過去と秘密
「やらないから! そんな契約でみんなを縛りたくない!」
「なんでよ? 婚約者なんだからいいじゃない」
「そもそも私もドラゴンの血をひいてるんだから、いずれはそういう契約になるでしょ?なのに今する必要ある?」
「リアちゃん、これはお姉ちゃんが正しいよ」
「仕方ないわね! ただし、その転入生と契ったら許さないわよ!」
「やらないって…」
多分気が付かないし。仮契約ならもしやっちゃったとしても、どちらからでも一方的に解除できる。
リアはこういう事にやたら敏感に反応するよね。 (ドラゴンだし)
そういう理由? (契約にこだわる)
なるほど、なんか納得。
「取り敢えず、それを使うのは最終手段よ。私が転入生がドラゴンの血を引くものか確認してからよ! うちに連れてきなさい」
「聖さんを!?」
「他にどうするのよ?」
確かにリアの言うとおりだけど…。
うちはみんな髪色やら日本人離れした子ばかりだからなぁ。 (こっそり見てもらう?)
応じてくれると思う?リアが…。 (……無理!)
でしょう?堂々と相対するのがリアでしょ。 (ママはリアをよくわかってる)
真っ直ぐで素直な子だからね。
とはいえ、いきなり家に呼ぶのも不自然だから、何れ機会があったら…って話で纏まった。
でも、気になる…。曾祖父母が関係してるかもしれないのなら余計に。 (……)
それとなく聞いてみるくらいならしてもいいよね? (まぁ…)
翌日、お昼休みに聖さんも一緒だったから、家族の事を聞く足がかりにと、弟さんについて少し話を振ってみた。
「私も奈々も弟がいるけど、聖さんの弟さんはいまいくつ?」
「今年10歳ですわ。ただ、長く入院していたせいで、年相応にはとても見えませんけども…」
「え!?入院してたの?」
「ええ…。今はもう元気なんですけどね」
聖さんはチラッと私を見た。
「そうなのね…。でも元気になったのなら良かったじゃない。私は一人っ子だから兄弟って憧れるわ」
「麻帆、弟なんて生意気なだけだって! アスカのところもそうでしょ?」
「うちはそうでもないかな。頼りになる弟だよ」
「なにそれ! アスカってブラコン?」
「違うって!」
「わたくしは…ブラコンかもしれませんわね」
しまった…。悪い事言っちゃったかな。
「まぁ私も生意気だとは言ってても大切な弟だとは思ってるよ!」
「私もだね」
「…ありがとうございます。殆ど会わない両親と違い、弟が唯一の家族のようなものですから」
その辺は前の私と同じだな。この話を聞くと、聖さんが私を探し出し、転校までしてお礼を言いに来てくれたのも納得してしまう。 (弟想い)
うん…。冷たくして申し訳なかったね。
雰囲気的に家族について聞けるような状況ではなく、この話題はここで終わってしまった。
聖さんの様子から、とてもじゃないけどこれ以上踏み込めない。
「文化祭には弟を呼んであげたいのですわ。今まで何処にも連れて行ってあげられなかったですし…」
「いいお姉ちゃんしてるじゃん!」
「ええ。素敵だわ」
「そんな…。これも全部アスカさんのおかげで…」
ちょっ! (あははっ)
「どういうこと!?」
「アスカちゃん、またやらかしたの!?」
麻帆、酷い…。 (その通りなんだよなぁ)
すみません…。
結局、二人にも説明するはめになり。
元々、奈々を治したのは知っていた二人もびっくりだよね。私もこんなに尾を引くとは思わなかった。
とはいえ、自業自得なんだけども。
「やっぱりアスカさんには特別な力があるのですね!」
「おまじないはすごく効くわね」
「だってアスカは…むーーー!!」
慌てて奈々の口を塞ぐ。何言おうとしたこの子! (魔王とか?)
アウト! いっぱいいっぱいアウト!! (ティーにいわれても…)
はい…。
「誰にも言いませんわ。うちの者にも弟にも口止めはしてありますから、ご心配なさらずに」
「ありがとう…?」
聖さんは私を超能力者か何かだと思ってるフシがある。 (あながち?)
こちらなら確かにそうかもだけどね?
放課後は今日もみんなで寄り道をしつつ、駅まで聖さんを送り届けた。
そのまま駅で解散したのだけど、暫くしたらスマホの通知。
「聖さん…?」
”駅で待ってます“か…。
行くしかないね。
急遽、駅にUターンした私は、聖さんと合流。
駅近くのファストフード店に入った。
呼び戻されたのは何かと思ったら、改めて弟さんのお礼のため。前はしらを切り通したからね…。
「恩人のアスカさんに、しっかりとお礼が言えて嬉しいです!」
いい笑顔で言われちゃうと、もう否定もできない。
「元気になって良かったよ」
「はいっ! あの、それとは別ですが…なにか聞きたい事があるのではありませんか?」
「っ…」
「恩人のアスカさんにならなんでも答えますわよ?」
「じゃあ…答えたくない、嫌な質問だと思ったら答えなくていいからね」
そう前置きをして、ご先祖様について聞いてみた。
「白銀家の記録が残っているのは江戸時代初期、口伝で伝わるお話はこうです」
…………
江戸時代初頭、その頃ご先祖様は狩人をしていた。
山に獲物を狩りにでかけた折に、白銀の髪を持つ人たちに出会う。
最初は山神様に出会ってしまったかと思い、怖くて腰が抜けたそう。
だけど、何かされるでもなく困っている様子だったので、相手が山神様なら…と、丁寧に対応したらしい。
山神様一家の男の子が一人、体調を崩していたらしく、狩りの時に使う山小屋に案内して、一家で世話をした。
その時に、ご先祖様の娘さんが一番甲斐甲斐しく世話を焼いたそう。
「体調不良を治す唯一の方法が、山神様と娘が交わる事だと言われたそうで…」
「交わる?」
「えっと…その…恋人や夫婦がする様な行為ですわ」
「ああ! ごめん…。契を結んだんだね?」
「そうです!」
つまり、曾祖父母が連れていた仔ドラゴンが魔力不調か何かになってて、現地の人と契約したと…。
ドラゴンの契約なら確かに魔力不調も改善されそうだなぁ。
「その娘が産んだ子供が、また美しい白銀の髪を持つ男の子だったそうで、後に土地の権力者の娘と結ばれ、その時に白銀という名字を頂いたそうです」
「山神様たちは?」
「体調が戻られてからは一度もお姿を見る事はなかったそうですわ」
転移したのか…?
「息子は商才に恵まれていて、一代でかなり大きな商家にまでしたそうですわ」
一代といってもドラゴンハーフの寿命だから、どうなんだろうか。
というか…
「その話、口伝って事は門外不出だったんじゃ…」
「アスカさんはこのお話を聞いても、わたくしを疑ったり嘘つき呼ばわりもされませんのね」
「え?」
「このお話をおおっぴらにしない大きな理由は、白銀家が山神様の血を引いている、という部分にあります」
「うん?」
「当時なら、畏れ敬われる事はあっても…」
「現代ではそうはいかない?」
「ええ…。精々、家の箔付けの為の作り話として聞き流されます。なのでわたくしも祖母から、人には話さないように、と教えられたのですわ」
「やっぱり話したらだめだったんじゃ…」
「アスカさんならかまいませんわ。弟の命の恩人ですもの。それに…お友達ではありませんか」
「そう…。ありがとう。 じゃあ…私も一つ秘密を教えるね」
「秘密…ですか!?よろしいのですか?」
「私を信じてくれた聖さんを私も信じたいからね。友達、でしょ?」
「はいっ!」




