聖女とクリスマス
ステッキの試合のあとは、クリスマスのイルミネーションに使われた魔道具のお披露目だったり、クリスマス仕様の魔装の展示など、色々と見せてもらった。
一区切りがついたところで母様は普段のドレス姿に。
「そろそろ妾は帰るとしよう。あまり長居をしてもな。また顔を出せよ?」
「はい、必ず…」
そういえば母様お腹大きくなかったけど、どうしたんだろう?
もし、生まれたら教えてもらえるはずよね? (うん。まだ。今日は一時的に偽装してたよ)
なんて器用な事を。確かに魔力体だと融通は効くけども、まさかだよ。
アルディエル母様を見送った後、顔を出してほしいと言われていた王城へ行って陛下と王妃様に謁見と言うか、まるで家族のように出迎えてもらえた。
元々ご挨拶はしたかったから呼んでいただけてよかったよ。
お二人からはクリスマス仕様になっている街の感想を聞かれたり、母様についても色々と聞かれたけど、私から話せることはあまりない。
勝手に私が話していいものでもないから。
私がお世話になった親代わり、とだけ説明。
お二人もワケアリなのは察していたようで、あまり細かくは聞かないでくれたから助かった。 (アルディエル母様は普通に色々と話してたよ?)
そうなの!?魔王なのも? (うん、自己紹介で)
気を使った意味…。 ま、いいか。
お城に泊まっていくよう言われたのだけど、未亜たちが真っ青になって首を振る。
うん、慣れないから緊張するよね。
アクシリアス王国は別棟なだけ気が楽だけど、こちらは私も落ち着かない。
それにまだ行かなくてはいけない場所もあるし…。
お二人には申し訳ないけども、他にも顔を出さなくてはいけない場所があるからと、お暇。
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行き先は当然アクシリアス王国。
こちらでも陛下にご挨拶したし、シルフィーたちにも会ってきた。
アリアさんやユリネさんもしっかり去年とは違うコスプレをしてて、異世界にとんでもない文化を持ち込んでしまったのでは?と。
ドラゴライナ王国にも顔を出す。
両親も行ってるし…。
こちらも負けず劣らずのクリスマスムードで賑わいもすごかったし、まさかのお祖母ちゃん達までコスプレしてた…。
見た目はお姉さんにしか見えないから似合うんだよなぁ。 (お祖父ちゃん、可愛いぞ…)
うん。孫としてはコメントに困るけど。幼い子としてみたら可愛らしい。
そのままドラゴライナ王国で一泊して、アキナさんと奥様のサンタ軍団が街の子供たちにプレゼントをばら撒くのを手伝ったりと大忙しだった。
「ママ、そろそろあっち行かないと…」
「あー…だね。みんなはどうする?」
「行くわよ?あたりまえでしょ!」
リアを筆頭にみんなも頷く。
「こっちは任せていいよ。話は聞いてるからね。本当、うちの娘達は大忙しだねー」
「俺たちもこき使われてばっかりだから忙しいんだけどな」
父さんは自業自得だから。母さんもか。 (オツトメ長い)
街で暴れたんだもの、仕方ないよ。
「あ、アスカ! シルフィーも迎えに行ってあげてね」
「え?ちょっとティア、本当に!?」
「昨日シルフィー母様にお話したのです! 一緒がいいのです」
リズぅ…。悪気がないから叱れないよこれ。 陛下の許可は出てるのね? (もちのろん)
ならいいか。アルフィーは? (あーえーっと…)
だよね。 向こうで相談するか。 (そうしてあげてー)
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「ずるいずるいずい! ねーさまばっかり!」
到着するなりダダを捏ねるアルフィーの声。
やっぱり…。
「まだアルフィーは小さいのよ?あちらにもご迷惑になります」
「いいこにするからぁ…」
普段泣かないアルフィーが泣いてる!?
「アルフィー…」
「アスカおねーさま! アルフィーもつれていってください! いいこにしますからぁ…ぐすっ」
そう言ってすがりつくアルフィーを抱きしめる。
私個人としては連れて行ってあげたい。
「アスカちゃん、頼んでもいいかしら」
「お母様!?」
「普段わがままも言わない、アルフィーがここまで言ってるのよ?」
「ですが! お父様にはどう説明するのですか…」
「大丈夫よ。アスカちゃんと一緒なんだもの」
シルフィーは何か言いたそうではあったけど、はぁとため息。
「アルフィー、私とアスカ様の言う事を聞くと約束できますか?」
「…アスカおねーさまのいうことはききます」
「…っ!」
シルフィーの言うことは聞きたくないのね。 (絶対に連れて行かないって言われてたから)
なるほどね…。
なんとかシルフィーを宥め、アルフィーも連れて行く。
初めての異世界だし、気をつけておいてあげないとな。
とはいえ、私には頼りになる子達がいるし、大丈夫。
「じゃあ王妃様。お二人はお預かりします」
「ええ。お土産話、楽しみにしているわ」
王妃様に見送られ、そのままメリアさんの元へ。
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「遅いぞアスカ!」
「ちょっ、師匠!? 待ってください、みんなの体調確認だけはさせてください!」
こちらでは、待ち構えていた師匠にいきなり腕を掴まれて連行されそうになった。
「ちっ…わかったから早くしろ」
魔力ドームで包んだまま、聖さん姉弟とアルフィー、シルフィーは念入りにチェック。
うん、大丈夫ね。
「師匠、今回こちらが初めての子も何人かいますから紹介もさせてくださいね」
「ん…?お前、またか!?」
何が!?
「今のところ大丈夫よ。友達だから。今後は私にもわかんないわ」
「だよねー。アスカだし」
リアもティアもなんの話?
「…アスカ、後で話があるからな?」
「ひっ…」
何でよぉ…。 (聖さん見て勘違いした)
私は友達さえ紹介できないの!?
「ユウキ、アスカは準備させなくてはならん。こいつらをまかせるぞ。メリア陛下への紹介はお前がやっておけ」
「は、はいっ」
師匠からの凄まじい圧でユウキが即答。
私自身は一切の自由もなく師匠に部屋から連れ出された。
「師匠、せめて説明してください!」
「…お前が主役なんだから仕方がないだろう。私だって止めたんだぞ? でもな?やりすぎたお前の責任でもあるんだからな!」
なんの話よぉ…。
連れられてきたのはいつぞや着替えをした部屋。
確かに聖女として参加してほしいという話はティーから聞いてはいたけど、またあれを着るのね…。
「時間がないから手早く、だがしっかりと頼むぞ」
「お任せください! さぁ聖女様!」
「は、はぁ…」
拒否権もないし、もうされるがまま…。
でも衣装は前のような神々しいだけのものではなく、カラーリングとかのせいで絶妙にサンタっぽさがある。
これは去年のクリスマスの様子を撮ったカメプロの映像をメリアさん達に見せたからだろうなぁ。
そして相変わらず重くて動きにくい…。
「おぉ、いいな! うん。よし、メリアも待っているからな。私だけ堪能していては後で何を言われるかわからん」
またまた急ぎ足で師匠に引っ張られて今度はメリアさんの私室へ。
部屋の中からにぎやかな声が聞こえるのはうちの子たちがいるからだろう。
「待たせたな。主役の登場だそ」
ノックもなくバーンっと扉を開ける師匠。陛下の部屋になんてことを!
でもそんなことを気にしていたのは私だけだったようで、私の姿にみんなは大騒ぎ。
カメプロ持ってる子達は当たり前に録画してるし、スマホを取り出す子たちも…。
恥ずかしいからやめて!?
「アスカ様、素敵ですね。以前の聖女様のお姿は直接お目にかかれませんでしたから」
メリアさんはそう言うと膝まづいて手の甲にキスをしてきた。
どこの王子様ですか! みんなも真似しない!! (あははっ)
「そろそろいいか?教会の連中も、街の人間も待たせているからな」
「ですね。皆様は別の馬車を用意致しますから、そちらで街へ行きましょう」
別行動なのね…。
せめてティーとリズをと思ったんだけど、師匠が一緒だからリズは嫌がるし、ティーもアルフィーの護衛と言われては何も言えず。
師匠とメリアさんと馬車に乗り込む。
「私とでは不満でしたか?」
「そういうわけではないのですが、緊張してしまって…うちの子は癒やしなんです」
「ああん?その言い方では私では癒やしにならんと言うことか?」
師匠はそういうタイプではないでしょう! 無理があるよ…。 (歩く横暴)
酷い。けど否定もできない。
うちの子たちの馬車は表から教会に行くようで、途中から別れた。
また裏手に止まる馬車。
魔剣士団の厳重警備する裏手は物々しく、映画でみたVIPみたいな扱い。
「不満だろうがお前の立場上、街ではこれが当然になる。覚えておけ」
「はい…」
いやぁーーーー!! 普通に街を歩きたいよ…。 (諦めてもろて)
教会では、以前と全く同じ反応。関係者の方々に膝まづかれてのお出迎え。
「ようこそ大聖女様、お待ちして…」
「アスカ様! 大変お似合いですー。ふふっ…ふふふっ。神々しいです…」
教会のトップであるおじいさんの挨拶をぶった切ったのは本物の聖女、イアリス様。
「ゴホン!!」
わざとらしく咳払いするおじいさん。大司教様とでも言うのかな?知らないけど。
「私がエスコートしますね」
「おい!」
「アリッサ様は持ち場にお戻りください」
「…くそっ。いいかアスカ。やりすぎるなよ?」
「は、はぁ…?」
今日は何をするかも聞いてないのだけど…。
師匠は魔剣士団の元へ戻ると何やら指示を出しているのが見える。
そのまま、メリアさんの護衛をしながら教会を出ていった。
「さあアスカ様はこちらへ」
「お願いします…」
イアリス様に手を引かれ、豪華な部屋に通された。
「こちらは大聖女様がおみえになった時のためにと誂えた部屋になります」
大司教様が得意げにそういうけど、こんな事にお金を使わなくても、と思ってしまう。
「奇跡で救われた方々からの寄付金がすごいことになってまして…街の方たちからアスカ様への感謝の気持ちですから、これくらいは受け入れてくださいませ」
イアリスさんは私の表情から感じ取ったのかそう言う。
それに、イアリスさんがいるのなら、困ってる人や貧しい人へお金を回してないなんてことはあり得ない。
「わかりました、ありがとうございます」
「では、打ち合わせに入ります。資料を」
「こちらに」
イアリスさんの指示で資料を持ってきたのは真っ白な服を着た少女が数人、雑用みたいに動いてくれている。
「イアリスさん、あの子達は…?」
「聖女見習いとでも言いましょうか、可能性のある子たちです
なるほどね…。まだ子供なのに大変だ。
まだまだ甘えたい歳だろうに…。




