ストーリー1 幼なじみとの再会
新作の投稿です。
中学3年の春
俺、仙崎 明日斗は中学校の始業式に赴いていた。
中学3年生の始業式なんて、本来なら最上級生で緊張感なんて皆無だが、俺にとっては新鮮だった。
なぜなら、俺は今日から新しい学び舎に通う転校生なのだから。
転校生の経験は2回目だが、今回は初回の頃より随分と気楽だ。
何故なら、今回は転校と言っても、元の町に帰ってきた形だからだ。
小学校3年生の春から、父の転勤に伴い、隣県の静丘県へ家族で引っ越した。
転校なんてイベントが、まさか自分の身に降りかかるなんて当時の俺は思ってもいなかった。
小学2年生の修了式の前日に、転校する俺のお別れ会がクラスで開かれた。
「手紙書くからな」
「離れてても俺らずっと友達だからな」
そんな感動の別れをクラスメイト達と演じながら末別れた。
転校当初は里心もあり、かつてのクラスメイトと結構手紙のやり取りを複数人と交わしていた。
けど、新生活や、転校先で新しい交友関係も出来て、日々の忙しさの中で徐々に文通は途絶えていった。
ただ一人を除いて。
「明日斗元気ですか?こちらはそろそろ田植えの時期です。私は青々としたこの景色が好き」
「明日斗久しぶり。私は炬燵で丸くなってます」
幼馴染の竹部 未央との文通は
他愛もない近況報告の内容が多かったが、季節が変わる毎に手紙が届く。
その適度な頻度が良かったのか、不思議と俺も手紙を返し続けた。
「今度の春から、そっちの中学に通うことになった」
「始業式始まる前に校門で待ち合わせしよ」
唯一だが、事前に転校することを伝えられる相手がいるというのは、一回目の転校にはなかったことであり、転校の不安な気持ちを和らげてくれた。
小学3年生から中学2年生が終わるまで。
その間、一度も会っていない未央との待ち合わせ。
もはや顔もおぼろげにしか思い出せないし、そもそも成長に伴って、お互い顔も背格好も大きく変わっている。
よく考えたら、携帯の番号を事前に交換しておくべきだった。
何年も文通しておいて、なぜだか不思議とそういう話にはならなかった。
まぁ、今時、手書きで手紙を書くというのが何だか新鮮で、俺もこれでいいかと思ってたんだけど。
そんな事を思いながら校門の前に立っていると、
「明日斗・・・?」
声をかけられた方を見ると、黒髪ロングの髪がなびいていた。
学生カバンを握って息を弾ませた少女は、ここまで走ってきたのだろう。
少女はうっすら上気して、汗を気にするように前髪をたくし上げた。
「未央・・・か?」
「うん!久しぶり!!大きくなったね明日斗」
「そりゃ小学生の頃と比べればな」
「お互い歳を取ったのぅ・・・」
「これから青春真っ盛りのJCが何言ってんだ」
数年ぶりに顔を合わせたというのに、軽妙なやり取りになるのは、幼馴染として一緒にいた事と、手紙でのやり取りがその後も続いたからなのか。
「本当は、私が明日斗の家に迎えに行って一緒に学校行きたかったんだけどなぁ」
「すまんな。昨日までクラブ遠征だったから、俺だけついさっき、こっちに着いたんだよ」
そう言いながら、肩にさげた通学カバンにしては大きいボストンバッグを叩いてみせる。
ここで、なぜか未央は困ったような顔をする。
「・・・明日斗。こっちでも、その設定でいくの?」
「は?設定?」
「なんかサッカーで凄いクラブに所属してるだとか、日本代表に呼ばれたとか」
「手紙にも書いてたろ?俺、今J1クラブチームのジュニアユースにいるって」
「うーん、距離が離れてることをいいことに、手紙には無いこと無いことホラ吹いてるのかと思ってた」
「ひでぇ!!」
「だって明日斗、こっちにいる時はサッカー習ってなかったじゃない」
「サッカーは向こうに転校してから習い出したからな」
静丘県は、有名なサッカー王国の県だ。
集団スポーツなら転校先でもすぐに友達ができるのではと考えたうちの両親が、転居と同時に、近くのサッカークラブに俺を入団させたのだ。
何も下調べしていなかったが、俺の入団したジュニアクラブは結構強くて有名な所だった。
そこでメキメキと頭角を現して活躍した俺は、中学に上がる前に、J1登呂ヴィナーレのジュニアユースチームからスカウトされて今に至る。
その辺の変遷や経緯も、未央への手紙に書いたはずだが。
「何か絵に書いたようなサクセスストーリーで嘘くさいなって思ってた」
「何年も妄想の内容の手紙を幼馴染に送りつけるって、ヤバい奴じゃん!!」
「どんどん話が大きくなって盛り上がっていくから、明日斗って文才あるなって思ってた」
まさか、未央に妄想だと思われていたとは。
道理で未央からの返信の手紙に、サッカー関連の話題についてほとんど反応なかった訳だ。
「よく、そんなイタい妄想の手紙送りつける奴と何年も文通したな」
「そ、それは幼馴染だし。繋がり途絶えさせたくなかったし。けど、えぇ~?サッカーの話ってホントにホントなの?」
「そうだよ。今度、家でメダルや試合のムービーとか見せてやるよ」
「そっか本当なんだ・・・となると私の部に明日斗を入れる計画が・・・」
「ん?なんだって?」
「あ!ううん、こっちの話。さ、そろそろクラス発表が掲示される頃だから行こ!!」
未央はそう言って、校門をくぐって正面玄関へ向かったので、俺もそれに倣う。
「えーと、明日斗は・・・1組。私は・・・やった!!同じ1組だ」
「未央と同じクラスか。1年間よろしくな」
「うん!!小学校では別クラスだったから初めて一緒だね」
未央が弾ける笑顔を見せる。
「まず最初に俺のクラスを探してくれてありがとな」
「ニュヤ!?ほ、ほら、明日斗は転校生だから勝手がわからないでしょ?だから私が手助けしてあげたのだよ」
何だかよくわからない先輩風を吹かせて、未央はワハハと何かを誤魔化すように笑った。
「俺も未央と一緒のクラスで嬉しいよ。一緒のクラスはこれが最初で最後だからな」
「え?でも、こっちに戻ってきたんだから、高校もまた一緒になれば・・・」
先程の弾けたような喜び顔が一転、未央の顔が曇り顔になる。
「あー、俺は高校になってユースチームに昇格したら、クラブの寮に住むことになるからな。高校もクラブが提携してる静丘県の高校に行くことになる」
「え、じゃあこの町にいるのは・・・」
「中学卒業までの1年間限定だな」
うちのクラブの方針で、親元を離れてチームメイトが一緒に暮らすのは高校生からということになっている。
中学生のジュニアユース世代から寮暮らしをするクラブチームもあるが、相当数のメンバーがジュニアユースからユースに昇格できないという現実から、ジュニアの時代からチームの結束を強くしすぎるのは良くないというのが、うちのクラブの考え方だ。
そのルールのため、俺も寮に入れず、また流石に中学生を一人暮らしさせるのはマズイということで、両親と一緒に転居したのだ。
幸いにも、隣県である静丘県へのクラブには、実家からでも問題なく通える距離だったので、退団することはなかった。
「あ、そうだ。俺、転校生だから登校したら、まず職員室に来いって言われてるんだった。じゃあな未央、またクラスでな」
「う・・・うん」
未央は心ここにあらずという感じだが大丈夫か?と俺は思ったが、そろそろ時間が迫っている。
転校初日から遅刻して、教師の心象悪くしたくないし、さっさと行こう。
残された未央は、しばし正面玄関で立ちすくんでいた。
「1年間だけ・・・じゃあ、なりふり構ってなんてらんないじゃない」
未央がボソッと独り言を発すると同時に登校時刻となったことを告げる学校のチャイムが鳴り響く。
それはまるで戦いの火蓋を切るゴングのように、未央には感じられた。
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