もしも
一通りの報告を聞き、今度は聖さん姉弟も交えての話し合い。
先ずは二人がどうしたいか、それを聞かなくてはいけないし。
落ち込んでいて明らかに元気が無いから…先ずは希望を見せておかなきゃかな。
「先に一つだけ伝えておくね。一応、二人の抱えている問題を解決する手段はあるの。それを前提とした上で、二人がどうしたいか…素直な気持ちだけを伝えてもらえないかな?」
「本当にどんなものでも…ですか?」
「うん。気持ちや想いなんていうのは言葉にしなきゃ伝わらない、それを私は身を持ってよーく学んだからね」
二人はお互いに目を合わせて頷き合い、ゆっくりと話してくれた。
「わたくしは恩人でもあるアスカ様になにか恩返しがしたい、初めはそんな想いが大きくありました。それから短いながらも一緒に過ごすうちに、人柄に惹かれ…。こちらに連れてきて頂いてからは憧れに変わりました」
「それでメイド?」
「はい…お近くに置いて頂くにはそれしか思い浮かばず…。勿論こちらの世界への強い憧れもあり、気が急いていたのかもしれません」
「友達のままでも良かったんだよ?」
「でも…ものの本で読んだ事があったのです。学生時代の友達はいつの間にか疎遠になる人も居ると…。わたくしはまだ知り合って間もないですし、そうなるのでは?と怖かったのですわ…」
奈々も似たようなこと言ってたな…。
「主従の関係になれば大丈夫だと思ったのね?」
「ええ。メイドなら普段から家にいて見ていましたし、わたくしにもこなせるのでは…と。結果はご存知の通り。浅はかでしたわ…」
「メイドさんも仕事であり、その道のプロだからね。頭で思うのと実際に体験するのは違うのは仕方がないよ。 じゃあ聖さんは、私との繋がりが切れないっていう保証があるのならメイドでなくてもいいの?」
「……いえ! やはりお傍でお支えしたい、おこがましいですがそう思います!」
ふむ…。 今は何を言ってもメイドにこだわってる以上難しいか。
「傍で支えたいっていうのが本心ならメイドより適任な立場があるじゃない」
「王妃様!?」
いたずらっぽく私に笑った王妃様は、聖さんになにか耳打ち。
聖さん、顔が真っ赤になってるけど何を言われたの!? (……)
「聖ちゃん、貴女次第よ。そういう方法もある、とだけ覚えておくといいわ」
「は、はいぃぃ……」
ちょっと、本当に何を言ったのよ…。
「次は聖弥くんね。ほら、ちゃんと聞いてあげなさいアスカちゃん」
いやいや…。なんかよからぬことを吹き込んで流れをぶった切った王妃様がそれを言いますか。
とはいえ、聞かなきゃいけないのだけど。
聖弥くんはうつむいたままポツポツと話してくれた。
「えっと…僕はユウキ兄ちゃんみたいな冒険者になりたい! でも…魔法も使えないし、木の剣すらマトモに振れなくて…」
「他にやりたい事は見つからなかった?」
「…うん。アスカお姉ちゃんの戦ってる姿もかっこよくて、いいなぁーって」
私、そんな呼ばれ方してたのね。 (聖さんの事も聖お姉ちゃんって呼んでるし、ノアもノアお姉ちゃん)
そかそか。まぁ呼び方は好きにしてくれていいけどね。ちょっとビックリしただけだし。
「えっとね、魔力に関してなら何とかしてあげられる。いくつか方法はあるし、戦うための力も鍛えてあげることができるよ」
「ほんと!?」
「うん。ただ、無条件ではないし…そうだなぁ。漫画のお話みたいに厳しい修行が必要になる。それに耐えられないと無理かな」
「僕、頑張れるよ!」
まぁ言葉で言うだけなら簡単だものね。 (修行、必要なの!?)
単に魔力を増やすとかその程度なら魔力循環すればいいけど、幼い子が急に力をつけたらどうなるか…。力というのは先ずは精神から鍛えないと、はじめは純粋だった想いも力に振り回され、溺れたら? (あー…)
私は師匠からキツくキツく、そこを教えられてるからね。
「じゃあ聖弥くん、ユウキに話をしてあげるから、先ずはユウキに弟子入りしてみるといいよ。それを乗り越えられたら私が魔法も教えてあげる」
「やったー!」
大喜びしてるけど、果たして耐えられるか…。 (途中で折れたら?)
そんなの決まってるじゃない。 (見捨てるの?)
あり得ないね。一度鍛えると決めたのなら心が折れるのさえ許さないよ。 (うわー…)
本当に力のない子を鍛えると決めたのなら、こちらにも相応の責任があるからね。
多分ユウキも同じことを言うよ。 (聞いてこよ…)
中途半端な事をしたら、私自身が師匠の教えを破るようなものだから…。
「アスカ様、私にもその…魔法を教えて頂く事はできますか?」
「勿論出来るけど、その場合はメイドもさせられないし、私は聖さんの師匠としてめちゃくちゃ厳しくなるよ?泣き言も逃げるのも許さない。まぁ、ちょっとした生活系の魔法を使いたいっていう程度なら問題はないけどね」
「い、今ゾクッとしました…。アスカ様が一瞬ものすごく怖かったですわ…」
「マスターは鍛えるとなったら本気で向きあってくださる分、容赦ありませんから。覚悟がないのなら辞めておくことをおすすめします」
「はい…。先ずは生活するための便利なものくらいにしておきます」
「それがよろしいかと」
聖弥くんみたいに戦いたい! とかじゃないならそれでいいよね。 (未亜はよかったの?)
うん? (魔力増やしたり、魔法教えたりしちゃったけど…)
未亜に関しては完全なイレギュラーだったしなぁ。それにあの子も元々戦いたいって言ってたわけじゃないからね。
妹って理由で多少甘くなってたのは認めるし、言い訳もしない。
ただ家族だから、私が傍にいて何時でも対応する事ができるってのもある。
今はもう未亜自身、挫折も戦う怖さも体験してるからね。
だからあの子は大丈夫。私は未亜を信じてるから。 (もし…もし、未亜が闇落ちしたら?)
考えたくもないけど、全力で止めるし光の元へ引きずってでも連れ戻すね。それはティーやリズも同じだからね? (はーい! 奈々や麻帆も?)
うん。奈々や麻帆も同じ。もしあの子達が本気で戦うような職につきたいっていうのなら厳しくなるよ。
今のところ麻帆は絶対にそれはないし、奈々も興味本位なだけだからね。
なにより聖さん姉弟と違うのは、二人の人となりを私自身がよく知ってるから。
聖さんを脅すような言い方をしたのも、そういう覚悟がいるよっていうのを伝えたかっただけ。
本当に厳しくするかといったら…。 (ママには無理そう)
かもしれないね。私は師匠じゃないし、師匠みたいにはなれないよ。
ま、そんな“もしも”の話をしてても仕方がないし、今は帰る準備をしなきゃね。 (うん!)




