魔法学園の方針
「魔法というのはイメージ次第で大きな違いが出ます。 そもそも魔法を安定して扱うには、常に一定の魔力を込める事と、明確なイメージが必須なんです」
「常に一定の魔力を込めると口で言うのは簡単だけど…一番難易度が高いわよね?」
「だからこそ、このゲームなんです。射的は難易度も低く、目視で込めている魔力がわかりますから。 感覚と目視と両方で微量な魔力を安定して扱う事を覚えれば大きな魔力も安定して扱えます」
「でも、そんな微量な魔力では魔法の発動さえ怪しくない? 仮に発動したとして、たいした効果はえられず、練習にならないのでは意味が…」
「それを補うのがイメージです。先生、こちらのステッキに1ゲージ分の魔力を込める、というのを繰り返して、その感覚を記憶してもらえますか?」
手渡したのは射的用のステッキ。目視できるから一番わかりやすい。
「え、ええ…。 確かにこれだけ微量な魔力を込めるというのは中々難しいわね…」
先生が感覚を掴むまで見守りながら、部屋と室内にいる人全員に魔法防壁を張り巡らせる。
ティー達は慣れたもので、普通にゲームを続けてるのはさすがだ。
「ねえセルフィー、あの子またとんでもないことしてるわよね?」
「気にしたらだめよ? すごいのはこの後なんだから!」
……。 (言われ方!)
毎度のこと過ぎて敢えて黙ってたのに。 (代わりに言っといたの)
「…いいわ。安定して1ゲージ分の魔力を込められるようになったと思う」
「では、今から私が炎の魔法をお見せしますので、よーく見てください」
手のひらに展開したのは、直径数十センチ程の炎の玉。私の場合は小さく小さく抑えるようにイメージしないと…。 (ママのは1でも巨大になる!)
うん…加減するにもイメージは必須だからね。
「ものすごい魔力密度ね…本来ならそんなサイズではないでしょう?」
「そうですね…普通に使うのなら数メートルサイズになるかと」
さすが先生、凝縮された魔力の密度をしっかりと見抜いてるな。 (カッチカチの雪玉みたい…)
イメージとしては間違ってないね。
「この魔法をしっかりと記憶できたら、目を閉じて先程のように1ゲージ分の魔力でこの魔法をもう一度しっかりと思い描いて発動してみてください」
「1ゲージ分の魔力…ね。 あれだけ凝縮された濃厚な魔力…私にも扱えたらどんなに素敵かしら…フフフッ…」
大丈夫かこの先生…。
発動した魔法を見る限り、イメージそのものは問題なくできたようだけど。
「えっ…。ちょっと、アスカちゃんは1の魔力って言ったのに、何してるの!」
学園長が少し大きな声を出す。無理もないけどね。
「私は1ゲージ分の魔力しか込めていませんが…」
そう言いながら目を開いた先生は、目の前に浮かぶ数十センチ程の炎の玉をみて唖然とし、固まった。
「なに…これ…」
「ふふっ。初めて見たら驚くわよね! 私も始めは疑ったくらいだもの」
「じゃあ本当にあれで1の魔力?」
「はい…私はそれ以上の魔力は込めていません」
びっくりしても魔力の制御が大きく乱れないのはさすが先生。
「今体感して頂いたように、魔法は適切な魔力を込めて安定させる事が必須になります。練習段階なら常に一定の魔力を込めて発動させるのを意識する必要があり、その次にどのような魔法を行使するかという明確なイメージが大切になります。これは属性が変わろうと同じです。そして、こちらのゲームは一定の魔力を込めるのを視覚と感覚、同時に覚える為のものなんです」
「遊びながら学ぶ…なるほど確かにその通りだわ。 セルフィー、貴女いつから知ってたの!?」
「ほほほ…。ほら、危険もあるじゃない?だから、ね?」
「その危険を避けるために学ぶ学園で教えなきゃ意味ないじゃない!」
「不穏分子がのさばっている学園に教えられる訳がないじゃない?時期を待っていたのよ」
「うっ…確かにそう言われてしまったら何も言い返せない…」
今は国に仇なすような者は淘汰されてるもんね。確かに良いタイミングかも…。
「アスカちゃん…これを見せてくれたって事は、学園で教材として使っていいのね?いいのよね?」
「は、はいっ! えっ… ええっ!?」
いや、むしろそれでいいのか。事故も減るし…。だったら…
「ゲームそのものは私が用意しますけど、ステッキは魔道具科の皆さんが練習も兼ねて作るというのはどうでしょう?魔石の加工等は私がしますから」
「いいわね、それ! 完成したもので各科は基礎訓練ができるのね!」
「はい。デザイン等は魔装科の生徒さんにお願いしたら素敵なものになるのではないでしょうか」
「最高じゃない。学園の生徒が協力して教材を作り、それで学ぶ生徒…。うん、素敵だわ! 今後の学園の方針は決まったわね!」
おおう…学園の方針まで決まってしまったぞ…。 (またやっちゃったママ…)
でもでも、悪いことじゃないし! いいでしょう? (うん! ドラゴライナ王国の学校の年長者版みたい)
ほんと、そのとおりだね。
学園長は方針として纏めて陛下に報告する! と意気揚々としてるし、魔法科の先生は教材ができるまでに少しでも生徒が安全に魔法を扱えるよう、口頭で伝えられるだけ伝えてみると決意を新たにしてた。
「これでうちからも、他国からも留学する生徒が増えれば最高ね…」
王妃様はそう呟いてた。




