リハーサル 前編
あっという間に文化祭の準備も後半戦に入った。
その間に改めてお隣へお礼を伝えがてら、未亜とシエルにも手伝ってもらい、作ったお菓子を届けた。
おばさんはすごく喜んでくれて、おじさんが帰ってきたら一緒に食べるって言ってくれて。
悩んだけど持っていってよかったなぁと、手伝ってくれた二人にも感謝だ。 (ママのケーキフワフワでんまかった!)
シフォンケーキだからね。生クリームやチョコクリームを添えて食べられるようにしたし。 (また食べたいの)
うん、じゃあまた作るよ。 (わーい!)
そんな事もありつつ、学校の文化祭準備もいよいよ大詰め。
今日は衣装のある子達は全員着替えて、本番さながらのリハーサルを行う。
麻帆が纏めた例の資料を元に、みんなが意見を出し合い、いくつかシナリオが作られてるからね。
今は更衣室で、私とメイドをする子達が集まって着替えの真っ最中。
「きちんと髪の毛はまとめなくては駄目ですわ」
「そこまで本格的にしちゃう?」
「当たり前ですわ! でないとあちらの王女様のお隣に立てますかしら?」
メイド役の子たちに指導してる聖さんは、自身もキッチリとしたメイド姿で私を見る。
麻帆を含めた数人も一緒に…。
「確かに。うん、わかったよ」
「アスカちゃん、本当の王女様みたいよね。コスプレ感ゼロじゃない!?」
「フェイクのティアラが本物に見えるのすごっ…」
「そこはほら…アスカちゃんだからよ」
めちゃくちゃ言われてないか。 (リアル王女だしなー)
「アスカ、胸元は手直ししたけど大丈夫そう?」
「うん、ありがとう花凛」
色々はみ出たりもしなくなったし、これくらいなら許容範囲だろう。
「いえいえ! こんなに作りがいがあるのなら他にも作りたいくらい!」
実際、他にも作ってくれてるじゃない。寸劇は一種類じゃないし…。
この一週間でお互い呼び捨てにするくらいには花凛と仲良くなって、連絡先の交換もした。
友達増えたよ! 私頑張った。 (あははっ)
更衣室から教室へ戻る時にも花凛が先導してくれて、王女がメイド軍団を連れて廊下を歩くっていうすっごい光景に。 (みんな慌てて道を開けてる)
なんかごめんなさい…。
「王女様のご到着よ! 護衛騎士は準備できた?」
教室の扉を開けるなり叫ぶ花凛。当然注目を集めるわけで…。
「おうよ! 鎧はちゃっちぃけどな…って…おぉ…」
「金属じゃないんだから仕方ねぇだろ。見た目の質感は塗装で何とかしたんだぜ? おぉすげぇ…」
…確かにそっちの衣装もすごいクオリティ。武器の槍とかも危なくない柔らか素材の筈なのに、威圧感があるほど。
「私は好きだよこれ! 見て見てアスカ! 私かっこよくな…い…? わお…」
「奈々、ちゃんと騎士っぽくなったね」
「はっ…護衛ですので!」
いきなり跪く奈々。つられて他の騎士役の子たちまで…。男女半々で八人いる全員が跪いた。
「アスカ、王女様らしくなにか言ってあげたら?」
ちょっと花凛?無茶振りがすぎるよ。何かってなに!?
「アスカちゃん…」
耳打ちしてきたのは、メイド姿で一歩後ろにいた麻帆。
「それ言うの…?」
「言わなきゃこのままよ?」
それは困る…。
「お役目ご苦労さまです。これから文化祭が終わるまで、護衛の任よろしくお願いしますね?」
「「「「「はいっ!!」」」」」
…ねぇ何これ。 (なりきってんなー)
クラスのみんなも作業の手が止まってるし…。
「はいはい! 私の衣装を着たアスカがすごいのはわかったでしょ! ほらみんなも準備準備!」
花凛の一声でスイッチが入ったように動き出す面々。
今回は、手の空いてるクラスメイトをお客に見立てて寸劇の練習。
セリフは頭に入ってるから問題ない。これは演技だから大丈夫…! よしっ…!
既に教室の床には魔法陣を書いた布が広げられて、上から怪しい紫色のライトが照らされている。 (内容は?)
デタラメだし何も起きないよ。大丈夫。 (よかったの)
仮に、本当に万が一、奇跡レベルで効果のあるものを描いたとしても、魔力のない人では何も起きないから。 (たしかにー)
お客役の生徒達が花凛によって魔法陣の上に案内される。
「…王女様、勇者召喚は無事完了しました」
いかにも魔法使いって格好の男子にそう言われ…
「ご苦労さまです。あなた方はしばし休みなさい」
「はっ…」
疲れた演技をしながら下がる数人の魔法使い役の生徒。
「ようこそ勇者様。突然の召喚で驚かれたことでしょう。説明の前にまずはおもてなしさせてください。 皆、勇者様方をご案内して差し上げてくだい」
「「「はいっ」」」
メイド役の子達が勇者達を後ろの飲食スペースに案内。
今回はリハーサルだから食事までは流石にないけど、テーブルや食器類などは配置されてて雰囲気はある。
この寸劇の時は結構豪華なメニューが並ぶ予定。料金も文化祭にしてはかなり高く、一人千円。
初めは流石に高すぎでは?って声もあったけど、実際に料理は豪華だし、内容と比較しても割安にはなってる。
異世界といえばでかい肉だ! とか言って、本当に大きな骨付き肉風の料理もでるし、デザートまであるフルコース。
一応、人数制限もあり、前もって整理券も配られる予定。
希望者が多いと抽選になるらしいけど、どうなるやら。 (むー)
寸劇は外野もある程度の人数は外から見れるし、通常時は料理もこのフルコースのものが単品として販売されるから、実際に作る料理の種類としてはそこまで多くはない。
大きく分けるなら、前菜のサラダ、メインの肉料理、デザート。それぞれ二種類だけ。
ただ、飾り付けでバリエーションをだす予定だから、種類はもう少し豊富に見えるはず。
食事をしてる体の勇者役の子達を相手に寸劇の続き。
「この度は勝手な召喚でお呼び寄せてしまい、誠に申し訳ありません。 我が国は今、魔物の驚異に晒されており…」
「王女様! 魔物の群れが隣国を乗っ取ったと報告が!」
駆け込んで来た騎士役の奈々。迫真の演技じゃん。
「…っ! お願いします、勇者様。どうかどうか助けていただけないでしょうか…」
ここで深く頭を下げる。
「いいよいいよ! すっごくいい!」
「ガチの王女様だ…」
「おれ、本気で自分が勇者になったかと思った」
「お前はステータス鑑定で雑魚判定になって捨てられるやつだろ」
「ひでぇ!!」
ステータス鑑定…。
これも、食後に実際にやる。 (ママが!?)
私がやるけど、ただの小道具だよ。 (ちぇー)
「よしっ、じゃあ食べ終わった体で次行くよー」
花凛が完全に監督だな。
鑑定の魔道具…っぽい小道具。
半透明の板に魔法陣が描かれていて、手をかざしてもらったらスイッチオン。
下からLEDで光る。何色か色があって、その色で適性を分けるって設定。
青なら剣士、赤なら魔道士、緑は弓士、白なら聖女…。 (女の子以外で白でたらどうすんの?)
私が白を押さなきゃいいだけよ。 (ヤラセだった)
当たり前じゃない。
でもって、この適正に合わせてプレゼントが二つもらえる。
まず一つ目。剣士なら剣、魔道士なら杖って感じに。もちろんミニチュアのペンダントなんだけど…。 (ママがデザインしてたやつ!)
そうね? 奈々のせいなんだけど!
みんなが何がそれっぽいお土産を出せたら特別感あるのにねーって話が出て…。だからといってコストや色々ふまえても、柔らか素材とはいえリアルサイズの武器を渡すわけにはいかないし。
その時に、アクセサリーは?って意見が出て…。
”だったらこういうのは?“って、私が奈々のお誕生日にプレゼントした剣型のアクセサリーをみんなに見せびらかしたものだから、ちょっとした騒ぎになり…。
剣、杖、弓、聖女用のクロス等、各3種類作った。 (それは金属製)
うん。シルバーだね。
んで、それをクラスの器用な男子が3Dプリンターで量産。 (こっちは樹脂)
ほんと、便利な世の中だよね…。
鑑定後、お客にさんには色に合わせて一つずつ配る。
もう一つはギルドカードを模した名刺サイズのカード。
麻帆がデザインしたものを印刷。実際に見てきた麻帆がデザインしたから、それっぽさがしっかりと出ている。
ここまでするから千円でも安いと思ってもらえるはず。
今回、実際に鑑定もやってみた。
「剣士様ですね。ではこちらを…」
「やった、雑魚じゃなかったぜ!」
「お前、それ商品だから後で返せよ?それに、こっちでもらえるカードはAランク以上しか無いんだから当然だろ」
「一個くらい、いいじゃねぇか。王女様から手渡しで貰ったのに!!」
「予備があまりないから勘弁してくれ。それ、仕上げ処理にすっげー手間かけてんだからな」
そういえば器用な子が集まって、プリンタで作ったものをヤスリかけたり塗装したりと大変だったとかいってたな…。
なるべくシンプルなデザインにはしたんだけどね。 (手間増やしたのは作ってる本人達…)
百円均一でフェイクの宝石みたいなの買ってきて付けたりしてたもんね。 (うん。でもキレイになった)
確かに。私ならここに魔石嵌めるなーって箇所に付けてるくらいだから、いいセンスしてるよ。




