森の奥へ
アリアさんに恥ずかしいとこを見られてしまった事で、私達はようやく落ち着く。
「二人共ごめんね、取り敢えず大事な話を進めよう」
「うん」
「わかった」
「それでは、ギルドマスターが話を聞きたいとの事ですがお呼びしても?」
「大丈夫よね?」
二人が頷くのを確認しアリアさんに大丈夫と伝える。
ふぅ…まさかこんな所で姉弟喧嘩するとは思わなかった。
「すまないな、おおよその事は王妃様からの書状で把握したが、確認してもいいか?」
「はい、ちょうどユウキにも説明しなきゃなので」
「森の奥から魔獣が出てきた原因はおそらくドラゴン、怪我をして森の奥に居座っている。ここ迄は?」
「間違いないです」
「姉ちゃん、ドラゴン?」
「そう、だから私が来たんだけど…」
「そのドラゴンがアスカさんに助けを求めてる、方法は極秘って書いてあるのだが…」
言わない方がいいって王妃様の判断かな?
「はい、間違いないです」
「ドラゴンは治療後、仲間の元へ帰ると?」
「はい、そうです」
「襲われた場合は?」
「その時は対処します」
「…それができるって事でいいのだな?」
「はい」
「了解した。王妃様の手紙で同行しない様に厳命されているのでな、ここで別れなければ」
「それで問題ありません」
「わかった、くれぐれも気をつけてな」
「ありがとうございます」
「戻ったら、一度ギルドに顔を出してくれ。 ユウキ君の報酬の件があるからな」
「わかりました」
ギルドマスターは救援部隊の元へ戻っていった。
私達も出発しなきゃ…
「あ、ちょっと待って。 姉ちゃん鎧一式入るくらいの袋かカバンない?」
「あるにはあるけど、ばっちぃよ?」
「いいよ、一時的な事だから」
「そういう事なら。はい、コレ」
例の盗賊団から没収したマジックバッグを渡す。
「ありがと」
「返さなくていいよ」
「そうなの?」
「うん、だって作れるし…」
「あぁ〜そうだよね。わかった、ありがと。ちょっと待ってて」
ユウキは馬車を降りると街へ向かい歩きだしたギルドの面々を追っていった。
「ごめん、お待たせ」
さほど待たずにユウキが馬車に戻る。
ティー、ドラゴンの所まで案内お願いね。 (はーい! このまま森にむかってー)
わかったよ。
「アリアさん、このまま森の方へ進んでください」
「わかりました」
指示を受け走り出す馬車。
「さっき持っていったのって助けた人の持ち物?」
「そうそう、鎧を預かってたんだけど、次はいつ会えるかわからないからね」
「急に予定変わっちゃったから…ごめんねユウキ」
「仕方ないよ、それで姉ちゃんに助けを求めてるってどう言う事?」
「ティーがドラゴンを見つけて報告してくれたんだけど、魔力でドラゴンに気づかれたの。それで話しかけられて、ティーのような魔法を使える術者なら治せるだろうって」
「そういう事か。よくお城の許可がおりたね?」
「うん、指名されちゃってるからね」
「まぁそっか…それに姉ちゃんならドラゴンくらいどうとでもなるよね」
「それはユウキ、貴方もでしょ」
それまで私達の会話を聞いていた未亜ちゃんがびっくりしたように
「ユウキ君もドラゴン倒せるの?」
「ほら、未亜姉ちゃん。こっち来る前に話したじゃない」
「あ、あぁ! 倒してきたって言ってた。 その剣をお姉ちゃんが指でポキって…折った…」
「それそれ。おかげで前より剣は強くなったけどね」
「だったらあれ、やっぱり大事な剣だったんじゃないの?」
結構いい剣だったし。
「いや?別に。 でも姉ちゃんのお陰でどの剣より強くなったから、今は大事かな?」
直して強化はしたけどさ。
馬車がゆっくり止まる。
森が目の前だね。ここからは歩きになる。
「ん〜〜っ…」
馬車から降りて背伸び。
私達が降りた後、馬車はどうするんだろう?って思ってたら、偽装させて隠しておくみたい。
魔法がかかってて、スーって消えるように景色に溶け込んでいった。
おもしろいな。今度やってみよ。
ティー、ここから歩きになるけど、距離はどれくらいある? (うーん?結構奥ー)
わかったよ〜。方向は? (えっと、ちょうどママが向いてる方)
了解。もし、ズレたら教えてね。 (わかった!)
「ここからかなり奥まで歩くから、覚悟してね。全員に身体強化はかけるけど、時間はかかるから」
「お姉ちゃん、身体強化でどれくらい変わるの?」
「簡単に言うと、疲れにくくなったり、いつもより力が出せる感じかな」
「へぇー。便利なんだね」
「そうだねー。楽できるとこはしようかなって」
アリアさん達は余分な魔力を使わせる訳にはいかないって遠慮してたけど…
これくらいの魔力使ったって、森を歩いてたら回復しちゃう。
全員に身体強化をかけ終わり、出発。 (おー!)
ティーも元気そうね。ドラゴンはどうしてる? (昼間だから寝るーって)
夜行性なのか…。
この辺りはまだ浅い所なのに、ちょくちょく魔獣に出逢う。
やっぱり逃げてきてるのかな。森の奥からくるし…。
私が魔法使うまでもなくアリアさん達やユウキが倒してストレージに収めていく。
「未亜ちゃんは傍にいてね」
「はい、お姉ちゃん」
抜かりなく魔法防壁はかけてあるけどね。
ユウキを先頭に左右にアリアさんとルニアさん。
真ん中に私と美亜ちゃん。
戦えない美亜ちゃんを守れるようにってユウキの判断。
一応、周りに探索はかけてるけど魔力の強い魔物はいない。
「みんな大丈夫ですか?休憩が必要そうなら言ってくださいね」
「はい、身体強化のおかげだと思うのですが物凄く好調です」
「私もこんなに戦えるの初めてで」
アリアさん達は身体強化でちょっとハイになってそう。
「僕も大丈夫だよ。未亜姉ちゃんは?」
「私も歩いてるだけなんだけど身体が軽くて全然平気」
みんな大丈夫ならいいけど、無理はしないでほしいな。
(ママー少し方向がズレてきてるー、もう少し左11時方向ー)
ありがとう、ティー。
「ユウキ、少しだけ方向修正。11時方向へ」
先頭を行くユウキに変更を伝える。
「わかったよー」
歩くことさらに一時間ほどか。
さっきから魔獣が減ってきた。
探索にひっかかる数も減ってきてるし、そろそろかな? (うん、もう少しー)
ティーありがとね。 (ふふーん)
時間はもう少しでお昼ってとこね。
割と早くつけそう。
「もうそろそろだと思うので、武器を仕舞ってください。周りに魔獣もいませんから」
「わかりました」
「ユウキ、見えたら一度止まってね。昼間だから寝てるらしいの」
「夜行性なの? わかったよ」
そのまま数分歩いたところでユウキが止まる。
「姉ちゃん、多分あれだと思う。まだ遠いけど光る鱗っぽいものがチラッと見えた」
探索魔法を広げてもいいんだけど、魔力に敏感なら刺激しそうだからね。
ユウキの目が頼り。
「わかったよ、こっちに来て。少し待とうか」 (起きたよー来たのに気がついたみたい)
そっか、なら私達が来たこと伝えてくれる? (うん、えっとねー近くにはママだけ来てほしいって)
そうなの? (ママの魔力だけでも怖いっていってる)
失礼ね…。 (ごめんなさい、謝るから殺さないでーって)
助けに来たのに!? (すごく怯えてるー)
そっかぁ…わかったよ。 私だけ行くね。 (うん)
「あの…、ドラゴンが怯えてるらしくて。私一人で行きますね」
「しかし、アスカ様…」
「大丈夫です。怪我してるとこを、これ以上刺激したくないので」
「アスカ姉ちゃんなら大丈夫だし、待ってるよ」
「うん、未亜ちゃんも待っててね。ユウキの傍にいて」
「わかったよ」
ティー、私だけ向かうから。 (はーい)
森をそのまま進むと、明るく開けた場所にでた。
ここだけ、木々が倒れ、地面が抉れている。
完全にドラゴンの墜落現場だね。大事故だよこれ…。
ここまでくれば探索使わずとも魔力反応も感じる。もう少し先だね、ご対面といきますか。




