閑話 2
騎士アリアside
王子様がなにやら準備をされていたのは気が付いていたが近衛騎士に止める権限もない。
何かあったとき盾になるくらいしか…。
そんな事があってから数日後、王子様が籠もられていた地下から物凄い音がした。
部屋には入るなと言われた以上どうする事もできず近くで待機していたのだが、それがまずかったか。
急いで地下へ。緊急事態なのでノックもなしに扉を開ける。
「なんの音ですか?王子様ご無事ですか!」
駆け込んだ部屋は散乱し、壁や天井に大きな穴があいている。
何をどうしたらこんなことに…
それからは大変だった。友達が出来たと言う王子様。
その相手はなんと絶世の美少女。
思わず求婚してしまうくらいに。元々男性は苦手ではあったが自分で自分の行動に驚いた。
その後、王子様と美少女…アスカ様と名乗られた方から説明を受けるとどんどん頭が痛くなる。
これはヤバい。私の手には負えない。
王子様のバカ…ついに本気でやらかしましたね。冷や汗が止まらない。
これは急いで国王陛下にご報告して判断を仰がねば。
陛下に報告、急遽謁見の準備。
アスカ様の滞在するお部屋の手配。
掃除をしていたメイドには申し訳ないが手伝いを頼む。
あーーもぅ!忙しい!これ騎士の仕事じゃない。
アスカ様について分かった事が。
王子様の魔法陣による影響で魅了と誘惑のスキルが発動している状態らしい。
私も魅了されてたようだ。
悪い気はしないから別に気にしない。それに意志の強さで緩和もできる。
護衛を任された以上気を抜くことはないので大丈夫。
巻き込んでしまったメイドにも説明はしたのだが手遅れだったらしい。
王妃様お手製のスキルを抑えるアクセサリー。
それを身に着けた事によりスキルの効果は抑えられたようで、
王妃様の指示により集めた料理人見習いの少年や新人メイドへの影響もなさそう。
念の為という事で私は料理人見習いの少年達にそれとなく聞き込みをすることになった。
調理場へ向かい先程の見習いを見つける。
「仕事中に度々すまないな。先程紹介されたお客様についてだが…」
「はい! すごくキレイな人でしたね。ビックリしました」
何も聞く前から食い気味で答えてくるあたり多少の魅了効果があるのか?
「他の者たちは?」
「そうですね…お客様が美少女過ぎて戸惑ってたり緊張してたりしてます」
それくらいなら大丈夫か?他の者へも聴き込みをして王妃様に報告しましょう。
「そうか、粗相のないように頼む。大切なお客様だからな」
「わかりました!」
メイドのユリネside
王子様が何か騒ぎを起こしたらしい。メイド達の噂でそんな話を聞いた。
まぁいつものことなのでそんなに気にしない。
私は自分の仕事をします。
廊下のガラスを拭き掃除していると後ろから声をかけられた。
「忙しいところすまない、手を貸しては貰えないか?」
騎士のアリア様です。メイドにも優しく威張ることもない。そんな騎士様のお願いなら断る理由もない。
「勿論です。どうなさいましたか?」
「急な客人でな、世話を頼めるだろうか?大事な客人となるであろうから粗相のないようにだけ頼む」
勿論です。プロのメイドなので。
「わかりました。お任せください」
指定の客間に案内され待機する。
アリア様がお客様をご案内するまでに部屋の確認。
「問題ないわね」
当然だけれど。いつ、お客様が来られてもいいように常に万全になっている。
それでもやっぱり確認はしてしまう。
廊下からアリア様と女性の声が。お客様は女性でしたか。
身だしなみを確認、問題なし。
扉を開きアリア様とお客様の女性が…
何?このめちゃくちゃ可愛い人は! あれ?私そっちの趣味はなかったはずよね?
いや今はそんな事どうでもいい。貴女が私の仕えるべき方でしたか!
アリア様から「よろしく頼む」と言われたが勿論です!
「私が貴女のメイドです。 何なりと! 仰ってください」
お客様はアスカ様と言うお名前だそうです。
アスカ様の為なら何でもしますって伝えたのに何も指示をくださいません。
それどころか難しいお顔をして考え込んでおられるご様子。
私では力不足でしょうか…。
謁見の準備が出来たとアリア様が呼びにこられアスカ様は部屋を出ていかれた。
「何もお役に立てなかった。私はメイド失格です…」
…いえ、まだこれからです。謁見が終わり戻られた時のために準備をしましょう。
お茶に軽食の準備を。我ながら良い考えですね。
お城のキッチンへ向かい料理人の方にお客様用の軽食をお願いする。
謁見が終わるまでに間に合えばいいけど…。
軽食とお茶を載せたカートを引きアスカ様のお部屋へ。
部屋の入り口にアリア様がおられるという事は間に合いませんでしたか…。
「伝えなければいけない事がある。アスカ様だが王子様の召喚で呼ばれてしまった異世界からの客人だ。そして王子様の魔法陣の影響で常時、魅了と誘惑のスキルが発動している状態らしいのだ。私も魅了された手前強く言えた立場ではないが気をつけるように。アスカ様はスキルを悪用される気もないようだから安心だが心に留めておくように」
「わかりました」
アリア様にお辞儀をし部屋をノックする。
「失礼します、アスカ様。お茶をお持ちしました」
あれ?お返事がありませんね。
アリア様もご心配な様子で
「失礼します」と扉を開ける。
あ、お休み中でしたか。アリア様もホッとした様で
「色々あってお疲れなのだろう。このままで。例のこともある、くれぐれも気をつけるようにな」
「畏まりました。私は室内で待機します」
「任せた」
静かに扉を締め中に入る。それにしても異世界からのお客様ですか。
しかもまた王子様のやらかしが原因とは。
それに魅了ですか…心当たりはありませんね。私は大丈夫です(メイドはすでに魅了されている)
お茶が冷めてしまうが仕方ない。今はゆっくり休んで頂かないと。
それにしてもあの寝方では休まらないのでは?
そう思いせめてと布団をかけて差し上げると
「んんっ…」と可愛らしい声を出してもぞもぞと布団にくるまって…なんでしょうこの可愛らしさは。
気がつくと私はアスカ様の隣に添い寝をしてしまっていました。
私は何をしているのでしょう。でも愛らしい寝顔を見ていたら…
「うわぁぁぁぁぁ」
んっ…アスカ様ぁ?
その後アリア様に叱られ何やら頭がスッキリしたようで急に恥ずかしくなる。
私はなんてことを…いえ反省は後です。
王妃様とのお茶会のためにアスカ様にドレスを着ていただかないと。はぁはぁ…(メイドは魅了されている)
何とか意識を集中しドレスの着付けを終わらせる。
アリア様の案内で王妃様の待つ中庭へ。
アスカ様は魅了を抑えるアクセサリーを王妃様から手渡され装着。
魅了効果は抑えられたらしいのですが何が変わったのか私にはわかりません。
(メイドは魅了された事により本能が呼び起こされている)
アスカ様は変わらず魅力的ですね。
お茶会が終わり王妃様から直接の指令がでました。
新人メイド達からアスカ様への反応をそれとなく聴き込むようにと。
部下なので問題はないのですがそれとなくですか…。どうしましょう?
「あっ! 先輩お疲れ様です。先程のお客様凄い美少女でしたね。先輩は専属になったと聞いたのですが羨ましいです」
先程の新人メイドですか。勝手に話してくれました。これが魅了効果でしょうか。
少し揺さぶってみましょう。
「羨ましいですか?代わります?」
「え? いえ! とんでもない。羨ましいのは本当ですが、私はまだ新人です。大切なお客様と言うことで粗相があっては大変なことになります。先輩じゃないと! 私達新人では務まりません」
なるほど…多少の魅了効果はあるのでしょうが、無理に近付こうという様な意志は無いようですね。
まぁ、変わる気はありませんが!
「そうですか。わかりました。他の新人達の様子はどうですか?」
「はい?みんな持ち場に戻って仕事をしていると思いますが…」
「お客様の事で何か話したりはしましたか?」
「あぁ! キレイな人でびっくりしたーとか先輩が専属になってるのとかは同僚から聞きました」
大丈夫そうですかね…。
「あっ、でも一人、自分がお茶を淹れて持っていくんだって言って先輩に止められてました」
少し問題でしょうか。確認したほうがいいかもしれませんね。
「その子のところへ案内してもらえますか?」
「はい。今は多分庭の掃除に出てたと思いますのでご案内しますね」
庭へ向かう途中に何人か新人メイドに会いましたが普段通りのようですね。
「あ、あの子です。なんかぼーってしてるような。どうしたんだろう、普段はしっかりしてる子なんですが」
確かにあの子はおとなしいですが仕事はしっかりする子ですね。
「わかりました、ありがとう。仕事に戻ってください」
「はい。失礼します!」
少し話をしてみますか。
庭に佇み仕事も手につかない感じの新人メイドに声をかける。
「仕事はどうしました?体調でもすぐれませんか?」
「えっ、先輩?いえ、体調は大丈夫です。申し訳ありません」
声をかけると心ここにあらずといった感じで返事をする新人メイド、ん〜これは問題でしょうか。
「何かあったのですか?自分の仕事じゃないことをしようとしたと聞きましたが」
「はい…すみません」
「どうしてそのようなことを?」
「先輩、私おかしいのかもしれません。
お客様にお会いしてからあの方の事ばかり考えてしまうのです。それでお話をしたくてつい…」
これはやられてます。間違いありません。どうしたものでしょうか…。
やはりここは王妃様に直接ご報告したほうがいいかもしれませんね。
「仕事はもういいのでついて来なさい」
「は、はい…」
王妃様の元へ向かう途中もぼーっとしてるようで心配ですね。どうしましょうか…
そんな事を考えながら王妃様の私室に向かっていたら、ちょうど王妃様が此方へ歩いてこられます。
呼び止めるのも不敬ですし…って思ってたら声をかけてくださいました。
「ユリネ、その子もしかして?」
「はい。おそらくは先程ので…」
「なら、ちょうどいいわ。アスカちゃんのとこへ一緒に行きましょう」
今この子をもう一度会わせて大丈夫なのでしょうか…
「大丈夫よ、ついてきて。」
私の不安が顔に出ていたのか王妃様はにっこり微笑むと歩き始める。
新人を連れ少し後ろを歩きアスカ様の元へ。