閑話 ユウキの冒険者活動 2
武器を構え、気配を殺す。
風下になるように移動し、勢いに乗せて魔獣に斬りかかる。
盾持ち冒険者に意識を集中していた魔獣は抵抗する間もなくあっさり斬り伏せられ倒れる。
「ちょっ!? 姉ちゃん、これ切れ味ヤバいよ…」
ドラゴンを斬った時には感じた抵抗感が全くなかった。豆腐でも斬ったかのよう。
姉ちゃんはホント加減して!?
「一刀か。凄まじいな」
盾持ちの冒険者にそう言われるが今はそれよりも…。
「痕跡追えますか?」
「おう、付いてくる気か?」
「はいっ!」
「いいぜ、行こう」
「こっちは任せておけ。ギルマスへの報告もしておく」
「任せたぜ〜」
長く組んでるのであろう2人の信頼関係に、安心感と羨ましさを覚えつつ、さっさと駆け出した手練れの冒険者を追う。
冒険者に追いつき並ぶ。
「この速度に付いてくるかよ。剣の腕だけじゃないんだな」
「置いてくつもりだったんです?」
「まぁ、ついてこれないようならな」
「そうですか」
薄暗い森の中を駆け抜ける。
人里が近いこともあり間伐されているのか森の中なのに走りやすい。
しばらく走ったところで、前を走っていた冒険者が突然速度を落とし止まる。
「ストップ、ここからは慎重にいく」
「わかりました」
プロの彼に合わせゆっくり移動する。
「このあたりだと思うんだが…」
僅かに血の匂いと、魔獣の気配。
グリフォンはサイズ的に地面というか洞窟などを寝床にしていたが、アイツはだいぶ小さい。
なら大きな木の上か?
見渡し、ヤツが乗れそうな太さの木を探す。
…あった。他にはそこまで太い木はない。
「あの木の上だと思います」
「ん? …おう、いいカンしてんなぁ。間違いない。巣が見えた」
おそらく遠見とか、鷹の目みたいなスキルだろう。
「親はいますか?」
「いや、子供の羽がちらっと見えたくらいだ。それに攫われた冒険者も見えんな…」
どうするか…。
「一度戻るぞ。もう一匹いたら不味い」
「…わかりました」
目の前に助けるべき相手が居るかも知れないのにと思うと気が焦る。
「落ち着け。ここで焦って失敗したら意味がないだろう?」
「そうですね。戻りましょう」
焦りが伝わったか…。落ち着かないと。
野営地に戻る頃には真っ暗になっていた。
「ただ今戻りました」
「ユウキ君! まったく君は無茶をする。 まぁ無事で何よりだ。それで報告は?」
護衛の騎士様も振り切っちゃっただろうからなぁ…。
「おう。それは俺からするぜ。痕跡を追ってそれらしき場所にいってコイツが巣を見つけた。遠見で確認したが今は親はいねぇ。子供だけだ。被害者は見えなかったからわからん」
「わかった。もう一匹親がいる可能性を考えて行動する」
そうだよね。番でいるのが普通だし。
ギルマスは救援部隊を集める。
「みんな聞いてくれ、魔獣の巣の位置は特定した。しかしもう一匹の動向がわからん以上慎重に動かねばならん。そこで二手に分けるぞ」
戦力の分散は得策では無いけど…この状況だとそれしかないか。
「まずはこの野営地を守るものと、救出に向かうものを分ける。メンバーを決めるまで少しでも身体を休めていてくれ」
ギルマスは僕と盾持ち冒険者と斥候っぽい冒険者を集めると話を切り出す。
まぁ僕の後ろには例の騎士様らしき女性が2人いるけどね。
「戦力で考えると、私かユウキ君のどちらかがここに残るほうがいいだろう。どう思う?」
「まぁそうなるわな。ユウキはどうだ?」
「僕はどちらでも構いません。残って守るのも重要だと思うので」
「真面目だなぁ。 ギルマスよ? 突っ込むだけの若い頃のお前より、余程しっかりしてるんじゃねぇか?」
「うっ…。やかましいわ! それより、巣の位置の詳しい情報と子供の数は?」
「巣は太く大きな木の上、子供は見えた限りでは一匹だな」
「高い位置の巣へは斥候のお前が行けるとしても、被害者がいた場合どう下ろすかだな」
ギルマスが悩むのも当然だ。怪我人を下ろすのは一筋縄じゃいかないだろう。普通なら…。
「何とかなるかもですが…」
「ユウキ君、なにか案があるのか?」
ギルマスを含めみんなの視線が集まる。
「手っ取り早いのは身体強化魔法かけて抱えて飛び降りる。ですね。時間の猶予も無いですし…」
「身体強化?それでは人ひとり抱えて移動できるほど変わらないと思うが」
あれ?こっちだとそんな感じなの?
「いや多分大丈夫だろ。コイツ、俺が身体強化で走ってるのに簡単に追いついてきたからな」
あれくらいなのか…。
「身体強化をレベル2くらいかければ、人ひとりくらい抱えて走れます」
「…そうか。ならば野営地には私が残ろう」
「ま、それがいいだろう。俺たちがコイツを援護するから、あと数人だけつけてくれ」
「わかった。ならちょうどユウキ君の後ろにいる彼女らに頼もう。お願いできるか?」
「はっ、お任せください」
「頼む。こっちは野営地に親が来る可能性を考えて…」
グォォォォォォ!!!!
「来たか!? ならば今がチャンスだろう。お前たちは巣へ向かい救助を!」
ギルマスの判断は正しい。指揮官の指示に従う。
倒せるかどうかは別として、気を引いててくれるだけで救助する時間ができる。
「わかりました。行きます」
盾持ち、斥候、護衛騎士二人と森の奥へ走る。
後ろから聞こえる激しい戦いの音に後ろ髪を引かれるが、ギルマス達なら大丈夫だろう。
「いい判断力だなぁ?普通なら戸惑いそうなもんだが」
走りながら斥候の人が話しかけてくる。
「早く救助が終わればそれだけ早くギルマス達の救援に行けますから」
「なるぼどな」
「あの木だったな、一応確認するから待て」
斥候に静止され少し待つ。
「…大丈夫だ。行け!」
頷き、走りながら身体強化をかける。
木の傍まで走り、そのまま巣のある枝の高さまで一気に飛び上がる。
覗き込んだ巣に子供は一匹。このサイズ、まだ赤ちゃんか。ぐっすり寝てるな…。
怪我人は…いた! 大丈夫、まだ息はある。他にも家畜らしき動物が一体。
ガッツリ重装を着込んでいるのが幸いしたのか頬の裂傷以外は大きな傷がないように見える。
しかしここじゃ暗いし、はっきりとしたことは分からない。早く連れて降りなくては。
キィィィィ?
しまった。起きたか…。
だけどこの小さな魔獣をどうするか。
このままだと親がいなくなる。間違いなく生きてはいけない。
まだ三十センチほどの小さな魔獣。
流石にとどめを刺すのは気が重い。
こんなとき姉ちゃんならどうするか…。
「きっとほっとかないだろうなぁ…」
魔獣の子供に手を伸ばす。後はこいつ次第。
「付いてくるか?」
キィ?
抵抗することもなく手に乗ってくる。なら連れて行く。
言い訳は後で考えよう…。
もう一話続きます。




