姉 VS 弟
魔剣を構えたユウキが一足飛びで斬りかかってきた。
キキン!
聖剣で受け流し、蹴りを入れたけど…流石に躱すか。
バックステップでユウキが躱したから少し距離があいたね。 なら…今度はこっちから。
ユウキの真似して懐に飛び込む。
「うぉっ!?」
私の斬り上げを魔剣で受け止めたユウキはそのまま吹き飛んでいった。
「あれ? ちょ…! ユウキ大丈夫!?」
訓練場の壁まで飛ばされたユウキは何も言わず立ち上がりまた踏み込んできた。
あの距離でも早いっ!
でも、見える。
今度は受けずに躱し、回し蹴り。
背中へまともに蹴りが入ったユウキは今度は私の後ろ側の壁まで飛んでった。
「ユウキ!」
「大丈夫。まだやれる!」
前に模擬戦した時と感覚が違いすぎて戸惑う。
慣らさなきゃ。
今度は受けに回ろう。そしたらお互いの力量がわかる筈。
上、右、左…とユウキの攻撃を受け止めるうちに違和感に気づく。
あれ?ユウキ手を抜いてる?いや違う…。
これ、私のが強くなってる…。 (気がつくの遅くない?)
まただ。頭の中に声が聞こえる、今度はハッキリと。
気がつくの遅くて悪かったね、それであなたは誰? (え?ボクの声聞こえてる!?)
うん。誰なのか答えて。 (ボクは誰なんだろう?)
なによそれ! (名前なんてないもの。でもなんで急にハッキリと会話ができてるの?)
知らない。戦闘してて意識を集中してるから? いや、でも…
以前ならユウキと手合わせの最中に考え事なんて出来なかった。ギリギリの攻防。
今はこの“誰か“と会話しててもまだ余裕がある。 (あっ、その理由ならわかるよ!)
え? (だってそれ魔王になる前の話じゃない)
あぁ…そっか。魔王の時って戦いは魔法主体だったし、魔道具作ったり、内政で忙しかったけど…。ステータスは全体的に上がってるはずだもんね。 (そういうこと〜)
ありがとう。スッキリしたよ。 (ドヤァ)
鑑定は使えないから相手のことも自分のことも詳細がわからない。
自分より強者で、身の危険を感じる時はカンが働く。その程度だから…気がつけなかったよ。
なら…。
「ユウキ、本気出していいから、思いっきり来て」
「っはぁ…くっ…今でもかなり本気なんだけど! わかったよ、ちゃんと受けとめてねっ」
(それって大丈夫?どうなっても知らないよ?)
っ…!! 来る…これがユウキの本気。
魔力を纏うユウキの剣が迫る。
でも、危険を感じない。カンが鈍った? 違う…。
ガキーン!
ユウキの剣戟は私の魔力を纏わせた聖剣によって受け止められる。
その直後。
もの凄い衝撃波とともに私を中心に訓練場の地面が大きくへこむ。
その余波は観客席まで広がり、イスや塀をなぎ倒していく。
未亜ちゃんとギルドマスターの周り、ギルドの建物の壁は魔法防壁を張ってあるから無事だけど…。 (やっちゃったねぇ)
「うわぁぁ…どうしよう!?訓練場が! 直さなきゃ怒られちゃうよ!」
「いや、姉ちゃん。そこじゃないでしょ!? いや、そっちも大変な事になったけどさ」
だって訓練場大破だよ!?
「ごめんなさい、ごめんなさい。すぐに直します」
平謝りしてから、地面に聖剣を突き刺し魔力を流す。
久しぶりに使って思い出したけど、この聖剣って魔力の伝導率が凄くいいから便利なんだよね。
土系の魔法を主体にして元の訓練場をイメージし、聖剣を通して地面に魔力を流す。
大きくへこんだ地面は均され、壊れた観客席の壁や塀も修復されてゆく。
「相変わらずめちゃくちゃするんだから…」
「ふぅ…」
「アスカ姉ちゃん、ありがと。僕のせいでもあるのに」
「ううん、私が言い出したことだからね。それにしてもユウキの凄かったね〜」
「いや、アレを涼しい顔して受け止めた挙げ句、周りを壊したことに慌てて、ソッコーで直した姉ちゃんに言われても」 (ホントだよ)
「魔法防壁張ってあったから大丈夫だけど、未亜ちゃん達を驚かせただろうから…一緒に謝りに行こうか」
「そうだね。直したとはいえギルドマスターにも謝らないと…」
「うん、ユウキもごめんね」
「いや、楽しかったし。アスカ姉ちゃんの強さを目の当たりにできて嬉しかった。自慢の姉ちゃんだよ。 でも! 僕もまだ強くなるからね」
「そっか」 (姉弟の微笑ましいシーンなんだろうけど…大惨事だったよね)
ユウキにそう言われたことが凄く嬉しい。 (あれ?もうボクの声聞こえてない? むー)
ユウキと二人で未亜ちゃんとギルドマスターの元へ向かう。
「あの…すみませんでした。訓練場壊してしまって。 未亜ちゃんもごめんね。ビックリしたよね」
「あ、あぁ…。もう何が起こったのかさえわからないが…」
ギルドマスターやっぱり怒ってるかな?
「お姉ちゃん、なんかすごかった! ドカーンってなって壊れて、シュワーって…直った?」
「アスカ姉ちゃん、どーすんの?未亜姉ちゃん目がやばいし、語彙力無くしてるんだけど…」
「ごめんってば…」
ギルドマスターは放心した感じでふらふらしてるし、
未亜ちゃんは興奮してるけど目の焦点が合ってない。
しばらくそっとしておこう。 決して現実逃避じゃないよ?
「普通にしてるから忘れてたけど、ユウキは?結構吹っ飛ばしたりしたけど大丈夫?」
「うん。めちゃくちゃ痛かったけどね。自分の怪我くらいなら治癒できるし」
「ごめんね、魔王してた間にステータス上がってるのを加味してなかった」
戦闘よりも内政とか魔道具作ったりしてた方が長かったから…。
「うん、わかってたよ。だから相手してほしかったんだし」
「そうなの?」
「話しぶりからして姉ちゃんが自分の力量を把握できてないのはわかってたからね。僕からすると姉ちゃんの強さは凄まじい脅威に感じるんだよ」
そっか、ユウキも鑑定は使えなくても脅威になる相手は危機感を感じるはずだから…。
「てことは何?ユウキはわかってたのに教えてくれなかったの?」
「いや、それとなく伝えてたよ。でも姉ちゃんは、ん?って感じだったじゃん。それに、性別変わったりでごたついて、僕もはかりかねてたんだよ」
そうだっけ…。一度ちゃんと自分のステータス知りたいような知りたくないような…。
「まぁでも一度、診させて」
「わかったよ」
ユウキに手をかざし軽く魔力を流し確認する。
「うん、魔力の流れに異常はないね、よかった」
「ありがと。後は…あの二人だね」
現実に戻ってこない二人をそっとしておく間にユウキと話しをしてたけど…。
まだ無理そうね。
「そろそろ何とかしたほうが良くない?」
「だねぇ…。一度眠らせて起きるの待とうか」
「うん、それが良さそう。僕はその間に訓練場に異常がないか一応見てくるよ」
「わかった、お願いね」
まずは未亜ちゃんを魔法で寝かして客席に横たえる。
次にギルドマスターさんも。
5分もすれば起きるでしょ。
あ〜ぁ。やらかしたなぁ。
それにあの声。何なんだろう。
今は聞こえないし…。 (えーやっと出番かと思ったのにぃ)
悪意とかは無さそうだから取り敢えずはいっか。 (悪意なんか無いよ! むしろ助けてたよ!?)
「姉ちゃん、ただいま。異常はなさそうだよ」
「おかえり〜。ありがとね」
「二人は?」
「もうすぐ起きると思うよ〜」




