ストーリー4 氷の令嬢の正体
「おはようございます」
始業式の翌日の朝
ようやく朝食を食べ終わって、自室でモソモソと制服に着替えているところに、玄関から元気な声が聞こえてきた。
そしてバタバタと階段を上ってくる音が聞こえてきた。
「おはよう明日斗」
「あっぶな!!」
俺はドアが開く寸出のところで、履きかけていたズボンを腰の高さにまで上げる。
「未央。流石にノックくらいしてくれ」
「あらあら。お兄ちゃんったら、お年頃なのね」
「うちは一人っ子だ」
「これから毎日、これくらいの時間に迎えに来るからね」
「一緒に登校するのは既に決定事項なわけね」
「そうでーす。部長命令で〜す」
「部長って大変なんですね」
「あれ、そう言えばトロフィーやメダルが全然飾ってないね」
未央はキョロキョロと部屋の中を見回す。
「あふれかえっちゃって飾るスペースが無いから、ほぼ押入れに入ったままだ。あとトロフィーって飾っておくとホコリが溜まりやすいんだよ」
「でも、これは飾ってるのね」
「まぁ、これは特別だからな」
そう言って、クラブのユニフォームと日本代表ユニフォームが飾ってある壁を見やる。
「私、昨夜動画サイト漁ってみたけど、明日斗、本当に凄い選手なのね。コメント欄もみんな褒めてたよ」
「ようやく信じてくれたか」
「いや〜、人は見た目によらないね」
「あれ?俺、朝一でほんのりディスられてる?」
息のあった漫談をしながら、俺達は階下へ降りていく。
「あなた達、何年も離れてたのに本当に仲が良いわね」
「晴子さん。お邪魔しました」
「母さん。勝手に未央を俺の部屋へ入れさせるなよ」
「なら、明日斗が先に未央ちゃんを毎朝迎えに行くことね」
飄々とした顔で、俺の母はいってらっしゃいと手をヒラヒラさせる。
俺が朝に弱いの知ってて言ってやがるな。
◇◇◇◆◇◇◇
「中学そこそこ近いから助かるな」
未央と連れ立って歩きながら、俺は未央に話しかける。
「その代わり、学区別れで、同じ小学校出身の人はほとんど別の中学校だけどね」
「え!?そうなの?」
「私達以外にもう2人、この中学に通うはずだったんだけど、2人とも私立中学に行ったわ」
「じゃあ未央も知り合いゼロで中学入学だったのか。実質、転校生みたいなもんじゃん」
「あれは不安だったわ。そして様子見してたら、氷の令嬢と呼ばれるように▪▪▪」
「未央も苦労したんだな」
周りに知り合いが誰もいない集団に飛び込んでいくのって、子供にとってはかなり一大事だからな。
「当時は、割りと本気で明日斗との文通を、生きる心の支えにしてた」
そう言えば、中学に入った辺りに来てた手紙は少し病んでたような。
「けど、明日斗がサッカーで何か凄いクラブに入れて毎日楽しいとか、世界大会でフランス行ったよみたいな手紙が来て、私も頑張らなきゃと思ったのよ」
「そっか・・・」
俺のただの近況報告が、そんな風に未央の心の支えになっているとは思わなかった。
「明日斗が、こんな痛・・面白い妄想話を送って私を元気づけてくれるんだから、私も文芸部で面白い小説書こうって思ったの。まぁ、私には文才なくてすぐ書くの辞めちゃったけど」
「そっちの意味かよ!!」
「まぁ結果オーライだから良いじゃない。おかげで、私は今、元気に明日斗と学校に通えてる。感謝してるんだから」
そう言って、にこやかに笑う未央の顔は、温かなものに包まれたような穏やかさを帯びていた。
「あ、そろそろ氷モード入るから、ちゃんと合わせてね」
そろそろ校門が見えてきた。
「未央の実態知ってる俺の前でキャラの仮面を被るのって恥ずかしくないの?」
「正直、むちゃくちゃ恥ずかしいわ」
「もう素で行ったらどうだ?」
「中学2年間で染み付いた、もはや習慣だから、一朝一夕では拭えないのよ」
物憂げな顔で、少し気怠げな氷の令嬢の空気を醸し出す未央を見て、俺は、未央は文芸部ではなく演劇部に入るべきだったのでは?と思っていた。
◇◇◇◆◇◇◇
教室に入ると、一瞬クラス内が静まり返った。
ああ、有名だという氷の令嬢がクラスメイトなのが、まだみんな慣れていないのだろう。
「じゃあね明日斗。また後で」
先程の元気印なやり取りからは嘘のような、小さな声で話し、先に自分の席に座る未央。
ただし、クラス内がちょうど静まり返っていたため、その声は、教室にいた多くの生徒たちの耳に入ってしまっていた。
「氷の令嬢が話してるの、授業で当てられてる以外で初めて聞いた」
「え?あの転校生、氷の令嬢と知り合い?」
「誰か聞いてみてよ」
「無理だよ。氷の令嬢は言わずもがなで、昨日、王子と揉めた転校生に話しかけてるところ見られたら、仲間認定されて終わるよ」
周囲が何やらヒソヒソ話を忙しくかわしている。
内容まではよくわからないが、こちらが視線を向けると皆、目をそらす。
うーん。これは1回目の転校の時より難易度が上がってる気がする。
1回目の転校の時は小学生だったから、何やかんや、昼休みにドッジボールやサッカーやらで遊んでたら自然と仲良くなっていたもんな。
誰か昼休みにドッジボールにでも誘ってみるか?と自分の席で考えていたら、
「やぁ、仙崎」
「おはよう」
登校してきた王子様が、声をかけてくる。
「どうだ仙崎。一晩経って考えは変わったか?」
人が挨拶してるのに挨拶を返さないとは、こいつとは仲良くできそうにないな。
それにしても、これが自分が絶対優位に立っていると思いこんでいる人間の顔か。
冷静に観察してみると実に醜いもんなんだな。
王子様という渾名なだけあって、そこそこイケメンの顔してるのに、醜悪さが滲み出ている。
「サッカー部の入部がどうこうの話か?」
「そうだ。入部するためには」
「必要ない。俺はサッカー部には入らず、別の部に入ることになったからな」
「ふ、ふーん。そうか」
意表を突かれたのか、王子様は少したじろいだが、すぐに形勢を立て直す。
「そうか。所詮はサッカーもお遊び程度の志しということか。気楽なサッカー人生で羨ましいよ。俺は、常に県選抜の重圧にさらされているというのに」
ヤレヤレという感じで、両腕を広げる大袈裟なボディジェスチャーで呆れを表現する王子様。
こいつも演劇部に入ったほうが良いんじゃないかな。
「それで、どこの部に入るんだい?」
「文芸部だ」
「は?文芸部だって!?」
「そうだよ」
何故か、王子様と周りで聞き耳を立てていたクラスメイトまでもがギョッとしている。
「ハハッ・・・そうか。君は転校したばかりだから知らないんだな」
いち早く、何かに得心がいったという顔で、王子様は諭すように話し出した。
「文芸部は部員を募集していない。入部届を持って行っても門前払いさ。あそこは部長の竹部さんのお眼鏡にかなわないと入れない。そして、お眼鏡にかなった人間は今までゼロだよ」
「いや、普通に昨日、入部届を書いて未央に渡したぞ」
「んな!なんて恐れ多いことを・・・まぁ、でもそのまま入部できるとは限らない」
「文芸部に入れ入れって未央がうるさく誘ってきたから、それは無いと思うけど」
「さ、さっきからなんだ!!竹部さんを下の名前で呼び捨てにして!!彼女は我が校の、深窓のかぐや姫だぞ!!」
あれ?氷の令嬢じゃなかったか?
深窓のかぐや姫?
何だか色んな異名があるな。
後で未央をからかってやろうと、未央の席を見やると、アイツいねぇ!!
自分の話題に飛び火したから、退散しやがったな。
「未央とは幼馴染なんだよ。転校前は小学校が一緒だったんだ」
そこまで説明したところで、始業のチャイムが鳴り、担任の岡部が教室に入ってきた。
その背後に連れ立つようにシレッと、未央が教室に入ってきていた。
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