主
友好宣言から一夜明けて、今日は皆さんが王都に出かける日。
とは言っても各国のトップの人たちだから、自由に散策とはいくわけもなく。
何台かの馬車に分かれてぐるっと王都を回ったり、決められた場所を巡る…筈だったのだけど…。
早朝から王妃様が呼んでいると、アリアさんに王妃様の私室に案内された。
何事かと思ったら、私が贈った馬車に皆さん乗りたいと言われたそうで…
「流石に全員は乗れないわ…。どうしましょうアスカちゃん!?」
「内部拡張するか、造り足すかですね…」
「造り足すってそんな直ぐには…いくのよね」
「ええ。資材はなんとかなりますし、この際ですから各国へ一台ずつ贈呈しましょう。紋章も入れればわかりやすくなりますよね」
王妃様は主催国として何もしないわけにいかないと、資材や魔石を提供してくれたから、豪華な馬車も作れる。
マジックバッグも一緒にプレゼントすれば持ち帰ってもらえるし…。
私が準備している間に皆には朝食を済ませていてもらおう。 (ママは?)
適当に摘みながら作業するから平気よ。ティー達もしっかり食べておくのよ。 (…はーい)
ごめんね、一緒に食べられなくて…。 (ううん。でもさー)
うん? (今回、聖さんの試用期間っていってたけど、何もして無い…)
それなのよね…。こちらに滞在中は聖さん姉弟もお客様扱いだからメイド仕事はさせられないし。
私自身、本当は聖さんにメイドをして欲しいわけでもないから…。
あくまでも聖さんの希望だから受けただけだから、どうしたものか。
馬車を作成しながらも悩む…。
「アスカちゃん、なにか悩み事?」
「わかっちゃいますか?」
「難しい顔してるから。アスカちゃんって魔道具とかを作ってる時はいつも楽しそうなのに…」
そうなの!? (うん。それは間違いないの)
…実際好きでやってるものね。
心配してくれた王妃様に相談しながら、馬車とマジックバッグを作成していく。
「本人が本気でメイドをしたいか確かめるのなら、うちで修行させてみたら?」
「…セクハラはしないでくださいね?私の親友ですから」
「わかってるわよ! ユリネたちなら本気かどうかなんてすぐに見破ると思うわ」
なるほど…。でも一度ノアに頼んだ以上それを取り下げてしまうのも失礼だから…。
「うちからも確認に一人つけてもいいですか?」
「勿論よ。ノアちゃんよね?」
「ええ…」
聖さんを試すみたいになってしまうけど、元々お嬢様な聖さんが何故メイドに拘るのかもわからないし。 (多分ね?)
うん? (恋人にはなれないからかと…)
ちょっと言ってる意味が…。 (既にたくさん恋人がいて、そこに今から混ざれる?)
あー…。え、私そういう対象に見られてるの!? (可能性として…?)
ふむ…。それも含めて見ておいたほうがいいのね? (うん。突然告白されてママが驚かないためにも)
今のところそんな雰囲気はないけどなぁ…。弟さんを助けたっていう部分で感謝はされてるのだろうけど、まだ付き合いそのものも短いし。
どちらにしても、暫くは様子見したほうが良いって事だね。 (うむ)
そんなこんなで完成した馬車を一度ストレージに入れて、お城の外へ運ぶ。
門の前にある広場にはアリアさんたち近衛騎士様達が馬を連れて待機していた。
「アリア、アスカちゃんの用意してくれた馬車につないで。紋章も入れてくれてあるから、各国の馬車も一目瞭然よ。それぞれの護衛と御者にも伝えてもらえる?」
「はっ! お任せください」
王都の街へ抜ける道へと続く城門前にズラリと並ぶ馬車。
「壮観ね…」
「数が数ですし…」
最終チェックをしていたら皆さんお城から出てこられたから、説明をしてそのまま贈呈。
持ち帰るためのマジックバッグも渡しておく。バッグそのものは王妃様が用意してくれた高級なものだから問題ないし…。 (そう?)
…一つ問題があったとすれば、だれがマジックバッグを持つかで揉めてるくらいか。
アキナさんと夕波陛下は確定だから良かったのだけど、グリシア王国は王妃様と陛下が揉めてるし、
バサルア共和国の代表の方は、魔力量的に馬車が持てるほどの容量がだせない…。
かといってファリスにしか扱えないのも困るって言うから、マジックバッグは一応ファリスの魔力で維持するマジックバッグ扱いで、出し入れは誰でも自由の状態にしておく事になった。
元首国が変わるのは数年後だけど、その時に引き継ぐ可能性もあるそうだし、仕方がないね。 (ドラゴンは?)
ノワルレイナさんとフレアベルナさんで揉めてる…。
最終的に、希望者にはプレゼントすると提案して落ち着いた。
またお金をーっていうから、友好宣言記念のプレゼントだと押し切ってやりました…。 (あはは!)
ワッペンとして渡すだけだし、お手軽。みんなそれぞれ好きな鞄に貼って使ってください。 (ほぼ全員欲しがったね…)
いいよ。せっかくだし…。もう作るのも慣れてるからすぐ終わる。 (魔力ドームへポーイ)
パターン化してるからね。作りなれたものならこうやって大量生産も可能。
魔刻刀で彫り込むのならこんな手段は取れなかったけど…。ワッペンだからこそだね。
皆さんがそれぞれの馬車に乗って出かけるのを見送り…。
私達はいつもの部屋に戻ってきた。
「ますたぁ…もうあの服を着なくてもいいのよね…?」
「大丈夫よ。お疲れ様、キャンディ」
ぐったりしたキャンディはようやくホッとしたのかいつものスタイルでソファにぐてーん。
私も普段着に着替え、ようやく一息つく。
みんなそれなりに気を張っていたから当然疲れてるし、しばらくはのんびりしたい…。
でも、その前に一つ…。
「ノアと聖さんに少し話があるからいい?」
「はいっ、私はいつでも!」
「なんでしょうか…?」
今朝王妃様からしてもらった提案について相談。
ノアは問題なく了解してくれたのだけど、聖さんは緊張している様子…。
「…大丈夫でしょうか?お城で粗相などしてしまったら…」
「アクシリアス王国はお城でも新人の教育等もしてるから大丈夫だよ」
「ですが…なにかあったらアスカ様のご迷惑になりませんか?」
「友達として言うなら迷惑なんてかけてくれてかまわないし、メイドの雇い主として言うのなら主として責任は負うものでしょう?」
「…そんな部下の責任まで負うような主は稀です」
「嘘でしょ…?」
聖さんは自分の家を例に説明してくれたけど、部下が粗相したらクビにして終わり。
本人に責任を取らせていた、と。
「ごめん、私にはその感覚は理解できない。失敗なんてして当たり前だし、そこから学んでくれたら充分でしょう? クビにしてしまったら成長する機会さえ奪っちゃうじゃない」
「マスターは魔王時代からそうでしたものね」
「同じことを繰り返せば叱りはしても、見放すことはしなかったもの〜」
「それが当たり前だと思ってたし…」
攻め込まれる戦争状態っていうのもあって、人員っていうのは貴重だったし、何より部下だって仲間だもの…。それを切り捨てる?できるわけがない。 (だからこそママを裏切るような人はいなかったんだよねー)
…なのかな。元々魔族は仲間意識が強いってのもあるけどね。 (謙遜しないのー)
ありがとう。嬉しいよ…。 (ふふー)
聖さんも安心したのか、王妃様の提案に乗ってくれるそう。
ノアには聖さんがどうしてメイドに拘るのか見ていてもらえるように頼んでおく。 (弟は?)
お姉さんと引き離すわけにもいかないし、一緒にね。
王妃様曰く、その間に何かやりたいことを見つけられるかもしれないから見ておいてくれるそう。 (へぇー)
私達も、もう暫くはアクシリアス王国に滞在。
その後は自宅へ帰るなり、島の開発なり自由にしようと話し合って決めた。
ユウキはまたギルドに行くってレウィも取られちゃった…。
本人も鍛えたいからって乗り気だから止められない。まだやっぱり気にしてるのかな。 (今は仕方ないかも…)
ユウキにも事情は説明したから見ててくれるし、任せるしかないか。
今は私が何を言っても、そのつもりがなくても慰めみたいになっちゃうだろうし…。




