ストーリー8 騙し討ち
「未央、応援に来てくれたんだな」
「うん。明日斗がサッカーするところ初めて見れるから」
「Aチームの方はいいのか?」
「あれだけいるなら向こうは十分でしょ」
まもなく試合がはじまるということで、Aチームの方の試合会場は益々、人が集まってきている。
こちらも、相手チームのクラスの応援団が来ているが、すでに敗退が決まったクラスの生徒たちは、軒並み向こうの試合の観戦をするようだ。
「今日の俺はディフェンダーだから見てても楽しくないと思うぞ」
「この人、『俺が最終防衛ラインで守るから皆攻めろ作戦』って言って、他の皆に攻めさせてるんっすよ」
「サッカーのこと楽しんで貰うには、まずはフォワードやって点取ってもらうのが一番だからな」
いつの間にか、俺と未央の話している後ろから、誠也が話しかけてきた。
「あら、佐々木くん。うちの明日斗がお世話になってます」
「こりゃどうも、ご丁寧に竹部さん。なんだか若奥さんみたいな挨拶ですね」
「若奥さん・・・」
「ほら、誠也。作戦会議するぞ」
「竹部さんフリーズしてますけど、いいんっすか?」
「そのうち、再起動するだろ。次の相手はサッカー部員が多いから、流石に俺以外皆攻めよう作戦だけじゃ厳しいから、作戦練らないと」
「仙崎君もサッカーのことになると周りが見えなくなるタイプっすね」
ヤレヤレといった様子で、誠也は作戦会議の輪に加わった。
◇◇◇◆◇◇◇
【王子様視点】
「頑張って〜!!王子様〜!!」
「キャア!!ボール奪った!!」
「シュートカッコイイイィ!!」
王子様率いるAチームは、王子様が3点目を入れて試合を決定付けた所で、終了のホイッスルが鳴った。
王子様は、芝居がかった感じで、相手チームの選手やチームメイトたちと握手を交わした。
その美しき姿に、女子たちはすっかり見惚れている。
(これで氷の令嬢も俺に惚れてくれたかな)
物事はすべて自分の思い通りに進む。
サッカーも女も
自分にはその力があるのだから
そんな事を考えながら意気揚々と、王司はクラスの女子たちがいる辺りに近づいていく。
「カッコ良かった〜!!」
「一人で3点も決めて凄いね!!」
他の女子たちからの賞賛の声は、右から左へ聞き流し適当に相槌を打ちながら、王司は想い人の竹部 未央の姿を探す。
しかし、いくら探しても見つからない。
まさか・・・
「明日斗、決勝進出おめでとう」
「未央、応援ありがとな」
「ひたすら守り固めて耐えて、ラスト3分で突如みんな攻める作戦 上手くいったっすね。相変わらず作戦のネーミングセンスはあれっすけど」
王司の目は、大会本部へ勝利の報告に来たBチームに釘付けとなった。
そして想い人が、幼馴染とかいうポッと出の男と親しげに喋っているのを目の当たりにする。
また、自分には向けられたことのない笑顔を向けているのも。
ふざけるな・・・
彼女にあんな奴は相応しくない。
特別な彼女には、特別な男である自分こそが相応しい。
彼女を俺が救わなくては。
王司は、未央を救うために、あの幼馴染の男を引き剥がすための算段を頭の中で巡らした。
◇◇◇◆◇◇◇
決勝戦が始まる前に、グラウンド整備をするということで、小休止がてらの待機時間となった。
決勝戦はまさかの、同クラスのチーム同士の組み合わせとなった。
どっちのチームが勝っても、優勝は我らが3年1組なんだから、試合は行わず、同時優勝にしても良いような気がする。
しかし、大会本部にいる鬼頭が、きっちり順位をつけることに意義があるとか何とか言って譲らず、決勝戦の実施が決定された。
やりづらいが仕方が無いと、決勝の作戦会議を練っていると、
「仙崎。ちょっといいかな?」
「試合前になんだ?中川くん」
俺は、作戦会議の輪から外れて尋ねた。
「今回、同一クラスチーム同士での決勝になってしまった。これでは、折角の決勝戦が盛り上がらない」
「まぁ、そうだな」
その点は俺も気にかかっていた。
作戦そっちのけで、試合中どうやって盛り上げようかということばかり考えていた。
「そこでだ。この試合を盛り上げるために、両キャプテン間で賭けをしないか?」
「賭け?」
「賭けるものは、お互いの退部届だ。君は負けたら文芸部を退部してもらう。」
「は?意味がわからん。お断りだ」
「なんだい、怖気づいたのかい?」
「賭けに乗るメリットが無さ過ぎる。勝ってお前の退部届なんか貰っても、俺は嬉しくねぇぞ」
Bチームが負けて、文芸部を退部になるのはもちろん嫌だ。そしてBチームが勝ったとして、実際に奴の退部届を出して退部させるなんてしたら、俺は全校生徒から総すかんを喰らうことになる。
「ほう・・・僕のチームに勝とうっていうのかい?」
「勝っても負けても意味のない賭けをする気がないっていうだけだ。賭けは不成立。話はこれで終わりなら、俺はもう行くぞ」
話を打ち切り、俺はチームのもとに戻ろうとした。
「いいや、君に断るなんていう選択肢は無いんだよ」
王子様が何かの合図のように手を上に挙げた。
『え~こちら放送席、放送席。ここで会場の皆さんにお知らせです。男子サッカーの決勝戦は、両キャプテンが自身の退部を賭けた真剣勝負となるようです。繰り返します』
校庭に、大会本部からのアナウンスが広がる。
「てめぇ、何してくれやがんだ」
俺は王子様を睨みつけた。
こいつ、最初から俺の意志に関係なくなし崩しに賭けをやろうとしてやがったな。アナウンスの準備をさせてたのがその証拠だ。こんなの騙し討ちだ。
「さぁ、お祭りだし盛り上げようじゃないか」
王子様は腕を広げて、邪悪な笑顔を浮かべていた。
◇◇◇◆◇◇◇
決勝戦
先程のアナウンスが効いたのか、観客たちも盛り上がっている。
すわ、クラス内の主権争いだの、これは実質、氷の令嬢を賭けた戦いだの、外野は色んな憶測を並べ立てて盛り上がっている。
俺は周囲の雑音は無視して、静かにポジションについた。
今までの試合でのディフェンダーの位置より少し前
俺は、作戦通りにある選手のマンマークについた。
「君が相手か。直接対決なら、勝ち負けがより明確になるね」
喜色満面という顔で、王子様が笑みを向ける
「・・・・ハァ。後で未央への説明が面倒だが、今は考えないでおくか」
俺はユラリと低い体勢で身構え、スイッチを入れた。
「本気でやってやるよ王子様。いい加減バカにも解るように、力の違いって奴を見せてやる」
俺の、相手を蹂躙する宣言と同時に、試合開始のホイッスルが鳴った。
「は!!何を言うかと思ったらハッタリか?」
「ほらボール来たぞ。初回サービスだ。ファーストタッチは譲ってやる」
スクリーン気味に王子様の目線を遮るために被せていた身体をヒョイと斜めにして、パスの通る道を空けてやる。
「うおっと!!」
急に視界が開けて急にパスが来た形になったので、王子様は辛うじてトラップはしたが、ボールは足元から離れる。
俺はあっさりとボールを奪い、前線へパスを出す。
仕事を終えて俺は王子様を見やる。
「今のは、ただのミスだ!!急にボールが来たから!!」
「ああ、今みたいなミスは確かにもう起きないだろうな」
俺は王子様に一瞥だけくれてやり、目線はピッチの前に向けた
「当たり前さ。僕は本来あんなトラップミスなんて」
「勘違いするなよ。お前がミスらないって話じゃない」
「・・・なに?」
本当に言葉の意味を考えあぐねているという顔をしている間抜けヅラに、俺は親切に説明を畳み掛ける。
「お前がこの試合でインプレー中に、まともに触る最初で最後のボールがさっきのトラップミスだってことだ」
「何を言って・・・」
「バカにも解りやすく言ってやる。お前はろくにボールにも触れず、俺に完封されて為す術もなく負けるってことだよ」
一瞬のフリーズの後、王子様の顔がみるみる紅潮し、身体がワナワナと震えている。本当に見ていて分かりやすい奴だ。
「お前は完全に僕を怒らせ」
「安心しろ。俺はとっくにキレてるんだよ」
被せるように言って、俺は王子様の言葉を遮った。
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