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召喚被害者の日常は常識なんかじゃ語れない  作者: 狐のボタン
第八章

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取るべき手段



「数百年前、先代の魔王様が魔族の発展のためにと、とある儀式を行いました。それは大陸全土の魔力濃度を底上げし、国は大きく発展。それはとても幸せな時代でした」

「どんな儀式ー?」

「…それはわかりません。ですが、その儀式を行った場所は魔王以外、立入禁止の禁足地として残されています。ですが、今は私も近づくことすら出来ません」

聖地みたいなものか。魔族だから聖地とは言わないんだろうな。

多分そこが一番魔力が濃いんだろう事は予想ができる。

おそらく大掛かりな魔法陣でも展開されてるはず…。


「だが、その発展も数十年ほど前から突然衰退を始めたんだ」

「魔獣の強大化、街への植物の侵食、禁足地に近い街から滅んでいった…」

「その後、植物は急激に枯れ始め、魔獣はおろか動物さえみなくなりました」

「…わたくしたちとて、無益な侵略などしたくはなかった。ですが、このままではいずれ魔族は滅んでしまいます!」

「禁足地へ止めに向かわれた先代様も身罷られ、軍の一部から出された提案を魔王様が止められるだけの理由も、手段もなかったのだっ…!」

「でも魔王なら責任はあるよー?」

「それは重々承知しておりますわ。責任を取れと言われれば、この首、差し出しましょう」

「魔王様!!」

「じゃあ取り敢えず、その禁足地を見せて。なんとかできるのならするから」

「仮に許可は魔王様が出せたとして、近づけないと言っているだろう! 先代様でさえ何も出来ずに逝かれてしまったのに、お前たちがどうにかできるわけがない!」

「ティーはママに守られてるからへーき」

「それを信じろと?」

「おやめなさい!! お言葉は有り難いのですが、魔族にとっては特別な土地なのです。しかも今は本当に危険地帯になっております…。でなければ、わたくしとてここで手をこまねいてなどいないのです」

「そもそも人族のお前たちを、信用できるかわからぬものを行かせるわけがないだろう!」

まぁ、言いたいことはわかる。長年大切にしてきた場所だ。たとえ今それが原因となっていたとして、おいそれと他人を、しかも敵かもしれない相手を案内する訳にはいかないんだろうな。

しかも、先代様もそこで亡くなられた…なんて。

だったら…。


「じゃあ私が人質にでもなります。この子の母親ですから、資格としては充分ではないですか?」

「ママ!?」

「…魔封じもつけて、いざとなったら命はないんだぞ?」

「構いません。私はこの子を、ティーを信じていますから」

「だめだよママ!!」

「ティー、勇者になると決めた責任を果たしておいで」

「でも!!」

この世界の魔封じがどの程度かわからないからこそ焦るティーの気持ちもわかるけど、相手にだけリスクを背負わすのはあまりにも。

信じてもらうために、私の立場としてしてあげられるのはこれくらいだろう。 (……ママ)

大丈夫。ティーは自分の信じたとおりにやりなさい! (はいっ!) 



「その言葉に嘘偽りはないな?」

「ええ」

魔王は乗り気ではなかったけど、側近に説得されてこちらが出した条件を飲んでくれた。


首と手足に嵌められた魔封じ。 (平気?)

うん、大丈夫よ。いざとなれば壊せるから。 (よかったの! 行ってくる!)

頑張れ勇者様。 (はーい!)



近付けるぎりぎりまでは案内すると、側近のうち二人がティーについていった。

見張りも兼ねてるんだろうってのは間違いない。

玉座の間を出ていく三人を見送り、疲れたように呟く魔王。

「本当に良かったのですか?」

「何がです?」

「大切なお子さんなのですよね?」

「ええ。だからですよ」

私にできる事をしたいっていうのは親心だし。


「フンッ、おかしな事をすればお前の首が飛ぶだけだ」

「おやめなさい! どうしてあなた達はそう物騒なのです?」

「魔族の過去と未来、どちらもがかかっているからです」

「しかし…過去は過去です。いつまでも拘っていては…」

「…わかっています、魔王様。最悪、あの地を破壊するのもやむを得ないと…」

「ならば!!」

「示しがつかないのですよ…。先代様ですら止められなかったものを、我らを倒すべく現れた勇者に頼るなど!」

「ここにはわたくし達しかいないのにですか?」

「…そうでしたね」

色々と複雑なのはこれが個人ではなく、国の問題だからだろうな。


ティー、ついていった人たちは平気そう? (対策してるけど、あまり近くまでは無理って)

そか…。こっちも部屋にかかっている魔力を中和する術は、ひとり残った側近の手によるもので、私がティーにかけているものと似たようなもの。 (ママは大丈夫?)

平気よ。ティーが思うようにやっておいで。 (はーい!)

此方に分体置いてないの? (置いてるけど心配で…)

心配症だね。これでも魔王よ?私。 (それはそれ!)

ありがとね。



待っている間に魔王とそれぞれ自己紹介もし、ヴィオラと名乗ってくれた。

側近の人は、私に気を許す気はないらしく名乗ってくれなかった…。いいけどね別に。

「アスカ様は勇者様のお母様なのですよね?勇者召喚には巻き込まれて?」

「そうですね。見ての通りステータスも一般人ですから」 (ぷぷっ)

今はそうなの! (確かに!)


「その割には堂々としておられるというか、物怖じしませんのね」

「母親ですから」

「お若く見えるのに…。やはり母というものは強いのですね…」

何やら納得顔で頷く魔王ヴィオラさん。

「……無礼な態度を取りすみませんでした」

突然、小さな声で謝ってきたのは側近の人。


「お気になさらず。そちらも事情がおありですし、魔王様を想っての事でしょうから」

「ヒルダです、私の名前。お好きに呼んでください」

態度が突然軟化した理由はわからないけど、険悪よりはずっといい。


「ヒルダにも娘がおりまして…。今は遠征に出ていますが」

「そうだったのですね」

同じ母親として思うところがあったのかもしれない。 (ママ、ついた!!)

そっちは大丈夫? (ママの魔力ドームのおかげでへーき。魔獣も耐えられなくなったのかもういないよ)

大陸全体から消えてるくらいだし、当然だね。 (ママの予想通り魔法陣があるの。ママならわかったかもなのに…)

んー、じゃあそちらに分体出してくれる? (見に来るんだね! 了解)


意識をティーの分体に飛ばして、魔法陣を見てみる。

「ヤバそう?」

「あまり細かいところまではわからないけど、ここから魔力が溢れ出してるのは間違いないね」

「止めるにはー?」

「魔法陣を消してしまえばいいよ」

「どうやって?」

「手っ取り早いのは描かれてる地面ごと吹き飛ばす。魔力濃度が高いからかなりの力が必要だね」

「もう少し穏便なので…」

「そうだなぁ…。地面を一部分でも隆起させる等で魔法陣を崩してもいいけど、こっちも並の力では無理だよ?」

「守られてるから?」

「そう。破壊に対してはしっかりと対策がしてあるの。 あっでも、ちょっと待ってね…えっと…こことここをこう云う図柄に変えれば、一定の魔力で安定するよ」

魔法陣の一部分を指して、書き換えるべき図柄を見本として足元に書いておく。

魔法陣そのものを停止させるような干渉でなければ大した力もいらない。


「増えすぎなくなるの?」

「そういう事。 渡してある魔剣なら魔法陣に干渉できるから、魔刻刀みたいに魔力を流しながら私の書いた見本通りに書き直せばいいよ」

「わかった!!」

「ティー、これでよかった?」

「うんっ! さすママ!」

笑顔のティーをティーの分体で撫ぜるというちょっと不思議な体験をして、リンクを切った。

あまり長時間身体を放置できないし…。



「アスカ様!! 大丈夫ですか! アスカ様! 早く魔封じを外しなさい! 一般人程の魔力の人族には害があったのかもしれません!」

「わ、わかりました!!」

おおう…。心配かけてしまった。とはいえ説明するわけにも…。


魔封じを外してもらったタイミングで私も身体を起こす。

座ったままでいた筈だけど、リンクした拍子に倒れたっぽいな。 (そっち、パニックでちょっとおもろかった)

教えてよ…。 (ママ、真剣に魔法陣見てたし)

まぁね…。 (書き換えたよ! すっごい速さで魔力吸われてく!!)

増え過ぎてる分は魔法陣へ取り込むようになったからね。一定濃度の状態になればそれを維持するよ。 (すげー…)

曾祖父母の召喚魔法陣みたいに、パスワードというかセキュリティーもなかったから。

精々破壊に対する対策だけ。

あったらお手上げだったよ。 (そんときはもうどかーんと)

それしかなかったね。まぁ、そんなに高度なものでもなかったから私でもある程度は理解できたし、よかったよ。






 

 





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