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ストーリー7 球技大会 予選リーグ

 「師匠!!どんな御用でしょう!!?」


 今、時間ある?とメッセージを送ったら、速攻で電話がかかってきた。


 「大した用じゃないから、別にメッセのやり取りで良かったんだけど。あと、タメなんだから師匠って呼ぶのはやめてくれって、いつも言ってるだろ」


 「すいません!!師匠!!」


 全然わかってねぇ・・・


 クラブでの練習後のロッカールームで、俺は神谷カミヤ 天彦アマヒコと電話で通話していた。


 天彦は、この県で俺以外の唯一のU−15日本代表のメンバーだ。

 クラブのジュニアユースメンバーが多い代表メンバーにおいて、部活出身で知り合いがいなくて緊張していた天彦に、同郷で同ポジションの俺が声をかけたのがきっかけで懐かれているのだ。


 「県内の選手で、中川 王司って選手って知ってるか?」

 「え?俺以外に師匠のお眼鏡にかなう選手が?」


 ギリギリとハンカチを噛んでいるような歯ぎしりの音が電話から聞こえる。


 「いや、同じ学校の選手でな。県選抜の選抜会に呼ばれる程度の選手みたいだが」


 「なんだ、師匠と同じ学校の。ん?それって、この間、聡太がグループチャットに書き込んでた例の・・・」


 「そうそう。俺が入部拒否されたサッカー部の奴」

 「正直聞いたことない選手ですが、今、俺の絶許ゼツユルリストの筆頭に載りました」


 「そうか、天彦も知らないか。まぁ、球技大会でプレイは見れるだろうからいいか」


 色々因縁もあるし、部活の時間にはサッカー部のグラウンドには近づかないようにしているので、まだ王子様のプレーは見たことがない。

 ただ、天彦の印象に残っていないということは、その程度の選手なのだろう。


 「球技大会?」

 「うちの学校の球技大会でサッカーするんだよ、明日」


 「マジですか!?こうしちゃいられない。失礼します師匠!!」


 電話が切られた。


 天彦から電話切るなんて珍しいな。

 いつもは、こっちがうんざりするくらい、サッカー談義をさせられるのに。


 「明日斗、球技大会でサッカーすんの?お前が出るとか反則だろ」


 横で電話の内容を聞いていた聡太が、着替えながら笑っている。


 「俺は期待されてないBチームだから良いんだよ」


 「明日斗Bチームなの!?」


 「王子様の指示で、出涸らしメンバーが集まったBチームのキャプテンを任されたよ」


 「ウハハハッ!!ジュニアユースクラブとU−15日本代表のキャプテンが中学の球技大会でBチームって!!でも結局キャプテンはやるのジワるわ」


 聡太は最近、王子様のやらかしエピソードが大のお気に入りだ。

 ベンチをバンバン叩きながら笑っている。


 「まぁ、ただの親睦会みたいな物だから適当にやるさ」


 「ケガしないようにスパイクとレガースは着けとけよ」


 「あいよ」


 バッグに磨いたスパイクを入れながら、俺はとっとと帰ろうと、ロッカールームを後にした。


 聡太の「王子様の新エピソード待ってるからな!!」という声を背中に投げかけられながら。



◇◇◇◆◇◇◇



 球技大会当日


 天候は晴れで、気温はさほど高くない。

 良き球技大会日和だ。


 「クラスメイトとの親睦も結構だが、勝負にこだわることも大事なことだ。我が校のサッカー部は常に上を目指し・・」


 とか、鬼頭のどうでもいい演説のような開会の挨拶を聞いて、球技大会は始まった。


 4チームごとのグループに分かれて総当たり戦。

 グループ内1位のチームが決勝トーナメントに進む。


 すぐに試合が始まるので、俺は持ってきたスパイクとレガースを着ける。

 土のグラウンドのスパイク使うのは久しぶりだ。


 「一丁前にスパイクを履くのかい?」


 振り返ると、王子様とAチームの面々がいた。


 「ただのスニーカーでサッカーするとケガするからな」


 「相手への威嚇のつもりかい?まあハッタリにはなるだろうね」


 こいつとはどうも、会話が微妙に成り立たないな。

 自分が話したいことを話すことで、会話が成立していると思い込んでいるような感じだ。


 「そっちもスパイク履いてるじゃないか」


 「初心者とのプレーでケガをしちゃいけないからね」


 その理由には同意するが、威嚇って意味じゃ、何人もスパイクを履いたサッカー部がいるAチームの方がよっぽどである。


 「ちなみに君たちBチームの目標はなんだい?」


 「ケガなく無理なくかな」


 「野心のないリーダーだね。僕たちAチームは昨日、僕の指揮のもと連携練習をした。優勝に死角はないよ」


 勝ち誇ったように話す王子様と話すのがしんどくなってきた。

 聡太へ話す新ネタが増えたなと、やや逃避的な思考をして脳をごまかす。


 「じゃあ、これから試合が始まるから。午後の決勝トーナメントの応援は全員参加だからね」


 ようやくマウントを取ることに満足したのか、自分達のグループの方へ王子様とAチームが戻っていった。


 そろそろ、こちらも試合が始まる。


 俺はBチームの面々に顔を向けた。


 皆、大して闘志など無いという顔をしているが、俺はここで皆にある作戦を呈示した。



◇◇◇◆◇◇◇


【王子様視点】


 「よし!!全勝で決勝リーグ進出だ」


 王子様こと王司は、試合終了のホイッスルを聞いて、ガッツポーズした。


 「お疲れ様、王司くん」


 クラスの女子たちが、ワラワラと王子様の元に駆け寄ってきた。


 「ありがとう」


 「女子のバレーは、2チームとも負けちゃったよ〜」


 「じゃあ午後の応援に皆来てよ」


 「行く行く〜♪」


 女子たちと語らいながら、自分の予想通りに現実が推移していることに、王司は満足感を得ていた。


 さて、決勝トーナメント、相手はどこかな?


 大会本部のテントに貼られた決勝トーナメントの組み合わせ表を見て、王司は目を見開いた。


 「え!!Bチームも決勝トーナメント進出!?」


 「す、凄いね。決勝トーナメント4チームのうち、2チームがうちのクラスだ」


 「Bチームはグループのメンツが偶々良かったのかな〜」


 女子たちが微妙な反応なのは、あからさまに王子様の機嫌が悪くなっているからだ。


 クラスの2チームともが勝ち上がったのだから本来喜ばしいことなのに、憎悪を隠しきれていない。


 「けど、運が良かったBチームも、流石に次は負けちゃうだろうね」


 「私達は勝ってくれるAチームの応援に行くから」


 「Bチームの男子たちもボロ負けするとこ見られたくないだろうしね〜キャハハッ」


 「ああ、そうだね。応援頼むよ」


 女子たちのおべっかに、ようやく機嫌を直した王子様は、いつもの笑顔を貼り付けた。



◇◇◇◆◇◇◇



 決勝トーナメントは4チーム


 1組のAチームとBチームは別の山になったので、準決勝から潰し合いということにはならなかった。


 「しかし、向こうの試合と違って、露骨に観客の数が少ないな」


 俺は、昼食休憩を挟んだため、冷えた身体を暖めるためにアップがてら、グラウンド周りを軽くランをしながら回っている。


 試合開始までまだ時間があるが、観客はあからさまにAチームの試合の行われる方へ集まっている。

 流石はこの学校の王子様だ。


 「さっき、クラスの女子たちが、応援は皆、Aチームの方に行くって言ってたっす」

 「嬉しくない情報ありがとう。ええと・・・」


 「佐々ササキ 誠也セイヤっす」


 「午前中の予選で得点にアシストにめちゃくちゃ助かったよ。ありがとうな」


 誠也と並走しながら二人でグラウンドを回る。


 「自分、こう見えて小学生の頃サッカーやってたっすからね。中学のサッカー部は何か雰囲気が嫌で入らなかったんっすけど」


 「誠也のパスセンスがいい物持ってるって感じだったからな。2試合目から中央に回して正解だった」


 「照れるっすね。ジュニアユースでU−15日本代表選手から褒められるなんて」


 「!!?」


 予想外のタイミングでの発覚に、俺は思わず走るのを止めかけてしまった。


 「さっきの昼休みに、仙崎君の名前でネット検索したら一発でしたよ。プレーの質が段違いでしたから、名のある選手だと思って」


 「バレたか。黙っててくれるとありがたいんだけど」


 「良いっすけど、見る人が見たらすぐバレると思いますよ。なにせ、名前をネット検索するだけで即バレるんすから」


 「そう言えば、俺と話してて大丈夫なのか?」


 「今頃、王子様は自分が試合で目立つことしか考えてないから大丈夫っすよ」


 「そうかもな」


 「お!!クラスの女子のほとんどはAチームの応援みたいっすけど、どうやらあの子はこっちに来てくれるみたいっすよ」


 ヒューヒューと囃し立てながら、誠也はスピードを上げて先を走っていく。


 向こうから、未央がゆっくりとこちらに歩いてきているところが見えた。



ジャンル別日間1位、週間1位ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
 「ざまぁ」を待って、次話をよむ!
[良い点] 天彦君朝から熱烈応援してるかと思ったら出てきませんでしたね
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