光魔法の教室
一夜開けて、みんなと学園に登校した私はそのまま学園長室へ向かった。
途中、ちょうど学園長と会ってそのまま目的の場所に。
「昨日の打ち合わせで少し話した通り、他の教室ほど広くはないのだけど、荷物とかを置いている倉庫みたいな部屋がいくつかあるのよ。元々他に学科が増えた場合に備えてあったのだけど使わなかったのよね」
「その一つを改装するんですよね?」
「ええ…。本当に任せてしまっていいの?」
「はい。あまり時間もありませんし、全力で行きます」
「わかったわ。覚悟しておくわね」
なんのですか…。 (驚く?)
そこまで無茶しないって。 (いやー…)
案内されたのは魔装科の近くの部屋。ちょうど今うちの子たちも授業を受けているはず。
確かに他の教室に比べたら少し狭い。
「前回の学園祭で使った資材とかも仕舞ってあるから、使ってしまって構わないわ」
「わかりました。念の為、教室の外で待っていてください」
「ええ…」
資材があるなら楽なもの。
教室全体に魔力ドームを拡散、クリーンをかけて掃除をしてから、資材を使い、本棚や机や椅子…教室に必要なものを作って配置。数は少なめ。 (すっげー…ママの全力!)
まだこれからよ? (うおー)
怪我の治療とかをする可能性も考えて、保健室のような設備…つまりベッドや仕切りカーテンなども設置して、最後に落ち着いて魔法の練習ができるようなラグを敷いたくつろぎスペースも。
室内は光魔法に相応しく明るい白で統一。
…よし、こんなものかな。 (充分すぎるの!)
ならいいね。
教室の外で待たせてしまっている学園長に報告して見てもらわないとね。改善点があればそれも…。
「学園長、確認していただけますか?」
「えっ…? ええ! もう何が起こったのかわからなかったわ…。すっごい魔力が動いたって事くらいしか…」
そうみたいね…。近くの魔装科の教室にいたうちの子達まで見に来てしまったくらいだし。
昨日のうちに予め”学園内で私が魔法を使うから驚かないように“と伝えておいたはずなのに…。 (いやー予想よりかなり規模大きいし。こっちでリズもお母様の魔力なのです! すごい!! ってはしゃいでて止めるの苦労したの)
それは…ごめん。 (嬉しそうだから大丈夫!)
そっか。
「アスカ!? 聞いてはいたけど予想より規模が大きすぎるわよ!?なにしたの…よ…ってこれ…」
「お姉ちゃん…?うわぁすご…」
「うわー。ここ真っ暗な倉庫だったよね?」
「はいなの…。学園祭が終わった後に後片付けで入ったから間違いないの…」
私は資材を教室から運び出すのは任せてしまってたから知らなかったわ。 (ママは片付けて纏めてたし)
まぁね…。先輩に“後は任せてくれ”って言われてしまったものね。
「アスカちゃん、一通り説明してもらってもいい?」
「わかりました。 みんなは授業中でしょ?ちゃんと戻りなさいね」
「アスカが驚かせるからよ…」
「なの…」
「お姉ちゃんはいつも予想をこえてくるんだもん」
「ごめんて…」
「後で見に来よー。今は戻るよー」
ティアに連れられてみんなが戻るのを見届けてから学園長に謝り、説明に入る。
「みんなが驚くのは無理もないからいいのよ。これが学ぶために必要な設備と思えばいいのね?」
「はい。本棚には各種医学書をおいていただけると助かります。 ベッド類は実際に怪我等の治療の際に利用します」
「机とかのスペースより広いここは?」
ラグの敷かれたところを不思議そうに見ている学園長。
「机とかは座学用で、医学書とかを読んだりするときにつかうくらいです。どちらかといったら本命がここです」
「こんな落ち着ける空間でいいの?」
「はい。光魔法は特にですが、心穏やかに落ち着いて魔法を使うのが基本になりますから。慌てていたりすると魔力も乱れますよね?」
「ええ。それが悪影響になると?」
「私の体感ですが、どの魔法より効果に影響が出ますね。 先ずは落ち着いた環境で光魔法を確実に行使できるように訓練するのが第一段階。最終的にはどんな状況でも同じように行使出来るようになるのが理想ですが、そちらは短期間では不可能です」
「当然ね。最前線で落ち着いて魔法を使うというのは精神力が物を言うもの」
「ですね。 ここで繰り返し反復練習を重ね、意識せずに魔法を落ち着いて扱えるようになれれば、学園内で教えられる段階は終わったと見ていいと思います」
「充分ハードルが高いわよ…」
「そうかもしれません…。 ですが、光魔法の特に回復魔法等を使う人というのは、周りからの期待や命を預かるという面で本人のプレッシャーも相当強くなります。攻撃をして敵を倒すより、味方を守らなければという想いは精神への負担がより大きいと考えた方がいいかと思います」
「そうね…。最近のヴィータを見ていたらわかるわ」
「ええ。そういったプレッシャーを跳ね除けるには場数を踏むしかないですが…。完全に身に着けた魔法というのは無意識にでも扱えますから」
「そうなの!?」
「例えば、私が使う魔法防壁なんかで言いますと、攻撃が来た、なんの魔法を使おう?相殺させる?いや、魔法防壁で…。なんて考えていたら手遅れです」
「当然ね。 という事はみんなある程度は無意識に最適な行動をしていると?」
「既に実戦をしている人とかは確実にそうだと思います。光魔法というのはそういった実戦で、一瞬の対応が命を救えるかどうかというギリギリの判断を迫られますから」
「だから完全に身に着けておけというわけね」
「はい。何より完全に身に着けているという自信は、いざという時に迷いを減らしてくれますから」
「全くそのとおりね。流石前線をくぐり抜けている勇者様は違うわね?」
「そんな状況にならないのがベストですけどね」
「でも、想定して備えておいて無駄はないわね」
「そういう事になります」
当然、攻撃する側にだってそれぞれの立場のプレッシャーや責任というのは重くのしかかるけど、仲間を守るという立場のがプレッシャーは強いと私は思ってる。
実際に仲間を救えなかった人や、現場で慌てすぎて魔法を使えなくて責められて更に慌てる、なんて人を沢山見てきているから…。
何より私自身、光魔法や聖魔法を扱う立場として、他の魔法より精神状態や魔力の乱れが及ぼす影響が大きいのを実感してるっていうのも大きい。
「例えばだけど、簡単な方法でそういった不測の事態を少しでも想定させるにはどうしたらいいかしら」
「そうですね…。光魔法の場合、仮に暴発しても攻撃魔法のような危険はないので…。魔法を使っている時に驚かせるとか、脇をつつくなんてのでも効果はあるかもしれません」
「普通の魔法でそんな事をしたら大惨事だものね」
「ええ。でも、攻撃魔法もそういった状況でも使えるようにならないと実戦では自爆しかねませんから」
「確かに…本当に魔法は奥が深いわね」
「ですね。 少し前にノアとそういった状況へ対応するための訓練を短期間で行いましたけど、かなり疲弊してましたから」
「どんな訓練をしたのよ…」
学園長に私自身も受けた訓練について説明したら、”そんな訓練を受けていたらみんな逃げ出してしまうわ”と。
過酷だしなぁアレ…。
でもおかげで私は生き延びてこられているから、師匠には感謝しているのだけどね。




