閑話 ティーの異世界レポート
「ママ、報告があります!」
部屋へ駆け込んで来たティーが、ピシッと敬礼するような仕草でそう言ってきたのは、私が学校から帰り、夜ご飯の仕度までまだ時間があるな〜と思い、部屋でアキナさんからの頼まれものの魔道具を設計していた時だった。
こういう言い方をする時は大切な話なのはわかっているから、私も手を止め、しっかりとティーに向きなおる。
「どうしたの?改まって」
「ママとティーが勇者をした世界の報告!」
「ああ…」
あったなぁそんな事も。毎日目まぐるしく色々な事があるから、もうすでに記憶の彼方だったわ。
ここ最近は文化祭の準備も忙しいし…。無理もないね、うん。
「とりあえず、魔族の人たちによって国の復興は終わったの」
「他の国も?」
「うんっ! 魔王ヴィオラさんの的確な指示であっという間」
「確かに話し合いの時点で、復興なんて些細な問題と言わんばかりだったものね…」
「きれーになってるの」
ティーの分体が見てきた範囲の状況を教えてもらったけど、街の建物やインフラも整い、元よりも住みやすくなったと住民から評判がいいんだとか。
何より衛生面に関しては、元がかなりずさんだったようで、それが病気の元になるからと徹底的に整備してくれたらしい。
いわゆるトイレや、家畜の排泄物の処理。確かにそれは大切だ。
大切だけど難しい部分でもあるから、有り難かっただろうね。
水路も引かれ、どの家でも魔法に頼らず水が使えるようになり、一般家庭でもお風呂に入れるようになったんだとか。
魔法に頼らなかった理由は、人族は魔族と違い魔力がさほど多くないから。
それを踏まえた上で、人族だけでも維持管理ができるよう考えて整えられていると。
魔族側にも当然魔力が少ない人もいるから、魔族領では当たり前の考え方の様で、実績のあるシステムなんだとか。
私が魔王時代に魔道具でなんとかしようとしたのに近いかもしれない。
私達を召喚したプリオーニ王国は、魔族との友好と不可侵条約を結び、お互い困ることがあれば手を差し伸べ合う、そんな関係に落ち着いたと。
「創造神でもあるドラゴンが間を取り持ってくれたからーって」
「ああ、そんな話だったね」
「魔族領ヴィヴィーアージュにも、プリオーニ王国にも親子のドラゴンの像が作られたよ」
「はぁ!?」
魔族領には、二度と侵略などしないという戒めと、魔族領を救ってくれた救世主として。
プリオーニ王国は、戦争を止め、復興と友好の橋渡しをした勇者として。
「頭痛い…。 あっ、でもドラゴンの姿ならいっか。ドラツーならリアの姿だし。リアは本物のドラゴンなんだから嘘じゃないもんね」
本人が知ったら怒るかもだけど…。肖像権とか?
まぁ、上手く説明するしかないな。
「報告はそれだけじゃないよね?」
「もちろん! ちゃんと召喚術も調べてきました!」
「流石だよ。ありがとうね」
「えっとねー、ママが師匠のところへ喚ばれた時のに似てた! パスワードというか、サインは同じだったから作った人は一緒!」
「なるほどね…」
喚ばれる時、微妙な違いは体感としてわかるけど、サインの部分はわからないからなぁ。
「助かったよ。じゃあやっぱり曽祖父母が関わってると見て間違いないね」
「だと思うの! これでティーの報告はおしまいです!」
「ありがとうね、本当に助かったよ」
「これ報告書!」
「え?」
手渡されたのは書類の束。
この子は、どこでこんなの覚えたのやら。
ペラペラとめくってみた限り、わかりやすく詳細に纏めてあって流石としか…。
うちの子優秀すぎない?母として私は大丈夫なのだろうかと不安になる。
「ママはママなの!」
そう言って甘えてくれるティーが可愛くて仕方がないや。
「あっ! ティー姉ばっかりズルイのです!」
難しい話だからか、おとなしくしていたリズも話が終わったのを察したらしい。
「リズもおいで。二人とも私の大切な子だからね」
「はいなのです!」
「ふふー。ティー達のママは自慢のママだよねー」
「なのです! 最高のお母様です!」
二人と出会えたのも召喚されたおかげ。つまりは曾祖父母のおかげともいえる。
ティーの場合はプラスで神様のような理外の力がはたらいてはいるけど、大切なのは変わらないもの。
甘える二人を抱きしめながら噛みしめる幸せ。
顔も名前も知らない曾祖父母に心の中でお礼くらい伝えてもいいよね…。
あと多分、神様にも…。はっきり断定は出来ないけど、お狐様がいるんだもの、いるはずよね。
「神様について知りたい人は“ニューワールドなのにニューゲームじゃない”を見るといいの。ちょびっとだけど、男の子だった頃のちょっとヤンチャなママも出てきます!」
「露骨な宣伝やめなさいって…」
「かっこいいお母様ならみたいのです!」
「いやー…黒歴史というかなんというか、リズに見られるのは恥ずかしいな」




