両親とトラブルと
お屋敷を出て、先ずは屋台にいる父さんに顔を見せに行こうかと思い、塔と街とをつなぐ道へ。
もうここも壁が上げられたままだな…。 ずっと塔も使われているから仕方がないか。ステッキの試合エリアがオープンすればこちらも平常に戻るのかもしれない。
…まだ王女の味とかいうノボリあげてるの? (あるのと無いのとで売上が…)
そんなにか…。しかも父さんしかいないって事は唐揚げはなくてお酒しか売ってないんでしょう?私はもう無関係よね? (あはは)
笑い事じゃないよ…。
「父さん、お酒しか売ってないのに…ってなにこれ!?」
「お、アスカじゃねぇか。久しぶりだな」
“久しぶりだな”じゃないのよ。何、このお酒のラベル! キャラクターのように私の似顔絵が書かれてるんだけど! (あっ!)
「私になんの断りもなくこういうのやめてくれる?」
「いいじゃねぇか…。街の人たちも喜んでるんだぞ?」
「そういう問題じゃない! 勝手にやめてって言ってるんだけど」
「有名税ってやつだな!」
ふざけないで。有名になったからってイコール何でも我慢しなきゃいけないなんておかしいのよ。 (それ、ママのママやアキナさんもかかわってて…)
はい…?理由を聞いてもいい…? (国中に王女として周知させるためって)
カメプロの映像で…。 (遠くからしか見れてない人とか、全員が全員見てないから。国が大きいし…)
はぁ…。 だとしても一言伝えてほしかった…。 (いい忘れてたの…)
ティーは聞いてたのね? (うん…)
そう…。わかったよ。もう今更だし。理由はわかったから。 (ごめんなさい…)
いいよ。そういう時もあるから。怒ったりしてないからね? (あい)
それにしても、周知させるためって、どうしてここまで? (他国と交易するから)
まさかこのお酒、他の国にも売られるの!? (うん)
なんてコト…。
「ほれ、アスカにはこれをやろう」
「お酒は飲めないんだけど…」
「それは果実ジュースだ。子供たちに大人気なんだぞ?」
そうですか…。自分の顔の書かれた瓶を受け取り、ストレージへ。後で飲んでみよう。
お客が増えてきたから邪魔になる前に移動。
学校へ行くには先ずは中心地にあるギルドのところへ転移してからかな。
転移ゲートにいる兵士さんに顔パスで通してもらい、久しぶりのギルドへ。
ちょうどいいからお金をまた預けておこう。なんやかんやとアキナさんから貰ってるのに使いみちがないまま持っているし…。
ギルドでも当たり前に顔パスで別の部屋に案内され、そちらで手続きしてもらい、お金も預けてホッと一息。
ギルド側の転移ゲートで学校のあるエリアへ…
「おい、そこの女!」
背後から高圧的な声が響く。大人というよりは、多分まだ子供…? (くっそ生意気な…)
これ、私が呼ばれてる…? (うん)
「この僕が呼んでいるのだから止まれ!」
はぁ…なによもう。
振り返ると、長い耳に金髪長髪のエルフ…?
「この僕が誰かわかっていて無視したのか!」
「すみません、どなたです?」 (ムカつくガキだ!)
概ね同意するけど、それよりもティーの言葉遣いを注意すべきかしら。 (えー)
「僕はエルフ国、トゥアーレの第一王子トゥアーレ・サリクスだぞ!」
「そうですか…」
聞いたことがないけど、ティーわかる? (えっとドラゴライナ王国の属国に一つにそんな名前の国があったような…?)
なるほどね…。私もちょっと周辺国について学ばなくてはダメかな。立場的にもこういう場面で失礼な事をしてしまったらアキナさんに迷惑がかかるし。 (んーあんまり気にしなくていいと思うけど)
そうもいかないでしょう…。 (資料集めとくの)
ありがとう、私もアキナさんに聞いては見るけど、ティーにも手間かけるけどお願いするね。 (あいあい!)
「聞いているのか! ふむ…お前、やはり人間にしてはなかなかの美人だな?僕の愛人になるならその無礼許してやる」
「お、王子様! この方は…」
「うるさい! 僕は今この女と話してるんだ!」
「しかし…!」
護衛の人は私を知ってるっぽいね。 (王族なのに知らないほうが問題)
アキナさんを知らないのとは訳が違うしなぁ。突然現れた王女なんてなかなか周知されないでしょう。
あ、だからあのお酒か! (うむ…)
なんとか止めようとする護衛に対して怒りを隠さないお子様王子。
お子様とは言っても、多分十二、三歳だからユウキと変わらないくらい。もう子供だからと許される年齢は越えてると思うけどね。 (うんうん)
「うるさい! たかが護衛の分際で…」
王子を名乗るお子様はいきなり魔法を護衛の人へ放つ。街なかで、しかも自分の護衛に対して何をしてるの!?
咄嗟に魔法防壁で防ぎ、魔法そのものを消滅させて護衛の人は守ったけど、一体何を考えてるの…。 (バカすぎるの)
本当にね…。王子にどういう教育したのやら…。
「な、なんだ…!?僕の魔法が…」
魔法も未熟な上、近場で私が魔法防壁を発動させたのさえ察知できてないとか…。 (それはママ基準…)
……。ま、まぁそれはいいとして!
「何事だ!? 誰だ、街の中で魔法を使ったのは!」
当然、兵士の人が集まってくるよね…。騒ぎを聞きつけて街の人達も集まって来てたし、誰かが伝えたんだろう。
「お、王女様! どうされたのですか!?」
「ごめんなさいね。私が無知だったせいでトラブルが起きてしまって…」
「ご説明していただけますか?」
「ええ…」
兵士の詰め所に移動して一部始終の説明。
話を聞いたドラゴライナ王国の兵士さんたちは大きなため息。
対して、相手方の護衛の人たちはもう顔色が真っ青で、生きた心地がしてないんじゃないかって程。
唯一イキリ散らかしているのはお子様王子。
「僕をこんなところへ連れてきてどういうつもりだ! 僕の母上が誰かわかっているのか!」
「……問題はそこではないんですよ。ここはドラゴライナ王国。アキナ陛下の治めておられる国なのはご存知ですかな?」
「うむ。母上と同盟を結んでいる国だろう?」
「同盟などではないのですが…。 一体どういう教育をされたのです?」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
兵士さんももう呆れて何も言えないって感じに…。
当然よね。ドラゴライナ王国の周りにある小国は、頭を下げてアキナさんの庇護下にあるようなものでしょ? (うん)
その為に政略結婚の様に嫁いできている奥様も少なくない。 (うんうん)
これ下手したらアキナさんの庇護から外されても文句言えない事態よね? (ママに生意気言ったから当然)
そうじゃなくて。 庇護下にある国の王子が同盟と勘違いしてて、まるで同等の立場にあるかの様に振る舞ったのが問題なの。 (えー)
護衛の人たちはそれをよく理解してるから焦ってるわけだし、こちらの兵士さんたちも呆れてるんだよ。
ドタドタと詰め所に駆け込んできたのはアキナさんの親衛隊。揃いの紅葉色の鎧ですぐにわかる。
「王女様、あとはお任せください。こちらで処理しておきます」
「わかりました。私も後でアキナさんに報告に行くけど、あまり手荒にはしないでね?」
「はっ…! 全員拘束しろ」
あっという間に護衛もお子様王子も捕らえられて縛られる。
「僕が誰だかわかってるのか! こんな事をして…」
「そのセリフそのままお前に返すぞ。お前が無礼を働いたのはこの国の継承権第一位の王女様だ。その場で斬り捨てられても文句は言えなかったのだぞ?わかっているのか! 愚か者が!」
親衛隊の一人に怒鳴られて、ビクッと震えて、ようやく事態が多少飲み込めたのか大人しくなった。
連行されていくのを見送り、兵士さん達に迷惑をかけたのを謝って詰め所を出た。 (みんな恐縮してた)
トラブルを持ち込んだのは私なのにね…。母さんに会いに行くつもりだったけど、先にアキナさんに会いに行ったほうがいいな、これは…。
のんびり転移ゲートを…なんてやっている余裕も無いから、完全に偽装させてからお屋敷に転移、その足で直ぐにお隣へ向かった。




