権威
一通りの報告も済ませ、聖女候補の子たちに渡した魔道具についても詳細まで伝えておく。
イアリスさんには言いそびれた部分も含め…。
次にあった時、報告を受けたイアリスさんから叱られるのなら甘んじて受けます…。
「アスカ様、そのような魔道具がいったいどれほどの価値があるか、理解しておられますか?」
「ええ、大凡は。ですがこうなった元々の原因は私ですし、どうしてもと言うのであれば、国元へ帰る時には返却してもらえばいいのではありませんか?今もイアリスさんが管理しておられますし」
「無理に持ち出されたり、狙われたりしたらどうしましょう…。とてつもない物なのですよ?」
「お話した通り対策はしてありますよ?本人にしか扱えませんし…」
「そういう意味ではありません! 大聖女様から下賜された聖具ですよ?それだけで価値は計り知れないのです!」
魔道具の内容じゃなくて!?そこまでは考えてなかった…。
「アスカお姉ちゃんも相変わらずだよね。 あのね、大聖女様降臨の後から教会への寄付金は凡そ二十倍に増えてて、今も増え続けてるの。理由は魔神軍との戦闘の影響で、体に不調があった大勢の人の身体が治り、働けるようになったから。その感謝は当然大聖女様に向いてる。これはわかるよね?」
「う、うん…。でもイアリスさんも一緒に祝福したのに…」
「それも含めて教会への寄付が増えてるんだよ。 んー例えば、ボクがお姉ちゃんにもらったアクセサリー。仮に市場に出したら幾らになると思う?」
「シャーラにしか使えないものなのに?」
「大聖女様手ずから作られたアクセサリー、それだけでもう価値がすっごいの! 間違いなく教会や国がこぞって予算を出して買おうとするよ。ボクの予想では…」
「もうわかったよ、ごめんね。渡したの迷惑だったかな…お礼のつもりだったんだけど」
「あ、違うよ! そういう意味じゃないから。ボクだってアスカお姉ちゃんから貰った大切な宝物だし、人手に渡すつもりなんて更々ないよ。ただ、大聖女様のネームバリューは凄まじいんだって説明する為に言っただけだから」
迷惑じゃないのならそれだけでいいよ。
「つまり、アスカが作ったアクセサリーってだけで、とんでもない価値があるって事ね?」
「ルナリアちゃんの言うとおり、そういう事! 使える使えないは問題じゃないんだよ」
「私達、みんなお姉ちゃんから貰ってるよ?大丈夫なのかな…」
「あくまでも此方での世間一般から見た価値という話です。 私達にとってはそのような価値観より、愛するアスカ様に頂いたというだけで何よりも大切なものではないですか」
「そうよね。私達はアスカに貰ったから大切なのであって、価値があるから大切なんじゃないもの」
「うんっ! そだね!」
「お姉様に貰った大切なものなの…」
そう思ってもらえる方が贈った側としては嬉しいね。
「ごめんね、ボクが変な言い方しちゃったから」
「シャーラ、ありがとう。お陰でこれから気をつけようって思えたから」
「そう?なら良かった。本当ならアスカお姉ちゃんに会うためには寄付金を積んで積んで…、漸く国のトップがお目通りが叶う、それくらいの立場に居ると思ってね?大聖女様の権威はそれくらいすごい」
もうメチャクチャ…。とはいえ、世界観や宗教観っていうものはその世界毎に違うし、やってしまった以上、もう後戻りはできない。
此方ではそうなってるんだとしっかり認識しておこう。
「ティー姉、お話が難しいのです…。お母様はもうリズ達のお母様じゃなくなってしまったのです…?」
「ママはママだよ! ティーとリズのお母様! だから大丈夫。だよね、ママ?」
「うん。何があっても二人とも私の大切な子だからね。心配しなくて大丈夫」
不安にさせてしまったのかな。抱きしめて安心させてあげるくらいしか思いつかない、本当にごめんね…。
お母様じゃないなんて言われた日には立ち直れなくなるよ私。
「リズちゃんのお母様はとーってもすごいからみんなに大切にされるよーってだけだよ」
「さすがお母様なのです!」
シャーラが上手くまとめてくれて、グズっていたリズにいつも通りの笑顔が戻ってホッとした。
報告の後、少し時間ができたから、リズ達が見て回ったというツキたち精霊の手掛けた花畑を見るために城を出てきた。
ツキの顔も見たいからね。ツキも私の子みたいなものだし。
ただ…実際に対面してびっくりした。前に会ったときより大人っぽくなってるんだもの…。
「ツキ、もしかして精霊女王になってる?」
「はい。ママのお陰で…。光の精霊も来てくれて、ここは精霊達の守る土地となりました」
「それは、どういう意味があるの?」
「えっと…んーっと…お母さんに聞いてほしいの」
見た目も口調も少し大人っぽくなったかと思ったけど、困ったように首を傾げる仕草は以前の可愛いままのツキと変わらず安心。
「リコ、来てくれる?」
少し久しぶりなリコは魔法陣から出てきたけど、膨れてる。
「リコ、怒ってる…?」
「ちっとも呼んでくれないんだもの! 報告したいことがいっぱいあったのに!」
「ごめんね、私も忙しくって…」
なんていうのは私の事情だもんね。ママと呼んで慕ってくれているのに申し訳ない事しちゃった…。
「今日は少し時間があるから話を聞かせてもらえる?」
「ええ。まずはニレね。 あの子は相変わらずよ。ドラゴンの子と仲良くしてるから安心して」
「わかったよ。そっちも近いうちに顔を出すつもりしてるから」
「そうしてあげて。待ってるから」
リアもフィアに会いたいだろうし…。私もあの子達に会いたい。
「本題はこの子、ツキの事よ」
「うん、聞かせて」
「めでたく精霊女王になったわ。ママのお陰でね。光の精霊も集まってきてくれたから」
「精霊の守る土地になったって聞いたんだけど、それってどういう意味?」
「そのままよ? 精霊に守られ、土地は肥沃で作物は豊作になり、水は透き通り、外敵は入り込めない。ここへ害をなそうなんていう邪な感情を持った者はこの国に入る事すらできないわ」
「もうそれって無敵では?」
「精霊女王っていう存在はそれくらいすごいのよ。もう管理能力や力では私も勝てないわ」
「私だって魔王してたけど、勝てる気しないよそんなの…」
国を守る上で最強でしょ。国のトップからしたら自国の発展と安全なんて何よりも優先するべき問題だし。
「後、影響が出るとすれば、この国に住んでいる人達の各種能力、それらの成長が著しくなると思うわ」
「それって、ステータスやスキルの話?」
「ええ。私もここにいると心地よくて力が溢れてくるもの。ママも感じない?」
リコはそう言うけど…
「確かに心地よさは感じるよ。植物も水も空気もきれいだし、落ち着ける。でも力が溢れる…?それはわからないかも」
「あ…そっか。ママはツキよりも遥かにステータスが高いから力の成長は感じないかもしれないわね」
「ママは精霊女王より上にいる…当然」
ツキ…今その手の話題はやめてほしい。もう本当に立場とか権威とか荷が重すぎる…。
この訪問の後、ティーが各国で聖女について確認したところ、私がお邪魔しているところはどこも“大聖女“なんて呼ばれるほどの聖魔法を扱える人が現れたら、師匠の所と同じ扱いになるそう。
絶対に大人しくしてよう…。 (手遅れ感すげー)
まだ大丈夫なはず! (※注 あくまでもママの希望です)
やめてって…。
例外はアルディエル母様の所くらいか。魔王がトップなんだから当然よね。そもそも聖女なんて存在しないもの。
「ママ、じゃあ魔族には聖女に相当する役目の人はいないの?」
「いないねぇ。敢えて当てはめるのなら、それすらも魔王になるかな。全てにおいて魔王がトップだからね。魔王は普通の国の王様とはワケが違うの」
「うーん?」
「どんな役職だろうと魔王より上は絶対に存在しえない。これは力至上主義だからってのも大きいけど、魔族ってのは魔王がトップにいないと成り立たないんだよ」
「もし悪い魔王で倒されたら?」
「次期魔王になれるほどの力のある人がいればまとめる事は可能だろうね…。出来なければバラバラになって後継者争いが起こり、失敗すれば衰退していくだけ。 ま、普通はその前に新たな魔王を据えるし、緊急時なら私みたいに喚ばれて据えるって事もあり得るでしょうね。だから魔王を倒す時には次期魔王候補も全て倒しておかないといけない」
「でもーファリスもロウもトップのママを叱ったりしてたよ?」
「ああ、それはまた話が別。意見や提案、諌めるくらいはするよ。ただ、ファリスもロウも立場としては魔王の上に立つことはないし、仮に私が命令していたらどんなに理不尽な内容でも命がけで実行するよ」
「ママって命令してた?」
「どうだろう。魔王命令として何かをさせようとした事はあまりないかもね。お願いとか、仕事として指示は当然出してたけど…。その辺はファリスにでも聞いてみたら?本人達からしたら理不尽な命令をされたって思ってる事もあるかもしれないし」
だとしたら申し訳ないけどね…。
「きいてみるのー」




