなったという話だぞ」

「門は朽ちていたが、勝手に入って良かったのだろうか?」

「先ぶれもしてあるのだし、王家からの使いを拒むものもおるまい」

「まるで森の中に入ったかのような屋敷だな?」

「ああ 自然と植物の研究を専門にしている公爵家だからな」

「そうは言っても 先代から社交にもほとんど顔を出さずに研究三昧とは……」

「だから このように落ちぶれてしまったのだろう?」


ヒトゴトでございますから勝手なことを言いながら車寄せに馬車を寄せ

二人が馬車から降りますと、少女が一人、彼らを出迎えます。

この少女は誰だろうかと二人が戸惑うひまもなく、彼女は軽く礼を取り、


「お待ちしておりました。わたくしは当家の娘キャサリン・グリーンでございます」

「御令嬢 自らが出迎えを?」

「申し訳ございません。当主である父は半年前から南の領地出かけており在宅しておらず、当主代行の兄は植物市に出かけております。珍しい種子が手に入りました暁には国の為に役立てる所存でございますので本日の失礼はお許しくださいませ」


自分たちの様な使者に丁寧な言葉遣いをされた二人は慌てて書状を取り出します


「では ご当主がお帰りになりましたら こちらをお渡しください」

「畏まりました」


書状を渡した使いを乗せ、馬車は緑のトンネルの中を帰ってゆきます。


「しっかりしたな御令嬢だったな?」

「ああ 三年ほど前に母親を亡くしたと言うからな。しっかりせざるを得なかったのだろう」

「なるほどな しかし父親と兄がいるのだろう?」

「父親と兄は学者肌で生活能力はゼロ、野心もゼロだと評判だ」

「後継人は頭が良くて、野心ゼロか。 第二王子の未来の伴侶にと話が出るはずだ」



**  


さかのぼる事 数か月


この国の王妃様が、眉間にしわを寄せて貴族名鑑をめくっておりました。

息子である第二王子のフレーミー殿下がそろそろ婚約者を決めるお年頃なのでございます。しかし

この王子、容姿端麗ではあるけれど、才気煥発さいきかんぱつとはいいがたく、下手な貴族につかまれば傀儡かいらいとなるであろうことは明白、せめて 兄である第一王子の妨げになるようなことは無いように、上手くすれば、フレーミー王子を支えてくれるような良き令嬢は居ない者かと、舐めるように名鑑を見ております。


と、王妃の目に留まったのが、王子よりも一つ年上のグリーン公爵令嬢でございます。

公爵家であれば、王家と家柄的な釣り合は良し。しかもグリーン公爵家は今の今まで王妃自身も忘れていたほど影が薄く、代々の当主は出世欲 皆無。

当然どの派閥にも属さず、と言うか相手にされていない。つまり第一王子の立場を脅かすことはまずないだろう、という第二王子の伴侶には理想的なご家庭です。


その上 植物学では稀有な才能を持ち、薬草の研究などでも確かな実績を持つ、”知識の家系の長”と呼ばれるに遜色ない、非常に優秀な家柄でもございます。

まあ 研究に打ち込むあまりに社交界に出てこない、=(イコール)社交界で影が薄い、という公式に思い切り乗っかっている家系。というわけでもございますが………。


とにかく、王家にとっては上々の家庭環境。

では令嬢自身は、と王妃が諜報員すぱいを放ちますれば、頭脳明晰、成績優秀。母親を幼い時に無くしているにもかかわらず、マナーも完璧。ダンスも正確。その上植物を愛する心優しい少女であり、

容姿も磨けば光る素質アリ。第二王子にはもったいない ゲフンゲフン との報告が上がって来たのでございます。


**


さて、時は戻って使者が帰った数時間後、くだんの公爵家の門を一台の荷馬車が通ります。馬を操る彼こそ当主代行、キャサリン嬢の兄、チェイス君。植物市で公爵家で育てた植物や種子を販売して帰宅したのでございます。


人はパンのみにて生きるにあらず、とはいえ食わずに生きながらえる事は出来ません。公爵家の収入の一部は次期公爵サマが植物市で植物販売をして得ているのでございます。ビックリですねえ


そのチェイス君が、車寄せまで参りますと、月明かりの中、キャサリン嬢がカードの木の下のベンチに座っているのが目に入ります。


「何か、あの木に相談したいような面倒ごとが起きたのかな?」


チェイス君が眉根を寄せて呟きます。



キャサリン嬢がもたれるようにしているカードの木は、春と秋に四角い花びらの白い花を咲かせ、赤い実は食用になるので、公爵家の森にも何本か植えられておりますが、この車寄せの木は特別な一本なのでございます。



「もし お母さまが居なくなって、困ったことが起きたら、このカードの木に相談しなさい。お母さまはいつでもこの木の中に居ますからね。あなた方の帰りをいつでもここで待っているわ」


キャサリン嬢が10とおの時に亡くなった母親が、亡くなる少し前にチェイス君とキャサリン嬢を呼び、母からのメッセージとなる花占いの方法や、読み解き方を二人に伝授したのが、この木だったのでございます。


母が亡くなったその春、キャサリン嬢は毎日、毎日、花占いをしていました。

毎日花を摘むキャサリン嬢に、父親も兄も心を痛めながらも、どうしてやることも出来ませんでした。


「手の届くところにもう花が無い」


そう訴える娘の為に、父親は木の下に小さなベンチを置いてやり、兄はだまって占いをする妹の横に座りました。

同じように妻と母を亡くした二人にはそれが、キャサリン嬢の為に出来る精一杯の事だったのでございましょう。


キャサリン嬢はこのカードの木の花占いを亡き母のアドバイスだと信じ、朝に夕にとこの木に話しかけておりました。


女主人を失くした公爵家、もともと傾きかけていたものですから、急速に傾き、チェイス君が王立学園の退学を検討するほどの経済状況に陥ったのですが…… それを救ったのが キャサリン嬢の占いでした。


「お母さまからのメッセージです この使用人達の身辺調査を」


キャサリン嬢に言われた公爵が占いで出たという使用人を調べてみると、彼らは勝手に亡き妻の物を持ち出し売り払っていた者や、食堂の銀食器などを盗んでいた者達であることが分かりました。

優しい公爵も流石に怒ってその者達を解雇したところ、公爵家の財政が少しばかり持ち直し、無事にチェイス君は王立学園を卒業することが出来ました。



その後も キャサリン嬢の占いを参考に、夫人の命を奪った病の特効薬ともいえる薬草を見つけ出し、美容に良い成分を含む薬草の研究等をして、キャサリン嬢の学費や生活費を捻出し、いくつかの領地を王家に返納しスリム化を図り………、夫人亡き後もなんとか、公爵家が存続し、食べて行けるのは、キャサリン嬢の花占いのお陰でございましょう。


「お母さまからのメッセージです」

そう言われれば、信じてしまう程の愛妻家であった公爵は、チェイス君が成人すると間もなく、チェイス君に当主代行を頼んで、自分は夫人の故郷に近い領地で過ごす日々が多くなってしまいました。


それをカードの木が、亡き夫人がどう思っているのか……それを令嬢が占う事はありませんでしたから、分かりませんが……


**


「ただいま キャシー 寒くないかい?」


チェイス君が、ベンチに座るキャサリン嬢に近寄り声をかけます


「あら お帰りなさい お兄様」


顔をあげるキャサリン嬢の膝の上には何本かの花芯が置いてあり、キャサリン嬢が母親に相談、つまりは花占いをしたことが伺われます。


「今日の収穫はいかがでしたか?」


「うーん 僕の収穫は無かったけれど、持って行った植物は完売したから、学費や生活費は少し潤うかなあ?」


兄が背負って(しょって)いた袋を振って見せ、二人は笑いあうのでありました。




公爵令嬢と当主代行の兄がスープと、健康に良さそうな雑穀がたっぷり入ったパンの夕食をダイニング、ならぬ ダイドコロで取っております。


「ねえ キャシー 今日の王家からの御使いって何だったの?」


チェイス君が王家からの使いが来ることは百も承知で植物市へ行っていたのは、生活費を稼ぐためか?それとも単に面倒くさいと思ったためか?信実は一つ!ですが本人にしかわかりません。


「第二王子のお嫁さんになりませんか?って」


「は?」


「ですから、第二王子の婚約者に、という打診でしたわ 勿論 お受けします」


「ん?お前は あのテの男性が好みだったのかい? お兄ちゃん少しも知らなかったよ」


「いいえ 好みという訳ではありませんが、花占いでは、お受けするようにと出ましたので」


兄は妹ほどは花占いを信じてはおりません、むしろすこーしだけ、疑っておりました。


「そんなに大事なことを花占いで決めてしまっていいのかい?

 あ?もしかして わが家があまりに貧乏で嫌になってしまったとか? お兄ちゃん 悲しいなあ。」


「お兄様?聞いてました?お母様が賛成してくれたのですから、悪い様にはなりませんわ。今日、お兄様が持って行った草木の選定も占いで決めたのをお忘れですか?ひとつ残らず売れたのは占いのお陰でしょう? 」


確かに いつもは一割ほどは売れ残って来るのですが、キャサリン嬢の占いで選定する時は売り切れ御礼となるのです。


「そうだね まあ お前が居なくなるのは寂しいけれど、使用人もいるしね」


「お兄様、そろそろ独りぼっちになるお覚悟をお願いいたしますわ。もはや、全ての使用人ともお別れしなくてはならない状況になっておりますのよ?」


「え?おっかしいねえ?一昨年のはやり病の特効薬での売り上げはどこへ行ったのかなあ?」


「お兄様が軽々しく、処方箋を公開してしまいましたからね、類似品が山の様に出回ってわが家の手元には大して入りませんでしたのよ?」


「でも 皆の為になったんだからさ そんなに怒らないでさ」


「コホン という訳で、さっそく、王家に了承のお返事を出すように父上にお願いしましょう。善は急げですから 代行のお兄様がお返事をして下さってもよろしくてよ?」


「え?ちょっと待って、流石にそれは”若き公爵代行”には荷が重すぎるから!

 父上に相談するけど、父上は今でも母上ラブだからなあ 母上の木のいう事は何でも聞いちゃうんだよね。ま、花占いのアドバイスが無かったら、今頃 この家屋敷も無かったんだろうけどね~」


はい、その通りですチェイス君。現在、この家が存続しているのはキャサリン嬢と花占いのお陰でございます。


「王家の書状も、こんな畏まった物じゃなくて、事務的なものにして下されば宜しいのにね?

 このお話を受ける YES NO でどちらかに丸を付ける という用紙にして下さるとか?」


「お前ねえ そんな アンケートみたいなわけには行かないでしょ?」


ふふふ 楽し気に笑う妹を兄はじっとりと眺めます



「それで 占いはさておき、キャシーが婚約を受ける本当の狙いは何かな?今更 貧乏公爵家が嫌になった、なんてはずは無いし?」


「そうですわね 我がグリーン公爵家の名誉挽回ですわ わが家の薬学 植物学の知識は国内一ですのに、お金がないために”落ちぶれ公爵”と陰口を言われているのは悔しいですもの。王子妃となり、我がグリーン公爵家の名声を国内外に知らしめたいのです」


キャサリン嬢、おもむろに立ちあがり、芝居がかった仕草でチェイス君に訴えますが、チェイス君の心には刺さらぬようで、つまらなそうな顔のままでおりました。


「ふーんなるほど…… お兄ちゃんがふがいないからお前に苦労を掛けるねえ

 でも お前の本当の狙いはそれじゃないよね? お前って先の1000ダルよりも今日の50ダルだもんね」


あ、ダルというのはトアル王国のお金の単位でございます


「さ、流石 お兄様……」


初めて、キャサリン嬢が怯みますれば、チェイス君が真面目な顔になりました。


「王家の狙いは 公爵家という家格、世渡り下手で出世欲ゼロな父上という願ってもないようなキャシーの後ろ盾、そして、お前の真面目な性格と優秀な頭脳だよね。

つまり、お前の人柄とか魅力とか心根とかを全く無視した、百パーセント政略結婚の為の婚約だよね?

向う(王家)にしてみれば 今日の100ダルよりも未来の千万ダルってお買い物だけどさ、お前はそんな事は100も承知で婚約を了承するんだよね?」


「ええ」


キャサリン嬢が目を泳がせながら頷きます


「うん、分かった。キャシーの狙いは、おそらく…… 学園の温室!」


ピシリ、某小学生探偵が犯人を指さすときの様に自信満々に指を建てる兄、その際の犯人の様に、開き直る令嬢!


「ええ その通りですわ。学園に入学以来 温室に入り浸ってまいりましたが、あれでは宝の持ちぐされ 猫に小判 でございます。わたくしが立派にあの温室を活用し、植物の、主に薬草の研究をするつもりですの」


「それは、父兄として僕も立ち入りは許されるのだろうか?


「いいえ! 学園の温室はわたくしが独占いたしますのでご遠慮くださいませ」


チェイス君、そう言われがくりと項垂うなだれますが、こと植物が絡みますと、この兄も一筋縄ではいかなくなるのは、キャサリン嬢も知っての事では御座いましょう。


***


それから2年と少し


キャサリン嬢は第二王子の婚約者としての役割を立派に果たしておりました。

令嬢としては温室を人質、いえ、モノ質に取られているようなモノですからね。温室の為ならエンヤコーラ、夜会やかい茶会さかい、プレ王族教育まで 温室の為に全力で邁進まいしん致します。


もともと真面目で、向上心がある方なんでしょうね。植物や温室への熱意ほどでは御座いませんが、王妃から与えられた課題に真面目に取り組み、王家から派遣されたマナー教師について初心に戻って学びます。もともと素地のあったマナーや立ち居振る舞いですから、王族仕様、王子妃として非の打ち所がございません。


そして、いままで財力がないが故に残念だった、衣装や装飾品、身の回り品も第二王子の婚約者として相応しい物をと王家や王子からの支援もババーンと、という程では無くとも それなりに支給されましたので、馬子にも衣裳 いえいえ、諜報員の言うように磨けば光る タイプだったのでございましょう、人目を引く美人さんの出来上がりとなりました。


夜会や茶会に第二王子とエスコートされたキャサリン嬢が現れるとお似合いの美しい二人だとささやかれるようになり、王子妃としての期待の高まりと比例して王家の財布の紐も緩みまして、生活費の支給や、警護と言う名の使用人も数人ではありますが公爵家に派遣される様になりました。


ええ ええ勿論、学園の温室も王国一位(暫定)の規模と設備を誇る立派なモノになりました。学園の予算だけじゃあございませんよ、キャサリン嬢がナイショで王家からの衣装や装飾品を売り払って資金を作りましたからね、私費ならば予算書に無い買い物でもばっちりです。


チェイス君も「王国一位(非公認)」の温室に立ち入りたいと、珍しく植物以外の為に立ち回り、人脈作りにも励みまして、父兄枠でなく”指導者枠”として温室に出入りできる権利を王立学園からもぎ取りました。


そして父親の公爵までもが、興味を示し、最近では王都の屋敷に滞在し、王立学園の温室に立ち入る為に”専門家枠”もしくは”共同研究者枠”を作れないかと、画策しその為、その手の事に詳しい人と話しをしたいと夜会に参加しているという有様です。


キャサリン嬢、婚約者となって以来、学生生活も必需品に困る事は無くなり、たまには御学友と書店でお買い物をしたり、お茶やお喋りを楽しむ余裕も出来ました。


理想の温室が手に入り、家族も揃い、学園生活も充実、幸せいっぱいの公爵令嬢はそれはもう輝かんばかりの美しさ! もちろん 同じ時を過ごしている訳ですから、フレーミー王子とも婚約者同士、お互いに憎からず思うようにもなってくるのも人の情。

しっかり者の公爵令嬢と末っ子でどこかフワフワしている王子は、割れ鍋に綴じ蓋、理想的なペアだとまわりからも評価され 納得され 温かい目で見られておりました。


「ああ お母さまの言う通り、政治的婚約と百も承知でも、婚約を了承して良かったわ! お母さまありがとうございます」


カードの木に語りかけ、感謝するのが キャサリン嬢、登校前のルーティーンとなりました。


***


が ががが


はい お約束のヒロイン登場!!


王子 七歳のみぎり、お忍びの視察で道に迷った王子を助けたピンクブロンドの女の子、リリーと運命の再会を果たした王子はたちまち恋に落ちました。


公式の夜会、茶会はこれまで通りキャサリン嬢を伴いますが、一歩学園に入りますと、王子の手は、キャサリン嬢の手を離れ突撃してるリリーの手を取るのです。


リリーには愛情のこもった目を、令嬢には申し訳なさと少々のいらだちのこもった目が向けられるようになるまでに 多くの時はいりませんでした。



え?

詳しい経緯が知りたい? 王子とリリが運命の出会いをして、真実の愛に目覚めちゃったんですからね。これ以上の説明は特にございませんですよ、はい。

身分の違い?いいんですって ここは「異世界」「ご都合世界」なんですからね

受け入れてください。



閑話休題


そんな、ある日の公爵家。

ここ1年ほどの間に、きちんと手入れがされ使用されるようになったダイニングルームで 家族三人が、貴族らしい食事をとっております。ちなみに、サラダの野菜も食後のフルーツも自家製のようでございます。


「キャシー、今日、えーと 学園に行ったんだけどね、それで……その――」


優しすぎる父親の公爵が決意の表情で口を開きます。


「フレーミー王子をお見かけしてね ――」


「あら。お父様、もしかして、王子とピンクブロンドの女生徒がイチャイチャしているのを見てしまいましたか?」


言いにくそうな公爵の表情から、言いたい事を読み取ったキャサリン嬢が逆に尋ねますと


「え?お兄ちゃんもそのピンクブロンドの女生徒がフレーミー王子と仲良さげに歩いているのを何回かみているんだけど……」


応えたのはチェイス君


「まあ お兄様もですか? そりゃあ あれだけ人目を憚らなければ目に入りもしますわよねえ」


あらあらと苦笑するキャサリン嬢に、あきれ顔のチェイス君


「お前、知っていたのかい?」


チェイス君が尋ねると、キャサリン嬢、ため息交じりに応えます。


「ええ、フレーミー王子の真実の愛のお相手だそうですわ。わたしとのことは王家が取り決めた偽りの愛、あのピンクブロンドの娘にとの間にあるのが真実の愛、だそうですわ」


「キャシー、可哀そうに」


「そんなことを言わせておいていいのかい?」


「お父様、お兄様、落ち着いて。座って下さい!」


立ちあがりかけていた 父と兄が顔を見合わせてから座りますと


「こうなることは 花占いで判っていましたの」


少し寂しそうなキャサリン嬢


「それなのに ミリアはお前に婚約をすすめたのかい?」


ミリアさんというのは、亡くなった母上のお名前です。


「ええ、わたくしは婚約して良かったと思っていますわ。夜会やお茶会は婚約者の立場がなければ得られない貴重な経験でしたし、なかなか楽しかったんですのよ。学園生活はあと半年ほどですけれど、とても充実していますから最後まで満喫したいと思っておりますわ。 それに、何よりもあのわたくしの温室を手に入れる事ができたのはお母さまが賛成して下さったおかげですわ。母さまがわたくしが不幸になるような事おっしゃるはずは御座いませんもの」


「そうだね 王立学園のあれは本当に素晴らしい温室だね」


正直すぎる父上がきっぱりと言い切りました。嘘の言えない父親の言葉にキャサリン嬢は嬉しそうに微笑みます。


「勿論 国一番の温室だ」


父親に同意しつつも チェイス君は収まらないようでございます。


「それでも!!お兄ちゃん、国王陛下に文句言ってやろうか? 可愛いキャシーの為なら 頑張ってこちらからの婚約破棄を認めさせてみせようか?」


「ふふふ お兄様ありがとうございます。お気持ちだけ頂きますわ。でも お母さまはこちらからの婚約破棄は勧めていませんのよ」


少し寂しそうな、でも面白がるような複雑な笑顔を浮かべたキャサリン嬢はチェイス君の提案を断ります。


「目の前に居る この父や兄よりも、カードの木になってしまった母の方が頼りになるとは情けないなあ。それでも この父にできることは無いのかい?」


公爵がいたわるような目を向けますと、チェイス君も隣で頷きます。


「そうですわね 従兄弟のベルナールを呼び寄せて頂きたいですわ」


「まって キャシー ベルナールは独身だけど、僕より年上だよ」


チェイス君の言葉に公爵も戸惑い気味に頷きます。


「お兄様、それからお父様も、 今後も学園のわたくしの温室に出入りしたいのでしたら 少し黙って見ていてくださいませ」


あきれ顔でぴしゃりというキャサリン嬢に、男性二人はただ、ただ、黙って頷きます。


それから わずか半年後、キャサリン嬢の卒業式後の夜会で、フレーミー王子は公爵令嬢に「婚約破棄」を突き付けます。


***


夜会後、つまりは婚約破棄を言い渡された夜、カードの木の下のベンチに公爵とチェイス君が身を寄せ合うようにして座っております。

キャサリン嬢が婚約破棄されたという話は、使いの者から先に知らされましたので、二人は少しでも早くキャサリン嬢を迎えようと先ほどからここで待っているのです。


やがて、そこに小さな馬車が止まりまして、カードの木の下のベンチで身を寄せ合うように座っていた父と兄が立ち上がって迎えます。

キャサリン嬢を慰めようと思っていたのでしょうに掛ける言葉が見つからず、黙って立ちすくむ二人に キャサリン嬢が笑いかけました。



「お父様、お兄様!! 花占いの通りに婚約破棄されてきましたわ!!!」


「あのバカ王子……」


「キャシー可哀そうに」


「お父様 お兄様 大丈夫ですわ。 わたくし、傷心の令嬢らしく、慰謝料がばっちりとれるように頑張って、可哀そうな令嬢を演じて参りましたわ! 多少は真実が入っていますけれど」


「多少の真実……」


「王子の事は嫌いじゃなかったけれど あの娘が好きならばしょうがありませんわ。

それよりも 花占いでこちらからの婚約解消に反対された時にわたくし閃きましたのよ。お母さまが知恵を授けてくれたのですわ

従兄弟のベルナールは法律家でしょ?

我が家の血を引く専門家はどの道に進んでも超一流ですわ その分生活能力がないのがアレですけど……

王家に瑕疵があっての婚約破棄について、ベルナールと一緒に書類を作成いたしましたの。最初ベルナールはまさか王家が自分から言いだした婚約を破棄することは無いだろうって言いましたわ。それでも、王家がわたくしを傷つけるような事がないように、制御になるように、万が一の事があれば、わが家に最大限の利益があるようにと知識と知恵を駆使して、わたくしの要望以上のモノを作ってくれましたの。 流石 我が従兄弟殿ですわ」


以前 キャサリン嬢に言われてやってきたベルナール君、一度では要件が済まなかったらしく、公爵家を度々訪れ、その度に長い事話し込んでおりました。

二人で何を話しているのかと、公爵もチェイス君と大変気にしておりましたが、まさか婚約破棄についての書類を作っていたのだとは……今になって知り、驚くふたりでありました。


「既に、王子のサインは頂いておりますわ。

王子はわたくしが 婚約破棄を避けるために用意した条件と思ったようで、これさえあれば堂々と婚約破棄できるあの娘と婚約出来ると、乗り気でサインをして下さいましたの。

王子がサインしてしまっている以上、今頃は国王陛下がサインをして下さっている頃だと思いますわ。

王子が誰と結婚しようとも、王家からの”慰謝料”や”誠意”の前には 大した問題じゃございませんわ」


ほら!とキャサリン嬢、チェイス君と父君の前に婚約破棄に関する書類の写しを見せびらかします。

書類を読んでいく二人の顔が、読み進むうちに青ざめます。


「これを王子はよく承知したものだね」


「陛下はこれにサインを?」


最後まで読み終わると 父と兄は顔を見合わせました。


「お兄ちゃん お前には本当にびっくりだよ

 これなら 慰謝料で溜まっているわが家の借金を清算してもお釣りが来る上に 屋敷の補修も出来そうだよ。

 それに、わが家に派遣されている護衛、という名目の使用人達も、いきなりのリストラというわけには行かないから、当面は王家からの派遣扱いで留まってくれる事になっているね。

そして お前は傷心をいやすために、南の領地に引きこもりたいって言いながら、その領地に作る傷心を癒すための巨大な温室も王家に作らせるのかい?」


まあ 巨大と言いましてもですね

ナゴヤドーム一個分ですからね 大したこと無いんですよお 異世界では


「ついでに 領地へ行くまでの馬車と給料先払い済の使用人まで寄こせって ちょっと要求が多すぎないかい 妹よ?」


研究一筋の兄の方は けっこう欲がないからあきれ顔ですし、公爵に至っては呆れるよりも心配げな表情です。

まあ こんなだからこの公爵家は落ちぶれちゃったんでしょうなあ。

人間、欲もある程度は必要です。


「あら? でしたら 最後の方に記載されている、お父様を王立学園の温室の責任者として、お兄様を王立学園の理科の教師として、雇っていただくという要求は 取り下げが良いのかしら?

 わたくしも 公爵家当主が正規雇用の教員というのはいかがなものかなとも思いましたのよ」


「え? いや それは取り下げないでもらおうかな? ほら お前が育てた学園の温室の植物かわいこちゃん達の面倒をみるには僕以上の適任者はいないだろう?」


「では、この項目は 取り下げないでおきますから、今の研究はキッチリ進めてくださいね。花占いも(おかあさま)も、早急に進めるようにって言ってますもの」



この後 このグリーン公爵家が王立学園と協力し、不治の病とされていた「黒星病」の特効薬となる薬草の大量栽培に成功するのですが、これはまた別のお話です。



さて、本題 本題!!


キャサリン嬢は、この後すぐに南部の領地に立派な温室を建設いたしました。それは、キャサリンドームと呼ばれ、南国のバニャヤと呼ばれる果物をはじめとした珍しい植物を栽培し、国中から研究者が訪れるようになったのでございます。


王家の南の温室ならば 更に南の異国の植物たちの栽培に成功するのではとキャサリン嬢は積極果敢に、取り組みます。それでも、キャサリン嬢が、愛する植物の世話の合間を縫って、しばしば王都の公爵家を訪れ、カードの木に様々が相談をするのは相変わらずでございます。



「ねえ お母さま、次は水耕栽培に取り組んでみようと思うんですけど?」


キャサリン嬢がそんな相談をしながらカードの花を摘んでいるのを見たのは、チェイス君に弟子入りを希望し、日参しているトキワギ侯爵令息。


「花の精と話をしているキャサリン嬢は花の精に負けないほどに美しかった」


彼は一目で心臓を撃ち抜かれ、現在キャサリン嬢に絶賛アプローチ中だそうでございます。

トキワギ侯爵令息の思いが叶うか 否かは、チェイス君の応援、よりも花占い次第かもしれません。



長らくのお付き合い、ありがとうございました。


おしまい



『夢見の伯爵令息は初恋の義姉を悪役令嬢にはさせない所存である~知らないのは彼女だけ?』のスピンオフです。


作者名TOBE をクリックして作品一覧から行けます


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夢見の伯爵令息は初恋の義姉を悪役令嬢にはさせない所存である~その令嬢は家族に愛されている? のスピンアウト(ちょっとだけパラレルワールド)です。本編ではセリフがない御令嬢です
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