アスカとドラゴン
この森の様子からして、かなり派手に落ちたみたいだけど大丈夫なのかな?
魔力を辿らなくても、数十メートルほど地面に抉れた跡があるから分かりやすいけど心配になる。
抉れた地面の先、少し森に入ったところにそのドラゴンはいた。
高さは数メートル、全長は尻尾を入れたら十メートルはありそうだね。
木漏れ日に光る鱗はキレイな薄水色、翼は無残に爛れ落ちてて…痛そう。
四足歩行なスタイルなのに、何故か前脚で頭を抱えてうずくまっているけどね。器用だな…。
ティー、案内ご苦労さま。ありがとね。 (にんむかんりょーですっ)
「私とも会話できますか?」
「う、うん…アナタがティーの言ってたママ?」
「はい」
「お願い、助けて…殺さないで!」
「いきなり何を…こちらに危害を加えなければ何もしませんから」
「そ、そんなことしない! 絶対勝てないし…何よその魔力量。長老様だってそんなにないわ」
「わかってて呼んだんじゃ?」
「ティーの術式が物凄く高度で複雑だったからもしかしてって思っただけよ…」
「なるほど。それで、治療はどうします?」
「治せる?」
「診てみないことには…」
あ、鑑定の魔道具がない。確かこのドラゴン毒になってるとか言ってたよね?
どうしようかな、鑑定の術式は記憶してるけど許可なく魔道具作るのは…。
あ、いや。魔力ドームに鑑定の術式流し込めば一時的に中のものは鑑定できるか。
よし、それでいこう。 (そんな事できるのママくらいなの)
そうかな? (うん)
「治療方法の説明をしますね。まず私の魔力でアナタの身体を覆います。 それから詳細を鑑定してその結果で治療方法を考えます」
「魔力で覆う?」
「はい、魔力ドームって私は呼んでます。危険はないですよ」
「…わかったわ」
今回は時間止めたりもしないし、治療しながら続きの説明ができるからね。
鑑定の術式を折り込んだ魔力ドームでドラゴンを覆う。
今回のはかなり大きいから魔力消費してるのがわかる。
「な、なにこれ…」
「これが魔力ドームです。中から出ないでくださいね」
「わ、わかったわ」
うーん、翼だけじゃ無く体内も爛れてるなぁ…。流石に外皮は丈夫みたいだけど。
何を食べたのやら…。中からのダメージには勝てないのね。
「まず、体内の腐蝕性の毒を解毒します、それから治癒をしていくのだけど…」
「けど?」
「時間がかかると思います。身体が大きいし」
私の魔力は持つけど、ここに何日か居なきゃいけなくなる。
ドラゴンの身体の構造を確認しながらになるから余計に時間が掛かりそう。
「あぁ…この毒さえ無くなれば小さくはなれると思うわ」
「そんな事できるのね…なら取り敢えず解毒しますね」
魔力ドーム内で毒の解析は出来てるからすぐに体外へ毒の排出を開始。一応集めとく。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
大丈夫だね、少し時間はかかったけど体内から毒は全部抜けた。
「身体が楽になったわ」
「体内の毒は全部抜けましたからね」
「じゃあちょっとまってね、試してみるわ」
少し眩しい。ドラゴンが薄水色に光ったと思ったら、光がだんだん小さくなっていく。
私より小さくなったな。
光が消えると目の前に、腰の辺りからは爛れたままの翼、薄水色の髪に瞳。ツノの生えた…女の子?
って、裸じゃない。ストレージから大きなタオルを取り出す。
「これ使って」
「ありがと」
受け取り体を隠すドラゴン娘。
翼や尻尾はあるし、体表にところどころ鱗があるから普通の服が着れそうにないから仕方ない。
魔力ドームも身体に合わせて小さくして、そのまま治癒を。
翼の皮膜、体内も治るようにしっかりイメージをして。
「魔力ドーム解除しますね、そしたら治癒がかかるから大人しくしてて」
「うん、ありがと」
解除と同時にキラキラと治癒の魔法がかかる。
人サイズならあっという間。
「ありがとう、ティーのママ。翼もほら! キレイになったわ」
「アスカです、私の名前。無事に治癒出来て良かった」
「アスカね、私はルナドラゴンのルナリアよ。それと、普通に話してくれていいわ」
「わかったよ。これで仲間のもとへ帰れそう?」
ルナリアは俯いて首をふる。
え?
「元々、魔力が減っていて仕方なく補充のために魔獣を食べたの。そしたらこんな事に…」
そういえばドラゴンによっては食事はしないけど魔力を補給するってのもいたなぁ。
「なんでそんなに魔力がなかったの?」
「それは…。 ねえ様とけんかした」
えー…。
「ねえ様は人化して一人でフラフラ遊び回ってて、とう様がどこへ行った!って怒ってるから、あちこち探し回ってやっと見つけたのに。帰らないって言うのよ?実力行使したけど…」
負けたのね。お姉さんも目立ちそうなものだけど大丈夫なのだろうか。
「しかも、完全な人化ができない私の事を未熟ってバカにして、自分だけ人化して街へ入っちゃったの」
あぁ、お姉さんの方は目立たずに人に紛れられるのか…。
「それでね、探し回ってたし、ねえ様と戦ったりで魔力無くなってて…」
「それで魔獣を食べたと」
「うん、この辺は初めて来たし…飛んでたのを適当に食べたら、苦しくなって落ちたのよ」
何と言うか、可哀想。
「じゃあ、仲間のもとへ帰れないのね?」
「ドラゴンのままだったら帰れたんだけど、人化して最後の魔力使っちゃったから…人化も解けないわ」
うっ…ごめん。私のせいか。
「ごめんね、魔力はどうしたら戻るの?」
「この姿なら魔力のあるもの食べたり、休んだりすれば回復してくわ」
ドラゴンに戻れないし、魔力のないままこの森に放置は流石にできないよね。 (魔獣にやられちゃう!)
だよねぇ…仕方ないか。私の責任でもあるし。 (あれは仕方ないと思うけど)
「じゃあ私と一緒に来る?」
「いいの?でもこの姿だと街へ入れない…」
うーん、何とかごまかせないかなぁ。 魔道具に頼るか。
勿論王妃様達にはちゃんと話して許可もらわなきゃだけど…。
「取り敢えず一緒にここまで来た仲間と相談してみるから。どちらにしてもここに置いてったりしないよ」
「うん。お願い」
そうなると、服だよね。
「服はないのよね?」
「魔力があれば何とかなったけど…」
「ちょっと待ってね、少し身体を確認してもいい?着れそうな服が手持ちに無いか確認するから」
「変な事しないでね?」
「しないよ!」
翼は腰の少し上から、尻尾はお尻の上あたり…ツノがあるから前か後ろで止める服ならいけるか。
下はロングスカートとか…
「恥ずかしいのだけど…」
「あ、ごめんね。多分着れそうなものあるから出してみるよ。好きなの選んで」
「わかったわ。可愛いのにしてね?」
私に可愛い服を求めちゃいけないよ…。
前ファスナーのパーカーとか、ロングスカート。
浅めのショートパンツやジャケットを出してみた。
「なんでこんなシックなのばっかりなの!?可愛いのは?しかもこのスカート引きずるわよ?私だと」
私が持ってるのこんなのしか無いんだけど、どうしろと…。
ここは未亜ちゃんを頼るしか…。
「私の妹も近くまで来てて、その子なら可愛い服とか、センスもいいから呼んできていい?」
「ほんと?せっかく人間の服を着れるのなら可愛いのがいいわ!」
「じゃあ少し待ってて」
ティー、ルナリアを見てて。何かあったら呼んでね。 (わかったよ、まかされたー)
私は急いでみんなが待ってくれてる所へ戻らないと。




