想い出補正
母さんは私を抱いたまましばらく泣いていたけど、涙を拭うと意を決したように…
「今度こそちゃんと子育てする。アスカは何が食べたい?どこか行きたい?それともなにかほしい?」
まさか母さんは私をこのまま子育てしていくつもり!? (ぶふっ…)
絶対に笑い事ではないのよ…。 (大丈夫だからー)
何が!? (未亜と聖さんが修行はじめたから)
ああ…。ありがとうね。問題なかった? (ちゃんと価値のあるもので支払ったから)
どういう事よ。 (ママのね?写真と動画)
撮ってたやつか! (それくらいですんでよかったの)
かもしれないけど…。複雑だわ。
えっ…ちょ…アキナさん!? (ママのママとアキナさんがママの取り合いしてる!)
ママって単語が多すぎてわけわかんないから! ステータス下がってるからやめてー! (早くしなきゃ…)
母さんの抵抗にようやく諦めてくれたアキナさん…。
「はぁ…もう! あのね、お姉ちゃん。幼いからといって甘やかすだけではだめなんだよ?」
「別に叱るようなことしたわけでもないのに、甘やかして何がだめなの!」
「それはそうなんだけど…。ほっとくと延々と甘やかしそうなんだもん」
「ナツハは禄に子育てをしてきてないからそう言われるのよ…」
「そんなことないし! アスカもユウキもある程度の年齢になるまではちゃんと傍に居たんだから!」
たしかにね。流石に私にはその頃の記憶は殆ど無いけど…。それこそ朧気な記憶しかない。
母さんは“手料理を作るんだー”と言って、“それなら私だって!”と張り合ったアキナさんと一緒にキッチンに行ってしまい、私はお祖母ちゃんに預けられてて、ずっと抱っこされたまま。
遠くから父さんがなにか言いたそうにこっちを見てるけど…なんでしょう?抱っこは嫌だからね? (明確な拒否)
高校生になって父親に抱きあげられても平気な人がいたら見てみたいわ。
幸い、お祖母ちゃんは私を離す気は無いようだから助かってるけど。
「〜〜〜♪」
聞き慣れないメロディを口ずさむお祖母ちゃん。
すごく心地よくて、安心して…。
気がついたら寝てしまっていた。
母さんとアキナさんがドタドタと部屋に戻ってきた音にびっくりして目が覚めた。
「落ち着きのない子達ね。いくつになっても変わらないんだから…。せっかく寝ていたのに起きてしまったわ」
「「ごめん…」」
二人はそれぞれお皿を抱えてて、なんだろう?と思ったら、料理を用意したから食べてほしいと。
テーブルに置かれたのは、どちらも可愛らしく盛られたお子様セットみたいなもので。
「アキナが私の真似したの!」
「仕方ないでしょ!?こっちにはそんな可愛らしい飾り付けとかする習慣がないんだから! 純粋に味で勝負したいんだから見た目は合わせないと!」
「味に自身がないんでしょ!」
「はぁ!? お姉ちゃんと違って何人の子たちを面倒見てきたと思ってるの!?」
「静かにしなさい! 幼い子の前でケンカするなんて二人とも親失格よ」
お祖母ちゃんにぴしゃりと言われて、ケンカはやめたけど、料理は食べてほしいと…。
「幼い子がこんなに食べられるわけがないでしょう。それに公平に判断してもらいたいならお皿をおいて離れてなさい」
私はお祖母ちゃんの手で目隠しをされて、母さんとアキナさんがテーブルに置いたお皿をお祖母ちゃんによって置き位置をシャッフルされたみたい。
お祖母ちゃんの魔力が動いたから…。ただこの身体では細かいところまでは分からないけど…。
「アスカちゃん、両方を少しずつでいいから食べてあげるといいわ」
お祖母ちゃんはそう言って目隠しをといてくれて…。
目の前には可愛らしく飾り付けられたお子様ランチのようなプレートが二つ。
スプーンとフォークをもらい、右側にあったプレートからおかずを一つフォークで刺して口へ。
「美味しい…」
優しい味付けがすごく美味しい。
「次はこっちのも食べてあげてね」
お祖母ちゃんに左のお皿も勧められて、そちらからも一つ。
この味……。
「アスカ…?そんな泣くほど不味かった…?」
心配そうな母さんに首を振る。
「そうじゃ…なくて…」
一口食べたら色々と記憶が蘇ってきちゃって。
本当に小さな頃、食わず嫌いが多かった私のために楽しく食べられるように…って母さんがお子様ランチにしてくれて。
あの時の味そのままなんだもの…。
「あー。流石に思い出補正には勝てないか。負けたよお姉ちゃん」
「もう勝ち負けとかどうでもいいかな。私も色々と思い出しちゃったから…。アスカって小さい頃、初めて見るものは絶対に手を付けてくれなくてね。悩んだ結果こうやって可愛くお皿に載せたんだよ。そうしたら笑顔で食べてくれてね。それがすごく嬉しかったの」
「へぇー。飾り付けって大事なんだね」
「うん…」
「ごめんね、お姉ちゃん。取り上げようなんてしちゃって…」
「ううん。実際、途中からお隣に預けたまま殆ど傍に居てあげられなかったのは本当だから…」
目に涙を溜めている母さんをアキナさんが抱きしめてて。仲直りできたみたい。
「アスカとユウキに子供ができたら、二人の分まで可愛がるよ」
「いいんじゃない?孫もすごく可愛いよ!」
「なっ…! アスカが子供を産むなんて早すぎるぞ!!」
黙って成り行きを見守っていた父さんが突然声を荒げる。
「だってアスカもユウキも相手はいるんだよ?いつかはそうなるでしょ」
「だめだだめだ! 後十年は許さん!」
「煩いわね、ポンコツ勇者。 そもそも貴方がまともに戦える勇者ならナツハは子供達と一緒に居られたんじゃなくて?」
「そ、それは…」
「本当だよ! こんなにお姉ちゃんもアスカちゃんも泣かせて! 私、泣かしたら許さないって言ったよね?」
「いや…今二人が泣いてるのは俺のせいではなくないか!?」
「大体、色街に行っている暇があったら嫁や子供達のためにやれることがあるでしょ?」
「夕夜!? また行ったの!?」
「い、行ってねぇよ!」
「ここは私の街だよ?情報なんていくらでも集まるんだから」
「夕夜!!」
「ひっ…」
父さん…。あれだけ騒ぎを起こしたのにまた行ったの?さすがにどうかと思うんだけど。 (ママのパパがお酒出してる屋台に来てたねーちゃんに誘われて)
はぁ…。何してるんだか。
「アスカちゃんはあんな愚かな相手を選んではだめよ?」
お祖母ちゃんは制裁を受けている父さんが見えないように私を抱きしめるとそう言う。
そもそも私の周りには女の子しかいないのだけどね。 (むしろ相手を次々引っ掛けてるのはママだしなー)
そんなつもり無いのよ!? (無自覚でモテる人はこれだから…)
なんで私はティーにお説教されてるの…。 (父娘ってことで)
今それを言われるのはとっても複雑だからやめて!?
一瞬、相手はちゃんと一人に絞らなくてはいけないのかなって思ったのだけど、大切な相手の顔が次々と浮かんでは消えて…。
無理だな…と諦めた。そもそも一度たてた誓いを破るほうが不誠実だものね。
誰に何を言われても我が子二人を含め大切な人たちを守っていかなくちゃ。 (それも元に戻ってからー)
全くもってそのとおり。今のままでは守られる側になってしまう…。




