想定内と想定外
帰宅後、夕食も終えてから奈々と麻帆へメッセージを送った。
聖さんに秘密を話した、と。
当然二人から通話が来て、色々と説明。遠い親戚だろうって話もしておいた。
最終的には、二人とも私の判断なら…と、認めてくれたけど、新しく恋人にとかは絶対にだめ! と奈々。
そんなつもりはこれっぽっちも無いのだけど、普段の行いのせいだろうなぁと諦める。
二人との通話の後、聖さんから母さんのご飯が美味しかったとお礼のメッセージも来たから、母さんに伝えたら嬉しそうにしてた。
父さんは当たり前だってドヤ顔。 (なんでママのパパが…)
そこはほら、ヨメが褒められたら嬉しいでしょ。 (ほほう)
ティーだってリズが褒められたら嬉しくない? (嬉しい!)
似たようなものよ。 (納得!)
ティーとリズはリアに連れられてお風呂へ行った。
自室に一人だと、つい色々と考え込んでしまう。今日みたいな事があると余計に…。
メリアさんに召喚の術式を見せてもらったし、改めて私自身の今までの召喚について思い返してみる。
始まりは師匠の所だけど、そっちは確認できた。
他はもう多すぎて詳細までは記憶もあやふやだし判断ができないけど…。どれもこれも似たようなものだったのは確かだ。
ピアスに彫り込んである召喚を阻止するための術式も、当然私が知ってる召喚術式が元になってる。
逆に言えば、全く未知の召喚術には対応ができるか怪しい。
だけど、召喚術って基本があるから、それから大きく逸脱する可能性は低い。
だからこそ地下にある大型ので殆どは対応ができるはず…。
そう、“はず”…でしかないんだよ。絶対ではない。
ピアスの魔道具を外して、もう一度術式を確認してみるも、改善できるかというと…。
未知のものへ対応なんて出来る訳がない。でも諦めて終わるわけにはいかないから。
「ママ…?」
「お風呂出たんだね。 どうかした?」
「難しい顔してるから…」
「お母様…」
「ごめんね。ちょっと魔道具の術式で悩んでただけだよ」
わが子二人を抱きしめながら、この子達のためにも絶対に諦められないなと。
抱きしめてたら眠そうになってきたリズをベッドに寝かせて、リアに任せる。
「ティーも寝ていいよ?」
「もう少しー」
私の様子が気になるのか膝の上から降りてくれない…。 (なんか心配なの)
ごめんよ…。
ピアスから術式を読み取り、改善できないかと、あーでもないこーでもないと悩む。
リズを寝かせ終えたリアまで心配してくれて…
「アスカ、程々にしなさいよ? コレだけでも凄いものなのよ?」
そう言ってピアスを手に取り、眺めるリア。
「なのかな…。 リアにまで心配かけてごめんね」
「心配かけるのはいいのよ。 一人で抱え込まれる方が嫌よ。未亜だって同じ事を言うわよ?」
確かに未亜もそう言うだろうってのは想像できる…。
リアにも説明しながら、どうしようかと悩む。
曾祖父母の作り出した召喚術の系統だけにしか対応できていない場合、それ以外の召喚方法でこられたら…。
そんなことを考えていたら魔力のうねり。
「ママ!!」
「うん! リア、ピアス渡して!」
「えっ…アスカ…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
やってしまった…。ピアスを外してるのなら、地下の魔道具をオンにしておくんだったなぁ。
後悔先に立たずとはまさにこの事だ。
「ママ…」
そして私の膝に座っていた魔力波長の同じティーを見事に巻き込んでしまったよ…。
「勇者様! 是非この国をお助けくださ…い…? って、子供!?」
目の前には中高生くらいの女の子。身なりからして王女とかそんな人だろうと想像はつく。
「どうしましょう!? 幼子まで巻き込んでしまいました…」
「陛下、落ち着いてください。 勇者適正のない者は喚ばれない筈です」
「ですが!!」
ティーなら勇者の適正あるだろうなぁ。 (ティーも勇者!?)
私の子だからね。 (ひゃっほーい!)
無邪気に喜ぶティーは可愛いけど、口論してる人達はどうしよう…。
私とティー、召喚術を行って疲弊した魔術師の人たちを放置して、口論する二人。
幼い子がいるから送還するべきと言う王女らしきと、勇者なんだから大丈夫だという側近らしき人。
口論は平行線だったけど、送還しようにも方法がわからないと、最終的に諦めた。
それからようやくお互いの自己紹介。
「私の名はカプリチア・ブリオーニ。ブリオーニ王国の国王です」
「国王様ですか?」
まだ若いのに…。
「見た目こそ幼いですが、正真正銘国王陛下であらせられます。不敬の無いように」
私の表情から言いたい事を察したらしい、側近っぽい女性に釘を刺された。
「相手は勇者様なのです。不敬などと…」
「甘いですよ陛下。こういった事は初めが肝心なのです。舐められたらお終いです」
「そういうものですか?」
「はい」
イマイチ緊張感がないな、この人たち。本当に勇者を喚ぶような事態なんだろうか。
私達を別室へ案内する間も、二人は先ほどと同じようなやり取りを続けている。
新米国王なのかもしれない…。 (帰らないの?)
帰ってもいいの? ティーは勇者になりたいのかと思ったんだけど。 (なりたい!)
じゃあこのままで。それに此方の召喚術を知るいい機会だからね。 (違った?)
うん。微妙にだけど…。ピアスをつけていれば消せる程度ではあったけどね。 (ふむ)
いきなり召喚術を見せてって言っても無理だろうから、取り敢えず信用を得るためにも頑張ろう。 (はーい!)
とはいえ、本当にこの人達の主張が正しいのか見極める必要はあるけどね。
アルディエル母様の時みたいな事もあり得るし。 (じょーほーしゅーしゅー)
だね。
あと心配なのは… (リア?)
うん。責任感じてないといいけど。 (説明しておくの)
ありがとう、そうしてもらえると助かるよ。 (あいあい!)
帰ってから埋め合わせするしかないね。 (期待してるって)
おおう…。
客間に移動した私達は、喚ばれた理由を詳しく聞かされた。
2年ほど前、海の向こうから魔王をトップとする魔族が襲来。
既に壊滅した国もあるのだとか…。
「海から離れていた我が国にも遂に魔王軍が侵略してきました。 すでに国土の3分の2は奪われ、戦場に行かれた先代国王の父上と母上は帰らぬ人に…」
「先代様自ら戦場へ行かれたのですか!?」
「城にこもっていては守るものも守れぬと…。それに父上と母上は手練の戦士だったのです…」
「そうでしたか…」
「次期国王であらせられますカプリチア様が居られたからです」
「私では、まだ国を治めるなど無理です…。ましてやこのような戦乱の中では…」
「だからこそ勇者様をお喚びしたのではありませんか。戦いは任せておけばいいのです」
…丸投げする気かー。 (うわー…腹立つの〜)
よくある事だけどね…。 (よく戦ってきたねママ)
まぁね…。




