普段の行い
モールからの帰り道、そのまま家に帰る奈々達と別れ、私達家族だけで家に帰る。
一気に人が減ると寂しくなるのはいつもの事。
あと少しで自宅っていう所でお隣のおばさんに偶然出会った。
「久しぶりね? ナツハから聞いてはいたけど、本当に大所帯になったわねぇ」
「お久しぶりです、ちっとも顔を出さずにすみません…」
「いいのよ。色々と忙しいんでしょう? 今ナツハ達は?」
「またあちらに…」
「そう…。困った事があったら何時でも声をかけてね?」
「ありがとうございます」
おばさんはそれだけ言うと、買い物に行くから〜と出掛けていった。
ある程度大きくなってからはあまりお世話になることもなかったけど、小さい時は母さん達より面倒を見てもらってたのに…。何も恩返しができてないなぁ…。
そういうのを気にしない人達ではあるし、うちの両親がいつも手土産とか渡してたりするから、あまり気にしても…なのかもだけど。
私にできる恩返しが此方では出来ないものばかりだから困る。
「姉ちゃん、何を考えてるかはわかるけど、魔道具とか渡そうとするなよ?」
「わかってるよ! だから困ってるんじゃない…」
おじさんは特にそういうの嫌がるだろうし。異世界な話題は好まないみたいだから…。
何があったのか一度父さんにそれとなく聞いたのだけど、やんわりと拒否されたんだよね。
だから追求しないことにした。知るべき時が来たら自ずと知る事になる、それでいいかなと。
「お姉ちゃん達がお世話になったんだっけ…」
「うん。私個人として何も恩返しができてないなぁと思ってね」
「お菓子とかは?」
「おばさんがお料理もお菓子作りも上手だから、なかなかね?」
「ああ…。でも気持ちなんだからいいんじゃないかな」
「かな。未亜、手伝ってくれる? お菓子は未亜も得意でしょ?」
「任せて!」
明日の学校帰りにでも材料を買いに行こうって話になり…。うちの子達も”お菓子!“って大喜びしてるからたくさん作らなきゃな。
翌日、学校に行ってびっくりしたのが、これから文化祭のある二週間後まで、前半の一週間は午後が全部準備期間、後半の一週間はまる一日準備に当てられるって事。
元々は後半の一週間って話だったはずなのに…。
「麻帆、これの理由知ってる?」
「ええ。今回は保護者以外のお客もいれるじゃない?だから規模も大きくなるのだけど、生徒から“やることが増えたのに準備期間が短い”って声が多かったみたいで…」
「生徒会が学校に掛け合ってもぎ取ったらしいよ! 授業なくなってラッキーだよね!」
「奈々も知ってたの?」
「麻帆からね」
そんな訳で、早速今日の午後から文化祭準備が始まった。
一番時間がかかるのが、衣装や小道具。
料理に関しては練習くらいしか出来ないし。それも材料が届く後半にようやくできるくらい…。
メインで料理する人達は各自、自宅で練習をしたりはするそうだけど、元々普段から台所に立つような、料理が得意な子達が名乗りを上げてるそうだから不安はない。
一応私も料理はできるから、手伝うって言ってある。 (やった!)
ロッカーから紙袋をいくつも持ち出してガサガサしている生徒が数人。
「ある程度用意はしてきたから手の空いてる人は見てもらえる?」
衣装担当の子達か。すでに衣装を用意してきてるのは凄すぎない?シエル並だよね…。
「先ずはアスカちゃんのよ!」
クラスメイトの花凛って名前の子が渡してくれたのはピンク色のふわふわのドレス。
「あ、ありがとう…」
「着てみて?」
「今!?」
「手直しとか必要かもだし! 更衣室使う許可はとってあるから」
そう言う花凛さんに引っ張られるように教室を出る。
今回は奈々も麻帆も忙しかったからか、止めてもらえず…。
うちの学校って更衣室は各階にあり、体育の前などに使う。
もっと生徒の多かった時は今の更衣室も教室だったって話を聞いたことがある。
本来の更衣室は、中等部と高等部に一つずつしかなかったそう。
そんな訳で、今は教室から更衣室が近くて便利なんだよね。
「外で待ってるから着替え終わったら教えてね」
そう言われて更衣室内へ追いやられる。…強引だなぁ。
室内はロッカーが並び、その圧迫感で普段使ってる教室と比べると半分くらいの広さに感じる…変わらない広さのはずなんだけどね。
いつもはここを使う時、私はみんなとは少し遅れて使うんたけど、完全に一人なのは初めてかも。 (何でずらしてるの?)
…察して。 (くふふ…)
最近着ることの増えたドレスと違い、普段着の様に着られるのは有り難いし、すごく楽。
締め付けたりもしないから…。
ただ…これさぁ…。 (すっげー谷魔ドン!!)
谷間でしょう。 (ううん谷魔)
何故に…。 (魔性の谷間だから)
やめてよ…。
「着られたー? 手伝わなくて平気?」
外から声をかけてくれたから“着られたから大丈夫”と答える。
「入るねー。 って…おお……予想よりすっご!」
更衣室に入ってきた花凛さんは目を輝かして私の周りをくるくると回る。
「…ちょっとこれは出し過ぎじゃない?」
「王女様なんだよ?インパクト大事!」
そうだろうか。シルフィーもストレリチア様もこんなドレス着てないけど…。 (こっちはフィクションだし)
便利だなフィクションって言葉。
「手直しとかも必要なさそうだね」
「いや、ここ直してほしいんだけど」
「えー! 魅力を最大限引き出すのが私の仕事なのに…だめ…?」
うっ…そんな目をしないで。 (ママはそういうのに弱い)
…はぁもう。
「わかったから。でも、本当にもう少しでいいからなんとかしてもらえない? だってほら…」
「あー…そっか。下着が見えちゃうのは不味いね」
「でしょ?」
肩紐とか少し動くだけでズレて見えちゃうし。 (そっち以外も…)
だからだよ!
花凛さんは“想定より大きかったなぁ。ちゃんと測った通りのはずなんだけど”とかいいつつも手直しするって約束してくれて、少しホッとした。
制服に着替え教室に戻ったら、花凛さんが奈々と麻帆に詰め寄られてたのは見なかったことに…は出来ないか…。
「アスカちゃん、助けて! 私なにもしてないよね?」
「してないよ。着替える時もドアの外で待っててくれたし」
「ほらー!!」
「アスカちゃんが言うなら信じるわ」
「まったく! 見てないうちに連れていきやがって! 花凛め!!」
「いやーー! スカート引っ張らないで!」
流石に可哀想になり、荒ぶる奈々を止めた。スカートをめくろうとするとか小学生か。
「もうなんなの!?二人のまるで“アスカちゃんはオレの嫁”みたいなムーブは…」
「オレの嫁だよ! 私のだよ!」
「あーはいはい。悪かったって。 大変ね、アスカちゃんも。奈々のストーカーで困ってるのなら言ってね!」
「あ、ありがとう」
奈々の爆弾発言はいつものお巫山戯として処理された。これが普段の行いってやつか。 (あっぶねぇー…)
本当よ…麻帆も顔引つらせてるし。 (ママもなー)
はは…。 (とりあえずリアに報告ー)
ティー!?
…後でフォローしておくか。




