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ストーリー3 文芸部への入部

 理不尽な謝罪要求をはねのけて、俺は教室に戻ってきていた。


 今日は始業式のみで半日授業

 放課後にくだらない用事に時間を取られた。

 昼食もないから腹ペコだ。


 ほとんどの生徒はもう、帰宅してしまっているだろう。


 そう思いながら、教室の扉を開ける。


 「遅かったわね」

 「未央!!待っててくれたのか、悪いな」


 「本を読んでたから問題ないわ」


 未央はパタンと手に持っていた文庫本を閉じる。


 「先生の用事、随分かかったのね」

 「ああ、くだらない用事だった」


 「…………王子様がらみね」


 「王子様?」


 「明日斗の足を引っ掛けようとした奴よ。

 中川 王司おうじ。この学校のスクールカースト トップグループのリーダーよ」


 「下の名前の読みがまんま『おうじ』で王子様か。凄い名前だな」

 「本人は気に入ってるみたいだからいいんじゃないかしら」


 「未央はよく王子様絡みの話だって解ったな」


 「明日斗が吐き捨てるように、くだらない用事って言ってたから、くだらない人絡みだと思ったのよ」

 「辛辣だな」


 「それより早く教室を出ましょう」


 「ああ、解った。けど、一つ質問いいか?」


 「なに?」


 「さっきから、なんでそんな、お嬢様風な話し方なの?」


 「早く出るわよ」


 未央は俺の問いを無視して廊下の方へ向かった。



◇◇◇◆◇◇◇



 「あー、肩こるわー」


 肩をグリングリン回しながら、未央はパイプ椅子にドッカリと腰を落とした。


 「あ、元の未央に戻った」

 「明日斗、ドアの内カギかけといて」


 言われた通り、鍵をかけて部屋の中を見回す。


 てっきり、下校するものと思っていたが、未央に学内のとある部屋に連れられてきていた。


 壁一面が天井近くの高さまである本棚で、そこにはギッシリと本で埋め尽くされている。


 「未央、この部屋って・・・」


 「ようこそ我が城へ」

 「何これミニ図書室?」


 「文芸部の部室だよ。ちなみに私が部長だよ。エッヘン」

 「おー」


 俺はパチパチと拍手する。


 「ちなみに俺も、ジュニアユースチームとU−15日本代表チームのキャプテンだよ」

 「いきなり桁違いレベルの話でマウント取らないでよ」


 未央が頬を膨らませる。


 別に未央相手にマウント取るつもりなんてない。

 キャプテンなのは事実なので仕方がない。


 「ワルイわるい。で、なんで文芸部の部室に俺を連れてきたの?」

 「お弁当、一緒に食べようと思って」


 「俺、弁当持ってきてないよ」

 「二人分持ってきたから」


 「それはありがたい。正直、お腹ペコペコなんだよ」

 「ふふふ、育ち盛りなんだから、たんと食べんしゃい」


 未央がカバンから取り出したのは、二段のお重のお弁当箱だった。


 「なんか、お祖母ちゃんみたいなこと言うな」

 「失礼なこと言う子には、あげませんー」


 「ごめんなさい、ピチピチJCの未央さん。いただきます」

 「私も食べよーっと。いただきます」


 その後は、二人ともしばらくガツガツとお弁当を平らげていく。


 おにぎり、唐揚げ、玉子焼き、地元で採れた野菜の煮物

など、瞬く間にお重の中身が消えていく。


 「そういえば、教室出る前にも聞いたけど、何でクラスでは氷のお嬢様風な喋り方なの?」


 ようやく、空腹で鳴いていた胃袋に食べ物を送り込んでヒト心地ついたところで、俺は再び先程、未央が答えなかった質問を再度投げかけた。


 「・・・あんまり話したくないんだけど、一応理由があるのよ」


 「理由って?」


 「まず前提の話なんだけど、わ、私って結構モテるのよ」


 「あらあら」

 「あー!!明日斗ってば、自分で言っててイタい奴だなって思ったでしょ!?」


 「思ってない思ってない」


 「は~、もう。それで、告白やら言い寄られるやらを断るのに都合がいいから、無機質なお嬢様っぽいキャラで学校では通してるのよ」


 確かに改めて未央を見ると、黒髪ロングに小顔な顔は雪のように白い肌で、目もパッチリしていて、見た目はたしかに清楚系なお嬢様キャラだ。


 「あー、確かに告白って断る側も結構労力かかるよな」


 「そうなのよ。一応、相手のこと調べたり、突然異性として見てるみたいに言われて困惑したり、怖い先輩だからどう穏便に断ろうかとか悩んだりね」


 「接点ない子からの告白も、君のことよく知らないからとか断ると、じゃあまずは友達としてとか言ってグイグイ来るパターンも困る」


 「そうそう!先に異性として見てますって宣言してるのに、まともに友人関係なんて作れないっての」


 「そうそう。わかるわ〜」


 「ねぇ〜」


 話が盛り上がって、勢いよく喋っていて喉が渇いたのか、未央は水筒のお茶を美味しそうに飲む。

 そして、水筒を机に置いた。


 「明日斗、あなたひょっとして、前の中学校でかなりモテてた?」


 「え!?あ~その~~」


 「やけに話が具体的だったし、私の苦労に共感してたし」


 「ほら、静丘県ってサッカー熱が凄いだろ?だからジュニアユースに所属してるってだけで、それなりに・・・な」


 本当はクラブの試合をわざわざ観に来る追っかけみたいな女の子が何人かいたりするのは黙っておこう。


 「じゃあ、向こうに、か、彼女とかいるの?」

 「いや、誰とも付き合ってないよ。サッカー忙しいからって言って、全部断ってたから」


 サッカーが忙しいのは本当だ。

 しかし主な理由は、ジュニアユースの先輩で恋愛事の影響で調子やモチベーション落として、ユース昇格出来なくて、それじゃあ、アンタと付き合う価値なしって言われて彼女にも振られてみたいなエグい例を間近で見てたからというのが、俺が色恋に二の足を踏んでしまう正直な理由だ。


 「ほ〜、ふーん。誰ともね・・・」


 未央が明後日の方向な顔を向けて、何やら独り言を言っている。


 未央が何やらブツブツ言っている間に、俺は残りの弁当を平らげた。


 「ごちそうさまでした」


 「あ〜!!最後の唐揚げ私のだったのに!!」

 「ありゃ、そうだったのか。悪いな」


 「許さんぞ~最後の唐揚げを奪った罪は重いぞ~」

 「すいません何かお詫びを」


 「よし、贖罪として文芸部に入りなさい」

 「思ったより罰がおもい!!」


 「私の文芸部に入るのを罰って言うな!!」

 「未央が先に贖罪とか言い出したんだろうが」


 「まったく。私が部にスカウトするなんて明日斗が初めてなのよ。普段は、下心ありありの入部希望の奴らを片っ端から断ってるんだから。光栄に思いなさい」


 「お!少し、お嬢様モードのスイッチ入れたな」


 「恥ずかしいこと言うなバカ・・・まぁ冗談だけどね。明日斗はサッカー部以外、あり得ないだろうし」


 「ん?俺はサッカー部入らないぞ」


 「ふへぇ!?そうなの?なんで?」


 呆けた小さな子供のような顔をした未央に、ジュニアユースだと学校のサッカー部には入れないことの説明をした。


 「まぁ、さっき『お前のサッカー部の入部は認めんぞ』って王子様と顧問に言われたから、どの道、サッカー部には入れないよ」


 「なにそれ?どういうこと?」


 俺は先程の放課後の職員室でのやり取りを未央に話した。


 「何それ!?あのクソ王子、ダサすぎでしょ」

 「まぁ、俺に実害なんてないし」


 「それで明日斗は、自分は日本代表じゃボケって言ってやったんでしょ?」

 「自分からそんな事言わないよ」


 「は!!やっぱり日本代表なのは明日斗のホラ・・・」


 「だからホントだっての!!ちょっと待ってろ」


 俺はカバンからスマホを取り出す。


 「うち、学内はスマホ禁止よ」

 「バレなきゃいいんだよ」


 俺はスマホのブラウザで、仙崎 サッカーとネット検索して未央に見せた。


 国際ジュニアの大会で、青い代表ユニフォームを着た俺がゴールを決めた直後の写真入りのネット記事だ。


 「ホントなんだ・・・」

 「ようやく信じてくれたな」


 「けど、なんで先生は知らないのかしら」


 「さあ?でも、代表に招集されたら学校側にも協力要請が連盟から行くから、そのうち否応なく周囲にバレると思う。それまでは気楽な状況を楽しむさ」


 「じゃあ、この学校で明日斗の正体を知ってるのは私だけってことね」


 嬉しそうに未央は笑った。

 感情をあまり出さないお嬢様モードの未央より、俺はこっちの、コロコロ表情を変える未央の方が好ましく思う。


 「ネットで検索されたら一発でバレるぜ」


 「理由もなく、ただの同級生の名前をネットで検索なんてしないわよ」


 言われてみれば確かにそうだな。理由がなければ。


 ちなみに前の中学校では、静丘のサッカー熱が熱い地域柄が災いし、俺の名前と顔は学内で知れ渡っていた。

 応援や試合の感想で話しかけられるのは嬉しくもあるが、色んな人から話しかけられる煩わしさもあった。


 「さらに文芸部に入るような、いわゆる陰キャなら目立たなくて済むんじゃない?」

 「さっき勧誘は冗談だって言ってたじゃないか」


 「今度は本気のお誘い。それに、うちの学校は必ずどこかの部活に所属しなきゃダメなのよ」


 「前の中学みたいに陸上部に籍を置かせてもらおうかと思ってたんだけど」

 「文芸部なら唯一の部員で部長の私に一言言えば、明日斗のサッカーの都合に活動日を合わせられるわよ」


 「それは気が楽だな」


 「それに・・・」


 未央は少し恥ずかしそうに頬を染めながら、


 「学校で私と2人きりでいられる場所が出来るよ」


 2人きりというところを強調して未央は、真っ直ぐ俺の目を見て言った。


 「確かに学内に自分たち専用の溜まり場が出来るのはいいな」

 「溜まり場って言うと、なんだか悪いことしそうね」


 「悪いことって例えば・・・」


 「エッチイのは、まだ早いからね!!」


 「スマホ弄ったり・・・と言おうとしたんだが」


 「んぐぅ」


 未央は机の上に顔を突っ伏した。


 「よし、じゃあ居心地も良さそうだし入部させてもらうよ」


 「ホント!?やったー!!じゃあ、入部届書いて」


 嬉々として書類をガサゴソと探す未央を見て 俺の方も何だか嬉しい気分になった。

日間ジャンル別ランキング19位に入ってました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 未央ちゃんが健気で可愛らしいですね。 明日斗君もサッカー関連のことを鼻にかけない爽やか少年の上に身持ちも固いですし、王子様(笑)・担任・サッカー部顧問・クラスメイトとの対比が面白いです。 …
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