それぞれの忠義
「ならば、証明しましょうか。魔王様、私に命じてください。”自害しろ“と」
「ヒルダ!? 貴女…」
………。 (ママ! 止めないの?)
…無理だよ。それは出来ない。 (なんで!!)
ヒルダさんの忠義と覚悟を無駄にしてしまうから…。 (でも!!)
ティーも手出ししちゃだめよ。 (そんな…)
「…やれるものならやってみなさい! そんな命令に従うわけが…」
「……すみません、ヒルダ。貴女の想い、決して無駄にはしません」
「ええ。娘をお願い致します」
「…はい。必ず。 ヒルダ、自害しなさい。これは命令です」
「はっ!」
腰のナイフを抜きはなったヒルダさんは躊躇うことなく、深々と胸に突き立てた。 (ママ!)
……。 (ママってば!!)
「そん…な…。うそっ…」
「ヒルダ…。ごめんなさい…ごめんなさい…」
崩れ落ちるヒルダさんを抱き止め、嗚咽するヴィオラさん。
命令が絶対だと解ってもらうには命をかけるしかない。それをわかっているからこそ…。
「ママ!!」
「ティー、黙りなさい。 これでわかりましたか? 魔族という種族を」
「はい…」
「……」
「魔王様、命令の取り消しを」
「えっ…?」
「早く!!」
取り消さないと、治療しても同じことが繰り返されてしまう…。
「は、はいっ! ヒルダ、生きなさい! これは命令でありお願いです。どうか…どうか!」
「ま…おうさま…」
息も絶え絶えなヒルダさんを即座に魔力ドームで覆い、時間停止。刺さったままのナイフを抜き、治療。 (ふぅ…)
ごめんねティー。わかってもらうにはこれしかないんだよ。最悪な手段ではあるけどね。 (ヒヤヒヤしたの)
私も…。バレずに致命傷を避けるようナイフを反らせるのにかなり集中したよ。 (さすママ!)
ううん。もっとうまく私が伝えられてたらこんな事しなくても済んだかもなのにね…。
実際、私が思い浮かんだのもこの方法だけだったから…。 (……)
「アスカ様、ヒルダは…?」
「ギリギリですが一命はとりとめました。今は眠っていますから、そのままに」
「はい…っ。ありがとう、ございます…」
ヒルダさんを抱きしめ、泣いているヴィオラさんにそれ以上かける言葉が見つけられなかった。
「ふ、ふんっ! こんな茶番を…」
そこまで言いかけた側近をカプリチア様はひっぱたいた。
「このようなお二人の姿を見て何を言うのですか!!」
「…しかし!」
「では聞きますが、貴女は私が命じたとして自害できますか?」
「それは…」
「できますか!?」
「私とてそれくらい!!」
護身用なのか、小型のナイフを取り出して自身に向けるも、突き立てるまでには及ばず…。
普通の人ならそうだよね。ましてや戦いを生業にする立場でもないのなら。
「やめましょう。これ以上血を流す必要はありません」
そう言ってナイフを押さえるも、震える手で握るナイフを離してはくれず。
「私とて、私とて!! 陛下のためなら! 離せ!!」
やむを得ず、ナイフを握り砕く。
「なっ…」
「魔族と同じ手段で忠義を示す必要はないんです。貴女は貴女の忠義を」
「うっ……」
力の抜けた側近は膝から崩れ落ちた。
ふぅ…。
「ありがとうございます。貴女の想いしっかりと伝わりました」
「陛下…。すみません…出来ませんでした…」
「よいのです。それで…」
大惨事と、更に起こりかけた大惨事も未遂に終わり、少しの休憩を挟んで話し合いも仕切り直し。
「魔族というものについてはある程度理解致しました。しかし、我が国を含め、侵略され土地を奪われ兵士は消耗。これに対して責任をとって頂かなくては…」
「はい。 それは勿論。ですからわたくしの首一つで何卒…」
あー。今度はこっちか。 (世話が焼けるの。まかせてー)
うん。がんばれ勇者ティー。 (むふー)
「魔王様が居なくなったら魔族どうするのー?跡継ぎは?」
「後継ぎはまだいません…。 しかし、責任のとり方をわたくしはこれしか知りませぬ。先代も自ら招いた事態を命がけで止めに行かれて…」
「じゃなくて! こっちの国に必要なのは物資! 寝るための建物を直したり、街のみんながお腹いっぱいになるご飯!」
「は、はぁ…?戦が終わったのなら、建物は我が国の者達が直ぐに何とでもできますし、食事等も作物を急速成長させるなり、狩りや漁をするなりでどうとでもなりますが、そんな事で宜しいのですか?」
むしろティーの言った物が一番大切なんだけど、魔王ヴィオラさんにとっては造作もなさ過ぎて戸惑ってるのか。 (魔王やべーの。あっでもママもできるか)
まぁ…。
復興について魔王ヴィオラさんは具体例を上げていく。
現状、すべての魔族がこちらに来ているから…。
当然、農家も大工も狩人も漁師も…ありとあらゆる職種の人がいる訳で。
今、人族にとって必要なものはすべて対応可能と。
「戦いが終わればすべての人員を復興と支援に回せますから…」
「は、はい!」
「軍も一時解体して治安維持や復興に回らせます」
「はい!」
「建物は一日もあれば元に戻せるでしょう」
「はいー!?」
呆気にとられたカプリチア様は”はいbot“になってるな。 (あはっ)
「すべてが終わったらその首貰い受けますから!」
「ええ。構いません」
またこの人は…。 (恨みがすっごい)
わからなくもないのだけどね…。
「あの、恨みを晴らそうと思う気持ちはわからなくは無いですが、もうやめませんか?そういうの」
「例え貴女がドラゴンとて、止められてハイといえません!」
「…貴女が個人で恨みを晴らそうと言うのならそれでもいいでしょう。例えそれで貴女が恨みをかっても、貴女一人の問題として済ませられますからね」
「何が言いたいのです?」
「貴女はカプリチア陛下の側近であり、この国の中枢に居ますよね?」
「ええ。それがなにか?」
「…貴女の発言が国の発言として相手に受け止められても仕方がないという事です。今ここで恨みに任せて魔王様を処刑して…。貴女の気は晴れるでしょう」
「そのとおりです!」
「しかし、魔王という国のトップを失い、制御のきかなくなった魔族の恨みは?どこへ向くと思います?」
「そんな逆恨みを!!」
「ええ。逆恨みですね。でも想いというのはそういうものです。頭で理解するのと気持ちで納得するのは訳が違う。それは今貴女が一番わかっていると思います」
「では、この怒りは! 恨みは! どうしろと…」
難しいよね、こういうのは。私は客観的に見てるからこそ言えるだけだし。
当事者だったら納得できるか?といわれたら…。
でも、だからこそ止めてくれる人や、客観的な意見を言ってくれる人が必要なんだと思う。
「逆に考えてみませんか? 確かに恨みを晴らせばスッキリはするでしょう。でもそれは一時的なモノでしかありません。でも、復興を助けてもらい、今後は交易をする等してお互いが発展する未来もありませんか?」
「……」
「カプリチア陛下の傍で貴女がすべき事はなんですか? 一時の感情で恨みを晴らし、敵対関係になって、この先も緊張状態を続ける事ですか?それとも…」
「…わかっています! 国にとって…、私のお支えすべき陛下に何が最優先かは。でも、でも…先代様ご夫婦はもう帰られません! 私の敬愛するお二人はもう…」
突然ドカドカと音がして、部屋に入ってきたのは、薄汚れボロボロになった兵士二人。
見張りの兵士が国王の会議中、部屋に人を通すって事は…。
「なぁに?私達がそんな簡単にやられると思ってたの?」
「ひっでぇなぁ。ちっと怪我して潜伏してただけだぜ? まぁ、その間に色々と終わっちまったみたいだが」
「お母様! お父様! ご無事だったのですか!?」
やっぱりか。
カプリチア陛下の反応から確信がもてたけど、無事だったんだね。 (すっげーぼろぼろ)
激戦だったんだろうね。
「お二人ともご無事だったのですね…! なんという奇跡…」
「奇跡なもんか。部下達も怪我はしてるが無事だぜ?うちの大事な兵士だからな。簡単に死なせねぇよ」
「そうよー。まぁ相手が追撃してトドメを刺そうとかしてこなかったからなんだけどね?」
魔王ヴィオラさんがそういう命令を出してたんだろうな。
最後まで攻め込むのに反対してたみたいだし。
それでも魔族の未来のため決断を迫られ、他に方法もなくやむを得ず命令を下したんだろう。
だからこそ、細かく命令して、軍の動きを制限したんだろうってのは予想できる。
じゃなきゃ全魔族を動員した総攻撃に人族が生き残れる可能性は本当に奇跡レベル。
侵略に時間がかかったのもそのせいだろうし。 (仮にママが侵略するとして、何も加減しなかったら…)
……。 (一撃だろうなぁ…)
それは侵略じゃなくてただの破壊って言うの! (そうともいう?)
そうとしか言わない!




